前編では、「レバレッジ」代表の只石昌幸さんの少年時代の葛藤や、エリートからの転落、ホストに転身したお話などを伺いました。後編では、「レバレッジ」を創業し、フィットネス業界サイト「ダイエットコンシェルジュ」を立ち上げ、D2C事業の「VALX(バルクス)」を成功へ導くまでのインタビューをお届け。D2C事業をはじめ、新しいことにチャレンジしようと思っている人の道しるべとなるようなアドバイスがいっぱいです!
創業のきっかけは、サイバーエージェント藤田さんとの出会い
キーエンス、ホストを経て、いよいよ起業されましたが、どんな事業からスタートしたんですか?
助言をくれた友人からもらったPC1 台を使って、個人事業主としてアフィリエイト(※)の世界に飛び込みました。これまでの失敗から「プライドを捨てて、まずは人に聞く」と決めたので、当時業界でトップを走っていたアフィリエイトの会社にノウハウを聞きにいったんです。
その会社の方にも「君みたいな人初めてだよ」と言われました(笑)。恥ずかしがらずにわからないことを素直に聞いてみたら、「みんな、人にちゃんと聞かないから稼げないんだよ」とも言われて。そこで教えてもらった技術をいかしてアフィリエイトをやってみたら、その会社で仕事を始めて3カ月でトップになりました。やっぱり人に聞くのって大事なんですよね。
※インターネット広告の仕組みの1つ。自分のホームページやブログ内で宣伝した広告主の商品を、実際に読者が購入や契約した場合、その成果に応じて報酬が支払われる
ちょっとスゴすぎます。それからどうなったんですか?
この成功をきっかけに、いろいろなWEB制作を請け負うようになりました。あまりお金をかけずに、少しでもお客様の目に触れらることってできないか? と探して出会ったのが、アメブロ(アメーバブログ)でした。いまから15年近く前、アメブロは全盛期。ちょっと僕も本気でやってみようと思ったんです。
それで自分なりに分析してみたら、ブログはリピートがすべてだ、と。人間の衣食住のうち、どれかを書けばリピート率が増える。なかでも一番リピート率が高いのは、「食」だと思って、“こだわり社長”っていう名前で、誰もやってないジャンルの新規オープン店に特化したレストランブログを立ち上げたんです。それがめちゃくちゃ当たって、グルメブログで1位になったんですよ。
そのときなんですよ。たまたま、サイバーエージェントの社長、藤田(晋)さんと道ですれ違ったのは。
だから僕、「いまだ!」って思って声をかけたんです。名刺を差し出して挨拶したら、知っていてくださったんですよ。「いま人気のこだわり社長でしょ?」って。
まさにその通りで、藤田さんに「あなたのブログの戦略間違っていると思います。いま、アメブロでたくさんの有名人や芸能人に記事を書いてもらって読み手を増やしているけど、それには限界があります。僕みたいな一般人のブログが流行ったら、読み手なんていくらでも集まるんじゃないですかね」って言ったんです。
だって、普通に挨拶して名刺交換しても何も変わらないじゃないですか。どうせなら、嫌われてもいいから人生を変えるつもりで記憶に残ろうと思ったんです。藤田さんを目の前にしたら、もう口が勝手に動いてました(笑)。それで最後に「僕を公式ブロガーにしてくれませんか」って伝えたら、翌日、公式ブロガーになってました。
もう言葉が出ません……。その後の展開も教えていただけますか。
それからアクセスがグングン伸びで、芸能人を抑えて1位になったりして。このノウハウをいかしてブログのコンサルをやり始めたら、一気にその事業が拡散していったんです。それでレバレッジをつくることにしました。
圧倒的に突き抜ければ、収益ゼロでもうまくいく
レバレッジを創設されてからは、どんな事業をされていたんですか?
当時、オウンドメディアなんて言葉がなかった時代だったんですけど、僕たちは企業にメディアを持ってもらって、そのメディアをコンサルするという事業をしていました。僕らとしては、絶対にこのやり方のほうが目立って圧倒的だし、必ず競合他社に勝てると考えていました。だけど、クライアントからは、「突き抜けすぎ」「やりすぎ」「一般常識から外れている」と言われて理解してもらえなくて。思うようにいかなくて、毎回けんかでしたね。そんなこともあって、だったら自分たちでメディアを持って運営したほうがいいと思ったわけです。
それで立ち上げたのが、「ダイエットコンシェルジュ」ですね。なぜ、フィットネス業界に着目されたんですか?
きっかけは、いきなりパーソナルトレーナーになった後輩。彼から「いまは、僕みたいにマンションの一室で始めるパーソナルジムが増えている一方で、集客に困っている」と聞いて、「これはチャンス!」とひらめきました。大小問わず良いパーソナルジムがあるのに、みんな広告や話題に惑わされていて、その存在を知らないんじゃないかって。それでパーソナルトレーニングとダイエット希望者のマッチングサイト「ダイエットコンシェルジュ」をつくりました。
自社メディアをつくるのは初めてですよね。ご苦労が多かったんじゃないですか?
掲載料を調達するために営業をかけてもまるで響かなくて、1年間くらいは収益ゼロでしたね。でも僕は心から「このサービスはウケる。絶対うまくいく」と思っていました。なぜなら世の中にこんなサービスないし、大手パーソナルジムの半額以下でクオリティの高いところがいっぱいあって、それをお客さまが必要としていることはわかっていたので。
当初は掲載料を月額30万円いただく広告プランでしたが、あるとき、小さいジムの担当者から「成果報酬だったらいいよ」と言われ、1件成約するごとに1万円を頂戴する成果報酬制にしたんです。そうしたらポンポンと契約が取れて。以降は1件5万円という強気の値段設定にしました。その代わり、パーソナルジムとお客さまをつなげるため、本気で努力しようと決めて。
サイト内にでかでかと自社の電話番号を載せて、1件1件の問い合わせに丁寧に対応しました。当時、こんなことするサイトなんてなかったし、圧倒的に突き抜けてやり切れば、利用者が増えないわけがないと確信していました。
爆発的ヒットの秘密は、ファンが熱狂するような「本物」の商品づくり
「VALX」はどうして立ち上げようと思ったんですか?
ダイエットコンシェルジュを立ち上げたおかげで、パーソナルトレーナーなりたいという人が、レバレッジに2,000人ほど集まってきたんです。
ええ(笑)。だから僕たちはパーソナルトレーナーを育成するスクールを立ち上げることにしました。これもうまくいきましたね。そうした中でパーソナルトレーナーを対象に、「尊敬する人は誰か」「どの人の監修だったらプロテインを買いたいか」というアンケートを取ったんです。その中の回答でダントツに多かったのが、山本義徳先生の名前でした。それであるトレーナーから山本先生をご紹介いただいて、2019年に「VALX」を立ち上げることになりました。
山本先生を存じ上げておりませんでしたが、身体からして只者じゃないですね!!!
そうです。その後すぐに新型コロナウイルスが蔓延したんですが、ジムにいけない代わりに在宅トレーニングの需要が増えたことも、成長の後押しになりました。
只石さんの頭の中では、当初から勝算があったんですか?
勝つとか負けるとかじゃなく、圧倒的なんですよ。みんな強豪他者に勝つか、負けるかでやっているんですが、そんなのどうでもいいんです。そんなことよりも、圧倒的。それしか僕は狙ってないです。
圧倒的に目立つ、圧倒的に必要とされる。すべてにおいて圧倒的でなければいけないんです。「VALX」でも初動から圧倒的でならないと思ったので、YouTubeを始めて、パーソナルトレーナーたちにも周知して、パワーを溜めて溜めて溜めて溜めたものを「今日リリース!」というふうにスタートダッシュをしました。僕はこれを元気玉って呼んでますけど、これが功を奏しました。
最初から爆発的ヒットを成し遂げたんですね。商品づくりの面でこだわっているところはありますか?
一番意識していることは、「ファンを熱狂させる」ことです。
お客さまが求めているのは、「本物」の商品なんですよ。たしかにいま、D2Cマーケティングが流行っていますが、その多くは、多額の広告費のために原価率を下げ、見せ方だけを良くしているものがほとんどで。
だから僕たちは莫大な予算のかかる広告に頼らず、その分品質にこだわり抜き、必要であれば原価率を上げてでも、高いクオリティを確保すると決めています。最初にリリースした「EAA9(イーエーエーナイン)」という完全プロ仕様のサプリメントも、次に出したたんぱく含量96.4%のノーフレーバーのプロテインも、「ストイックすぎて売れない」と言われていましたが、トレーニングを愛する人たちに評価されてどんどんSNSで広がって、爆発的にヒットしましたね。
本物をお客さんに届ければ、“必ず売れる”という確信があったんですか?
はい、いいものをいい戦略で売れば、確実にヒットするんです。レバレッジには、全国に何万というパーソナルトレーナーさんたちとのつながりがあるし、ダイエットや筋トレに興味があるお客さまを集めるメディアもある。だから、みなさんが体づくりに欠かせない“本物”のプロダクトを必要としていることはわかっていました。さらに僕たちにはSNSなどを活用したブランディングのノウハウと、ネットマーケティングの経験が10年もあったので、いい商品をつくればパーソナルトレーナーたちが積極的に周りに発信してくれるという、圧倒的な自信がありましたね。どんなにいいものをつくったとしても、まずいいプロモーションとマーケティングをしなければ、お客さまに知ってもらえない。ものが溢れている時代だから、いいものをつくっても売れるとは限らないので。
それだけの実績もあれば、信頼も厚いですよね。まさにファンがファンを呼ぶ仕組みづくりが成立していますが、逆に、“ファン離れ”を防ぐ手法などはあるのでしょうか?
うちでは解約率(チャーンレート)を徹底的に下げる努力をしています。定期購入のお客様が商品の段ボールを開ける瞬間にワクワクできるよう、同梱物やオマケ商品などにもこだわりぬき、そうしたアイテムがお手元に届くように設計してます。だから、解約率は通販業界の平均値と比較すると圧倒的に低いです。
ほかにもお客さまが解約しないための努力はめちゃくちゃしていますが、僕たちのビジネスの根底にあるのは、山本先生の思いでもある「商品本来の品質にこだわり抜く」、この一言に尽きます。
正直でいることの正しさを、上場することで証明したい
「VALX」はめっちゃ順調ですが、只石さんがフィットネス事業を展開される中で、「これはキツかった」という出来事はありますか?
実は「VALX」を始める前、「ダイエットコンシェルジュ」の売り上げが4分の1になったことがあるんです。GoogleのSEOがアップデートされて、検索で上位に表示されなくなっちゃって。お客さまからも「責任取れ」と詰められて、生まれて初めて尋常じゃないくらいの寝汗をかきましたね。そこで内部留保が必要だと思って、銀行から3億円の借り入れをしました。その直後にコロナ禍がやってきたので、借り入れしたタイミングとしてはよかったと思います。あれがなかったら、いまのレバレッジはなかったですね。
ますますスピードが加速しました。コロナの影響が拡大し始めたとき、周りを見渡すと、じっとしている会社ばかりだったんですよ。そうした中で、やっぱり自分たちの行動力は間違いなく価値があるものだと確信していたので、「もっと挑戦していこう!」と社員に呼び掛けました。
有事だからこそ、なんでも前向きに取り組むんですね。挑戦をする際、只石さんが大切にされていることってありますか?
何か新しいことを始めようとするときは、まず信頼できる仲間に相談するようにしています。こうすることで自分や会社を客観的に見られ、常に仮説検証できるから、頭の中で数々の失敗を繰り返せるんです。
頭の中でトライ&エラーを繰り返すんですね。ちなみに、D2C事業を成功させるコツってあるんですか?
よく、「これからD2Cやろうと思っているんだけど、どうやったらいいですか?」って聞かれるんですが、正直、本当にいいものをつくれる自信がないならやめたほうがいいです。
はい、もちろん。結局、商品を買い続けてもらわないとD2Cは成り立たないんですよ。事業としてはじめやすい反面、いい商品を提供するのが難しいなら、あっという間にダメになるでしょうね。それに商品化に至る過程や人件費などにも莫大なお金がかかるので、簡単に稼ぎたいと考えている方にはあまりおすすめできません。
物販をやられてなかったのに、D2C事業を始めることへの恐怖はなかったんですか?
ないです。どうしてかっていうと、僕は何もやらない方が怖いんですよ。自分で自分の限界を決めずに、いつだって挑戦者であり続けたいので。
うちの社員も同じで「これ、本気でやりたいです」と、新しい提案をどんどんしてきます。そう言われたら僕は、「本気ならやってみよう」と返します。もちろん、考え抜いた理念に基づくかどうかは判断基準になりますけど、こうして社員にチャンスを与えると自分で責任を取るし、本当に全力で取り組むんです。いま僕、いろいろと偉そうに語っていますけど、僕発信の戦略なんて1つもないんですよ。すべて社員が考え抜いたものなので。
かっこいいです。これからD2C事業を始めようという人にアドバイスをお願いします。
這いずり回ってでも自分が本当に届けたいものがあるなら、自分の言動や考えが正しいのかどうか勇気を持って周りの人に聞いて、その意見にちゃんと耳を傾けるべきだと思います。世の中には自己流でやっている人がたくさんいますが、本当はもっとよくできるのと思って言ってくれたアドバイスを素直に受け取れない人が多い。自分もそうでしたが、プライドが邪魔するんです。だけど、ものごとがうまくいかない大半の原因は、そんなプライドを捨てられないことにあります。だからぜひ、無駄なプライドを手放してみてください。
そんな情熱的な只石さん率いるレバレッジが今度どうなっていくか気になります。この先の展開は?
上場を目指しています。僕らが常に追い求めているのは、いい商品を丁寧に届けること。そのやり方が正しいということを証明したいんです。僕、伊丹十三監督の映画『スーパーの女』が大好きで。劇中で出てくるお客さん本意の弱小スーパー「正直屋」が、傲慢な商売をする大手激安スーパー「安売り大魔王」と戦い、最終的に「正直屋」が勝つというストーリーなんですが、僕はこの「正直屋」になりたい。お客さまに寄り添い、実直である商売が、みんなを幸せにできるし、ちゃんと稼げる。それを身をもって証明していきたいんです。
フィットネス業界の今後については、どうお考えですか?
アメリカ17%、韓国8%なのに対して、日本のフィットネス人口は3%ほど。だから僕らがフィットネス事業を展開することで、この割合を10%まで上げていきたいです。今後、日本は高齢化が進んで国民の医療負担が増えることが予測されているので、その前に運動の魅力を広めて日本中のみなさんを健康にしていけたらと思ってます。
自分だけが稼いで儲けようとするのではなく、もっとその先にあるみんなの幸せや笑顔を思ってアクションを起こす只石さんの姿に、めちゃくちゃ胸が熱くなりました。只石さん、今日はありがとうございました!
そんなそんな、自分なんてまだまだです。こちらこそありがとうございました!
撮影/SHUNYA KAWAI
取材・文/小山田滝音