電話営業・顧客対応を人工知能で解析・可視化し、生産性向上につなげるクラウドIP電話「MiiTel(ミーテル)」を運営する「RevComm(レブコム)」。2019年11月に開催された国内最大級のスタートアップとテクノロジーのイベント「TechCrunch Tokyo2019」で最優秀賞を受賞するほど、将来性の高さに注目が集まっています。代表を務めるのは、商社出身の會田武史さん。「どんなことにも前向きに取り組んできた」と真っ直ぐに語り、無敵オーラがハンパない會田さんに、苦労や失敗の経験などあるのでしょうか? 制作会社の経営者でもあるライターの小山田が直撃しました。
小学生で起業家への道と、結婚相手を決定
まず、RevCommではどんな事業を展開しているのか教えてください。
電話営業やコールセンターを人工知能で可視化する「MiiTel」というサービスを運営しています。人工知能を搭載したクラウドIP電話を企業に提供し、通話上で交わされた会話を誰から見てもわかるように可視化することで、生産性を高めるという仕組みです。私自身は、採用や企業との事業提携、インドネシアやフィリピンに展開する海外案件に日々携わっています。
人工知能にクラウド、生産性の向上、海外展開って、意識が高すぎますね……。設立は2017年と比較的若い会社だと思いますが、そもそも會田さんが起業を志したのはいつごろですか?
えっ……。
なんというか、スタートからもう違いますね。
そんなことないです。だってきっかけは、学校の行事で七夕の短冊に将来の夢を書くという些細なことでしたから(笑)。祖父の代から文房具メーカーを経営していたので、漠然と経営に興味はあったのですが、私の中に家業を継ぐという選択肢はなくて。いわゆる、反骨精神ですね(笑)。何の事業を立ち上げるかまでは決めていませんでしたが、当時から「自分でオーナーシップを持って、世界に向けて日本の魅力を発信する」という思いがありました。
あまりにも早い決意に言葉も出ないんですが、グローバルを意識したきっかけはあったんですか?
祖父や父の会社が海外にも展開していて、私自身、幼いころから海外に行くことが多くて。そのときに、世界は学校の中だけで完結せず、学校の外に広がっていることを知りました。海外での経験があったから、グローバルな視点が養われたのかもしれません。
ぐぬぬ……(給食の時間だけが楽しみだった自分とは大違い)。家族から大きな影響を受けていたのですね。経営者として、大切にされているマインドはありますか?
「感謝」の心です。小学生のころ、父に会社のクリマスパーティーに連れていってもらったことがありました。その帰りの車の中で父が話してくれた言葉が、私のビジネスの原点になっています。
その語り口、期待が高まります(笑)。どのようなお話をされたのですか?
父は、「社員のみんなが一生懸命努力をしたから、武史や武史の友達が使う文房具を生み出すことができている。その文房具があるから、いろいろな人が勉強したり、誰かに何かを伝えることができているんだよ。父さんやおじいちゃんは、“伝えることを支える”仕事をしている。その対価としてお金をいただいて、武史の生活は成り立っている。だから文房具を使ってくれている友達にも感謝するべきだし、文房具を生み出してくれている社員にも感謝しなさい」と話してくれました。とにかくまわりの人に感謝しなさいというのは、常日頃から言われていましたね。
素敵やん。その言葉が會田さんのビジネスの原点になっているんですか?
そうですね。私のビジネスの原理原則は、「世のため、人のため」。この考えは、祖父と父から来ています。幼いときから、この教えを授けてくれたことに感謝していますね。それに、いま私が行っている事業と文房具って、全く別の分野なようでいて実は超似ているんですよ。
先ほどもお話ししたように、祖父と父は“伝えることを支える”ことをしてきたわけですが、私たちが行っているのは、ボイスコミュニケーションでの“伝える”を、AIで解析・可視化することで“支える”こと。アプローチ方法がリアルか、デジタルかというだけで、本質的な部分では変わらないんです。小学校4年生でそういった感覚を享受できたのは、ラッキーだったと思っています。
な、なるほど……。それにしても、経営者としての目覚めが早すぎませんか?
本当に頭が悪いからできたんですよ(笑)。だって、頭がよかったらいろいろな選択肢があるのがわかるから、将来を決めることなんてできないじゃないですか。小学校4年生のときの私は、何も見えてない状態だったんですよ。ちなみに、妻と結婚を決めたのも小学校5年生のときです。
隣の席だったんです。私が落としたものを拾って、笑顔で渡してくれたことがあって……。その瞬間、「この子と結婚したい」って思ったんですよね。
経営者という目標に向かって、努力を続けた学生時代
會田さんは、高校を卒業し中央大学に進学されますよね。学生時代はどのように過ごしていたのでしょうか。
誰よりもアクティブに行動していましたね。思い返せば、大学4年間の中で、3時間以上寝た記憶がないです。
………………(平気で10時間以上も寝ていたなんて言えやしない)。
陸上に取り組んだり、アメリカに1年間留学したり、学生団体を立ち上げたり。学生時代は、とにかくいろいろなことに挑戦しましたね。でも、忙しいからといって勉強を疎かにしたくはなかった。勉強もマジメに取り組み、実は大学を首席で卒業したんです。当時の努力は、誰にも負けませんね。
パーフェクトすぎますね。どうして、そんなに行動力を発揮できるんですか?
小学校4年生のとき、経営者になると努力のベクトルを定めたことが原動力になっていました。陸上に取り組むことは体力づくり、アメリカへの留学はファイナンスの勉強、学生団体の立ち上げは経営の勉強……という風にすべて経営者になるという目標に向かっていたんです。何か1つのことに頑張れないという人は、努力のベクトルを定められていないのだと思います。自分の行動に意味を持たせることで、時間を無駄にすることなくアクティブに過ごせますよ。
読者に代わって言わせてください。おっしゃる通りでございます!!!
商社時代に感じた課題が起業の始まり
何事も全力で取り組む大学時代を過ごした會田さん。幼いころから経営者になりたいという夢は持ち続けていたものの、周囲が就職活動を始める時期になると、一旦経営者になるという夢を手放したそう。そして、會田さんは大学を卒業し、大手商社である三菱商事に入社。商社では、どのような業務に携わっていたのでしょうか。
トレーディング、海外でのセールスマーケティング、会社立ち上げ、クロスボーダーM&Aなど、ビジネスに必要なひと通りの業務に携わりました。仕事は年数を重ねるごとに楽しくなっていきましたが、入社6年目でふと考えたのです。「ずっとこのままでいいのかな」って。
そんなに順風満帆なのに……。幼いころからの夢が忘れられなかったんですね。再度、起業を考えたときに、「MiiTel」の原理となる電話営業に注目したきっかけはあったんですか?
電話営業に課題を感じたのは、商社での業務中です。電話営業やコールセンターにおける課題は、顧客と担当者が何をどのように話しているのかがわからないということ。営業や顧客対応において担当者のパフォーマンスに差異が出る原因がわからず、労働集約型の数打てば当たる営業になってしまうことに疑問を感じました。そして起業する際には、日ごろ自分が感じる課題と「今後3年から5年でできる技術」は何だろうって考えた。そこで導き出したものが、量子コンピュータ、ブロックチェーン、ディープラーニングの3つです。
おっと……、話のレベルが一気に上がりましたね!! 詳しく聞かせていただけますか?
量子コンピュータは、今後3年から5年でデファクトスタンダードができるようなものなので少し早いかなと。ブロックチェーンは、インセンティブ設計の難しさに加えて、金融規制などもかかってくるので、スタートアップとしてやるのは結構ハードルが高いと考えました。そして、なぜディープラーニングを選んだかというと、既に応用段階に入っていて、ここで重要となるがどんな質のデータをどれくらいの量を持っているかなんです。データというビジネスの領域に可能性を感じると同時に、データの一種でもあるボイスコミュニケーションに可能性を感じたんです。これが、ビジネスの領域を定める原点になったともいえますね。
失敗よりも、成功ばかりのほうが怖い
商社時代の業務からビジネスの方向性を見出し、會田さんは2017年にRevCommを設立。華々しい経歴を歩んできたように思える會田さんですが、失敗の経験などはあるのでしょうか。
會田さんって、完璧すぎて失敗とかしたことなさそうですよね……。
いえいえいえ。いろいろな失敗がありすぎて思い出せません(笑)。でも、私自身、「スーパーポジティブ」なんですよ。
はい(笑)。私が好きな言葉で、元インテル社長のアンドルー・グローヴさんの名言があります。「恐怖心を抱いている人のみが生き残る」という言葉なんですが、私も苦しい状況であればあるほど、楽しく、嬉しくなるんですよ。しんどいときほど、「この逆境を乗り越えてやる」というモチベーションに繋がります。
なるほど(この人、どMなのかもしれない……)。つまり、たくさんの失敗も、そのマインドがあったから乗り越えられたと?
そうです。成功したり、物ごとがうまくいけばいくほど怖くなるんですよ。どこかに落とし穴があるんじゃないかと思ってしまう。次に来るリスクは何なのかは常に考えていますが、失敗することは自分の成長余地があることと同義だと思うので、どんどん変化に飛び込んで失敗したいです。
どんどん失敗したい? マジですか(笑)。ちなみに會田さんにとって、一番の「リスク」は何ですか?
一番のリスクは、リスクが見えてないこと。リスクを事前にしっかりと洗い出すためには、「知識」と「思考」が大事だと考えています。知識は頑張って勉強すれば身につくし、思考に関しては常に考えを巡らせていさえすらば、その幅も深度もスピードも担保できると思います。
會田さんのような超人だからできる、という気もしちゃいますが……。
いえいえ。こういった“個人の力”は、身につけられるものだと思います。この個人の力とは、「知識力×思考力×行動力」のこと。それぞれ分解して考えると、知識力は「幅」と「深度」。思考力は「論理的思考力」と「創造的思考力」。行動力は「自分が動く行動力」と「他人を動かす行動力」。このどれかが自分に足りないと感じるなら、それを伸ばせばいいだけの話なので。
ちなみに、その中で今後重要になってくる力は、どれだとお考えですか?
「他人を動かす行動力」です。やっぱり人は、熱い思いを持っている人に揺れ動かされたいという気持ちがあるので、個人の力の中でも極めて重要なスキルだと思います。
納得です! 実は僕も一応、経営者の端くれでして。RevCommの代表として、日々たくさんの業務に取り組んでいらっしゃる會田さんに、タイムマネジメントのコツも伺いたいです。
とくに意識しているのは、どのタイミングで何に時間を割くかという点。タイミングによって業務の重要度が変わるので、常に柔軟に対応することを意識していますね。
それは僕でも、いますぐ真似できそうです! 會田さんのような超人的な経営者に憧れちゃいます。どうしたらいいですか?
まずは、「自分がやるべきこと」を決めることが大切です。私は、「自分がやるべきこと」「自分ができること」「自分がやりたいこと」の3つが重なるものが何か1つでもあれば、起業はすべきだと思います。でも「自分がやるべきこと」が定まっていない人が多いんですよ。では、どうすればいいか。今までの人生の経験と、その経験から生まれた感情をノートに書き出すのがおすすめです。
ノートですか。書き出すことで、どんな効果があるんですか?
これまでの経験をノートに書き出すことで、自分という人間を客観視することができます。自分が何に喜ぶのか、何に怒るのか。それがわかるようになるんです。そうすると、自分と周囲の人間との違いや存在意義が輪郭として見えてきて、自分の目指すべき方向がおのずと可視化できるんです。
目指すのは、人が豊かになれる社会
たゆまぬ努力を重ねてきた會田さんですが、「最初から自分が何者なのかわかる人などいない」と言います。そんな會田さんが見つめる先には、どんな未来が待っているのでしょうか。
いまはAIという最新のテクノロジーによって、業務の生産性がどんどん上がってきていますよね。そうすると、人がやっている業務のほとんどはAIに代わっていき、最終的に人が行う業務が少なくなる。だから私は、この利便性を最大限にいかし、人が真に豊かになれる社会をつくりたいと考えています。
それでは最後に、會田さんが考える「人が真に豊かになれる社会」とは何かをお聞きしたいです。
人と人が本当の意味でコミュニケーションがとれる社会です。コミュニケーションには、言語と非言語の2種類がありますよね。コミュニケーションを行う対象同士も、「人と人」や「人と社会」「会社と会社」など、さまざまな交わり方がある。そうした関わり合いの中で、本当の意味で感動を呼ぶ社会をつくりたい。コミュニケーションがポジティブな相乗効果を生み出し、人が人のことをもっとよく考える社会を創造していきたいんです。
素敵やん(2回目)。AIが無駄な仕事を減らして、人のポジディブなコミュニケーションが活性化する未来が僕も楽しみです。會田さん、今日はありがとうございました!
この記事を書いた人:小山田滝音(おやまだ たきおん)
1984年生まれ、神奈川県湯河原町出身。デカ盛りレポなど“やってみた系記事”を量産するライター。インタビュアーとしても活動し、飲食店経営者や起業家をはじめ、政治家やタレントなどへのインタビューも多数行っている。WEBコンテンツを制作する株式会社ブラインドファストの代表取締役社長という一面も。
ブラインドファスト:
https://blindfast.jp
撮影/酒井恭伸
取材・文/小山田滝音