いま最も勢いのある“お金のプロ”の方々に、必ずためになるお金の話を伺うこの企画「苦労は買わずに聞け!」。なんと今回は、借金芸人の岡野陽一さんが登場。巨額の借金を抱えながらも、悪びれることなくギャンブルに明け暮れ、それでも借金=苦労だなんて微塵も思ってないという岡野さん。お金の正しい借り方からメンタルコントロールまで取り調べ……、いや失礼、お話をお伺いし、ビジネスに役立つ(はずの)独特な借金哲学に迫ります。
「お金ない」はウソ? 岡野陽一のホントの借金事情
今日はよろしくお願いします。なんだか最近、お忙しそうですね。
全然ですよ! 今日もこのあとパチンコです。昨日の分を取り返さないと。
わ、本当にお好きなんですね……。ところで最近テレビに出まくっていますし、「お金がない」って本当ですか? ビジネス借金芸人なのでは!?
いえいえいえいえ! 相も変わらず借金まみれでございます。
1200万円ぐらいですかね。正直、正確には把握してないです。
はい。債権者様の言い値を返すシステムにしています。
僕の場合、知り合いから借りるので借用書とかもなくて、1000円ずつ何度も借りたりすると、どこかでお互いの記憶にズレが生じてしまうんです。親切にお金を貸してくれた相手と1000円、2000円の話で揉めたくないじゃないですか。
そうですね。僕、こう見えてお金の揉め事が世の中で一番キライなんです。
本当ですって。だって誠実じゃないとお金なんて貸してもらえませんから。
借金はギャンブルするためにある!
ではそんな誠実な方が、なぜ借金を抱えるようになるんですか?
18歳で故郷の福井を出て、京都の大学に通ってたんです。そこで、人生で初めてパチンコをやってドハマりしちゃって、借金デビューしました。
10代で? 借金デビュー、ちょっと早くないですか。お金はどこから借りたんですか?
学生ローンです。学生証を見せるだけで10万円ぐらいなら簡単に借りられるんですよ。それでとんとん拍子に借金を重ねていって、最終的には150万円まで行きましたね.
そんな誇らしげに言われましても……。学生でもそんなに貸してもらえるんですね。
京都には学生ローンがたくさんあって、あちこちから借りられました。だけど、あるとき、改心する出来事があって。6社目に借りに行ったとき、業者のおじさんに「兄ちゃん、お金は貸せるけどこれ以上借りたら首吊らなあかんで」って言われて、めちゃくちゃ怖くなって……。
まさか。帰りにパチンコの攻略本を買って、次の日から真剣にパチンコをやり始めましたよ。
でも真剣にやった結果、勝ち続けて2ヶ月ぐらいで借金を完済できましたから!
すごい!!! って、褒めていいのかわかりませんが(笑)。それなのに、なぜいま借金が1200万円も?
短期間で150万円完済したことで、「自分は返せる人間なんだ」という自信がつくんですよね。実際、150万円までは屁でもないんですよ。ところが、300万円を超えると魔物が棲んでいました。そこまで行くと、もう引き返せなくなってしまうんですよ
怖すぎる! ちなみにお金はすべてギャンブルに使っているんですか?
はい。僕、物欲がないのでギャンブル以外、お金を使わないんです。
あ~、それは初心者に多い間違いですね(笑)。依存症の方は、足が勝手にパチンコ屋に向いちゃうんです。僕の場合、「パチンコ屋に行くぞ!」と強い意志を持って、自分で足を動かして行ってるんです。この違いわかります?
これだから初心者は困りますよ。債務者たるもの、「常にお金が増えるチャンスがある場所にいなければいけない」という債権者様への誠意も込めて、パチンコや競馬に行ってますからね。
お金を増やすなら、ギャンブルする時間にネタを書いて、芸人として一発当てようという考えはないんですか?
あ~、またやっちゃいましたね。ネタがすぐお金に結びつくほど甘い世界ではないんです。
むむむ。確かに芸人さんの世界は厳しいと聞きますが……。
みなさん、このあとパチンコに行かないでしょ? つまり、お金が入る可能性がゼロ。大金を掴むチャンスを逃してますね。
そんな真っ直ぐな目で言われると、そうなのかも……(いいえ、違います)。ちなみに、今日の軍資金はいくらですか?
財布に全財産入れて来ました。う〜んと、いくらあるかな。1万、2万、3万……。
よく人に借りたお金をそんなに無邪気にお披露目できますね……(笑)。
でも僕、パチンコをやってなかったらもっと嫌な人間になってたと思いますよ。パチンコのおかげで精神が安定して、ここ何十年、怒ったことがないんです。
最初は、両隣が出ているのに自分だけ出てないとイライラもしましたよ。でも、パチンコって自分の台を回すゲームでしょ。だから、僕は目の前のハンドルを回すことに集中すればいいんだって。通い続けるうちに、まわりと比べても意味がないことに気付きました。
ちょっと待ってください。その理論、とても奥が深いですね。
でしょ? 人生で大切なことはすべて、パチンコが教えてくれましたからね。おかねチップス編集部のみなさんもパチンコに行った方がいいんじゃないですか?
岡野流正しいお金の借り方
ある意味、岡野さんはお金を借りるプロですよね。借りるときの極意ってあるんですか?
「どうしても散髪に行きたいから60万円貸して」って言います。
僕の場合は借りたい額の20倍から交渉を始めるんですよ。そうすると、引くか笑うかで相手の状況もわかりますから。今の反応みたいに、笑った人はだいたい貸してくれますね。
なんなんですか、その理論は。お金を借りるときは、どんなテンションで行くんですか?
片目を強くつむって足が痛そうにして借りに行くと、なぜか成功率が上がります(笑)。こんな感じで。
もちろんです。「パチンコをするからお金を貸してほしい」と相手の目を見て言います。そうしたら、ちゃんと貸してくれます。
貸す側も寛大ですね。一体、どんな方からお金を借りてるんですか?
大学時代の友人とか元芸人とか。一般の知り合いが多いですね。
知り合いからお金を借りるとトラブルになりやすいと聞きますけど。
僕は逆だと思っていて、お金は一番信頼できる人に借りるべきです。絶対に返す前提で借りますし、相手の状況も知っているので裏切れないですよね。
7~8人です。その中でランクがあって、100万円以上の債権者様は大口、8万円以上は中口、8万円以下は小口と呼ばせていただいております。
「10万円は無理だけど8万円なら」って人が多いんですよ。たぶん、8の数字は丸くてかわいいからイメージがいいんでしょうね。
ええ。だって、タピオカも「粒汁」って名前だったら絶対に流行ってないでしょう? それに「借金」って、漢字の字面がよくないですよね。なんか怖いし。
借金は人間の本質を見抜くツール?
今までで一番思い出深い借金のエピソードはありますか?
三重に大口の友人がいて、12年ぐらい何も言わずに108万円貸してくれていたんです。そしたら、2年前に突然、彼女と結婚したいからお金を返してほしいと言われて、仕事で東京に来るときに会う約束をしたんです。品川のカレー屋だったんですけど、そこで「今までごめんね」って言って108万円返したら、お互い感極まっちゃって……。それで思わず「オレ、生まれ変わってもお前に金借りたいわ」って言ったら、「は?」って言われました(笑)。
なんだかいい話のように聞こえますね(笑)。その108万円はどうやって用意したんですか?
それが、運よく新規の借り換えに成功しまして。元芸人の同期が株で成功してるというウワサを聞きつけて、事情を説明したらポンと130万円貸してくれたんです。
ギャンブルの軍資金はいつ何時でも必要ですからね。でもその代わり、このときは珍しく担保を用意するように言われました。
木曜日の人権です。いろいろ考えた結果、木曜日はいらないなと思って。
人権って担保にできるんですね。それで木曜日は何をしているんですか?
その友人と行動を共にして、お茶を汲んだり、車を洗ったり、ネットで調べものをするぐらいですかね。「ずっと地面を掘ってろ」とか言われなくてよかったですよ。やっぱり、いい人から借りることが大事ですね。
いましたよ。お金を借りた瞬間に「荷物持てよ」と命令してきたり、返済日の10日以上前から催促を始める人とか。そういう嫌な人からは、二度と借りてあげないと思っています。
人間って余裕がないときだけじゃなくて、余裕があるときにも本性が出るんです。もし結婚したい人がいたら、試しにお金を借りてみるのも手ですよ。
なるほど。借りる側のマナーで大事なことはありますか?
さっきは借り方の話をしましたけど、返すときの標語は「貸す前よりも幸せに」です。遠足の「来たときよりも美しく」と同じですね。返済日を守るのは当たり前ですが、そのとき小さな出費を嫌がっちゃダメです。ごはんをご馳走するとか、花を1本渡すとか、何かしらの感謝を添えてお金を返すことが大事ですね。
確かにお花を渡されたら、ちょっと好きになっちゃうかも(笑)。そういったちょっとした心遣いがお金を借り続けられる秘訣なんですね。
いつでもお金を借りられる状態で生きて行こうと思うと、自然と人にやさしくなれますね。嫌われたら絶対に借りられないですから。マナーを守って貸し借りすれば、借金も悪いものではないですよ。
借金は恥ずかしくない。やさしい人から借りよう
借金を抱えているのに、岡野さんには悲壮感がないですよね。
大前提として、借金をすることにうしろめたさがないからですね。ウソをつかずにお金を借りて、返済日も守っているので、小学生の頃の消しゴムの貸し借りと同じ感覚です。
ずっと借金と向き合ったらおかしくなるので、家の中にいるときは借金がない人間として過ごしています。逃げと言われるかも知れませんが、メンタルコントロールも大事。自分にやさしくしないと壊れちゃいますから。
いいウソ・悪いウソじゃないですけど、岡野さんのお話を聞いて、いい借金・悪い借金があるのがわかりました。
そうなんです! 借金って正しく使えばアリなんですよ。先日も知り合いに出産祝いを渡そうと思ったんですけどお金がなくて、本人に3万円借りてそれをそのままお祝いとして渡しました。
感情が追い付かないですが、お祝いしたい気持ちはすごく伝わりますね。
お金を借りるのは恥ずかしいことではないですから。困ったときは優しい人から借りましょう。
芸人を目指す若者や、お金に不安を抱えている方へのメッセージをお願いします。
借金のプロの僕が言えるのは、みなさんお金が好きすぎるんじゃないですかね。お金の心配がない状況にすることも大事ですけど、楽しく生きていればお金はついて来ると思うんです。お金の優先順位を下げていくことが、豊かな人生の第一歩なんじゃないでしょうか。がんばって働くことだけが人生じゃないので、できないことはできないと認めて、気楽に楽しく生きて行きましょう!
Amazonで買い物をしてみたいです。なんかアレ、めっちゃいいらしいですね? いまはクレジットカードを作れない身分なので、それが老後の夢です。
いつか夢が叶うといいですね。今日は身に染みるお話ありがとうございました。
こちらこそありがとうございました。さ~て、パチンコパチンコ~♪
借金のプロ改め、“お金のプロ”の岡野さんによるめくるめく借金談義。お金の使い方や価値観は人それぞれですが、「正しく借りて、正しく返せばいい」という岡野さんの借金哲学は、ビジネスはもちろん、人生においても前向きな道しるべになってくれるかもしれません。ただし、ギャンブルはほどほどにしましょう。ね? 岡野さん!
【参考】「あけるさいむ」/ギャンブルの借金も自己破産できる!パチンコで450万円借金し自己破産しかけた体験談。
岡野陽一(おかの よういち)
1981年、福井県生まれ。18歳で借金デビューを果たし、京都の大学を中退。26歳のころにお笑い芸人の道へ。2008年にお笑いコンビ・巨匠を結成し、2016年に解散。その後はピン芸人として活躍。R-1グランプリ2019のファイナリストでもある。
撮影/武石早代
取材・文/田辺千菊(Choki!)