歌手やタレント、女優などマルチな活躍を続ける松本明子さんが、副業として軽キャンピングカーのレンタカー事業を開始。あまりの意外性に「なぜ!?」と驚きますが、その背景にはコロナ禍で芸能の仕事を続けることへの不安があったと言います。キャンピングカーやレンタカー事業の知識ゼロのまま、“猪突猛進”で開業し、軌道に乗せることに成功した松本さん。その成功とバイタリティーの秘密について、根掘り葉掘り聞きました!
コロナ禍でロケの予定が真っ白に。レンタカー事業を始めるため「アポなし」交渉!
松本さん、今回はよろしくお願いします! 私たち編集部一同、『電波少年』や『DAISUKI!』(ともに日本テレビ)ドンピシャ世代でして。お会いできて光栄です。
えぇっ! それはうれしいです。ありがとうございます、 お世話になります!
そんな松本さんが軽キャンピングカーのレンタカー事業を始められたと知って、大変驚きました。
ですよね〜。
軽キャンピングカーのレンタカー店「オフィスアムズ」を2021年3月にオープンしまして、ようやく1周年を迎えられたところなんです。
松本さんとレンタカーっていうのが意外すぎて、頭の中が「?」でいっぱいなんですが(笑)。どうして、レンタカー事業を始めることにしたんですか?
きっかけは、2020年4月の緊急事態宣言で街ブラなどのロケが中止になり、スケジュールが乏しくなってしまったからなんです。レギュラー以外、ゲストとして出演予定だった仕事は全部キャンセルになって。初めてのコロナ禍は強烈で、とても不安になりましたね。
松本さんもコロナ禍のダメージを受けた1人だったのですね。
ええ、ええ。その不安のなか、趣味の山登りに頻繁に行くようになりまして。2020年9月には、長野県の北アルプスにそびえる標高約2,700mの唐松岳に登頂し、それはそれは感動しました。
その時、前乗りで電車で松本まで行って宿泊し、現地でレンタカーを借りて、夜明け前に出発して登山して、これはなかなかお金がかかるなと思ったんです。
たしかに。登山って、なかなかハードルが高いですよね。
唐松岳では、往復7時間半歩く間にざっと1,000人とすれ違いました。大きなテントを詰め込んだリュックを背負って登り、9合目付近でテントを立てて泊まり、翌朝山頂を目指す若い人たちをたくさん見て、本当に苦労が多いなぁと思ったんですよ。
そこで、気軽に車中泊ができる小さいキャンピングカーのレンタカーがあれば、交通費も宿泊も抑えられて気軽にアウトドアが楽しめていいなと思ったんです。
なるほど。松本さんご自身はキャンピングカーの運転経験はあるんですか?
いやー、大型のキャンピングカーは運転が怖くて、私は手が出せなかったんですよ。
それで、女性にも運転しやすい小型のキャンピングカーをネットで検索してみたんです。そうしたら、青森の「カーファクトリーターボー」が制作・販売している「バグトラ(Bug-truck)」という車を見つけましてね。「私が思い描いていたのはこれだ!」となったんです。
そのバグトラって、どんなキャンピングカーなんですか?
ダイハツハイゼットジャンボに網戸つきのテントキットを装着し、荷台には木製フロアキットを装備した軽キャンピングカーです。
これなら、登山口やRVパーク(車中泊施設)、道の駅などで車中泊して、翌日の夜明け前から登山できるし、交通費も格安になると思って、すぐにその会社に電話しました。
はい。「タレントの松本明子ですけど」って電話したら、向こうは「えっ!?」って。最初は半信半疑でしたね(笑)。
それでバグトラについて話を聞いてみると、業務用ミシンで職人さんが縫製したテントを使った独自のカスタムカーだとわかって。関東で唯一バグトラの仲介販売をしているお店が神奈川にあると教えていただき、すぐその「ブロー」というお店に伺いました。
さすが。『電波少年』で培った、お得意のアポなしですね!
もう居ても立ってもいられなくて!
実際にバグドラを見たら、「これだ!!」と一目惚れしてしまい、すぐに購入を決めました。
まさかの即決! 個人所有ではなく、最初からビジネス目的で購入をされたんですか?
そうですね。当初から、山女子や若いカップルなど、免許はあるけど車を所有していない都心の人たちに向けのレンタカー事業をしようと決めていました。コロナ禍によって、ソロキャンプなど密を避けたものにレジャーの形態が変わるはずだとも感じていたので。
でもまぁ、とにかく、「やってみたいなぁ!」と思ったんですよね。
いえいえいえ。
ブローでは、「スズキエブリイ」をアメリカのスクールバス風に架装や塗装した「ブギーライダー」というカスタムカーを売っていて、これも一目惚れしちゃって(笑)。
一台修理に出したら、替えがないとお客さまにお貸しできないなと思って、最終的にバグトラとブギーライダーを2台ずつ、計4台を購入しました。
ブギーライダーは、後部座席を収納しベッドキットを取り出すとゆったり車中泊できる。そこが、私の理想通りだったんです。
その後は、即手続きに取りかかりました。28年前に設立した個人事務所「オフィスアムズ」の定款(会社の目的や構成員などの基本ルール)を行政書士さんに変更していただき、物件探しと契約、レンタカー事業に必要な許可(自家用自動車有償貸渡業の許可)を取るために運輸支局に行ったり、「わナンバー」※に変更するために軽自動車検査協会の管轄事務所に行ったり、手続きには半年ほどかかりましたね。
※レンタカーやカーシェアリングなど、他人への貸し出しを目的にしている車両に付与されるナンバーのこと。
大変そうですね……。それにしても、行く先々で「松本明子だ!」って驚かれたりしないんですか?
「何でいるんだろう」ってポカンとされましたけど、私は全然気にしないので(笑)。
それから、所属先の「ワタナベエンターテインメント」の社長にご報告とお願いをしに行きました。「コロナ禍で先々の芸能の仕事に不安があります」と正直に伝え、「趣味の延長として、また、若い世代に気軽にレジャーを楽しんでいただきたいので、レンタカー事業を副業としてやらせていただけないでしょうか」と直談判したんです。社長は「とにかく安全に気をつけて、頑張ってください」と了承してくださいました。
芸人さんにレンタカー屋をイジってもらえて、オイシかった(笑)
レンタカー事業の経営は、どのようにスタートされたんでしょうか?
購入や申請などの手続きを済ませてから、「はて、レンタカー事業ってどうやればいいんだろう?」となりました。ネット予約1つにしても、自分でサイトを作るととてつもなくお金もかかるし、まったくわからないし。
ビジネスに詳しい小中学校の同級生に連絡して、相談役として入ってもらうことにしました(笑)。
それで、キャンピングカーのレンタカー事業を行っている「バンライフレンタカー」を紹介していただき、福岡の本社に伺いました。「北海道から福岡まで6店舗、フランチャイズ経営をしている」とお聞きして、「これはチャンス!」と。本社の方にお願いして、フランチャイズに加入させてもらうことにしたんです。
そうすれば、バンライフレンタカーの予約システムや料金設定を利用できますしね。でもどうして、方南町にショップを構えることにしたんですか?
ソロキャンプがお得意な芸人のヒロシさんに相談したことが決め手となりました。
当初は、ポピュラーな山が多い長野の松本駅や山梨の甲府駅辺りでお店をやろうと考えていたんですが、ヒロシさんにその話をしたら、「もしやるなら、絶対に東京でやった方がいい。それも都民がアクセスしやすい新宿駅前がおすすめです」とアドバイスしてくださったんです。
でも、新宿の物件なんて高くてとても借りられない。月極駐車場も探したけど無理でした。それで「杉並区の方南町なら新宿から車で10分じゃん!」とふと気づいて、翌日、物件を探しに行って見つけました。
そしていよいよオープンとなりますが、新しい事業を始めることへの不安はなかったんですか?
いやー、なかったですね。
ただ、オープンしたものの「松本明子のレンタカー屋」って誰も知らなくて(笑)。最初は予約の電話が鳴らず、閑古鳥が鳴いていました。
そこで「今はSNSの時代だ!」と思い、TwitterやInstagram、LINEなどを開設し、山に遊びに行った際の私と軽キャンピングカーの写真や動画をアップするという草の根運動的なことをしましたね。
それで、テレビなどで取り上げられるようになったんですか?
実は、知り合いの芸人さんにお店のパンフレットを配って、「何かの折には」とお願いしていたんです。
そしたら、オードリーの春日(俊彰)さんが『東野・岡村の旅猿〜プライベートでごめんなさい〜』(日本テレビ)で、「松本明子さんが方南町でレンタカー屋を始めたらしい」と言ってくださって!
同じ事務所のイモト(アヤコ)さん、ロッチの中岡(創一)さんもメディアで紹介してくださったんです。
それはネタとして、いじられているんじゃ……(笑)。
ははははは。そうなんですよ。
でも、かなりオイシイですよね(笑)。いじってもらえるし、宣伝もしてもらえるし。
オイシイって思ってるんですね。そのおかげでレンタカー事業が広く認知されたんじゃないですか?
本当にありがいことに、ちょっとずつですが知っていただけるようになりましたね。
昨年末のももクロちゃん(ももいろクローバーZ)の「ももいろ歌合戦」に出演させていただいた時は、私が歌っている後ろのスクリーンに軽キャンピングカーの写真を載せてくれて。
みなさんのご協力のおかげで知名度が上がり、最近はYouTuberの方から「車を撮影したい」と連絡が来たり。あと、車雑誌からも取材のご依頼をいただくようになりました。
「松本明子被害者の会」発足! アイドルデビューもレンタカー事業も猪突猛進に挑む
副業でレンタカー事業を始めるにあたり、ヒロシさん以外の家族やマネージャーさんなどの近しい人に相談されたんですか?
してないですね! 私は猪突猛進というか、頭で考えるより先に行動しちゃうタイプなので。
いきなりレンタカー事業を始められて、止められたりは?
止められたような気もしますが、私、人の話とかアドバイスとか、ぜんぜん聞かないんですよね。目標が決まったら、もうそれしか見えていないというか。
その松本さんの猪突猛進さは、もともとなんですか? それとも仕事で培ったものですか?
もともとですね。
芸能界に入るきっかけも勢いでしたし。子どもの頃、「テレビに出たーい!」という想いが強く、四国から誰も知り合いのいない東京に上京しました。
「芸能界に入るなら、芸能人が通う堀越高校に入らないとダメだ」と、とりえず普通コースに入学して。オーディションを受けては落ちの繰り返しで、ようやく『スター誕生!』(日本テレビ)で選ばれて、1983年の歌手デビュー後、高校2年から芸能コースに移ったんです。
それはすごい(笑)。今回は自身の顔も名前も出し、さまざまな人を巻き込んでレンタカー事業を始めましたが、周りに対するプレッシャーはなかったんですか?
ないかなぁ。
あ、でも私、知らない間にいつも人を巻き込むみたいで、「松本明子の被害者の会」というのがあるみたいなんですよ。
急に「みんなでコンサートをやりたい」と思い立っちゃいましてね。それで、元シブがき隊の布川敏和さん、浅香唯ちゃん、西村知美ちゃん、森尾由美ちゃんにお願いして、コンサートを開催したんですよ。
これに巻き込まれた被害者のみなさんが、「松本さんにお願いされたら断れないんだよなぁ……」と、裏で嘆いているみたいなんです(笑)。
松本さんの猪突猛進さにみなさん圧倒されているんですね。そういう芸能活動もお忙しいと思いますが、お店の運営はどうされているんですか?
25年以上も私の運転手を務めてくれている廣田さんと、私の2人でお店の運営をしています。
もちろん、芸能のお仕事がない日は自分で電話番をしたり、車の掃除やメンテナンスなどをやっていますよ。お客様のお見送りとお出迎えもしています。
SNSの写真や動画を拝見すると、レンタカーの仕事そのものが楽しそうですね!
楽しいですね〜! 40〜50代のお客さんだと「電波少年見てました。写真撮ってください!」と言ってくださいますし。20代以下の方にとっては、ただのレンタカー屋のおばちゃんでけど(笑)。
2年の謹慎生活を経験。あのどん底に戻らないよう、仕事は全力で体当たり
レンタカー事業を始めて、芸能の仕事や実生活に影響はありましたか?
私って、アイドルでデビューして鳴かず飛ばずでバラエティーの道に進み、自分の意見や想い、考えなどをお話しする機会がなかったんです。みなさん興味がないっていうのもありますけどね(笑)。
だから今、こうして興味を持っていただき、お話できるのがとても嬉しくて! 55歳と年齢的には遅いかもしれないですが、コロナ禍で事業を始めたことが人生のターニングポイントになればいいなと思っています。
年齢を重ねても新しいことにチャレンジするバイタリティー、素晴らしいですね。
とんでもないです! 今後はお客さんがもっと笑顔になれるようなレンタカー事業を続けていきたいと思っていて。
たとえば、電気自動車を利用することも1つの目標。冬にバグトラでより暖かく泊まっていただくためには、電源バッテリーがとても重要ですから。
はい、RVパーク(車中泊施設)でやりました。運転席と荷台の間に開閉扉を取りつけたので、エンジンをかけていると、暖房が荷台の方に流れてきて暖かかったですね。
扉の取りつけなど、DIYのアイデアは思いついたら自分でやるんですか?
ええ、もちろん。「小さいテーブルがあったらいいな」となったら、ホームセンターで材料を買って自分で取りつけますね。
やっぱり松本さんは思い立ったら即実行タイプなんですね。
止まったら死んじゃうマグロみたいな性格なんですよね。
あとは、お客様のリクエストもどんどん取り入れています。「小さい子と一緒に車中泊したいんですけど、2人以上は無理ですか」という声が3〜4件あったので、4人が車中泊できるよう、ブギーライダー1号にはタワー型ルーフテントを装着しました。子どもたちは「秘密基地みたい」と喜んでくれたようで、私もうれしかったですね。
ところで、昨年『水曜日のダウンタウン』(TBSテレビ)で、松本さんが「マツケンサンバ」を踊って歌う姿が話題になりましたよね。今回の事業もそうですが、キャリアを積み重ねてベテランとなった今も、全力で仕事に向き合えるのはなぜですか?
いやー、私は一度挫折を経験しているので、オファーをいただけることがありがたいんですよね。
アイドルでデビューした後、ラジオで放送禁止用語を言ってしまい、芸能界を干されて2年ほど謹慎生活しまして(笑)。そのどん底時代には戻らないようにはしたいなって。
でもまぁ、今もよかれと思って張り切りすぎちゃって、周囲から止められることも多いんですけど。
今はしないようにしてますが、レンタカーの返却時間を過ぎたら延滞料金をいただく決まりのところ、電話で「延滞金いらないですよ!」ってつい言っちゃったり。
それはさすがに、相談役や一緒にお店をやられている廣田さんが怒るのでは?
多分、そうでしょうね〜(笑)。でも、「松本明子の強みがさらに増えるなら、借金やトラブルにならない限りはやって良し」とは、言ってくれてはいますけどね。
しかし、松本さんは「レンタカーで儲けよう!」とは思わないんですか?
う〜ん、そうですね。今は儲かっていないけど、損もしていないという感じなので、これからも身の丈にあった事業展開をと思っています。
だから儲けたいというより、レンタカー事業もタレント・松本明子も、みんなを喜ばせる手助けとなるのが本望なんですよ。放送禁止用語を言って芸能界を干されたときもそうですが、これまでたくさんの人たちに助けられて来たので。
周りの方々の愛に支えられたからこそ、今の松本さんがあるんですね。
本当にありがたいですよね。とくに、こんな自由奔放さを許してくれる所属事務所の社長には、ちゃんと恩返しできたらなと思っています。
私、松本明子は得体の知れない者ですけど、「バラドル」「歌手」「節約」などのカテゴリーに、今回始めた事業の「レンタカー」が加われば、テレビ番組のゲストにも呼んでいただけるかなって。
いつまでも努力を続ける姿に胸を打たれます。松本さんは今年デビュー40周年を迎えられ、ますますパワーアップされていくと思いますが、今後はどうなっていくんでしょうか?
芸能の仕事については、地に足をつけて一つひとつ丁寧に行っていきたいですね。仕事をいただけるだけでも本当にありがたいことなので、ちゃんとそれにお応えしていきたいです。
レンタカー事業はまだまだ勉強が必要ですが、脱炭素について学んだりして、これからの地球に寄り添えるレンタカー事業を進めていきたいと思っています。
芸能活動もレンタカー事業も、今後の展開を楽しみにしています。松本さん、今日は貴重なお話をありがとうございました!
松本明子(まつもと あきこ)
1966年香川県生まれ。1982年、オーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ)でチャンピオン大会に合格。1983年、「♂×♀×Kiss」でアイドル歌手としてデビュー。その後、『DAISUKI!』『電波少年シリーズ』(ともに日本テレビ)などバラエティー番組での明るいキャラクターが人気に。また、女優としても、連続テレビ小説『花子とアン』など多数の作品に出演。現在は、『ゴゴスマ-Go Go!Smile!-』(CBCテレビ)の水曜レギュラー、『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』(ニッポン放送)の月曜レギュラーなどで活躍。2021年3月から、軽キャンピングカーのレンタル店「オフィスアムズ(バンライフレンタカー東京杉並店)」をオープンし話題に。
オフィスアムズ:
https://officeams.com/
松本明子さん出演!
舞台『ボーイング・ボーイング』
2008年度トニー賞で“リバイバル演劇作品賞”と“主演男優賞”を受賞した大ヒットコメディが、完全版で日本に再上陸。
演出:三枝孝臣
原作:マルク・カモレッティ
出演:福田悠太(ふぉ~ゆ~)、室龍太、大友花恋、飯窪春菜、愛加あゆ、松本明子
【日時】
2022年5月14日(土)〜29日(日)東京・自由劇場
2022年6月3日(金)〜5日(日)京都・京都劇場
「ボーイング・ボーイング」:https://www.bbstage.jp
撮影/武石早代
取材・文/川端美穂、おかねチップス編集部