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ネット黎明期からSEOをいかしたEC支援をスタート。いつも.取締役・高木修さんの類い稀な分析力

ネット黎明期からSEOをいかしたEC支援をスタート。いつも.取締役・高木修さんの類い稀な分析力

楽天市場やAmazonが台頭し、昨今はECの利用が激増しています。そんな中、インターネット黎明期からEC事業の総合支援を行っているのが、2007年創業の株式会社いつも。創業期のメンバーでもある取締役の高木修さんは、誰もやっていなかった分析を次々と編み出し、同社の急成長に貢献しています。どのように高木さんがいつも.を業界トップに導いたのか。そしてECの今後について、たっぷりとお話を伺いました。

ECは参入しやすく、結果が可視化されるから面白い

——いつも.ではEC事業の総合支援を行っていますが、具体的にどんなことをされているんですか?

高木修さん(以下、高木さん):いつも.のコンサルティングサービスでは、クライアントと月次契約をした上で、ECの課題とその解決方法の提案をメインに行っています。もう少し具体的にお話しすると、PDCAのPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)のうち、D以外の全部を担当しますつまり、実行の部分だけをクライアントに担当してもらい、私たちは計画を立て検証して改善策を提案しています。提案する内容は、基本的にはこれまでのノウハウで培った手法ですが、それでもクライアントによってはその手法が合わないこともあります。しかし、それ自体がノウハウの蓄積になるので、失敗の理由をとことん検証し、改善するための方法も提案していきます。

いつも.は中小企業から大手企業まで、EC事業の支援を行っている

——クライアントはかなりの部分をお任せしているんですね。

高木さん:将来的にはクライアント自身でPDCA全部を回せるのが一番ですが、他の業務もある中でそこまで手が回らない会社さんがほとんど。だから私たちは、注文の管理や出荷作業などもお手伝いさせていただいています。本来ECは、お店を作って「売る」というサイクルが一人で完結することができてしまうんです。そのため業界の成長スピードもすごく早い。実店舗を作るとなると、立地の確保や契約などもあるので早くても6カ月はかかりますが、例えば楽天市場に出店する場合、最短で1カ月でオープンできる。ECをオープンするのに一番手間なのは、登記簿を取ることくらいですね。

——ECは開業のハードルが低いんですね。

高木さん:初期参入はとにかく楽です。実店舗がないので自宅でも運営できますし、客数や売上が可視化しやすいから「この商品は販売を続けよう」「この広告はやめよう」といった判断もつきやすい。実店舗に比べて自由度が高いので、運営する側としても面白いと思います。

高木さんはAmazonの攻略法を綴った書籍「アマゾンを飲み込め! ネット通販で売上を伸ばす7つの戦略と21の鉄」(幻冬社)を執筆している

SEOという言葉がない時代からノウハウを蓄積

——もともと高木さんは、ITにまつわるお仕事をされていたんですか?

高木さん:いえいえ。まず1998年に新卒で入社したのが、経営コンサルティング会社の船井総研なんです。当時はチームに対してパソコン1台の時代。社員個人のメールアドレスもまだありませんでした。その中で、私はちょっとだけExcelが使えたので、上司にパソコンに詳しいと思われてしまって(笑)。会社初の専任WEBマスター(企業のサイトの運営責任者)を担当することになったんです。それがECの最初の入り口です。

——1990年代の後半というと、インターネット黎明期ですよね。

高木さん:そうですね。当時はまだSEOや検索対策なんて概念も言葉もなくて、ネットで「船井総研」と検索すると、社内の人が個人で作ったWEBサイトがトップに出てくるくらいで。だから、WEBマスターとしての最初の仕事が、検索結果のトップを「船井総研」の自社サイトにすることでした。詳しい人に聞いたり、トライ&エラーを繰り返したりしてSEOを必死に学んだので、とても詳しくなりましたね。

終始笑顔でインタビューを受けてくれる高木さん

——そのSEOのノウハウを持って、転職されたんですか?

高木さん:はい。大学時代の友人から誘われて、彼が創業した会社に入社しました。外国人の人材派遣が主な事業でしたが設立したばかりだったこともあって、全然仕事がなくて。それで、とりあえず会社のホームページを作って、船井総研時代に培ったSEOテクニックを詰め込んで検索順位を上げたんです。そうしたら、これまで月に1件ほどだったホームページ経由の受注が10件20件と増えていったんです。

当時のSEOテクニックは、実は今とあんまり変わらないんです。ページタイトルにキーワードを入れたり、適切にリンクを貼ったり。でも当時は競合が少なかったので、これをやるだけでも圧倒的に順位が上がったんです。どんなキーワードで検索してもトップにできちゃう。とくに外国人の人材派遣は翻訳の需要があったので、「英語翻訳」「中国語翻訳」などで検索した結果、自社を全部検索結果の1ページ目に上げることができました。検索順位をトップにすることで、問合せが急増し受注につなげられたんですよ。

——なるほど。そこからEC事業にどうつながっていくのでしょうか?

高木さん:次にコンサルティング会社に転職し、SEO対策にまつわる事業を立ち上げたんですが、なかなか社内の理解を得られなくて。というのも、当時は今のSEO対策ビジネスのような月額制ではなく、受注ごとに対価が支払われる形にしていたので、継続的な売上につながらなかったんです。なんとかして、継続的に売上をつくれるビジネスに出来ないかと考えた結果、たどり着いたのがECでした。私が持っているSEOのノウハウを使って、ECコンサルティングをやったらいいんじゃないかと。それも自社でいちから仕組みを構築するのではなく、すでにあるプラットフォーム、例えば楽天市場などに出店すればうまくいくのではと思ったんです。

——そもそも高木さんは、ECのどのあたりに可能性を感じていたのですか?

高木さん:船井総研時代、クライアントでECで大成功している会社があったんです。メルマガを1本出すと、1000万円の売上が出るくらい人気で。ECってこんなに売れるんだなと。それでいろんな会社にECをやってみましょうと提案していったのです。なかでもお肉屋さんのECをお手伝いしたら、2年後、月の売上が5万から1000万円にアップしました。私が行ったのは、何を検索してもそのショップの商品が出てくるように設計すること。ここでSEOのノウハウを駆使したわけです。検索結果っていろいろ選べますが、例えば価格順がありますよね。価格の安い順に並べてトップに出てきたら確実に売れる。そういう確信があったので、そのお肉屋さんに1グラム1円の商品を開発してもらいました。反対に高級なものを探しているユーザーに向けて、高額なセット商品も開発してもらったり。レビュー順のトップになるために、レビュー自体をたくさん集めることも行いました。さまざまな検索順位を徹底的に分析して、各項目でトップになる方法を提案したんです。

それから、1ページに表示される検索結果の数も決まっているので、2ページ目、3ページ目、それぞれでトップに表示される順位になるような商品を開発してもらったり。例えば、1ページ30件の表示だとしたら、31件目に出る商品ですね。各種のアルゴリズムを必死に分析すると、面白いぐらい効果がありました。他店は広告を出しても売上が上がらず苦戦している中、私たちは広告費を使わずに検索の順位を上げることで売上を上げていったんです。

成功の秘訣は、目標設定の高い人と組むこと

——高木さんは、どういった経緯でいつも.に参画されたんですか?

高木さん:いつも.に入る前、実はECコンサルティングの会社を経営していたんです。それがけっこううまくいって、なんとなく目標としていた年収1000万円があっという間に達成できたんです。だけど、私は次の手を打つでもなく他のスタッフに仕事を任せて、毎日ゲームに没頭して(笑)。普通の経営者なら年収1000万円稼いだら、次は会社を拡大しようとか考えるじゃないですか。私にはそれがなかった。年収1000万円で満足しちゃったんです。何もしない日々を過ごすうち、さすがにこりゃまずいだろうと思うようになって。それで刺激でももらおうかなと思って、船井総研時代から年賀状の付き合いがあった人に会いに行ったんです。それがいつも. 代表の坂本守です。

高木さんは起業して会社が軌道に乗ると、次なる目標を失ってしまったそう

——坂本さんに会いに行ったことが、転機になったのですね。

高木さん:ええ。坂本にいざ会って話してみたら、自分と違ってとにかく目標設定能力が高かった。やっぱり目標がないと、事業も自分自身も向上していかないと気付かされました。私のように目標設定が下手な人は、一人で会社を経営したらダメだなと。坂本たちと一緒に仕事するべきだと確信したんです。

それで、まずは自分の会社と提携するような形で一緒に事業を展開することにしたんです。楽天市場だけでなくAmazonにも手を広げ、SEO対策のアドバイザー的なことをしたり、SEOに続いてスタートしたキーワード広告対策を行ったり。どちらも非常に高い効果が得られ、2年ほど経った頃、坂本から正式にいつも.に誘われたんです。

——高木さんのノウハウや実績があれば、いつも.に入らなくても事業を成功させていた気もしますね。

高木さん:そこはやはり、目標設定の問題ですね。自分だけでやっていたら、めんどくさがってやらなかったと思います。私の場合、上司が目標を設定してくれるとそこへ向けて動くことはできた。その点、坂本やうちの経営陣はすごいですよ。社員の能力を引き上げる力がある。それに営業トークも秀逸。ただ、私には小難しくて何を言っているのかはわかりません。一応頷くようにはしていますが(笑)。

現在、高木さんは取締役として、部下たちにECコンサルティングのノウハウを伝えている

モットーは、「バナー1個から運営代行全部まで」

——いつも.は楽天市場やAmazonでのECコンサルティングで業績を伸ばされましたが、事業の転換点となった出来事はありますか?

高木さん:某大手化粧品会社との契約が大きかったですね。その会社は楽天市場でショップ運営できるところを探して、いつも.を見つけてくださったんです。話を伺ってみると、ケース単位の発送が基本のメーカーという立場上、ユーザーへの1個単位の発送が難しいということと、ネット販売することで値崩れが起きてブランド価値を守れないことを懸念されていました。そこで私たちの出番となったわけです。私たちが運営するならマーケティングも徹底しているので値崩れの心配もありませんし、物流システムも構築できる。その結果、売上も大きく上げることができて、直近ではなんとベストパートナー賞にも選定していただきました。これは我ながらすごいことだと思います。

さらに、この成功体験を知ったメーカーさんや企業さんからも、どんどんお声がけをいただきました。こうしてメーカーさんや企業さんと一緒に、楽天市場やAmazonなどに出店をしていきました。

——今ではECコンサルティングをしている会社も増えたと思いますが、御社ならではの強みはなんでしょうか?

高木さん:あらゆる分野の商品を扱う総合商社が「ラーメンからミサイルまで」と言われるように、いつも.では「バナー1個から運営代行全部まで」をモットーにしています。競合他社はいますけど、こんなに幅広いECコンサルティングができる会社はないと自負しています。これが実現できているのは、各分野に精通したメンバーが集まっているからだと思います。

いつも.では、EC業界を経験した社員が多数在籍している

それに加えて私たちが大切にしているのが、Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3C分析です。一般的にECは、どれだけ広告運用するか、どれだけ効率化していけるか、あるいはどうやったら検索順位が上がるのかといった、パーツごとの課題にものすごく目が行きやすい業界なんです。確かにこれらも重要ですが、さらに大切なのは競合が誰なのか、自社がどういうサービスを提供できるのかといった客観的な視点。とにかく全方位の3C分析が必要なんです。

今はSEO対策の方法は誰もが知っているので、これから重要にすべきなのが古典的なマーケティングだと思います。例えば、SNSが重要と言われていますが、これはマーケティングの教科書を読めばリアルと同じ流れだということがわかります。マスマーケティング→ワン・トゥ・ワン・マーケティング→口コミマーケティングという歴史と同じように、ネットでもその順番に盛り上がっていきました。 

——これからのEC業界で、高木さんはどんなことを仕掛けていく予定でしょうか?

高木さん:ライブ配信でモノを売る「ライブコマース」にチャレンジしたいですね。日本で行っている会社は少ないんですが、これからライブコマースでモノを買う人は確実に増えて行きます。大手企業がすでにライブコマースに挑戦して撤退していたりするんですが、だからこそ私たちが入り込める余白がある。もし失敗したとしても、これまでのように「分析」を徹底的に行って、どうにかこの分野を切り拓いていきたいと思っています。

2023年、いつも.はライブコマースの分野にも挑戦していくそう

高木修(たかぎ・おさむ)

株式会社いつも 取締役、ECサービス事業本部 本部長
メーカー・ブランド保有企業、全国のEC事業者に対して、現場最前線で実効性の高い提案と売上改善サポートを行う。「いつも.式鉄則コンサルティング」メソッドの開発責任者でEC先進国のアメリカの消費動向も定点観測し、アメリカの小売・デジタル化の動向を整理しながら、日本のデジタル化・ECの近未来を予測・提言を行っている。執筆に関わった書籍に、『ECサイト[新]売上アップの鉄則119』(KADOKAWA)、『先輩がやさしく教えるEC担当者の知識と実務』(SHOEISHA)、『EC戦略ナビ』(マイナビ出版)、『アマゾンを飲み込め!』(幻冬舎)がある。

撮影/武石早代 
取材/おかねチップス編集部 
文/田中元

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