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世界180カ国に日本のお菓子をサブスクでお届け。「ICHIGO」近本あゆみのグローバルな野望

世界180カ国に日本のお菓子をサブスクでお届け。「ICHIGO」近本あゆみのグローバルな野望

商品、動画、音楽といったプロダクトやコンテンツに定額料金を支払い、一定期間のサービスを受けられるサブスクリプションサービス(以下、サブスク)。今やあらゆるビジネスの分野で一般的な手法となっていますが、そのサブスクをいち早く取り入れ、世界各国に日本の商品を届けるサブスクサービスを複数運営しているのが「ICHIGO」です。

今や年商40億円の売り上げを達成する「ICHIGO」創業者の近本あゆみさんに、創業からの苦労や、成功に至るノウハウをお聞きしました。

きっかけは爆買いブーム。世界に向けた日本発サブスクサービスが誕生

――まずは、現在「ICHIGO」が行っているサブスクサービスについて教えてください。

近本あゆみさん(以下、近本さん):日本のお菓子を詰め込んだボックスセットを毎月お届けする「TokyoTreat」を筆頭に、和菓子の「SAKURACO」や、かわいい雑貨に特化した「YumeTwins」、化粧品ボックスの「nomakenolife」などのサブスクサービスを180カ国で展開しています。それぞれ毛色は違いますが、いずれのサービスも扱っているのは日本製の商品で、日本の文化や商品を海外の方に発信できたらと考えています。

「ICHIGO」が展開するサブスクサービス「TokyoTreat」(左)、「SAKURACO」(中)、「YumeTwins」(中上)「nomakenolife」(右)

――「ICHIGO」が顧客対象にしているのは、あくまでも海外の方でしょうか。日本からは「ICHIGO」のサービスを受けられないのですか?

近本さん:そうですね。しばらくは日本向けサービスは行わないつもりです。ただ、和菓子のサブスク「SAKURACO」については、国内でも案外入手しづらいものが入っていることもあり、もし国内展開するとしたらまずはこれからになるのかな、とは思っています。

――見た目も商品のラインナップも楽しい「SAKURACO」は、国内でもサービスを使いたいという人が多そうですね。そもそも、お菓子のサブスクというアイデアにはどうやってたどり着いたのですか?

近本さん:大学卒業後、リクルートに入社して通販の新規事業企画を担当していたんですけど、立ち上げた当初は順調な滑り出しでしたが好調な売り上げが長続きしませんでした。自分なりにその理由を分析すると、国内向け通販事業は当時すでにたくさんあり、後から参入するのが難しかったからじゃないかと。

当時の職場は銀座にあったんですが、日に日に訪れる外国人の方が増えていて、いわゆる爆買いブームの頃でした。そうした海外からの旅行客の光景を目にし、私が担当する通販も海外向けに絞ったら需要があるのかなと思ったんです。私は入社当時からいつか起業したいと思っていて、常日頃から何かないかと探していたので、やるとしたらこれだなと。

――着眼点が素晴らしいですね。

近本さん:ありがとうございます(笑)。その後しばらくはアイデアを温めながら社員を続け、退社してからもリクルート時代のお客さまの集客に関するコンサルティングや、WEB関連の仕事をフリーランスで請け負いながら起業のタイミングを見計らっていました。海外向けの通販をやろうとは思っていたんですが、私自身は英語が全然得意じゃないですし、海外に住んでいた経験もなくて。ちょうどその頃、アメリカや台湾、インドネシアなどに滞在経験がある外国の方と知り合ったんです。彼なら4カ国語も話せ、各国の文化的背景にも造形が深い。私がやりたい事業に欠かせない人物だと確信して、共同創業者になってもらって2015年に起業することにしました。

「リクルート時代の同僚からは起業するタイプとは思われてないので、みんな驚いてると思います」と近本さん

――起業当初から全世界向けのビジネスを考えていたのですか?

近本さん:いえいえ。起業を決めた頃、「越境EC」というフレーズが話題になりつつあって、市場としてはアメリカと中国がすごく大きかったんです。だからこの2カ国からスタートしようと考えていました。だけど、中国相手だと利用できる決済サービスが非常に限られているうえ、私たちが独自にサイトを作っても中国国内では閲覧できないんです。そこでひとまず中国での展開は諦めて、アメリカ向けに絞って事業をスタートすることにしました。

なぜサブスク?なぜ日本のお菓子?

日本のお菓子がたっぷり詰め込まれた「TokyoTreat」。ポップで楽し気なデザインが印象的

――当初からサブスクでの事業展開を視野に入れていたんですか?

近本さん:そうですね。現在はNetflixやApple Musicのような動画や音楽の配信サービスが主流ですけど、当時のアメリカではフィジカルな商品をサブスクで届けるというビジネスが流行していたので参考にしました。アメリカってすごく広くて、大都市がある一方で田舎が多い。買い物に行くにしても車を出してガソリンを使うので、普段の買い物にも余計なお金と時間がかかっちゃうんですよね。そこで、サブスクという形で毎月定期的に好きなもの、必要なものが届くというビジネスモデルがブームになっていたんです。

――その当時のアメリカのサブスクでは、どういうものが扱われていたんでしょうか。

近本さん:カミソリやベビー用品、ミルクのほか、パンツや靴下のサブスクボックスなどがありました。当時はすでに通販最大手のAmazonもあったので、その中でどう差別化するのかを考えた結果、ニッチだけど一定の需要があるものをと、こうした定期的に必要な日用品が中心になっていたんだと思います。そうした背景を受け止め、私たちもサブスクを取り入れたら面白いんじゃないかと、現在のスタイルを構築することにしました。

現在の「SAKURACO」の一例。スナック菓子や洋菓子など、日本製のお菓子が詰め込まれている

――サブスクの商材に、お菓子をメインに選んだのはなぜですか?

近本さん:先ほどお話しした銀座の爆買いの様子もヒントになりましたが、外国の観光客がお土産に一番買うものを考えたら、お菓子に行き着きました。日本ではコンビニやスーパー、百貨店でも必ずお菓子が目に入りますし、外国の観光客が帰国する直前、空港でギリギリまで買えるのも、お菓子だったりしますからね。

――お菓子のサブスクサービスには、競合相手はすでにいたのでしょうか。

近本さん:数少ないながらアメリカでお菓子のサブスクはありました。韓国と日本のお菓子を扱うサブスクもあったんですけど、運営しているのはあくまでもアメリカの会社で、担当者もどうやらアメリカの方っぽいんですよね。というのも、日本のお菓子をウリにしているにも関わらず、中身を確認したら韓国のお菓子だったり、ローマ字でKOMPEITOと書かれていて明らかに日本のものでなかったり。多分、買う側も売っている側も、本当に日本製かどうかは気付いてないんだと思います。

――その状況なら入り込む余地がある、と。

近本さん:はい。私たちは実際に日本にいるので、本物の日本製のお菓子をセレクトできるし、最新のものも限定品も取り扱える。これなら勝てると思って、2015年3月から日本のお菓子詰め合わせボックスのサブスクサービス「TokyoTreat」を開始しました。

ただ、勝算を感じながらも絶対的な自信があったわけではないので、最初は個人事業としてスタートしたんです。共同創業者がもともとエンジニアだったので、彼にサイト制作やデザイン、マーケティング、カスタマーサポートを任せ、私は商品の選定や買い付け、梱包などを担当して。完全に2人きりの業務だったので、ものすごく忙しかったですね。

サブスクサービスを世界 180カ国で展開し、年商40億円の売り上げを達成する「ICHIGO」。起業当初は、共同創業者と近本さんの2人きりでのスタートだったそう

海外YouTuberのおかげで人気が急上昇

――お菓子の買い付けは、最初から順調だったんでしょうか。

近本さん:いえいえ。一番初めにぶつかった壁が、まさにお菓子の買い付けでした。問屋さんやメーカーさんがいろんな理由をつけて売ってくれなかったんです。「海外向けなら取引できない」「保証金1,000万円必要」などと、ダイレクトに断られることも少なくなくて。それで最初の頃は「おかしのまちおか」とか「ドンキホーテ」とか、お菓子を安く大量購入できる量販店に買い付けに行っていました。

――それは地道な作業ですね……。その壁はどうやって突破したんですか?

近本さん:その場でお金を払って取引を完了するキャッシュオンデリバリーならOKという問屋さんがいらっしゃって、まずはそういうところから取引をさせていただきました。

――お菓子の買い付けと並行して、サービスを認知してもらう必要もありますよね。それはどうしたんですか?

近本さん:最初は、バナーやインプレッションなどのWEB広告を出しました。アメリカのGoogleをはじめ、もっと小さい媒体にも広告を出しましたが、一番効果があったのはFacebookでした。WEBでコツコツと広告を出していったら、数カ月後には2人じゃ回せないくらい売り上げが上がったんです。それで2015年8月に法人化してスタッフも雇用し、大きい問屋さんやメーカーさんと直接取引させていただけるようになりました。

※WEB上の表示回数によって料金が決められるタイプの広告のこと

――売り上げの好調が取引の説得材料になったのでしょうか。

近本さん:それもありますし、サブスクということも大きかったと思います。取引側としても、定期課金してくださるお客さまがいる分、毎月安定した数を受注できるし、継続的な取引が見込めますしね。あとは、単品の取引だとお菓子をバラして納品していただくといった手間も発生しますが、私たちのやり方なら1種類を万単位でいっぺんに納品でき、売り上げの目処が立ちやすいのも要因かなと感じています。

最初の難所だった取引先問題をクリアし、「ICHIGO」のサービスは急成長していく

――それにしてもサービスを開始してから半年ほどで売り上げ増&会社設立って、事業の成長スピードがかなり早いですよね。きっかけとなった出来事があるのでしょうか。

近本さん:これは完全に予想外だったんですが、買っていただいた方の中にYouTuberが数名いらっしゃったんです。当時は日本ではまだブログの時代で、YouTuberは全然認知されていなくて、私たちもマーケティング対象として全く考えていなかったんです。だけど、そのYouTuberたちが「TokyoTreat」を紹介してくれたおかげで、急激に売り上げが伸びたんです。そこからYouTubeマーケティングにも積極的に力を注ぐようになりました。

「ICHIGO」では、「TokyoTreat」のYouTubeチャンネルも開設している

――「ICHIGO」で展開しているサービスを拝見すると、SNSマーケティングにも力を入れているようですね。

近本さん:今の世の中、口コミがすごく強いですからね。日本では通販で商品を買っても、よほど映えるものでない限りそれを自分のインスタに載せないと思うんですが、海外の方はかなりの頻度でSNSに載せてくださるんです。やはり、わざわざ日本の商品を定期購入してくれるだけあって、みなさん自分なりのストーリーがあるんですね。日本への留学経験があったり、旅行するほど好きだったり、日本のアニメや漫画のコスプレにハマっていたり。そうした自分のストーリーと絡めて投稿してくれることがとても多いので、SNSは積極的に活用しています。

弊社ではサービスごとにSNSのアカウントを持ち、頻度や時間も決めて投稿するようにしていますし、ソーシャルマーケターというマーケティング部署を設けていて、リプライをもらったら必ず反応するようにしています。SNSでのお客さんとの交流は、弊社にとって非常に大事なマーケティングの一つですね。

 
 
 
 
 
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良質な日本の商品を届ける“世界中のコンビニ”になることが夢

「ICHIGO」が手がけるサブスクサービスの人気の秘密とは?

――「TokyoTreat」のヒットを皮切りに、今では世界180カ国にサービスを展開していますが、「ICHIGO」のサービスが海外の方に支持されている理由は何だと思いますか?

近本さん:本物の日本の商品、しかもクオリティの高いものを選定しているところだと考えています。もともと、日本の文化や商品に憧れがあるお客さまが多いのですが、言葉や文化の壁があるので、そうした商品に自力でたどり着くのはなかなか難しいんです。だからこそ、私たちが選んだ本物の日本の商品が毎月安定的に届くというのが、弊社を選んでいただいている理由なのかなと思います。

――海外市場で勝負するにあたり、スタッフさんも海外の方を採用されているのでしょうか。

近本さん:商品の選定は日本人が手がけていますが、カスタマー対応は外国人スタッフが担当しています。マーケッターやデザイナーもそうですが、日本の商品を海外の方にお送りするので、文化的背景の違いを乗り越えるために、お客さまと直接やりとりするのは海外の方が適任だと考えています。

――たしかに、商品に同封されているマガジンを拝見すると、海外の方向けのデサインが採用されていますよね。

近本さん:そうですね。色使いやフォント、使っているフレーズなどにも、日本にいるとわからない、そのときどきの現地の流行がありますからね。とくに「TokyoTreat」は、月毎のテーマ選びも大切にしています。たとえば、今年の2月はバレンタインをテーマにしたのですが、海外では男女問わず、恋愛関係なしにプレゼントを送って感謝を伝える文化があります。でも、「TokyoTreat」を定期購入してくれている方の多くは、日本の文化に親しんでいて、女性から告白する恋愛イベントとしてのバレンタインに憧れている方も多くいらっしゃいます。そこで、そういう文化を紹介したりと、日本独自のイベントや文化も楽しんでいただけるようにしています。

「TokyoTreat」に同封されているマガジン。海外の人に受け入れてもらえるように、ポップで鮮やかな1冊になっている

――サブスクサービスには解約という課題がつきものですよね。サービスを継続してもらうための工夫はありますか?

近本さん:例えば、「SAKURACO」では1カ月、3カ月、半年、1年という契約プランがあるのですが、初めてご契約いただいた方にプレゼントを贈るキャンペーンを行っているんです。長期継続プランになるほど、お箸、豆皿、グラスなどプレゼント商品が豪華にアップグレードする仕組みです。この効果はかなり大きいですね。

それと日本の四季を楽しんでもらえるように、月毎のテーマを設け、先ほどお話ししたマガジンで日本の文化を発信しているので、これを楽しみたいから最低1年は定期購入してくれる、という方がたくさんいらっしゃいます。

「SAKURACO」で行っている入会キャンペーンの一例。プランが上がるごとにプレゼント商品もグレードアップする仕組みになっている

――なるほど。そうした努力で顧客を獲得できるとはいえ、やはり海外向けのサブスクって発送コストがかかりますよね。失礼ながら、ズバリ儲かる秘訣を教えてください……!

近本さん:利益を得たいのであれば、組織の内製化が重要だと思います。私たちのように海外向けのサブスクサービスをしている会社さんは結構あるんですが、その多くがいろんな部分をアウトソーシングしているんですよ。一番お金のかかる物流のシステムだけでなく、エンジニアやマーケティングも外注しているところが多い。このやり方ではほとんど利益は出ないと思います。私たちの場合、商品の選定、買い付け、梱包、物流まで、自分たちでやることでコストの効率化ができているんです。組織を内製化することで各部署の調整が素早くでき、お客さまの要望にもすぐに応えられるのも、最終的な利益につながるのだと思います。

――時間と手間をかけてでも自分たちで組織づくりをした方がいいんですね。それでは最後に、近本さんのこの先の野望を聞かせてください。

近本さん:現在は「TokyoTreat」や「SAKURACO」など、複数のサービスを全て別々のドメインで運営しているんですけど、これらを一つにまとめて横断的に購入できるようにしたいですね。まとめてサービスを買っていただければ、その分配送費用も安くできますしね。

それから、今後は日本の伝統工芸品なども扱いたいですね。とくに南部鉄器や日本の包丁などは世界でも認められているので、サブスクに限らず通販で扱っていけたらと考えています。私たちが会社設立時に掲げたミッションは、「ICHIGOが世界中のコンビニなる」こと。これからも日本の良質な商品を弊社のサイトやアプリから買えるようにしたいですし、日本文化の良いものを世界に伝えていければと思っています。

無茶な質問にも真っ直ぐに答えてくれた近本さん(ありがとうございました!)。日本の“いいもの”を伝えるため、海外市場での挑戦は続く

近本あゆみ(ちかもと あゆみ)

1984年兵庫県生まれ。早稲田大学卒業後、リクルートに入社し通販事業に従事する。リクルート退社後、2015年に越境ECに特化した事業会社「ムーブファースト」を創業。2021年に株式会社ICHIGOに改名。2022年3月現在、180カ国と地域に220万個以上の日本のお菓子やキャラクターグッズのオリジナルボックスを届けている。
 
TokyoTreat:https://tokyotreat.com/
SAKURACO:https://sakura.co/

撮影/武石早代 
取材・文/田中元

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