「おかねチップス」のドSマスコット・チップスくんがフリーランスや若手経営者に向けて、厳しくも愛のあるアドバイスをする「チップスくんのお金の相談室」。税金や経費、保険などに関する悩みをチップスくんがズバッと解決します!
今回、神出鬼没のチップスくんが身を寄せるバーに現れたのは、日本有数の大企業「ソフトバンク」に務める傍ら、会社公認で副業をこなし、自身の会社まで設立してしまったWEBプロデューサー・PRプランナーのヤスダツバサさん。「副業で得たスキルを本業にコミットしたい!」とやる気に満ち溢れていますが、経理や会計、会社経営に関する相談ごとがいろいろとあるようで……。
相談【1】会社員が副業し、さらに法人成りするうえでの心得を教えてください!
チャラいWEBプロデューサーVSチップスくん。さぁ、どうなる……!?
黒のジャケットにゴツいアクセサリー、とんがり靴……。チャラいという、ウワサ通りの出立ちで現れてくれたヤスダツバサさん。まずは、チップスくんから事情聴取を受けていただきます。
(ドアを開けながら)すんません〜。“おかチ”のチップスくんに相談できると聞いてやって来ました!
“おかチ”って略す人ははじめて……! いらっしゃい。こんな状況だから、ウーロン茶をどうぞ。
どうもです! 僕、5年ほど会社員しながら副業していたんですけど、今年自分の会社をつくったらマジ大変 で、悩みが尽きなくて……。
副業で創業したんだ、頑張ったね! まぁ、まずは自己紹介してくれない?
えーっと、34歳のヤスダツバサと申します。大学を卒業してから、25歳からWEB制作会社で事業部長として、プロジェクトマネジメントやWEB解析などをやっていました。2018年からはソフトバンク株式会社(以下、ソフトバンク)の社員として、広報で企業/サービスPRのプランニング、オウンドメディアのプロジェクトマネジメント、コンテンツ制作をやっていますね。
WEBプロデューサー・PRプランナーという肩書なのですが、デジタルPRやオウンドメディア、企業/サービスサイトのコンサルティング・プロジェクトマネジメントやWEBサービスのグロースハック、コンテンツ制作が多いですね。あらゆるものを編集することが得意です。前職の制作会社が副業OKだったので、その延長で継続してる感じですね〜。
ちょうど僕が面接を受けている頃に副業を解禁したんですよ(※1)。それで、入社直後に「副業やりたいです!」と申請して、認めてもらいました。
※1 ソフトバンクは2017年11月に副業解禁
政府が働き方改革の一貫として副業・兼業を容認する方向になって、「副業元年」と言われたのが2018年だからソフトバンクは早いほうだよね。副業にあたって会社にはどんなルールがあるの?
大前提であるのは、副業は業務時間外に行い、本業に支障をきたさないこと。弊社はスーパーフレックスタイム制で、業務状況などに応じて始業時刻・終業時刻を日単位で変更できるんです。だから、自分が決めた就業時間内は副業の仕事はせず、始業前や終業後、土日にしていますね。おかげで早起きになりました(笑)。
仕事大好きなんで、全然苦じゃないですよ! あと、本人のスキルアップや成長につながることも大事ですね。競合の仕事はやらない、会社の財産や利益、名誉などを毀損する活動は行わないといった細かな誓約もあります。
副業って、営業における競争、いわゆる競業が起こりやすいから注意が必要だよ! 自分が本業で培ったノウハウや情報を生かして、所属する会社の利益を侵害してはいけないんだ。副業OKの会社でも、「競業避止業務」が課されていることが一般的だからね。厳しくセルフコントロールすることを忘れないように!
チャラいと思いきや、実は素直ないいヤツ疑惑あり?
ところで、副業6年目で起業したのは何か心境の変化があったわけ?
やっぱり、コロナ禍の影響かなあ……。副業を解禁する企業が増えて、いままでタブー疑惑になっていたものが“当たり前に近く”なりましたよね。「自分の力で生きていかないと! 価値を高めないと!」と思って、それを選択する人たちも増えましたよね。1つの所属先に依存しない働き方や生き方は素晴らしいと思うんですが、一方で、人が増えることで副業に対するモラルもごちゃ混ぜになるというか……。個人的には、本業のスキルアップにつながらない副業はしないのがモットー なんです。じゃないと、企業が副業を容認するメリットってないじゃないですか。
なるほどね。起業することで、副業で個人事業主をしている人たちと差をつけたかった?
あー、まさに! この業界って目立ってなんぼなので。大企業に所属しながら、自分で起業した人はレア度が高めと勝手に思っています(笑)。自分の市場価値も高まると思って、起業に踏み切りました。そして、副業で得たスキルを本業にも貢献させて、自分の成長速度をどんどん上げていきたいんですよ!
第一印象はチャラかったけど、仕事に熱い男なんだね〜。法人化すると個人事業主のときより受注できる仕事の幅が広がると思うけど、起業してやりたいことは?
僕と同じように、大企業に所属しながら、副業をやっている手に職を持っている人たちと仕事をしたいなと。そういう人たちって、一流のスキルを持っている人が多いし、何より事業目線でクライアント側の視点を持っているところが強い。
へー、いい切り口! 法人化しているとパートナー契約も結びやすいよね。
ここでちょっと税務のお話。ヤスダさんは会社員だから、本業の会社では毎月の給与額から所得税が源泉徴収されて、12月に年末調整で1年間に納めるべき所得税との差額を精算。そして、副業の会社でも、役員報酬を支払えばやっぱり源泉徴収の義務が生じる。それから、年に1回、決算書をつくって、会社の経営成績や財務状態などを明らかにし、それをもとに税金の申告もしなければならないよ。 初年度の事業年度は1年以内なら自由に決められるけど、決算月はいつにしたの?
決算月は3月です。年度末だし、キリがいいかなって。
え……。初年度(1期目)はわずか1カ月で終了したわけだね。もったいないことしちゃったね。
事業年度開始時点で資本金1,000万円未満での法人は、設立から2期目までの事業年度は通常、消費税の免税事業者になるんだ (※2)。ヤスダさんの場合、1期目がすでに終わったから、いまの2期目は納税義務がない。だけど次の3期目からは売上規模によっては年間数十万円〜50万円、もしくはそれ以上の消費税を払うことになるかもしれないね。
最大24カ月、納税のタイミングを先延ばしにできるというメリットを享受できたね。 でも、勢いで起業した感じ、ボクは嫌いじゃないよ!
※2 消費税のインボイス制度開始前を前提とした場合。また、設立3期目以降では、前々事業年度(これを基準期間という)における課税売上高が1,000万円以下の場合原則として納税義務が免除されますが、基準期間である第1期が1年でない場合、1年相当に換算した金額により判定することとされている
※ウイスキーではなく烏龍茶です
相談【2】経理や会計ってアウトソーシングすべきですか?
いやー、つらいっす(涙)。苦手な事務作業を全部自分でやらなければいなくて。 個人事業主のときは源泉徴収とか自分でやっても何とかなってたけど……。
それはあるあるだね! いまはクラウド会計ソフトを低予算で簡単に導入できるから、会計の知識がない個人事業主でも、会計ソフトを使えばある程度の処理はできてしまう。ただ、できた感じがしているだけで、税理士がチェックすると処理の誤りがかなり見つかる、なんていうことも多いんだ。法人成りすると、決算や源泉徴収、年末調整、法定調書の提出といった税務もかなり複雑になるから、いくら会計ソフトを使ってもどこかで限界が来るかもしれないよ。
いまは自分でクラウド会計ソフトで経費の仕訳をして、月イチで税理士さんにチェックしていただいてるんですが、面倒くさすぎて未入力の領収書がどんどん溜まっていて……精神衛生上良くないなって。
ねぇ、ちょっと厳しめに言うけど、ヤスダさんは会社員でもあるから、副業ために自由に使える時間がかなり限られている。そこをちゃんと自覚してる?
副業に充てられる貴重な時間を経費の仕訳に使うのは、もったいないと思う。経営者は、自分で自由に使える可処分時間をいかに増やして事業にコミットし、お金を生み出す仕組みを作れるかどうかが大事だからね。
ヤスダさんが必死に丸1日かけて経費の仕訳に使うことで、売上アップのチャンスを失うといった機会損失も起こるんだよ。
「時は金なりだよ!」とチップスくんからのげきが飛ぶ店内
税理士に記帳代行を頼んだ場合、仕訳数や会社の事業規模にもよるけど、月額1万円から受けられるサービスもある。記帳するための精神的・肉体的な負担が減って、その時間、売上を伸ばす機会に充てられるなら、外注費としては高くないと言えるよね。
上場企業を目指すなら、上場後の監査に備えて、社長がある程度の会計やバックオフィスの知識を持つために必死に勉強するのも悪くないと思うけど、そうじゃないなら、いまは仕事を取ってくることが大事だから、そっちを優先的に頑張っていくの手だね。 会社をつくって雇用を生み出し、クライアントや消費者のニーズに応えることは社会貢献につながるけど、ヤスダさんがいまの貴重な時間を使って会計や税務の事務作業を細かく覚えることは、必ずしも社会貢献への近道とは限らないかもしれない。起業したてって、「会計の知識がないとだめだ!」と思い込んで、何でも自分で対処しがちなんだけど、専門家にアウトソーシングすれば、支払ったコストに見合う経営や節税に関する情報が得られるなど、自分の会社にメリットをもたらすことも多い し、重要なポイントを効率よく学べる部分もあるよ。
ずっと悩んでいたので、いいアドバイスをもらえてありがたい!
稼ぐスキルが十分でない、働く時間に余裕があるといった場合に、バックオフィス業務をアウトソーシングしすぎるのはよくない。でも時間が限定的で、売上のトップラインをさらに上げたいときは会社の影響力や信用度を上げるのが最優先。 経理や会計はアウトソーシングして、事業や経営に注力するのもいいと思うよ。たとえるなら、一級建築士が大きな競技場をつくるとき、セメントを練るところから始めないよね。もちろん、セメントの特性を知っておく必要はあるけど、本分は設計をすることだから。
「ぐうの音も出ません」と頭を下げるヤスダさん
相談【3】仕事絡みの旅行やワーケーションって、どこまで経費になるの?
ヤスダさんに熱のこもったアドバイスをして、エンジンが全開になったチップスくん。「お金に関することをもっと教えてあげたい」モードに!
ノってきたチップスくんに、ヤスダさんから経費についての質問が!
経費について聞きたいです! たとえば、プライベートで旅行に行ったときの旅費は経費として計上できるのか……。
(食い気味に)はぁっ!? それは完全に 私用 でしょ、経費に計上できるわけないじゃん(怒)!
いやいや〜。もちろんただの旅行じゃなくて! たとえば、ある遊園地の案件で、コンペティター調査(競争調査)として競合の遊園地に女性と旅行にいくのはどうなんでしょう? 女性の視点を必要とする案件で、同行者にアドバイスをもらう。それを元に提案書の完成度を高めるっていう。
同行者が引き受けた業務に直接関係する場合、関係していることやその業務によって必要なことが裏づけられる情報や証拠があれば、経費計上を認められる可能性もなくはないかな。 ただし、プライベートなものでないかの線引きは重要だね。また、クライアントに提案するつもりだったけど、案件が発生しないこともあるよね。その場合、提案書を作成した事実、リサーチ結果をもとに作った企画書などの具現化された事実が全く手元にないと、状況によっては否認されるリスクもあるよ。
ワーケーションの場合も経費計上が難しいなって感じます。たとえば、集中して仕事のことを考えたいからと、1人合宿的な名目で行ったワーケーションは経費計上できるんでしょうか。コロナ禍で遠方には行けないから、1泊20万円の都内の高級ホテルに泊まるのはあり?
一般的にワーケーションとして考えられる金額を超える旅費、たとえば、高額な食事代が含まれていれば、その分は恐らく認められない。経費とは事業で使ったもので、社会一般の感覚からしても必要性があると考えられる範囲の支出のことだから、そこの認識をしっかりと持ってね。会社の業務を行うための旅費や交通費を会計では「旅費交通費」と言うんだけど、旅行の主目的が自分の生活や遊行など、事業と関係ない場合は認められないよ。 社員研修や従業員の慰安を目的とする旅行、遠方のお客様と打ち合わせのための旅行は認められる可能性も高いけどね。
どうしても経費でプライベートの旅行に行きたそうなヤスダさん
なるほど〜。とっても参考になりました! あと、保険の加入についても聞きたいです。会社員として社会保険(健康保険)に⼊っているのですが、副業で法人成りした場合、さらに保険に⼊る必要ってありますか? 重複になって大丈夫かなぁと……。
いえ、雇ってないです。ゆくゆく雇うかもしれないですが。福利厚生周りの制度を整える余裕が全くない(苦笑)。
従業員を所属させる場合、当該従業員については通常はフルタイムの4分の3以上の勤務実態がないと社会保険加入は不要になるんだよ。 現状で気をつけるべきはヤスダさん本人分の社会保険だね。実は、健康保険と厚生年金保険において、保険の対象となる被保険者の所属先が2カ所以上となる場合、通常の資格取得届に加えてほかにも届け出が必要なんだ。 事実発生から10日以内に被保険者がその届出を行い、主たる事業所を選択しなければならないんだよ。
被保険者が2カ所以上 で所属して働く場合
事実発生から10日以内に被保険者が届け出を行い、主たる事業所を選択する必要がある。
<主たる事務所の 選択が必要になる場合>
・保険者の一方が健康保険組合である場合
・保険者がいずれも健康保険組合である場合
・保険者の一方が全国健康保険協会、他方が健康保険組合である場合
・保険者がいずれも全国健康保険協会で、二以上の事業所を管轄する年金事務所が異なる場合(年金事務所を選択)
・保険者がいずれも全国健康保険協会で、二以上の事業所を管轄する年金事務所が同一の場合(事業所を選択)
※日本年金機構のホームページ より
こういった事務手続を回避するために、自分への役員報酬を支払わず、会社の利益としてプールするのも1つの手かもね。あるいは分配を受けたい場合、法人利益の一部を金銭で株主に分配する「配当」という方法をとることもできるよ。 配当は、役員報酬と違って経費でなく利益の分配だから、法人税の節税対策にはならないけど、配当という形で個人に還元する方法はあるってことだよ。
ちなみに2カ所以上の事務所勤務の場合、社会保険の計算は少し煩雑になるのと、副業の会社だけでなく、本業の人事などにも、年金事務所から全体の報酬実態が報告されることになる。その点、本業との兼ね合いが気になる人もいるかも。詳しく知りたい場合は、労働や社会保険のプロである社労士さん(社会保険労務士)に相談するといいと思うよ。
あと、2カ所以上の会社から給与(役員報酬を含む)を受け取る場合は、通常確定申告が必要になるから覚えておいてね!
相談【4】会社設立直後のいまは勢いがあるけど、今後失速しないか不安です……。
ヤスダさんの最後のお悩みは?
会社設立して1年目は、知人の会社からご祝儀発注(?)による「立ち上げバブル」があって調子がいい けど、その後失速する会社も多いって聞いたんですけど……。
え、それは誰からの情報(笑)? 通常はノウハウがないままスタートするから、利益が低い状態からスタートすることがしばしばなんだよ。ヤスダさんは個人事業主から法人成りしたから、利益は右肩上がりかもしれないけど。
もし、立ち上げバブルがあるとしたら、人脈が豊富でSNSをフルに活用している自己プロデュースが上手い人ならあり得るかもね。経営者の人柄次第だ思うよ。2年目に失速するかは何ともいえないけど。ヤスダさんは仕事の実績を表に出すことはできるのかな? 「A社のこんな案件やりました!」って実績や成果をどんどんアピールすると、それを見て「依頼したい」という会社から声がかかったり、次につながると思うよ。
やっぱりアピールは重要ですよね。どんどん出していきたいです!
いまは経営に関する不安は尽きないだろうから、「経営セーフティ共済」を知っておくといいよ。
思わず前のめりになるヤスダさん
正式名称は「中小企業倒産防止共済制度」と言って、経済産業省所轄の中小企業基盤整備機構が実施している制度 なんだけど。ヤスダさんの会社が業績好調だとしても、取引先が突然倒産することもあり得るよね。そんなときに、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための制度 なんだ。加入しておけば、いざという時に無担保・無保証人で掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れできるから、新米経営者や個人事業主には一度調べてみることをおすすめしてるんだ。
毎月預ける 掛金は月額5,000円から20万円まで、柔軟に選べる。 メリットとして、払い込んだ掛金は税法上、法人の場合は損金(法人税を計算するときに差し引ける費用 ) に、個人の場合は必要経費に算入できる。あと、取引先が倒産していなくても、契約した自身の会社が臨時に事業資金が必要な場合は、借入れできるんだ。 借入金は、掛金の納付月数などによって異なるんだけど、借入限度額の上限は解約手当金の95%の760万円。利息は変動し(利率0.9%:令和2年4月現在)、借入時に借入金額から一括で差し引かれるよ。ちなみにそれに加え、将来解約しても40か月以上掛金を納付していれば100%取り戻すこともできるから、とても重宝な制度なんだ。
中小企業倒産防止共済制度のメリット
無担保・無保証人で、掛金の10倍まで借入れできる 取引先が倒産しても、すぐに借入れできる 掛金が経費として節税できる 解約しても掛金が戻ってくる
有益な情報をありがとうございます、天の声さ〜ん!!
へへへ。でも本当にやる気になってきた。本業も副業もさらにバリバリ頑張るぞ〜!
チップスくんのアドバイスにより、パワーアップしたヤスダさん
意気揚揚とチップスくんのバーを後にするヤスダさん。チップスくんは今日も若手経営者に希望をもたらすことができて、満足げでした。
ヤスダツバサ
1986年生まれ。電気通信大学卒業。デザインコンサルティングファーム A.C.O.で、事業部長としてプロジェクトマネージャーやWEBアナリスト、自社オウンドメディアの編集長に従事。2018年にソフトバンク株式会社に転職し、広報本部にて企業PRを目的としたデジタルのPRプランニング、オウンドメディアの戦略策定やコンテンツマーケティング、プロジェクトマネジメント、データ分析などを行う。6年前から副業でWEBプロデューサーとしても活動し、2021年3月に「ブランド資産をPRで最大化させたい」という思いで、自身の会社 Number X, Inc.(ナンバーエックス株式会社)を設立。上級WEB解析士の資格も持つ。
Number XのWebサイト:
https://number-x.jp/
撮影/酒井恭伸 取材・文/おかねチップス編集部