複数のSNSアカウントやHPなどのリンクをスマホを使って1ページに集約できる、プロフィールサービス「lit.link」。リリースから1年2カ月で累計アカウント数80万を突破するなど、話題沸騰中です。今回は、そのlit.linkの開発・運営を行い、SNSにも精通しているTieUpsの代表・小原史啓さんにインタビュー。SNS疲れに悩む編集部員へのアドバイスからSNSの今と未来、そしてlit.link開発の経緯や野望まで、たっぷり語っていただきました!
CTO含む初期メンバーはTwitterの裏アカを通じて集まりました
今日はおかねチップス編集部から、SNSに疲れ果てて距離を置きはじめたアラフォー編集部員たちがやって参りました。SNSマーケティングやデータ分析がご専門の小原さんに、SNSに関する悩みや疑問にお答えいただきたく……。
プロフィールサービスの「lit.link(リットリンク)」を開発・運営するTieUpsの初期メンバーは、SNSを通じて集まったと聞きました。
でもそれって、みなさんコミュニケーション能力が高い陽キャだからできたんですよね?
うっそ! 会社のみなさんの写真もイケイケですし、小原さんはじめ、社員の方みなさん陽キャですよね?
いえいえ。だって、実はTieUpsの初期メンバーは裏アカつながりで集まったんですよ。みんなTwitterの本来のアカウントとは別に、アニメアイコンなどの裏アカウントを持っていて(笑)。
当時の4年ほど前からやっていた僕の裏アカには、2万人くらいのフォロワーがいまして。アカウント名は絶対明かさないですけどね(笑)。
本アカは気を遣いながら発言するから真面目なツイートが多くて、「いいね」などのリアクションがそこまでないんですが、趣味専用の裏アカは自由な発言が共感を呼び、フォロワーとのつながりが密だったんです。コミュニティって、人々が共感できる親近感がある方が生まれやすいですから。
なるほど。で、どうやってメンバーを募ったんですか?
アニメやテック関連の裏アカだったので「エンジニアを探しています」ってツイートしたら、あっという間に十数人の応募がきたんです。
本名も社名も出さずにそれだけで人が集まるくらい、裏アカの信頼関係が強かったということですか?
そうなんです。顔を出していないからこそ周りの目を気にせず発言ができ、「この人ってこういう人なんだ」とお互いにわかり合える。もはや裏アカがメインの生態というか(笑)。
結果、裏アカで繋がっていた十数人の応募の中からCTO(最高技術責任者)と初期メンバーを採用しました。
えっ、CTOまで! 裏アカの人たちとの面接から採用まで、どんな感じで行ったんですか?
お互いアイコンで顔を隠して、オンライン面談を行いました。最初から本名や顔を教え合うのは嫌かなと思ったので。とりあえずプロジェクトの内容をプレゼンして、お互いに「いいね」となったなら、会社の紹介をするといった流れです。
CTOの採用は、最終的に当時彼が住んでいた京都まで足を運びました。
メンバーのみなさんといざ会ってみて、ギャップはなかったですか?
なかったですね。やっぱり裏アカだと本音で付き合えるので、パーソナリティもわかっていましたから。
いえ、全くやっていないです。本アカと裏アカを間違えて失言したらと思うと怖くて(笑)。
どんな発言していたか気になります(笑)。
ちなみに、裏アカのフォロワーはどうやって増やしたんでしょうか?
発言や投稿が爆発的にシェアされても、フォロワーはそこまで増えないことも多いじゃないですか。フォロワーを増やすコツってあるんですか?
「アニメの情報ならこの人について行けばいい」というように、人がフォローしたくなるようなコンセプトがあることが大事だと思います。
そうすれば、バズったときに「またこの人の発信する情報が読みたい」とフォローしてくれる。僕の場合はテックやアニメですが、自分のポジショニングをハッキリさせておくと、それに賛同した人はフォローしてくれると思います。
小原さんには、アニメ好きという意外な一面があったのですね。
僕、中学はパソコン部、高校は帰宅部、その後美大に進学したのでずっとインドアなんですよ(笑)。
日焼けされてるから、勝手にサーフィンが趣味かと……。
ちょっと歩いただけで焼けちゃう地黒なんです。以前、陽キャに憧れてサーフィンをやったんですけど、難しくて挫折しました(笑)。
「SNS疲れ」は錯覚!? SNSは「日常の疲れを癒す場末のスナック」だった
ここからは私たちの悩み相談をさせてください。最近SNS疲れがひどくて……。世の中の人たちは、何が楽しくてSNSをやっているんでしょうか(真顔)?
だいぶお疲れなんですね(笑)。
一般的なWEBサイトのアクセスを解析してみると、実は50%以上がSNSからの流入なんです。 SNS疲れが叫ばれる中、なぜこんなに多くの人がSNSを経由してアクセスするのかを考えると、「みんな日常生活に疲れているから」だと僕は思うんです。
そうです。ネットで新聞や経済ニュースなど情報量が多いものを読んだ方が有意義ですけど、それらよりもSNSを使う人の方が多い。それって、日常に疲れて情報の取捨選択ができなくて、SNSに逃避しているってこと。何となくSNSを開いて誰かがまとめた記事を読んだり、気が合う人たちと触れ合う方がラクだし楽しいですから。
だから、SNSって癒やしなんじゃないかって思います。でも、疲れているときにSNSを開くから、「SNSで疲れた」と錯覚してしまうという。
「何となく」でSNSを開いている自覚はすごくあります。
SNSって、ネット上で行き着いた場末のスナックみたいなものだと僕は思っています(笑)。
場末のスナック、確かにTwitterとかはそうかもですね。ただ、インスタの場合、人の良い面しか見えない感じが疲れるんですよね。キラキラしている人に嫉妬しているだけかもしれませんが……。
それはフォローしている人の属性が不一致だからじゃないですか。裏アカで等身大の自分と気の合う人しかフォローしなければ、全然疲れないですよ。
「インスタではキラキラしている人をフォローしないといけない」と本当は興味もないのに、先入観でフォローしているんじゃないですか?
うっ……。でも友達はフォローしなきゃじゃないですか!? その人が輝いていると、自分と比べて落ち込むんですよね。
“SNS専門医”かのようにズバリと言いますね(笑)。
ふふ。裏アカで興味のある人とだけつながり、興味のあることしかつぶやかなければ疲れない。これは実体験から断言できます。
一方、本アカはどうしても気を使って発言してしまうから、真面目な話や当たり障りのない話が多くなり、「いいね」は多くもらえない。この辺を割り切ってSNSを使うとより楽しめますよ。
なるほど〜。本アカと裏アカを上手に使いわけることが、SNSを楽しむコツなんですね!
今のSNSトレンドは動画と受動。今後はローテクブームが来るかも!?
SNSの悩みで言うと、今どきの若者のSNS事情が全然わからなくて。今、若者の間では何が流行ってるんでしょうか?
直近のホットなキーワードは、「動画」と「受動」です。まず「動画」は、通信速度が上がったことで、10年前には作れなかったTikTokのような動画SNSが可能になり、それが主流になりました。
一方の「受動」は、「おもしろい人いないかな」と能動的に検索して情報を探すのではなく、アプリを開いた瞬間に自動的に自分に合うものがリコメンドされること。こうした受動型コンテンツはAIの進化により主流になりました。これら「高速通信×AI」によって流行ったのがTikTok。SNSにおける今の最高峰だと思います。
テクノロジー文脈で言うと、テキスト、写真、動画と発展し、次は3Dが来るでしょう。
ただ、動画から3Dへのジャンプは、技術や開発の難易度が高いため、そう簡単にはいかないと思っています。3Dと言えば、メタバース(インターネット上の仮想空間)の普及が考えられますが、一般的に普及するまでに時間がかかる。すると、SNSの最高峰がTikTokのまま停滞してしまうはず。
世界中で文化を作るのは若い女性と言われますので、世界中の女子高生や女子大学生がメタバースを使うまでにあと10年はかかってしまうかもしれません。
そ、そんなに! ではその10年間、若者たちは何を…?
その間、暇ですよね(笑)。
だから、この10年間で揺り戻しが起きると予想しています。TikTok以上のものが出ないとなったら、次はローテクに戻るでしょうね。
我々中年にとって、それはありがたい! でもローテクのSNSって、なんですかね???
「手書きのギャル文字でやりとりできるSNS」とか、最高のスペックにこだわらず、アナログを取り入れたSNSがちょこちょこ流行るのが今後10年かなと読んでいます。
僕たちが提供しているlit.linkもそうかもしれないですが、アナログっぽいのが逆にエモい、かわいいみたいな。
それはそれでちょっと楽しみになってきました(笑)。ちなみに今の若者の連絡手段って、LINEよりもTwitterやインスタのDMが主流なんですか?
そうですね。おそらく、LINEを全く使っていないわけでなく、「仲がいい人に連絡するときはLINEよりDM」ということだと思います。
親世代がLINEを使い始めちゃったからですね。アイコンやユーザー名を表向きにする必要が出てきたから、友人たちとはLINEでつながりたくないという人が増えた。DMが連絡手段の主流になっているのは、「親逃げ」の結果だと思います。
表向きの顔ではなく、本来の姿で友達とは接したいということなんですね。
それではズバリ、私たちは年を取っても永遠にSNSを使い続けるんでしょうか。
この先もSNSは使い続けると思います。それはSNSに興味があるんじゃなくて、人に興味があるからです。
たとえば、若い人たちと会話したくても機会がなかった年配の人たちが、LINEによってつながれるようになったり。これだけ便利なら、SNSは永久に終わらないと思います。
そうですね。大げさに言うと、1年間誰ともしゃべらなかったら死にますよね(笑)。
たしかに。でも、つながりっていろいろ気も使うし、やっぱり疲れるんですよね……。
僕と同じ30〜40代でSNSをそんなに触りたくないって難色を示す人って、なんだかんだで日常生活が充実しているんだと思いますよ。
えっ……、嬉しい(笑)。でもそんな自覚は全然ないです!
自覚がなくても、絶対充実しているんです。会社で認められていたり、行きつけの飲み屋があったりといった何かしらの充実が。それがない人はSNSにずっといますから(笑)。
僕はそこそこSNSにいますよ(笑)。いずれまた裏アカを作ろうとも思ってますし(笑)。
「lit.link」流行の理由は、「推し活」との親和性の高さ
そんなSNSを熟知された小原さんが作られたlit linkのURLは、いろいろな人のSNSのプロフィール欄でよく見かけますが、どうしてこのサービスを開発されたんですか?
Twitterやインスタ、TikTokなどのSNSは載せられるURLを1つに絞っていますよね。これは離脱してほかのサービスに移らないようにするためなんですが、これによりSNSアカウントをHPやまとめて紹介できる場所がなかったんです。
lit.linkの開発の前から「Link In Bio(リンクインバイオ)」と言って、複数のリンクをまとめるサービスは世界的に流行っていました。さまざまなサービスがある中で、僕はスケッチブックみたいに自由度の高いものが作りたくてlit.linkを開発しました。
lit.linkは累計80万アカウントを突破し(2022年3月時点)、今もなお伸びつづけてますが、爆発的に流行ったきっかけは何だったのでしょう?
音声SNSの「Clubhouse」が2021年初頭に日本で流行ったとき、当時はユーザーページが存在しなかったのでアカウントのシェアができなかったんです。僕らはそこに着目して、開発2日で「Clubhouseユーザーフォロー機能」をlit.linkで提供開始したんです。それをきっかけにユーザーが増加ましたね。
あとは、今の推し活※文化にlit.linkがハマったことも大きいと思います。lit.linkは自己紹介だけでなく、「自分の推しを載せる」という使い方もできるんです。Spotifyのリンクを貼って再生リストを作成したり、MVのYouTubeを貼って再生させ、「新曲出たよ!」と布教活動ができたり。
※自分のイチオシの人=「推し」に情熱を注ぐ活動のこと。ライブに行ったり、グッズを買ったりと、推しにまつわるあらゆる活動を指す
そうなんですよ。リリース後に気づいたんですけど、今、10代のオタク比率ってすごい多くて。たとえば、僕は『新世紀エヴァンゲリオン』の初回アニメ放送(1995年)のときに小5でしたが、クラスで見てた人は1〜2割程度。でも今、もしエヴァ的なアニメが誕生したら、9割は見るんじゃないかと思うくらい、10代のオタク化が進んでいると感じます。
だから、今後ますます10代にとってアニメやミュージシャンなどを推す・推さないが文化の中心になる。僕の時代で言うと、ギャルのルーズソックスのこだわりと同じくらい、今、推し活はアツい。そういった10代のメインストリームで使うツールとして、lit.linkが受け入れられ、予想以上に伸びたのかなと思っています。
裏アカにもオタクにも精通している小原さんならではのlit.linkが、ちょうど時代にマッチしたのですね!
キュレーションするSNSづくりを目指す
あと、TieUpsさんで新たに開発されたコミュニティSNS「
WeClip」も人気のようですね。これはどういう意図で作ったんですか?
lit.linkを運営していて、コミュニティの必要性を感じたからです。lit.link内に同じ趣味の人がたくさんいるのに相互につながっていないから交流ができず、もったいないな、と。
だからWeClipでは、自由にコミュニティを作って、ユーザーではなくコミュニティ単位でフォローができる仕様にしました。いわば、WEB上のサードプレイスですね。今では1,000以上ものコミュニティがあるんですよ。
そんなに多くのコミュニティがあるなら、自分が好きなものが見つかりそうですね。
それでは、lit.linkの今後の展開について教えてください。ゆくゆくは中国の「WeChat」やLINEのように、SNSや決済、ゲームといった総合的な機能を持つスーパーアプリ化も視野に入れていたりするのでしょうか?
lit.linkはただのいちサービスではなく、「SNS業界のGoogleになる」という意気込みで開発・運営をしています。
ネットのトラフィックでは検索とSNSからの流入が半々で、今それほどSNSが占める割合が大きい。ネット検索では、ページのデータベースを作っているGoogleが最も強いので、SNSだとインフルエンサーアカウントのデータベースを持っている、僕らTieUpsのような会社が一番強いと自負しています。
今後は、lit.linkで獲得したアカウントに対して、SNS界のトラフィックをうまくコントロールできるようなプロダクトを世に出したいですね。
「個々のアカウントを見るより、自分に最適なコンテンツを紹介してほしい」という人が多いことから、キュレーションに注目しています。
インスタやTikTokなどのレコメンド機能みたいな感じですか?
その上の機能を目指しています。今、TikTokならそのアプリ内の動画のみレコメンドされますが、アプリを超えて、動画や画像、テキストなどのコンテンツを紐づけられたらと思っています。でも、今僕が描いている構想の中で実現化が一番難しいですね(苦笑)。
先に手掛けられるサービスから着手して、うまくジャンプできたらさらに上を目指していきたいですね。
「キュレーションするSNSになる!」と。最後に、おかねチップス的に気になるのはマネタイズについてです。有料化やサブスク化の予定はありますか?
lit.linkに広告を載せたら儲かりそうですが、なぜやらないんでしょうか?
lit.linkは僕らではなくユーザーの所有物であり、その人の部屋だからです。自分の部屋に、好きでもない商品の広告を貼りたくないですよね。ユーザーが部屋でされて不快なことはしないんです。
すばらしいですね! では、どうやって収益化をしているんですか?
現状、lit.linkのユーザーの一定数がWeClipを使っています。WeClipのコミュニティの運営を効率化するためのデータ分析に優れたダッシュボード※をまもなくリリース予定なので、それを広く使っていただくことでの収益化を目指しています。
※サイトやアプリのデータを追跡し、可視化や分析を行うツール
なるほど、今後の展開も楽しみにしています! 今日はあらゆる質問や相談に真摯に答えていただき、ありがとうございました。
小原 史啓(おはら ふみひろ)
1984年生まれ、東京都杉並区出身。横浜美術短期大学(現:横浜美術大学)卒業。2004年に株式会社ノジマ(現:東証一部上場)入社し、21歳で最年少マネージャーに就任、アプリ開発やPOSデータ販促を行う。2009年、同社子会社である通信専門店統括グループ長に就任し、50店舗の経営に携わる。2013年に株式会社マクロミルに入社し、データ分析からマーケティング戦略の一括提案を行う。2015年、株式会社SnSnap(現:GENEROSITY) に1号社員として入社した後、事業開発責任者に就任し3カ月に1本のペースで新サービスをリリース。2020年にTieUps株式会社を創業。「共感が生まれるコミュニティSNSを創ること」をビジョンに、プロフィールサービス「lit.link(リットリンク)」、コミュニティSNS「WeClip」を展開する。
lit.link:
https://lit.link/oharaWeClip:
https://weclip.link/小原さんTwitter:
@Fumihiro_Ohara
撮影/武石早代
取材・文/おかねチップス編集部、川端美穂