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りょかちのお金のハナシ#09「私が浪費させられるのは、東京という街が原因だった」

りょかちのお金のハナシ#09「私が浪費させられるのは、東京という街が原因だった」

エッセイスト・ライターとして活躍するりょかちさんが、“お金にまつわるエピソード”をお届けするこの連載。今回は、この夏カナダ・バンクーバーに2カ月滞在したからこそ気づいた消費行動のハナシ。

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テレビをぼんやり眺めながら、冷蔵庫に入れておいたキヌアの上に、コストコで買ったリーフとトマトとチーズを載せて、ドレッシングをかけて食べる。カナダ・バンクーバーは今年の春、数十年に一度の雨の多さで、その日も雨に嫌気がさして外出を取りやめていた。

お昼の番組のホストはドリュー・バリモアだ。『The Drew Barrymore Show』という番組で、日本でお昼にやっているバラエティみたいに、クイズや料理をしたり、ゲストを呼んでトークしたりする。かつてのチャーリーズ・エンジェルが、のほほんと家庭料理をつくるコーナーで笑顔を見せているのは、なんとなく違和感があって面白い。客席から選ばれた一般人がクイズに回答して賞金を手に入れて、狂喜乱舞している映像が流れていた。

「それにしても、お金、めっきり使ってないなあ」

カナダに来てから1カ月半。週に2、3日は外をブラブラと観光しているので、交通機関の乗車賃なんかは結構使っているけれど、めっきりお金の使い方が変わってしまった。

東京にいる頃、お金を使っていたものといえば、「外食」「本」「洋服」だ。

バンクーバーにもおいしいごはんはある。それも移民の国なので、さまざまな国の料理があってどれも本格的でおいしい。カナダに来る前に関連書籍を10冊ほど読んで、「名店」とされる店にも訪れた。

しかし、北米エリアに “安くて気軽に食べられるうまいもん” はあまりない。牛丼を4ドルほどで食べられる日本の偉大さを知ったのは、カナダで暮らし始めて1週間ほど経った頃だった。

なので、「よし! 今日はおいしいもん食べるぞ!」と思って外食に行くことはあっても、「面倒だから外食にしとくか」と外食に行く機会は失われ、その分食費も断然減った。そういうわけでその日も、冷蔵庫にある野菜を組み合わせてサラダを食べていたわけである。

バンクーバーで食べたチーズたっぷりのサンドイッチ。おいしいけど、3,000円は超えないでほしかった

洋服への興味も、8割ほど削ぎ落とされてしまった。そもそも友達がそんなにいないから、かわいい服を買ったところで着ていく場所がないし、日本にいた頃のように細かいオシャレをしている人は周りにいなかった。別に変な服を着ていても誰も何も言わない、というのもあったかもしれない。2カ月カナダに滞在したうち、メイクをきちんとしてたのは10日もないんじゃないか。

書籍は変わらず読んでいたが、毎日Tシャツにジーンズを着て、晴れた日にはお散歩をして、公園でアイス片手に本を読んで、帰宅して、家で自炊をしていたら毎日が終わる。

「欲しいもの」がない。欲しいものを手に入れて嬉しくなる想像ができない。そんな感覚になったのは、はじめてだった。

私をグルメにさせたのは東京。洋服を買わせるのも東京

環境が変われば消費スタイルも変わる。それが正しいならば、これまで私は東京に浪費させられていたのではないか?

日本の外に来てみると、いかに日本がグルメ大国かがわかる。1,000円程度で十分楽しめるグルメがありすぎる。コンビニでも、ものすごいスピードで商品が入れ替わり、次から次へとおいしいものに出会えてしまう。

ファッションだって「ダサくない人」のハードルは日本のほうが高いような気がする。みんな小綺麗な格好をしていてオシャレだ。毎日キチンとメイクしている人も多い。

これはあくまで私の感想だが、グルメもファッションも「良いもの」は日本にもバンクーバーにもある。だけど、日本には「めっちゃ悪いもの」が少ない。最低基準が高いのである。

そう考えると、私はグルメが好きで、洋服を買うのも好きだけど、もしかしてそれは “東京” という街に影響を受けているのかもしれない、と思い始めた。自分が楽しく思えることって、自分の感性で選んでいると思っていたけれど、実は自分で選べていないのかもしれない。環境に選ばされていたのかもしれない。

友人が「バンクーバーは自然やアウトドアが好きな人は良いけれど、ミニシアターやグルメといったカルチャーが好きな人にとっては面白くない街だ」と言っていた。しかし、私は日本に生まれたときから住んでいるから、「自分には向いてない街だ」なんて思ったことなかった。

そして、普通に生きているように見えて、日本での暮らしに最適化していたのではないか。楽しい暮らしを模索しているうちに、おいしいグルメとかわいいファッションに加えて、メイクやアニメ、漫画というコンテンツをいそしむ日常に流れ着く。そう考えると、知らない間に生きている環境が自分の趣味に影響している気がして、少し怖くなった。

実際バンクーバーに来てから、自炊ばっかりするようになったし、ほぼ外になんて出ない生活をしていたのに、散歩が大好きになっていた。

「住んでいる場所」という変数をいじれば、お金との暮らしはもっと楽しくなるかも

植物園に赴くなんて10年以上ぶり。服の組み合わせへのこだわりは皆無に

この夏、私はバンクーバーに2カ月滞在したが、とあるYouTuberが「日本にたまたま生まれただけで、本当に自分に合っている国はどこにあるかわからないから、見つけたい」という話に共感したことが、滞在を決める大きなきっかけになった。

自分が本当に楽しいと思えるお金の使い方ができる国は、実は日本じゃないのかもしれない。逆にいえば、世界のどこかに、お金を使わずとも幸せに暮らせる国があるのかもしれない。

私たちは意外と環境に左右されている。話す言語はもちろんだが、日常の中で楽しいと思うこと、お金をかけて楽しむこと、心地いいと思う暮らし——それらは、舞台装置である住んでいる場所ありきで決まるのではないだろうか。

そしてそれは、これまで、消費の楽しさが環境に左右されることを知らなかった人にとっては、もっとお金を使って楽しい人生を送るために、操作できる変数が増えたと言っても良いかもしれない。

あなたがお金にまつわる悩みを何かしら抱えているならば、それはもしかしたら住んでいる場所のせいかもしれない。場所を変えれば解決することもあるかもしれない。

自分が働いてお金を稼ぎ、そしてそれを使って日々を楽しいものにするかを考える時、「どうすれば楽しくお金と付き合っていけるか」だけではなく、「どこでなら一番お金を楽しく使えるか」を考えてみると、思いもよらなかった “楽しい暮らし” が見つかることもあるのではないだろうか。

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒業。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題に。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、企業のコピーライティング制作なども行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで記事の連載も。

Twitter:https://twitter.com/ryokachii
note:https://note.com/ryokachii/

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