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貧しさに直面する今、“豊かになり直す”必要がある|りょかちのお金のハナシ#15

貧しさに直面する今、“豊かになり直す”必要がある|りょかちのお金のハナシ#15

エッセイスト・ライターとして活躍するりょかちさんが、“お金にまつわるエピソード”をお届けする本連載。今回は、物価が上がり貧しさを感じるなかで気づいた、“豊かになり直す”必要性のハナシ。

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「同情するなら金をくれ!」

日本のドラマに出てくるお金に関する名言を列挙したら、必ずこのセリフが出てくるだろう。これは『家なき子』というドラマで、子役時代の安達祐実さんが言ったセリフである。1994年のドラマだから、もはや1992年生まれ・30歳の私ですらリアルタイムで見た覚えはないけれど、何度も「ドラマ名場面!」みたいな番組で見た。

先日も、とあるバラエティ番組がこのシーンを切り取って紹介していた。大きい瞳の幼い少女が「同情するなら金をくれ!」と泣きながら繰り返す。なんてショッキングな絵だろう!フィクションだとわかっていても胸がきゅっとなる。

だけど、この「同情するなら金をくれ!」というセリフだけが、私の心の上をするすると滑っていった。

「お金のない子どもを見て、オトナがそんな簡単に同情なんかするかねえ」

そう思ってしまったのである。

お金のない人を見て、同情できますか?

それは、自分がバブル崩壊とともに生まれ、景気が下がり続ける情勢の中で成長し、上の世代よりもミニマルな暮らしをしていたら、やれ「若者のクルマ離れ」だ「若者の結婚離れ」だと言われてきたからかもしれない。

もちろん、若者がそういったアクティビティに興味を持たなくなったことには複雑な背景があるのだろうけど、まず考えられるのは「若者の貧困化」だ。だけど、若者が貧しくなってクルマが買えなくなったり結婚することが億劫になったりした時、別に誰も同情なんてしてくれなかった。むしろ「今どきの若者、なんか元気ないよね〜」「人生つまんなさそうw」みたいに攻撃された記憶しかない。

というか、経済的に弱っている人に同情する人を見かけるほうが稀だ。むしろ、路上生活者をからかってTikTokに載せてみたり、若くてお金のない人を高額バイト詐欺で事件に巻き込んでみたり、そういったニュースばかりを思い出す。

ここを歩いて数分後にストライキを見た!

そこまで極端な例でなくても、目の前に困った人がいても、なかなか声をかける人はいないのではなかろうか。カナダにいる時、そこらじゅうでデモやストライキが起きていて、「こんなに政治に参加しようとする人がいるんだ」「こんなに誰かのために行動できる人がいるんだ」と感じることがあった。一方、誰もがひどい人ばかりじゃないし、決めつけも良くないと思うけれど、日本人は「迷惑をかけたくない相手は多いのに、誰かの迷惑を受け止める視野はものすごく狭い」ことを感じた。

他人に迷惑をかけることに対しては「お天道様が見てる」「世間が放っておかない」などと言って、限りなく視野を広くして周りを気にするのに、自分がサポートする側になると途端に「自己責任」という言葉が頭を覆って、目の前の人のことも考えられなくなってしまっているように見える。

自分にも他人にも厳しい。それは、あらゆるふるまいの基準が高い日本人の素晴らしい点であるとも思うけれど、一方で「もうちょっと他人に優しくできたらなぁ」なんて、自分を鑑みても思う。

まずは自分が、物理的にも精神的にも貧しいと認めてみる

「日本はもはや先進国ではない」
「日本はもはや裕福な国なんかじゃない」

最近はそんなふうに言う人もいる。実際に数年前までは「物価が安いから〜」と日本人が旅に選んでいた国の人たちが、今、日本にやってきて「日本は何でも安くて最高!」と言っている姿をテレビの報道でよく見かけるようになった。

身の回りにある生活必需品もインフラ利用料も高くて、スーパーで会計をする度、あるいは毎月電気代の請求書が来る度、新鮮な気持ちでいつも驚いてしまう。私たちはもう、本当に貧しくなってしまったのだろう。

しかし、そういった物理的な貧しさだけではなく、困った人たちが周りにいても「自己責任」に押し込めてしまうような、精神的な貧しさにも目を向けることも必要なのではないだろうか。

「同情するなら金をくれ!」

そんなセリフを聞いた時、お金を渡せるほどの金銭的余裕がないことも哀しいけれど、それと同じくらい、そもそも貧しい暮らしをする子どもを目の前に、同情できるかすら怪しい自分がいることが哀しい。

今年は、原点を見つめようと家族に定期的に会いに地元に帰る日々を送っています

物理的な貧乏も精神的な貧乏も、認めてしまえばあとは「なんとかしなきゃ」と前を向ける気がする。もう一度裕福になることを目指すということは、もう一度「豊かである」状態について考え、ゴールとして設定することだ。

もう一度、豊かになり直す。せっかくなら、以前より自分をアップデートして、自分の心のありようを見て悲しくならないようにふるまい、物理的にだけではなく、精神的にも「豊か」になることを目指したい。

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒業。学生時代より、ライターとして各種WEBメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題に。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、企業のコピーライティング制作なども行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで記事の連載も。

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