若手起業家を育成する澤田経営道場で、起業に向けて日々勉強に励む山下楓美香さん。前回は、LIRIS株式会社代表の鈴木秀幸さんから起業家が最低限知っておくべき法務知識を教わりました。
今回は株式会社マイクリエイト代表の福島美穂さんから、補助金や助成金の活用方法を学びます。申請ハードルの高さから実はあまり活用されていないという補助金・助成金。山下さんは、補助金獲得のサポート事業をしている福島さんに相談しにきたようです。
返さなくていいお金、補助金・助成金を活用しよう!
資金調達について調べていて、「補助金や助成金を活用するとよい」と見かけました。補助金と助成金って、借金とは違って返さなくていいお金なんですか?
そうですよ。条件や審査はありますが、返済義務のない「もらえるお金」です。
もし万が一事業がうまくいかなくても、「お金が返せない、どうしよう~!」ってなる心配がないんですね。ものすごくいいじゃないですか!
でも実は、補助金を活用できているのは事業者全体の2、3割だといわれているんですよ。
そもそも存在を知らないというのもありますし、要件が複雑でよくわからないとか、申請のハードルが高いとか、いろいろな要因があるんじゃないでしょうか。
そうそう! 私もよくわからなかったので、補助金獲得のサポートをしている福島先生に聞きに来たんです。
じゃあ、制度の概要や申請方法を簡単に説明しましょうか。最初のハードルさえ乗り越えてしまえばメリットがたくさんある制度なので、ぜひうまく使いこなして事業を進めてほしいです。
補助金・助成金ってそもそも何なの?
そもそも補助金や助成金って何のためのどういう制度なんですか?
新規創業や新しい取り組みには、どうしてもお金が必要ですよね。その後ろ盾となり、下支えするために国や自治体、民間財団などがお金を出しているんです。
自己資金や融資だけでは限界があり、チャレンジしきれないこともありますからね。
お金を出してもらう側からするとありがたい話ですが、出す側からすれば返ってこないお金なんですよね? それでも新規創業や新しい取り組みを支援するのって、どんな理由があるんでしょうか。
社会的に意義のある取り組みを支援することで社会貢献につながるのがまずひとつ。
加えて、補助金や助成金を受け取った人がそれを元手に事業や取り組みを成功させて企業を大きく成長させれば、税金や雇用保険をたくさん納める側に回りますよね。それで社会が潤えばそれもまた社会貢献、という考え方です。
なるほど、まわりまわって社会のみんなのためになるということですね。
だから山下さんもぜひ、補助金や助成金を活用して社会のためになる事業を生み出してくださいね。
目的や原資、管轄団体……補助金と助成金はここが違う
初歩的な質問ですが、補助金と助成金は何が違うんですか?
両方とも申請に応じて後払いで支給されるお金、というところは同じです。違いは管轄団体や目的、原資などですね。
補助金は主に経済産業省や中小企業庁が管轄していて、経済活性化などの「事業」に関することが目的です。地方自治体や民間財団がやっていることもあります。公的補助金の場合、原資は税金です。
ふむふむ、補助金は事業支援のために税金から出ている、と……。
一方、助成金は主に厚生労働省が管轄していて、雇用促進や職場改善など、「人」に関することが目的です。原資は雇用保険です。
私は中小企業診断士なので補助金申請のサポートを専門にしていますが、助成金は社労士の管轄になります。
助成金は雇用保険が原資だから、「人の雇用」に焦点が当たっているんですね。
助成金は要件を満たして必要書類をきちんと提出すれば必ずもらえますが、補助金はコンテスト形式の審査を経て採択されなくてはならないという違いもあります。
ということは、自分と同じ補助金にすごく優秀な企業が申請していたら、採択されにくくなっちゃいますね!?
そうですね。複数回にわたって募集される補助金の場合、知名度が上がって申請数が増えるにつれて競争率は上がります。しっかり情報収集して早めに申請した方が採択されやすくなりますよ。
ちなみに補助金や助成金って、たとえばどういうものがあるんですか?
補助金ならば、小規模事業者の生産性向上を支援する「小規模事業者持続化補助金」、中小企業・小規模事業者のITツール導入に使える「IT導入補助金」などがあります。
助成金には、非正規雇用者の正社員化や処遇改善の取り組みをするともらえる「キャリアアップ助成金」などがあります。
ただ、これらはあくまで現時点での一例ですから、今どんな補助金・助成金があるか、自分に使えるものはあるかは、ご自身が使うときに調べてみてくださいね。
募集終了したり新しいものができたり、どんどん状況は変わりますもんね。そういう情報って、WEBサイトに載っているんですか?
情報収集には「J-Net21」というサイトがおすすめです。中小企業を支援するサイトで、補助金・助成金の情報や活用した取り組みの事例が掲載されています。補助金に限れば、
経産省の「ミラサポplus」というサイトもありますよ。
あとは、私のメルマガでも補助金・助成金の情報を配信しているので、もしよかったら(笑)。
もらうには何をすればいい? 申請~支給されるまでの流れ
では補助金や助成金って、どうすればもらえるんですか?
どちらもまず要件を確認して、申請書類を提出するところから始まります。ここのハードルが高くてつまずいてしまう方も結構います。
さっきも要件や申請方法がよく分からなくて活用できていない企業が多いって話、ありましたもんね。
そうなんですよね。でもだからと言ってもらえるものをもらわないのはもったいないので、私も補助金の申請書作成支援をしているんですよ。
助成金の場合は、要件を満たしていてちゃんと書類が作れていれば、審査に通って支給が決まります。
補助金の場合はコンテスト形式の審査があって、そこで選ばれると「採択」されます。
ん? 「採択」っていうのは、支給が決まるのとは違うんですか?
そうですね。採択された後に「交付申請」をして、それが認められることで支給が決まります。
採択は受験でいうところの合格発表、交付申請は入学手続きとイメージしてもらうと、わかりやすいんじゃないでしょうか。合格しても手続きをしないと入学できませんよね。
なるほど! 交付申請はどういうことをするんですか?
最初の申請では補助金を使ってやりたいことを説明し、交付申請では具体的な見積もりや発注先、かかる期間などを説明するイメージです。補助金によっては申請と交付申請が一緒になっていて、別々に申請する必要がない場合もあります。
事業に関することだから、いろいろ説明しなくてはならないことが多いんですね。
さらにですね、申請・交付申請が通って一定期間事業を行った後、申請された通りに事業を行ったか確認するための「実績報告」もしなくてはいけないんです。
いわば卒業試験みたいなものですね。ここで不備があると、補助金が支給されない可能性もあります。
えーっ!!! 後から補助金が支給されるつもりで事業を進めていても、もらえないかもしれないんですか!?
心配しないでください。申請時に提出した計画どおりに実施して、きちんと手引どおりに報告書を作っていれば、基本的にはちゃんともらえます。私がサポートしているクライアントさんはみなさんもらえていますしね。
ただ、特段の理由なしに計画と違うことをしていたり、払った金額と領収書の金額が違っていたりで、認められないケースもよそでは聞きます。そういうことをしていなければ問題ありませんよ。
よかった、安心しました。やっぱり専門家のサポートって大事なんですね。
申請書類や実績報告には押さえるべきポイントがあるので、場数を踏んでいるプロのサポートを受けるのはすごくいいことだと思いますよ。
ただ、申請だけなのか報告までサポートしてくれるのか、どこまでやってくれるのかは事前に確認しておいたほうがいいですね。
活用すれば便利だけど、注意点もある
ここまでお話を聞いていると、補助金や助成金が便利すぎて「これさえあれば自己資金や融資がなくても大丈夫なんじゃ?」って思えてきてしまいますが……。
残念ながらそうでもないんですよ。補助金や助成金は基本的に後払いなので、事業や取り組みにかかる費用は一旦自分で用意する必要があります。それに、使った金額の全てが戻ってくるわけでもありません。
申請してから実際にお金がもらえるまでには数カ月〜1年以上かかりますからね。「今すぐお金が必要!」という場合には、補助金や助成金ではどうにもならないんですよ。
そっかぁ……、やっぱりそう甘いもんでもないですね。
さらに、誰でも使えるわけではなく、いろいろと条件があるんですよ。
助成金は雇用保険が原資なので、基本的には雇用保険料を納めている事業者でなければ使えませんし、税金が原資の補助金は、税制上優遇されている社団法人などは使えないこともあります。
ほかにも、従業員の人数や業種など、助成金・補助金ごとに対象となる条件が設定されているので、申請前にきちんと確認しておく必要があります。
それぞれの補助金や助成金の目的や成り立ちに合った事業者じゃないと対象にならないってことですね。
補助金・助成金の活用による3つのメリット
補助金や助成金を活用すると、下記のような3つのメリットがあります。
補助金・助成金の3つのメリット
- お金がもらえる
- 事業を客観的に見直して、ブラッシュアップできる
- 国や公的機関のお墨付きがもらえる
「お金がもらえる」はわかりますが、「事業を客観的に見直して、ブラッシュアップできる」と「国や公的機関のお墨付きがもらえる」はどういうことですか……?
まず、補助金・助成金の審査員は、あなたの事業に興味も関心もない人だと思ってください。申請する側が審査員を選ぶことはできませんからね。そういう人にも事業の概要や妥当性を伝えて「この事業は補助金を出すに値する」と思ってもらえるような申請書類を作らなくてはいけません。
そのためには、事業を客観視して、競合比較や市場調査をしっかりやっていくことになります。この過程で事業計画をブラッシュアップできるので、以降のプレゼン・ピッチでの説明もしやすくなるんですよ。
大変そうな申請書類作成を乗り越えると、そんな副産物が!
審査をするのは国や自治体ですから、審査に通って公的なお墨付きがもらえれば、外部に対して「公的機関から認められた事業なんです」と説明しやすくなります。融資を受けようとする際にもプラス要因になりますよ。
そうなんです。うまく活用すれば非常に事業を進めやすくなるので、ハードルの高さにめげずに挑戦してみてほしいですね。必要ならサポートしますから。
補助金・助成金の基本を学んだ山下さん。起業初期には非常にうれしい資金調達の手段がひとつ増えました。次回からは澤田経営道場を卒業した起業家の先輩たちに、創業期の体験を振り返ったアドバイスをお聞きします。初回は株式会社decboc代表取締役の小栗紬さんです。
福島 美穂(ふくしま みほ)
株式会社マイクリエイト代表取締役。スモールビジネス構築支援の専門家/中小企業診断士。放送局、経営コンサルティング会社を経て独立。女性起業支援、企業向け女性集客支援を展開。従業員5名以下の小規模事業者や中小企業経営者向けに、補助金や融資の申請支援・実行支援を行い500件以上の採択実績を誇る。事業の「自動化・外注化・高収益化」で無理なく安定的に売上をあげる仕組みを提案。介護や育児を経験し、「限られた人数と時間でいかに成果を上げるか」に注力して取り組んでいる。
https://www.facebook.com/miho.fukushima.name/
山下 楓美香(やました ふみか)
株式会社JALスカイ退職後、インド旅行中にバイク事故でリハビリに8か月かかる大怪我を負う。生死に関わる経験を経て、助かった命を多くの人の力になるために使おうと起業を決意。2021年、7期生として澤田経営道場に入門。
取材・文/内島美佳