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「新たな職」が未来を創る。KDDIの舘林俊平が注目する、クリエイターエコノミー スタートアップ5社

「新たな職」が未来を創る。KDDIの舘林俊平が注目する、クリエイターエコノミー スタートアップ5社

各業界に特化したキャピタリストから、日本と世界を代表する100社のユニコーン企業になり得る注目のスタートアップを先取りでピックアップする本企画。今回ご登場いただくのは、KDDI株式会社 事業創造本部 BI推進部 部長の舘林俊平さん。CVCのKDDI Open Innovation Fundで大企業とスタートアップの共同事業を手がけ、現在もスタートアップとの協業及びM&Aによって、新規事業を矢継ぎ早に立ち上げ持続的な成長を実現させています。

そんな舘林さんが今、注目しているのが、「クリエイターエコノミー」領域のスタートアップ。この先、ますますこの領域が伸びていくという舘林さんに、その理由はもちろん、クリエイターエコノミー領域で注目のスタートアップ5社を選出していただきました。

※コーポレート・ベンチャー・キャピタルの略。事業会社が自己資金でファンドを組成し、主に未上場企業に出資や支援を行う。

大企業だからこそ、スタートアップファースト

今回は、モバイルゲーム領域のベンチャー企業への出資や、ゲームパブリッシングでの共同事業も手がけてきたKDDI株式会社の舘林俊平さんが登場!
おかねチップス編集部
「クリエイターエコノミー」領域のスタートアップについて伺う前に、大企業であるKDDIがスタートアップとの協業やM&Aを手がける理由を教えてください。
舘林
さん
私たちがスタートアップのエコシステムに貢献し始めたのは2011年頃ですが、考えればKDDIこそがピボットし、M&Aしながら成長してきた会社なんですよ。
おかねチップス編集部
えっ、どういうことですか?
舘林
さん
これまでKDDIは約60社の合併とM&Aによって、電話会社からインターネット会社、モバイル会社と、事業のトランスフォーメーションを繰り返して、成長を遂げてきたんです。
時代とともに、KDDIは事業の形を変えてきた
おかねチップス編集部
確かにそうですね。
舘林
さん
そういう歴史がある会社だから、スタートアップにパートナーとして入っていただいて新規事業に着手していかないと、会社として成長できないという危機感がある。それにモバイル会社としても一番手でないというのも大きいですね。二番手三番手の会社として生き残るために、スタートアップとの協業が必要なんです。
おかねチップス編集部
新規事業を行うなら、スタートアップと協業する方がいいんですね。
舘林
さん
社内だけで新規事業を生み出し続けるのは難しいでしょうね。なぜなら、会社員は24時間、事業に情熱を注げるわけじゃありませんから。

その点、スタートアップはその分野にフルベットしているから知識も技術力も長けているし、スピード感も比べものになりません。私たちのような企業が新規事業を推し進めるには、スタートアップの力がなくてはならないんです。そういうリスペクトが社内に根付いているので、協業が成功してM&Aしたとしても、スタートアップの文化はきちんと継承しています。
おかねチップス編集部
なるほど。スタートアップはリソースが限られていますよね。大企業としてどんな支援をされているんですか?
舘林
さん
事業共創プラットフォーム「KDDI ∞ Labo(ムゲンラボ)」の支援プログラムで、人材や資金、場所などのアセットを提供しています。現在、KDDI∞Laboでは大企業とスタートアップをマッチングさせる機能も備わっていて、毎月5〜10社のスタートアップが大企業の前でピッチをしています。2021年度には300件以上の支援・協業が実現しました。
KDDI ∞ Laboに参画する大企業のアセットとの連携によって、スタートアップとともに新たな事業を創出している
おかねチップス編集部
資金面での支援というと、KDDIではファンド活動も行っていますよね。
舘林
さん
はい。2012年にKDDI Open Innovation Fundを立ち上げ、現在では合わせて3つのファンドを運用。国内外合わせて約120社への投資を行っています。

M&Aしたスタートアップと融合して新たな事業ドメインを担ったり、私たちの経営資源を使って成長してからIPOを目指したりしているので、スタートアップにとっては出口の選択肢が増えていると思います。
KDDIでは3つのファンドを組成している
おかねチップス編集部
どうしてそこまでスタートアップファーストの思想を貫けるのでしょうか?
舘林
さん
GAFA(ガーファ)に立ち向かうには、スタートアップのJカーブをもう一段階大きくする必要があると思うんです。その一助になるのなら、私たちの経営資源を使ってもらいたい。それくらい、これからのスタートアップには期待しているんです。
KDDIのエントランスには、これまで協業してきたスタートアップのロゴサインがズラリと並んでいる

KDDIの舘林俊平さんが選出。クリエイターエコノミー領域で注目のスタートアップ5社

おかねチップス編集部
今回、そんな舘林さんに注目の領域として挙げていただいたのが、「クリエイターエコノミー」でした。なぜ、今この領域に注目しているんですか?
舘林
さん
例えば、近年、動画の企画や撮影、編集、配信をするYouTuberという職業が当たり前になりましたよね。だからこの先も、これまで仕事じゃなかったものがよりマネタイズできる世の中になっていくと思うんです。それこそ、遊びがお金になったり、ファンビジネスが台頭したり。インターネットを発端に新しい職種がどんどん出てくるので、クリエイターエコノミー市場はさらに伸びていくはずです。

クリエイターエコノミーがさらに発展し、今まで仕事にならなかったようなものがお金を生み出していくという舘林さん。ここからは、クリエイターエコノミー領域のスタートアップ5社をそのポイントとともにお聞きします。

ゲーム×ライブ配信「ライブゲーミング」|株式会社ミラティブ

スマホゲーム配信者数日本一のゲーム配信プラットフォーム「Mirrativ(ミラティブ)」を運営する株式会社ミラティブ。2022年に本格始動したのが、ゲームとライブ配信が融合したライブゲーミング事業。視聴者は従来のライブ配信のようにコメントやギフトアイテムを贈れるのはもちろん、実際に配信者と一緒にゲームをする「参加型ライブゲーム」や、ギフトアイテムを通じてゲームに対して影響を与える「介入型ライブゲーム」など、これまでのゲームやライブ配信とは全く違った体験を「Mirrativ」内で楽しめる。

舘林
さん
本来、ゲームの開発には数十億の資金が必要となりますが、ミラティブではそこまでの資金を使わずにライブゲーミングを制作。これまでと違った手法に、ゲーム会社からも熱視線が送られています。ミラティブのライブゲーミングの登場によって、これからこの領域への参入者が益々増え、市場の拡大も予測しています。

“好き”を応援できる次世代クレジットカード「Nudge」|ナッジ株式会社

「ひとりひとりのアクションで、未来の金融体験を創る」をミッションに、チャレンジャーバンク事業を通じて、日本におけるフィナンシャルインクルージョン(金融包摂)を実現していくナッジ株式会社。いつもの買い物に使うだけで、好きなスポーツチームやスポーツ選手、アーティスト、地方自治体の応援につながるクレジットカード「Nudge」を提供する。応援先から、Nudgeカードだけの特典をもらうこともできるのも魅力的。

舘林
さん
追加のお金を払うことなく、日頃の支払いを「Nudge」カードに変えるだけで推しを応援できるという、新しい推し活の経済圏を実現させています。
さらに、「Nudge」カードは小規模のコミュニティからでも発行できるのも特徴的。コミュニティがファンにカードの存在を広げてくれるから、同社からのプロモーションは不要。私たちKDDIもクレカ事業を行っていますが、そもそもの文化が違うところにも魅力を感じています。

Web3時代のファンプラットフォーム「Gaudiy Fanlink」|株式会社Gaudiy

株式会社Gaudiy は2018年の創業以来、ブロックチェーンを中心とする先進技術を活用したコミュニティサービスを展開。これまでにソニー・ミュージックエンタテインメント、集英社、バンダイナムコエンターテインメントなど、大手エンタメ企業にサービスの提供を行っている。ファンの熱量を最大化するWeb3時代のファンプラットフォームとして開発したのが、「Gaudiy Fanlink」。IP(知的財産コンテンツ)独自のコミュニティシステムの提供を通じて、ファンの横断的な活動データを記録・蓄積。ファンの貢献や熱量が正しく評価され、還元されるエコシステムを構築している。

舘林
さん
ユーザーは活躍に応じてNFTを使ったイラストや動画、チケット、音楽、電子書籍などのデジタルコンテンツがもらえるから、コミュニティへの熱量が倍増。それに伴って、コミュニティ自体もどんどん盛り上がっていきます。これまで課題とされていたNFT使い方、コミュニティ運営方法を新たに築いたGaudiyは、これからのファンコビジネスに大きく寄与すると思います。

“好き”が仕事になるECプラットフォーム「MOSH」|MOSH株式会社

ネットでいろいろなサービスを簡単に販売できるストアフロント型サービスECプラットフォーム「MOSH」。ホームページや予約、決済、月額サブスクリプション、回数券、クーポンといった機能をスマホ一つで簡単に作ることができるうえ、顧客管理やデジタルコンテンツの販売なども行える。5万人以上のクリエイターが「MOSH」でサービスを展開し、サービスの取引件数は累計40万件を突破している。

※ユーザーが自分の販売サイトをそのwebサイトに設けることができるWEBサイトのこと。

舘林
さん
「MOSH」では、スキルや時間を切り売りするのではなく、好きでやっていることに値段がついていく世界線を実現。それに必要な機能がすべて揃っているので、ユーザーとしてもビジネスをスタートしやすいのも魅力です。ストアフロント型で自分を必要としている人とスモールビジネスができるのも、今の時代に相応しいビジネスの形だと思います。

世界のアニメファンを唸らせるスーパーアプリを開発|株式会社any style

「好きが加速する体験を創る」をビジョンに、2019年に創業したエンタメ領域のスタートアップ・株式会社any style。好きな声優にサブスクリプション課金すると、テキストや画像、音声、動画などが届く一対一感覚のメッセージアプリ「dear.」や、キャラクターと話せるリアルチャットアプリ「my dear.」などを提供している。

舘林
さん
これから日本のスタートアップがグローバルで戦える分野となるのが、アニメや漫画といった日本独自の文化。クリエイターエコノミーとスモールコミュニティの文脈で考えると、日本の地の利を生かしたビジネスモデルこそが、世界で活躍するユニコーン企業に必要だと思います。
そこでany styleでは今や世界的に人気の声優に着目。これまでになかなか声優をコンテンツにしたビジネスモデルが登場していなかっただけに、any styleが世界へと羽ばたいていくことを期待しています。

クリエイターエコノミー領域のスタートアップは、これからどうなる?

クリエイターエコノミー領域のスタートアップが、ユニコーン企業になるにはどうしたら?
おかねチップス編集部
舘林さんのお話からクリエイターエコノミー領域のスタートアップが、ますます活躍していくと感じました。これから、この領域はさらに盛り上がっていきそうですね。
舘林
さん
私としても、クリエイターエコノミー領域のスタートアップには非常に期待しています。Z世代を始めとして人々の趣味趣向は多様化し、かつてのように万人受けする大ヒットを生み出すのは難しくなってきていますが、一方で各々が好きなアイドルやクリエイターを応援するために消費する、いわゆる「推し活」が一般化してきており、広大なビジネスチャンスが広がっている領域だと考えています。
おかねチップス編集部
では、日本のクリエイターエコノミー領域のスタートアップから、ユニコーン企業を生み出すには何が必要なのでしょうか?
舘林
さん
「グローバル市場で勝負する」はマストでしょうね。
そしてこれはクリエイターエコノミーに限らずですが、スタートアップ単独でグローバル進出する方法のほかに、例えば、最近だと「PaidyとPayPal」のように、大企業とのM&Aを通じてグローバル進出を進めることも、ユニコーンになるための一つの道だと考えています。
M&Aによって起業家のビジョンを実現する事例は、今後日本からも続々と増えていくのではないでしょうか。
おかねチップス編集部
スタートアップがユニコーン企業を目指すには、大企業とのM&Aも重要になってくるんですね。舘林さん、今日はありがとうございました!

舘林俊平(たてばやし・しゅんペい)

KDDI株式会社 事業創造本部 BI推進部 部長
2006年にKDDI株式会社入社し、移動体通信事業のネットワーク設計を担当する。2012年より、ベンチャー支援プログラムKDDI∞Laboやベンチャー投資ファンドKDDI Open Innovation Fundに関わり、主にモバイルゲーム領域のベンチャー企業への出資やゲームパブリッシングでの共同事業を手がける。2017年からグループリーダーとして、テーマパークやスポーツ、エンタメ、XR領域でのアライアンスや新規事業を担当。2021年からビジネス開発部 副部長としてモビリティ領域でのJV設立などを推進。2022年4月より現職。

撮影/武石早代 
取材・文/おかねチップス編集部

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