初期導入費用0円で物件をバリューアップ。「お父さん社長」ブロードエンタープライズ・中西良祐の歩み
不動産投資家や管理会社のパートナーとして、賃貸物件のIoT化※やプロバイダサービスを提供しているブロードエンタープライズ。IT革命ど真ん中の2000年に創業しましたが、当時はインターネットが従量課金制から定額料金・常時接続サービスへと切り替わったばかり。「賃貸物件のインターネット利用料を無料にする」という発想自体が斬新で、ましてやIoTなど夢のまた夢という時代でした。そうした中、同社は賃貸物件管理においてどのように変革を起こしてきたのか。代表の中西良祐さんに伺います。
※Internet of Thingsの略で、あらゆるモノをインターネットに接続する技術のこと。
2005年に生まれた「インターネット利用料無料」という革新性
――ブロードエンタープライズさんでは、賃貸物件管理をIoTでスマート化することで、マンションオーナーの収益を最大化させ、物件管理のDX化も促進させました。そもそも賃貸物件のIoTサービスに注目したのはなぜですか?
中西良祐さん(以下、中西さん):賃貸物件管理のIoT化への大きなきっかけとなったのは、2005年にスタートしたマンション入居者向けの無料インターネットサービス「B-CUBIC(ビーキュービック)」です。もともと「B-CUBIC」は、空室で困っている不動産のオーナー様からのお悩みを解決するために始めたサービスでした。少子化が懸念されるようになったのがちょうど2000年頃で、賃貸物件の空室率が上がってきたところに、無料化で他物件との差別化を図ったんです。賃貸物件管理のIoT化も、やはりオーナー様や管理会社様を見て「大変そうだな。もっとラクに物件を管理できる方法はないか」と考えて、たどり着いた結果なんです。
――賃貸物件のIoT化というと、具体的にどんなサービスを提供しているんですか?
中西さん:たとえば、IoTインターフォンシステム「BRO-LOCK(ブロロック)」は、エントランスのオートロックとインターフォンの機能を連動させた商品です。外出中でもインターフォンに対応できるのが特徴的で、宅配業者がインターフォンを押すと入居者様のスマートフォンの専用アプリが立ち上って、現地のカメラと接続するんです。入居者様は遠隔でエントランスの鍵を開け、置き配してもらうことができます。
また、アプリを通じて入居者様にメッセージを送れるので、たとえば工事の日程や未払い家賃の催促、備品の不具合などを、オーナー様・管理会社様と入居者様とで、簡単に連絡が取れるんです。ほかには、施設内のデジタルサイネージを遠隔で操作でき、エレベーターの点検日程などの一斉告知をサイネージに表示するというサービスを年内にローンチ予定です。特に、雪国の管理会社様に好評ですよ。導入前は雪をかき分けて車を走らせ現地に足を運んで、マンションの掲示板に張り紙をし、さらに個々のポストに告知を入れて……とすべてが手作業ですから。
――それは大きなメリットですね。ちなみに、競合他社にはない「BRO-LOCK」だけの強みはありますか?
中西さん:エントランスがある物件という縛りはありますが、オートロックやIoTインターフォンを新築マンションに組み込むだけではなく、既存のマンションに後付もできるんです。オーナー様にとってはかなりの利点だと思いますが、当初はなかなか理解してもらえなかったんですよ……。「そんな斬新なシステム、しかもオートロックがなぜ古いマンションに後付できるの?」って。
――そんなオーナー様たちをどうやって口説いたんですか?
中西さん:「B-CUBIC」「BRO-LOCK」ともに、オーナー様に対して「初期導入費用0円」を打ち出したんです。
――え! 初期導入費用0円とは驚きです。なぜそのようなチャレンジを?
中西さん:IoT化やオートロック化の工事に100万円前後、保守費用が月1万円程度かかるとします。その金額で見積もりを作ってオーナー様に営業にいくと、競合他社は95万円を提示してくる。それで僕らも対抗して90万の見積もりを出して……と利益を削り合っていくことになるんです。加えて、オーナー様も「まとまったお金を用意するのはキツイ」とおっしゃる方が多い。かといってリースやローンにすると、今度はプライベートな信用情報を提供して審査を待つという、心理的負担があります。しかも投資物件を増やそうとしているオーナー様の場合、設備投資のために銀行の与信枠を減らすのに抵抗がある。だから初期導入費用をゼロにして導入のハードルを下げ、一方で保守費用を2万円に設定し6年契約にすることで、工事費と設備費の分を回収します。これで他社を一気に引き離す導入数を達成しました。
――それは画期的なアイデアですね、しかし、一旦設備導入費を肩代わりするのは大変だったのでは?
中西さん:「債権の流動化」という特殊なファイナンススキームを組んでいるんですよ。たとえば、月2万円×6年(72回)だと144万円の債権になりますよね。この債権を金融機関に売却し、キャッシュ化するんです。
――なるほど! であれば、キャッシュの不足に困ることはありませんね。それは中西さんのアイデアですか?
中西さん:いえいえ。僕たちが使っている携帯電話料金も同じ仕組みなので、それをヒントにしただけです。携帯電話料金=債権という意識は薄いですが、月々4,000円前後支払ってスマートフォン自体を購入していますよね。これがまさに債権の仕組みそのものなんですよ。僕がこのことを知ったのは、企業用の設備導入事業を行っている株式会社ネクシィーズさんがマンションのオーナー様にLEDを導入してもらうために、初期費用ゼロの5年契約を勧めていたんですよ。「設備を一新するのに0円って、どうやっているんだ」と衝撃を受けていろいろと調べたら、債権の流動化をしていることがわかったんです。それで僕も、債権をキャッシュ化してくれる金融機関を探しました。
30社に断られた提案を逆転成立させられたワケ
――債権の流動化を導入し始めてからは、賃貸物件のIoT化は順調にいったわけですね。
中西さん:いや、債権の流動化を実現するまで丸3年かかったんですよ。金融機関30社以上あたって、全部断られました。
――なんと……。でも携帯電話会社もネクシィーズさんも成功しているのに、なぜ断られるんですか?
中西さん:携帯電話事業や設備導入事業と比べて、金額が小さすぎるんです。金融機関視点だと、債権の流動化は100億円以上の単位でやらないと利益が出づらいので、請けたくない。しかも、僕らの場合は6年間の固定契約なので、回収までが長すぎると言われました。
――なるほど。では、どうやって実現にこぎつけたんですか?
中西さん:しばらくは試行錯誤していたんですが、2018年ごろ、ちょうど上場の準備をしていて。主幹事証券会社を選ぶときに、2社の証券会社が候補になっていたんです。どちらもバックに大手銀行がついていて、同じような提案だったので、そのときに条件を出したんですよ。「債権の流動化に応じてくれる方を選びます」と。一方は断り、もう一方は受け入れてくれました。それで奇跡的に初期導入費用0円がスタートしたんです。2021年では全契約の73%が初期導入費用0円で、アポイントを取って成約に至る確率は50%ですね。
――2社に1社は成約とはすごいですね。競合他社から真似されたりしないんですか?
中西さん:決算資料にもそのことは全部掲載されているので、他社さんも知っているはずです。それなのに、これをやっているのはいまだにうちだけです。それだけこの事業の価格帯での債権の流動化は難しいんですね。特に未上場の会社にはできない。でも僕らは、初期導入費用0円にしたから他社を引き離して上場ができたし、上場の準備をしていたからこそ流動化が実現できた。これは本当に、奇跡的なことです。今ではありがたいことに、いろいろな金融機関から「債権の流動化をしませんか」と営業を受ける立場になりました(笑)。
社員大好き社長のカッコよすぎる「公私混同」
――無料でインターネットサービスを提供する「B-CUBIC」では、コールセンターを自社で運営されているそうですね。素人考えで恐縮ですが、お客様対応ってアウトソースした方が楽じゃないですか?
中西さん:もともとアウトソースしていたんですが、電話に出られなかった場合、クレームが炎上化してしまうことが多くて。とくに受電率が70%以下になると炎上しやすいんです。お客様は、最初に電話をかけるとき実はいたって冷静なんですよ。でもつながらなくて何度もかけているうちに、イライラしてしまう。自社で受けるようになってからは受電率100%です。コールセンターの人員は8名ですが、9本目の電話がかかったときに、他部署の社員60人のうち、誰かが対応するようにしています。多少費用がかかっても、お客様が満足するなら、その方があとあと利益につながるんです。
――ひとつひとつのサービスの品質を大切にされているんですね。
中西さん:それはもう地道にやっています(笑)。というのも僕の経営には、「ウルトラCはない」というのが持論なんです。日々の小さな改善を積み重ねることしか、品質向上に繋がりませんから。
――地道とおっしゃいましたが、「初期導入費用0円」は大胆な戦略ですよね。
中西さん:そう思えるかもしれませんが、実はこれをしたのはある社員のためなんです。とても明るく誰にでも好かれるのに営業成績が全然上がらない子がいたんです。それで、自信をつけさせたくて、その子の見積もりだけ「初期導入費用0円」にしたんですよ。そしたらバンバン契約が決まって。
債権の流動化をする前なので、当然、資金がどんどん目減りしていきます。だから、ある程度その社員が自信を持てたら終わりにしよう、と思っていたんです。でも、他の社員から「この見積もりなら私ももっと頑張れる」と言われて、定番化を目指して動き始めました。そもそも専門性の高い経理部門と電気工事部門以外はすべて新卒採用なんです。新卒は、経験やスキルでは他社のバリバリ営業マンに敵わない。でも、「初期導入費用0円」の見積もりだけで、新卒の営業社員が他社に勝って帰ってくる。すべて、社員ファーストから始まっているんです。僕、社員が大好きなので。
――それは素晴らしいですが、なぜそこまで社員の方を大切にするんですか?
中西さん:僕の育った家庭は幼少期に両親が離婚したんですが、僕は両親のどちらにも引き取られなかったんです。優しい祖父母に育ててもらって幸せではあったんですが、会えなくなった両親や兄弟を思うと、やはり寂しくて。でも、26歳で起業したときに4人のメンバーでスタートしたのですが、当時資金も信用もない僕に付いてきてくれたことがめちゃくちゃ嬉しかった。寂しかった心が満たされていき、「僕は社員みんなのために働こう」と決めたんです。
――社員さんたちとは、今でも良好な関係を築いているんですね。
中西さん:社外の方と食事会に行くのは月に1回あるかないかですが、社員とはしょっちゅう飲みに行っています。僕らはうちの会社を「家族(的)経営」って言ってるんですよ。僕が社員のお父さんで、副社長の嫁がお母さんのつもりです。古参の社員は「おじさん・おばさん」って呼んでます(笑)。採用面接のときも、「うちは公私混同しますが、それが嫌だと思う方はうちには向いていません」と伝えます。
プライベートの話もいろいろと聞いたりしますが、それは父親が子どもを心配しているのと同じ気持ちなんですよ。だから社員が困っているときは、全力で助ける。社員たちにもその精神は根付いていて、全社で目標を達成できていないときには、自分の目標を達成している社員が「この分は私がやります」と名乗り出てくれるんです。もちろん上司からの評価がほしい、給与を上げたい、という気持ちもあるでしょうが、「家族だから困っている人がいたら助けるのが当たり前」という気持ちが、一番大きいんです。
――中西さんはもちろん、社員さんも誰に対してもその熱い思いがあり、利益につながっている気がします。そんなブロードエンタープライズさんの今後の展開が気になります!
中西さん:賃貸物件管理におけるIT化、DX化を進めやすい環境づくりをしたいです。主には、販売実績を増やすことで原価を下げて、オーナー様のコストを下げていきたいと思っています。それが実現できれば、さらにオーナー様がシステムを導入するハードルが下がって、IT化、DX化が更に広がっていくはずです。オーナー様は費用が安くて済むし、入居者様も便利になって喜んでいただける。そして、僕らも営業がやりやすくなって社員が喜ぶという、いい循環を生み出すことを目指しています。
僕の思いは、「みんなよくなったらええやん」。経営理念っていう言葉も知らなかった26歳の頃からの口癖です。お客様にも社員にも世の中にも「みんなよくなったらええやん」を叶えていきます。
中西良祐(なかにし・りょうすけ)
撮影/武石早代
取材・文/長谷川京子
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