AViC社長・市原創吾、有望だった会社員が“六畳一間のオフィス”からスタートしたワケ
2006年の商法改正によって、誰でも会社をつくることができる時代になりました。1円起業、学生ベンチャーが次々と立ち上がり、いまや「スタートアップ」という呼び名も浸透するように。ただ、そこから「成功」へと導ける人は、ほんの一握りです。
デジタルマーケティング事業を手掛ける「AViC(エイビック)」の代表取締役社長・市原創吾さんも「リスクを取ることでさらに成長するために起業しよう」という段階からスタート。そこから、創業約4年で東証グロース市場への上場を達成。いったい、どのようにして右肩上がりの曲線を描いてきたのでしょうか。
自分が起業するなんて考えてなかった
――市原さんは新卒でサイバーエージェントに入社されましたが、なぜ「AViC」を立ち上げたのでしょうか。
市原さん:もともと、「社長になろう」「起業しよう」なんて思ってたわけじゃないんですよ。岩手県の田舎から上京してきて、普通の大学生活を送っていたし、そこまでやりたいこともなかったんですが、サイバーエージェントに入社して、指数関数的に成長できた実感があったんですよね 。
それで、30歳になったタイミングで「次の10年どうしようかな」って考えたとき、もっとリスクを取って、チャレンジして、さらなる成長を追い求めていきたいなと思い、会社を立ち上げました。同世代の経営者が身近にいて、刺激をもらっていたのも大きかったですね。
――現在はデジタルマーケティング事業をメインでやられていますが、当初から決めていたことだったんですか?
市原さん:実は、あまり明確には決めてなくてですね(笑)。最初は走りながら考えようと、今と全く違うビジネスも受託していました。営業代行、Webメディアのライティング、広告のコンサルティングとか。最初の1年ぐらいは何が事業として成り立っていくのか、どこに勝機があるのかみたいなのをずっと模索していましたね。
――そんな折、“進むべき道”を見つけたわけですね。
市原さん:はい。マーケティングとか、コンサルの支援をご依頼いただくケースが多くなってきた時に、「マーケットが大きい」という実感、そして「世の中のデジタル化の出遅れ」みたいなことを感じたんですね。それなら、自分が培ってきたことを還元できるなということで、一気にブーストをかけていきまして。
――ですが、「最初はクライアントから断られることも多かった」と以前のインタビューで語っていましたね。
市原さん:案件は増えていったんですが、条件面があまり良くなかったりとか、やはり無名なので相手にしていただけなかったりとか、会社としてブレイクスルーしていくのは、なかなか難しいという現実に直面しました。もうそこからは、お受けした仕事で地道に成果を出して、信頼や実績を積み重ねて、リファラルで別の仕事をいただく……っていう感じでしたね。
「会社として進むべきルート」を間違えない
――そこから3年で東証グロースに上場。相当成長のペースが早いなという印象です。
市原さん:早いうちから上場したっていうのは、ビジネスをスケールさせるためだったんです。それまで、知名度も信頼もないということで、銀行からお金も借りられず、悔しい思いをしたんです。なので、最短で上場できるタイミングを調べて、そこを目指していく中で、優秀なコーポレートチームが集まってくれて、みんなのおかげでなんとかオンスケ(=オンスケジュール)で進行していくことができました。
――同業他社も多いと思いますが、「AViC」の強みはどこにあるんでしょうか。
市原さん:そうですね……社員であり組織文化なんじゃないでしょうか。みんなで真摯にクライアントに向き合い、進むべきルートに「間違えずに向かえている」と思います。やっぱりスタートアップなんで、構築されたシステムもないですし、資金力もないですし、営業体力も人員も少ない。だからこそ、自分たちの置かれているフェーズをしっかりと理解して、戦えるマーケットを見つけて、地道に勝っていく。それがコツコツできる社員と会社のカルチャーがあったことで「AViC」のいまがあると思っています。
――話を聞いていて、改めてキャリアを捨てて裸一貫でやろうと思ったのがすごいなと。
市原さん:ただ、やはりものすごく大変ではあったので、もし過去に戻ったら起業しようとは思わないかもしれないですね(笑)。いまでこそ六本木エリアのオフィスビルにオフィスを構えることができましたが、最初は6畳一間ぐらいの、お世辞にも綺麗といえない雑居ビルでやってました。一時期、会社に来ると体調が悪くなって、なんでだろうなと思ったら、掃除をしていないことが原因でハウスダストアレルギーを発症していました(笑)。大企業って恵まれた環境なんだなと、そこでもありがたみを感じましたね。
結局、成長がない人生がつまらなかった
――また、会社が成長していくためには「人材育成」の部分も重要だと思うんですが、そのあたりはどう考えていますか。
市原さん:「フェアに教育する」というのは考えていますね。どんな上司につくかによって、成長の度合いも変わってしまうことがあると思うんですが、教えを“定量化”していれば、あとは本人のがんばり次第になっていくのかなと。そのために必要な仕組みの部分などは、全社一丸となって取り組んでいます。社員がみんな真面目で誠実だから、そういった取り組みが活きるんだと思います。
――ひいては、社員定着率の高さにもつながっていきそうですね。
市原さん:そこは相関しているかもしれませんね。いまって、どこの会社行っても、「人が足りない」って言うじゃないですか。営業だけ、コンサルだけっていう人材じゃなくて、いろいろな能力を身に着けないと、未来の可能性が狭まってしまう。という意味で、教育分野には投資を多くしています。
――ここからの5年、10年、展望というか青写真みたいなのはどう描いてますか?
市原さん:上場は果たせたんですけど、やっとスタートラインに立てたぐらいにしか思ってなく、まずはステークホルダーの皆さまのご期待にお応えできるよう、結果を出していくこと……うん、地道に引き続きやっていくことしかないですね。自分自身、改めてフレッシュな気持ちになっているので、このまま走り続けたいなと思っています。
――インタビュー、ありがとうございました。お会いする前はご経歴等からかなりイケイケでガツガツした感じのイメージを持っていましたが、実際は落ち着いた雰囲気で、“良い違和感”を覚えました。
市原さん:なるほど(笑)。たしかにそう見えるかもしれないですが、強い覚悟を持って事業や経営に向き合っています。お蔭様で上場することができましたが、これからAViCの第二章が始まっていきますので、社員やお客様をはじめ、ステークホルダーの皆様への感謝を忘れず、謙虚にがんばっていきたいと思っています。
市原 創吾(いちはら そうご)
2009年、青山学院大学理工学部を卒業後、株式会社サイバーエージェントに入社。インターネット広告を中心としたWebマーケティングにおけるコンサルティング業務に従事。その後、マネジメント業務にも携わり、2015年に局長に就任。2018年4月、株式会社AViCを創業、代表取締役社長に就任。2022年6月にわずか4年で東証グロース市場に上場した。
写真/武石早代
取材・文/東田俊介、おかねチップス編集部
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