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年収1億円の保険営業マンだった伊藤清が、「お金の悩みを解決する上場企業」で社長として成功させた独自戦略

年収1億円の保険営業マンだった伊藤清が、「お金の悩みを解決する上場企業」で社長として成功させた独自戦略

保険会社は自社商品のみ扱うもの、保険会社の営業は保険についてのみ語るもの――。2002年、そんな常識を打ち壊すべく登場した会社がありました。ブロードマインド株式会社。顧客の「お金」の流れを総合的に分析し、保険、金融、税金、不動産など経済に関わるソリューションを、業界・企業の壁なくワンストップで提供する会社です。現在は約60社の金融商品を取り扱い、税制から投資の相談まで、まさにお金の悩み全般をコンサルティングしてくれます。

代表を務める伊藤清さんは、かつて外資系生命保険株式会社でトップクラスまで上り詰めた超敏腕営業マン。最高月収は、なんと1500万円超(!)だったといいます。それなのに、なぜリスクを冒してまで起業を? 今回は伊藤さんのこの事業に対する思い、お金に関する考え方などをお伺いし、伊藤さんの情熱の先に見える風景を紐解いていきます。

「良い商品なのに提案できない」ストレスが起業の起点に

ブロードマインドは主に個人向けたフィナンシャルパートナーとして、保険の分析や家計相談、資産運用、相続対策など、お金にまつわるニーズに対してワンストップで応えている

――なぜ、保険会社から「お金のことをワンストップで提供する」という事業で起業されたんでしょうか?

伊藤清さん(以下、伊藤さん):生命保険会社に営業として勤務していた頃、ライフプランを練る際にすでに加入されてる保険証券をお客さまに見せていただくんです。すると、当然ながら他社にも優れた保険商品がある。ただ、立場上ご提案できるのは自社や関連会社の保険のみです。

また、ある程度資産のある方は、積立保険よりも不動産投資の方が資産形成につながる、と思うこともありました。でも、それも自社で取り扱っていないので、ご提案まではできない。このような営業スタイルは、「お客さまのためになっているのか?」と疑問に思い、次第にストレスを感じるようになりました。「今後何十年、定年するまでこれをやっていくのか……」とやるせない気持ちになったんです。

――なるほど。でもそれは生命保険会社に勤めている限り仕方ない側面もありますよね。

伊藤さん:そうですね。しかも、そもそも契約金額に報酬が左右される歩合制だったので、ストレスがかかりやすい立場でした。僕が初出社したとき、前から歩いてきた初対面の先輩が「これから大変だぞ」と(笑)。その言葉どおり、100人近くいた同期が、僕が退職するころにはわずか数人にまで減っていたんです。僕は言葉で人に商品の魅力を伝えることが得意だったのですが、そうでない人には過酷な業務だと思います。

生命保険会社の営業マン時代の苦悩が起業へのきっかけになったというブロードマインド代表・伊藤清さん

――そんな過酷な営業マン時代のストレスや疑問が起業のきっかけだったのですね。

伊藤さん:それだけではなく、再保険からアイデアを得たところもあります。再保険というのは、高額な保険を引き受けた保険会社が自社の負担能力を超えるリスクを他の保険会社に引き受けてもらう、というものなんです。一般的に自社が引き受けるリスクが増えるほど保険料は高くなりますので、再保険の仕組みを活用することで安く保険を提供できたらと思い、海外の再保険会社に交渉したこともありました。

――保険会社はリスクが減り、顧客はメリットが増すアイデアですね。ちなみに、現在のような複数の保険会社の商品を扱うのに、特別な許可は必要なかったのでしょうか。

伊藤さん:かつては複数の保険の販売認可を受けるには、ブローカーの資格や4000万円ほどの供託金が必要でした。でも、僕がこの事業を立ち上げたいと思っていた前後にちょうど法改正があり、さまざまな保険商品を扱うハードルがぐっと下がったんです。

――起業するには、良いタイミングだったのですね。さまざまな金融商品を横断的に扱う事業は「業界のタブーを冒している」事業とも捉えられますが、反発はありませんでしたか?

伊藤さん:周囲には言われましたよ。タブーであることはもちろんですが、「6000人いる営業の中でトップの成績をおさめた人が、なぜ危険を冒してまで起業するんだ」と。でも、生保会社に入ったときだって、同じように言われたんですよ。「営業は過酷だぞ。やっていけるのか?」と。新しいことをやろうとする人に「やめとけ」という人は、必ずいるんです。そういう人は、僕が失敗すれば「やっぱり俺が言った通りになったじゃないか」と言いますし、成功したら「“やっぱり”お前は先見の明があったな」と言いますから(笑)。自分のやることに不安がないのなら、そういう意見は聞く必要はありません。

一番いいものをいやがるお客さまはいない!

――新たな取り組みを行う起業に対して、伊藤さんは不安を感じなかったんですね。

伊藤さん:そもそも、不安な人が会社作っちゃいけないと思います(笑)。それに、さまざまな商品の中で「もっとも良いもの」を提供されて、いやだと思う人はいません。例えば、家電量販店では様々なメーカーの商品を比較しながら買うことができます。保険や金融商品などもそれと同じだ、と考えたんです。「お客さまが喜ばないわけがない」と。

伊藤さんは、実際に商品を検討するお客さまの思いと向き合い続け、いくつもの困難も乗り越えてきた

――「ブロードマインド」では取り扱う商材が多い分、税制や金融、不動産など多角的な知識が必要ですよね。

伊藤さん:僕は生命保険会社にいた頃から、保険以外のお金に関する知識も持っていました。なぜなら、当時の勤務先にはさまざまなスキルを持つ先輩たちからいろいろ学ばせてもらっていたから。ある先輩は、難解な金融の情報を素人でもわかるように説明する達人でした。その先輩のモノマネをしながら話すと、顧客に感謝されて契約が決まるんです。

また、別の先輩は、人の家にいくと美術品や骨董などから、瞬時に相続財産が計算できてしまう。僕はさすがに鑑定眼までは身につきませんでしたが、その先輩のもとで相続対策について勉強させてもらいました。もちろん専門家とのネットワークも作り、税理士さんに税制についてわかるまでお話を聞きに行ったりもしました。知識を増やすことは自分の成績を上げることに比例しているので、お金に関することはすべて学ぶ。トップ営業とほかとの違いは、そういった下地づくりを「やる」か「やらない」かだと思います。

――まさにトップ営業マンの極意ですね。そんな営業力の伊藤さんの組織づくりのコツはなんですか?

伊藤さん:自分に足りない能力を持った人を集めることだと思っています。漫画『ONE PIECE』(集英社・尾田栄一郎著)のルフィをイメージしていただくとわかりやすいですね。

起業する前から僕の中に組織図はできていたので、自分では足りない部分は、他業界からもスカウトしました。例えば取締役の大西は、広告業界から来ています。まだ広告会社にいた頃、1週間後に別の広告代理店の役員に就任する予定で、うちの会社にプレゼンにきたのですが、その内容がとても良かったので、1週間のうちに3回会いに行き、口説き倒しました。翌週、役員として勤めるはずだった会社にお詫びをして、その日の夕方にはうちに出社するということもありました。

漫画『ONE PIECE』から影響を受け、ブロードマインドの会議室は「East Blue」といった名前がつけられている

新卒社員採用で営業の常識を覆す

――現在、御社の社員は新卒がほとんどだそうですね。なぜ、実績のある保険会社の営業マンではなく、新卒を採用するのですか?

伊藤さん:未経験者や新卒は癖がないので、吸収が早いんです。また、経験者の方は、最初から商品提案をする感覚が染みついていることが多く、それを180度変えてもらうのは難しい。僕たちが大切にしている、丁寧なヒアリングや課題の抽出、お客さまに合わせて商品をプレゼンをする、という方向に育て直す方が大変なんです。

――そんなブロードマインドの給与形態は、保険会社でありがちな業務委託や歩合制ですか?

伊藤さん:社員制、固定給です。歩合制であるがゆえの、自分で見込み客を探すことに苦労したり、良い商品よりも手数料の高い方をすすめてしまう、という点を避けるためにそうしています。会社が見込み客にアプローチするので、社員たちはコンサルティングに集中でき、仕事のクオリティも上がります。

会社が見込み客を用意することで、コンサルタントがコンサルティングに専念できる仕組みになっている

――ご自身は歩合制で成功していたにも関わらず、企業として社員制に可能性を見出すことができたのはなぜでしょうか。

伊藤さん:僕自身も成功したとはいえ、数字を追いかける生活には強いストレスを感じていました。あの生活をずっと続けていくことはちょっと辛いなと思いました。コンサルティング力が高いのに、契約が増やせず辞めていく有能な仲間たちを見てきました。「僕がお客さまを一生守ります!」って保険に加入しもらったのに、3年で辞めてしまったら、お客さまからすれば「私を死ぬまで面倒見てよ」って思いますよね。だから、ブロードマインドでは「“この会社が”お客様の一生を守ります」とご案内します。実際担当が変わったとしてもご満足いただける体制を敷いていますし、社員に対しても働きやすい環境を整えています。新卒の3年以内の離職率も10%で、業界の水準25%と比較してもかなり低い。その人を信頼して契約したのに担当者がすぐ変わってしまう、ということがないようにしています。

――顧客にとって会社としては非常に安心感がありますね。その一方で、新卒の方がコンサルティングするというのは不安に感じる部分もありますよね。

伊藤さん:その部分は「知識」でカバーしています。弊社では入社から3カ月は徹底して社会保障の勉強をしてもらうんです。かつて、保険の営業マンは「GNP」と言われていたんですよ。

――GNP???

伊藤さん:義理、人情、プレゼントです(笑)。それで顧客を取ってくる。最近は金融庁がそういう契約はしないように、と指標を出していますが、未だにそのような営業方法が残っています。だからこそブロードマインドでは、徹底した知識を元にコンサルティングをするように教育します。それが一番お客さまと会社の信頼と利益になるので。

伊藤さんの起業時の思いは、今もなお会社のパーパスに掲げられている

ノウハウを惜しみなく提供する

――それだけ質の高い教育ノウハウ、なかなか他社には真似出来ない独自の強みですね。

伊藤さん:実はこのノウハウは、他社さんにも提供しています。それのみならず、アポイント提供もしているんです。

――他社の人材を教育してアポイントまで提供したら、ライバル会社を作るようなものではないですか?

伊藤さん:すでにこのノウハウは、オンラインシステムとライフプランシステムとして導入してもらい、会費をいただくことで利益になっています。ノウハウを提供しても、そこからそれぞれの企業でどう浸透させて企業文化にするかが、お客さまにとって差別化になります。だから、ノウハウを提供するだけではブロードマインドのライバルになるとは思っていません。むしろこの取り組みを通じて業界全体の底上げに繋がればと思っています。

――ライバルを量産するシステムのようでいて、利益につながっているとは素晴らしいですね。では、お客さまにご紹介を頂くための秘訣も教えてください。

伊藤さん:お客さまに本当にいいコンサルティングをして満足していただき、そこからご家族やご友人をご紹介いただく、その連鎖が続くのがベストです。あとはナラティブ、物語ですね。営業の人間が「なぜこの仕事をしているのか」という自身のストーリーを語ることで、お客さまにファンになっていただく。特に若い人は、物語を語ることで目上の人が応援したくなると思います。

働きやすい環境づくりこそが成功の鍵

――自身の物語や自社のノウハウをオープンにして共感を集めるのが成功の鍵なのですね。

伊藤さん:そうですね。あと一番の勝因は、「いい人材が集まった」からです。今の新卒モデルも、提携ビジネスも、僕ひとりで考えたものではありません。僕のアイデアを進めるときも、そのために必要な人脈を探り当てて引き入れてくれる役員や社員たちの力ありきです。人材を重視するからか、漫画も組織づくりを意識しながら読んでしまうんですよ。『キングダム』(集英社・原泰久著)は主人公の信が仕切る人数が少ないうちはうまく行っていたのに、組織が大きくなると末端まで目が届かなくなり、負けてしまう。そこでプロデュース力のある河了貂を入れ、再び勝ち星を増やしていく……という流れが、「まさに会社作りと一緒だ」と。

上場まで成し遂げ、ここまで来られたのは、「優秀な人材のおかげ」だと伊藤さんは話す

――漫画から組織づくりの戦略を参考にされているんですね。では、3年離職率10%という働きやすい職場づくりを実現するために行った戦略は何だったのでしょうか?

伊藤さん:働きやすい職場にするために、社員が社員を育てる文化を浸透させたんです。うちの社員には、部下や後輩に何かを聞かれても嫌な顔をして答えるメンバーは一人もいないんですよ。むしろ、「教える」ことに喜びを感じている。そういう社風を作り上げてきました。

――素晴らしいですね。最後にブロードマインドさんの次なる戦略ついて、教えてください。

伊藤さん:現在の日本ではまだ情報にお金を払うことに抵抗がありますね。そこを払拭したいと思っています。月額でコンサルティング料をいただき、年間を通じてお金に関するアドバイスや、事務処理的なことのお手伝いをさせていただくサービスを定着させていきたいと考えています。いま試験的に始めていまして、先日お客様に月額1万円のつもりで「年間12万円」を提示したところ、「月12万円ですね」と言われ、「10倍の金額でも需要があるのか」と勝算を見出しつつあるところです。また、一般的なご相談に関してはAIでお答えするなどして、なるべく多くのお客さまの要望に答えたいと思っています。

――不況が長引く日本、これからもどんどん需要が伸びるお仕事ですね。応援しています。ありがとうございました!

伊藤清(いとう・きよし)

1965年生まれ。ブロードマインド株式会社代表取締役社長。大学卒業後、ソフトウェアのエンジニアとして就職。その後、スポーツインストラクターを経てソニー生命に転職。最年少で同社のエグゼクティブライフプランナーに。1998 年には成績優秀エージェントの世界指標である MDRT に登録され、 2007 年には終身会員に。 2002 年1月に複数社の保険を扱う代理店としてブロードマインドを創設。現在では保険の他に株や投資信託、住宅ローン、不動産など幅広い分野の取扱いができる体制を構築し、ワンストップで金融商品を提供している。2021年3月に東証グロース(旧・マザーズ)市場へ上場を果たす。

撮影/武石早代 
取材・文/長谷川京子

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