後発組のリーガルメディア運営会社が上場を果たせた理由。アシロ社長・中山博登がこだわる営業&マーケティングの信念
「相続弁護士ナビ」「離婚弁護士ナビ」「交通事故弁護士ナビ」といったリーガルメディアを主要事業として展開しつつ、HR事業や保険事業なども手がける株式会社アシロ。
代表取締役社長の中山博登さんは、学生時代から鍛え上げてきた営業力と、経営者になって築き上げたマーケティング力で、2021年に上場を果たしました。
リーガルメディアとして後発組でありながら、ここまでの成長を実現した背景には、どのような戦略があったのでしょうか。同社の躍進をリードしてきた中山さんに伺います。
アシロという社名に込められた2つの“深さ”
――「アシロ」という社名は、世界最深地点で生存が確認された深海魚ヨミノアシロが由来になっているそうですね。
中山さん:中野の漫画喫茶にこもって決めたんです。私は2009年の10月末に前職を辞めて、その後すぐに起業したのですが、司法書士から11月末までに社名を決めなきゃいけないと言われて。
――他にも候補はあったんですか?
中山さん:その前に「ダイマル」という社名を考えていました。百貨店みたいな社名はどうかなと。
――それはどういった発想から?
中山さん:もともと営業の人間なので、社長にコンタクトしやすいネーミングにしたかったんです。「イセタンさんからお電話です」と言われたら、うっかり出ちゃうかもしれないじゃないですか(笑)。それで「ダイバーシティを大事にする会社にしよう」という発想からダイバーシティ○、略して「ダイマル」はどうかなって。でも、税理士からNGが出ました。
――ダメだったんですね(笑)。
中山さん:はい。それで次に「Amazon」を想起しました。あの社名には、世界最大の河川と言われるアマゾン川のように、圧倒的なシェアを誇る会社にしたいという願いが込められていますよね。なんだかダイナミズムがあっていいなと。
そんなことを考えながら自分の理想とする価値観をあらためて言語化してみたところ、現在も大切にしている「世界中の誰よりも深くユーザーとお客様を幸せにしたい」「社会基盤となりうる水準までサービスを深化させたい」という想いにたどり着いたんです。
どちらにも「深さ」という言葉があったので、地球上で最も深い場所に生存する生き物はなんだろうと調べてヒットしたのがヨミノアシロで。見た瞬間におもしろいと思い、社名に採用しました。
リーガルメディアの成長を支えた、後発組ならではの戦略
――現在は、2012年に立ち上げたリーガルメディアの運営が主要事業になっていますよね。創業時からこの構想はあったのでしょうか?
中山さん:それがまったくなくて。起業して数年は他社の営業代行をしていました。自分で言うのもなんですが、私は大学生の頃から営業に携わっていたので、粗利で月300万円くらいならどんな商材でも売上を立てられる自信があったんです。実際、起業して間もない時期にその目標は達成していました。
ただ、稼いだ分だけ浪費もしていて。1年くらい自堕落な生活をした後に「このままじゃダメだ」と思うようになったんです。それで社員を増やして、中長期的に売上を伸ばしていこうと決めました。となると、パッケージ化された商材を扱う方が人員の統制が取れて動きやすい。何か良い商材はないかと探していたところ、複数のポータルサイトを運営していた株式会社イトクロとお付き合いが始まり、「お助け相続ナビ」というサイトの広告を代理販売させていただくことになりました。
営業対象は、相続に関わる税理士さん、行政司書さん、司法書士さん、弁護士さん。なかでも反応が良かったのが弁護士さんでした。「離婚専門のサイトは作れる?」と相談されることが増えたんです。このときイトクロ社は、上場に向けて事業選択の真っ最中だったので、許可をもらって弁護士向けのメディアを自分たちで立ち上げることにしました。
――それが現在の活動につながっているわけですね。とはいえ、リーガルメディアは競合が強いイメージがあります。後発のアシロが大きく成長し、上場まで辿り着けたのは何が大きかったのでしょうか?
中山さん:ひとつは、とにかく営業を頑張ったこと。セールスパーソンの育て方ってすごくシンプルなんですよ。うまくいっている人間の模倣をする。それだけなんです。僕自身、上司の身振りや手振り、話す内容、トーン、さらには服装や髪型に至るまですべて模倣しましたから。
――とにかく型を身につけることが大事だと。
中山さん:はい。次に意識したのは、広告掲載料金のプライシングです。競合となる企業がどのような価格を設定しているのかをきちんと把握して、サービスだけでなくプライシングでも差別化をしていくことが大切だと考えています。後発の企業が陥りがちな間違いのひとつが、「先発サービスよりも値段を安く価格設定する」ことなんですね。でも、後発企業こそ価格を高く設定しないと競合には勝てないと考えています。
――それはなぜでしょうか?
中山さん:商売の基本は、「安く仕入れて高く売る」ことだからです。言うことは簡単ですが、では、「高く売る」ためにどうするか。答えは他社より良いサービスだと感じていただくこと。それができれば、お客さまは喜んでお金を出してくれます。
我々のお客さま、つまり弁護士の方々にとっての喜びは、「法律相談の件数が増えて売上が伸びること」です。だから、相談件数を増やすことが我々に求められることになります。我々のサイトがオープンして間もない初期の頃は、売上以上の予算をリスティング広告に使って、無理矢理に成果を出していました。
でも、赤字が続けば会社は倒産を免れません。利益を生む仕組みを作るためにマーケティングを必死に勉強しました。営業の担当は十分育っていたので売ることは他のメンバーに任せて、私自らがマーケティング施策の陣頭指揮を取り、SEO、デジタルマーケティング、アフィリエイトなどを通じて流入経路を改善していったんです。その結果、広告費にかかる費用は次第に減り、安く仕入れることに成功した結果、利益は徐々に上がっていきました。
――赤字でも中山さんが折れなかったのはなぜだったのでしょうか?
中山さん:世の中に役立つものを作れば、利益は後からついてくるという自信があったからです。そして何より「アシロのサービスを使って良かった」と感じてもらえるものを作りたかった。そのために全力になるのは当然のことじゃないですか。だから、やめようとは一度も考えませんでした。
不安があるから安定する
――中山さんは経営を続けるなかで不安になることはありませんか?
中山さん:あります。でも、僕は不安があるほうが安定すると思っているんですよ。木も同じじゃないですか。真っ直ぐ立っているほうが実は倒れやすい。
だから、何も不安がない状態ってけっこう危ないんです。たとえば創業して間もない頃、結果が出過ぎて1ヶ月で10日くらいしか働かず、残りの20日は遊んでいました。でも、何もすることがないと考える時間がどんどん増えて気分が落ちていくんです。次第に「生きる意味ってなんだろう?」と思うようになってしまって(笑)。
「ありがとう」って漢字にすると「有り難い」と書きますよね。つまり、困難ってありがたいんですよ。「忙しい」「悩みがある」「苦しい」と言っていられるうちは、むしろ幸せ。解決するために、必死で考えるし、必死で行動するから。
――失敗することに対する恐怖もありませんか?
中山さん:少なくとも挑戦することに対する恐怖はありません。僕は『アカギ』という漫画が大好きなんですね。ラストエピソードで、主人公の赤木が最後に「自分(赤木)の自殺を止める」というギャンブルを仕掛けます。
――ギャンブルに勝てばアカギは自殺せずに済む、と。
中山さん:そこで昔からの仲間である原田という関西最大の暴力団の組長が、赤木の自殺を止めるためにさまざまなギャンブルを仕掛けます。すると、赤木は「お前は成功を積み上げすぎた」って言うんです。積み上げすぎて、逆に動きづらそうだと。対する赤木は、自ら崩すことをしてきたと放ちます。
結構極端な例だとは思いますが、このときに赤木が言いたいことってすごくわかるんですよ。人って居心地が良すぎるとその場から動けなくなってしまうじゃないですか。失う怖さがあるということなので。だから、私自身、順風満帆だと思わないようにしています。
現状に満足せず「今よりももっとできることがあるはず」や「もっと良くするためにはどうすればいいんだろう」と考えることを意識しているのですが、この考えがあるからアシロが大切にする「関わる人を誰よりも深く幸せにすることでよりよい社会の実現に貢献する。」を体現できるんじゃないかなと思っています。あと、何か悪いことが起きたときの落ち込みも大きくなってしまうから(笑)。
――いわゆる逆張りの発想ですね。
中山さん:とはいえ、あまりに逆張りしすぎると普通の感覚がわからなくなってしまうので、バランスは気をつけなければいけないのですが(笑)。
大切なのは、今に満足せずネクストアクションを考え続けることだと考えて、日々「チャレンジ」と「失敗」を繰り返しています。
――では、そんな中山さんのネクストアクションは?
中山さん:お客さまのためとか、一緒に働いてくれるメンバーのためとか、株主のためとか、やるべきことは山ほどあるのですが、ひとつの目標にしているのは売上収益100億円の達成です。
経営者という道を選んだからには、桁がひとつ違う数字を達成してみたい。そのときにどんな景色が見えるのか。今から楽しみでしょうがないですね。
中山博登(なかやま・ひろと)
1983年、京都府生まれ。株式会社ワークポート、株式会社幕末(現:イシン株式会社)を経て、2009年11月に株式会社アシロを設立、代表取締役就任
撮影/武石早代
取材・文/おかねチップス編集部
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