「デザイナーという言葉は近い将来なくなる? “拡張性無限大”なデザインという仕事の奥深さと面白さ
「おかねチップス」が、「クリエイター支援メディア BRIK」と共同で行っている公開収録オンラインイベント『ジョブクロッシング -仕事と職の交差点-』。同じ名前の職種でも、業界や業態の違いにより、大きく役割が異なるもの。その役割の違いを正しく理解することで、それぞれに必要なスキル、仕事における考え方やこだわりをひもといていく、クロストーク対談企画です。
今回のテーマは「仕事とキャリアの価値を変えるデザイン」。同じデザイナーという名前ながらも、Web、グラフィック、UI/UX、エディトリアルなど、ベクトルの違う仕事を行う職種の3名に登壇していただきます。
<登壇者>
株式会社プレイド 右田祐二さん
シニアデザイナー。制作会社勤務を経て、クルーズ株式会社にてリードデザイナーとして SHOPLIST立ち上げからクリエイティブのディレクションやUIおよび UXデザインに従事。2016年5月よりプレイドにジョイン。KARTEのUIデザインや マーケティングに関わるクリエイティブ制作を担当。 事業成長を考えたロールに縛られない働き方を軸に、現在はKARTEユーザー自身が自走できる環境を提供するためプロジェクトを立ち上げ奔走しています。
https://plaid.co.jp/
trimdesign 塚原敬史さん
1980年埼玉県生まれ。 トリムデザインとしてエディトリアル / グラフィックデザインを中心に活動。 最近では、DREAMS COME TRUE、ゆずなどのジャケットデザインや隈研吾、 東信、諏訪敦、山口晃といった建築家 / アーティストなどの作品集、 機内誌「翼の王国」、「サーチライト・ピクチャーズ」劇場版パンフレットの デザインなどを手掛ける。
https://www.trimdesign.jp/
Rhizomatiks / Flowplateaux 木村浩康さん
アートディレクター/Webデザイナー Rhizomatiks / Flowplateaux 所属。
東京造形大学卒業後、Webプロダクションを経てライゾマティクスに入社。最新のテクノロジーの知見を取り入れ、さまざまなデータを活用したテックドリブンなデザイン制作を行う。カンヌライオンズ シルバー賞、文化庁メディア芸術祭最優秀賞など多数受賞。
https://rhizomatiks.com https://flowplateaux.com/
「デザインの言語化」は常に意識
ーーまず最初に語ってもらうテーマは「今の役職に必要なスキルとこだわり」。塚原さんの回答は「Adobe Indesign」そして「直感を信じる!」とのことですが、どういった意味なのでしょうか。
塚原さん:僕はエディトリアルデザインをしているので、そのためのツール、Adobe InDesignは使いこなせないとダメですね。1枚のビジュアルを作るのではなく、毎月100ページ以上をこなしているので、スピード感を持って仕事することも重要です。『直感を信じる』っていうのは、自分の制作物にうっとりするぐらい、センスに自信を持っていないとデザイナーには向いてないと思っていて。それで書きました。
ーーちなみに「直感」ってどう磨くんですか?
塚原さん:映画とか音楽みたいに、言葉では説明しにくい『ワクワク』があるものに触れるとかですかね。綺麗な風景を見て感動するとか。それをデザインに落とし込むのは結難しいと思うんですけど、“気持ちのふくらみ”を体験することは大事にしてます。
ーーでは、木村さんに伺ってもいいですか。「デザインの言語化」と書いていただきました。
木村さん:デザインしたものは、言葉にして説明できるようにならないと、やはりつらいんじゃないかなと思っています。視覚伝達ではあるんですけど、それだけだとクライアントも社内の人も説得することができないので。
ーー右田さん、これについてはどうお考えですか。
右田さん:もちろん、共感できます。僕自身、いま一緒に動いている人はデザイン領域の人じゃなくて、ビジネスの領域の人になるんですが、『何でこうなってるか』っていうのをしっかり説明していく必要があります。言語化の意識はしてるんですけど、本当の思いとしては、『ドン!』とこちらから出したものを、一発でOKもらいたいっていう気持ちがありますね(笑)。
ーーそんな右田さんは「ビジネス視点と共創力」ということですね。
右田さん:事業会社にいるので、やはり『事業の成長』っていうのが第一。それには、先ほどもお話したような、ビジネス職のメンバーと一緒に物作りしていくことが前提としてあります。バナーひとつをとってもそうですし、LPを作るにしてもどうやって人が流れてくるか、そういうところの解像度を上げていかなければ、“ただ物を作ってる”人材になっちゃう。“いちビジネスメンバー”としての意識を持つことが大切ですね。
「ハードワーク」が表現の幅を広げてくれた
ーーありがとうございます。では2つ目のテーマに入ります。「自分以外の二人に聞きたいことは?」ということで、まずは木村さんが「20代、30代にやってよかったこと&やっておけばよかったこと」ですが、塚原さんはいかがでしょうか?
塚原さん:以前、いわゆる“ブラック”のような働き方を普通にしてたんですよね。家に帰れない日がずっと続いて、体力的にはきつかったんですけど、それがあったから今の自分があるとも思っているんです。デザインのことにしか興味がなかったから、勤務に時間を割けたっていうのはあるんですけど。ただ、今思えば海外旅行には行っておけばよかったなと。
右田さん:僕もハードワークしていたのは、すごく良い経験でしたね。なんだろう……表現の幅みたいなところを広げてくれたんですよね。やっておけばよかったことは、先ほどちょっと出てましたけど、“デザインの言語化”っていうのを、若いうちから意識してやってればよかったなっていうのがあります。
ーー木村さんご自身はどのように感じていますか。
木村さん:ブラックな働き方のこと、言わない方がいいのかなと思ったら見事に2人とも言ってくれましたね(笑)。その流れで話すんですけど、結局デザインって『筋肉』みたいなもので、誰よりも修練していないと勝てないんですよ。いきなり天才的な人がシュッて書いたものがすごく雰囲気が良くて、『これはデザインとして売れる!』みたいなことがない世界なので。だから、その下積みができたことは良かったですね。
ーー右田さんのフリップは「事業会社への興味(はある?)」です。
右田さん:僕自身、BtoCの事業会社を経て、BtoBの会社に移ったんですが、もう世界が違いすぎて。実際に見てみたいかなと思いまして。
木村さん:どういう開発の仕方で、どういう積み上げをしているのかっていうのは、直接現場に行って見学したいなと思いますね。
塚原さん:僕はアナログ寄りなので、Web上でどんなサービスを作って展開していくのか、いまいちイメージができてないので、その辺はいろいろと伺いたいです。
ーー次は塚原さんのフリップに移りまして、「一番の喜びは?」ということですが。
木村さん:手ぐせで作らず、イチから生み出したものが世の中に届けられたときに、一番喜びを感じます。そのためには、今までやったことない文字組に挑戦してみるとか、今まで使ったことない特色印刷をしてみたり、常に新しい試みを続ける必要はあるかなと思います。
右田さん:いろんな職種の人とともに作ったものが、受け入れてもらえた瞬間が喜びではあるんですけど、その途中でメンバーと阿吽の呼吸が取れたときは、個人的にはもっと嬉しいですね。
ーーちなみに塚原さんの「一番の喜び」は?
塚原さん:僕の場合は編集者であったり、仕事を振ってくださる方が喜んでもらえることが素直に一番嬉しいですね。逆にそこでのリアクションがあまり芳しくないと、結構落ち込んじゃいます(笑)。
AIに脅かされるのではなく「共存していく」
ーー最後、3つ目のテーマは「今の仕事の拡張性とポテンシャル」についてです。まずは右田さんから、「カスタマーサクセス」「新規事業開発の伴走」と書いていただきました。
右田さん:『カスタマーサクセス』っていう言葉は、あまり馴染みがないかもしれないんですが、“顧客が製品・サービスを使うことで成功し、望ましい結果を達成することを支援するビジネス方法”のことです。基本的にビジネス職の人が近いところにいるんですけど、デザインの力でも支援することが可能なんじゃないかと思っていて。自分自身、いま意識して取り組んでいるところです。また『新規事業開発の伴走』ですが、プロトタイプを作る上でも、デザイナーのスキルが必要ですし、実際にお客さんに当てて、どんどんそのプロトタイプを進化させていくみたいなところは、デザイナーの得意な領域ではあるんで、今後の付加価値になっていくんじゃないかなと。
ーー塚原さんは「愚直に!」と、気になる言葉が書かれています。
塚原さん:エディトリアルがメインではあるんですけど、いまなぜか寿司屋さんのリクルートサイトを作ってほしいっていう依頼を受けていて。僕のパッケージを作ったものを見ていいと思って依頼してくれたみたいなんです。今まで自分が積み重ねてきたものが、人に評価されて繋がっていく仕事なので、真摯に続けていれば、自ずと拡張性みたいなものが生まれていくのかなと思っています。
ーーなるほど。では、最後に木村さんのパネルに行きたいんですが……「∞(無限大)」ですかね?
木村さん:はい。いまオープンソースの画像生成AIが生まれたりとかで、有象無象のサービスが世の中に出始めているんですね。そのうち、AIがデザインをおびやかす日が来るんじゃないかとも言われているんですけど、そのたびに、デザイナー自身も少しずつ変容させていって、AIにはできないことをしていくわけで。だから技術だったりメディアが発展すればするほど、デザイナーの生きる場所っていうのは脅かされるんじゃなくて拡張される。無限だなって思うんですよね。
ーー拡張していけばいくほど「デザイナー」っていう言葉も変わっていきそうですね。
木村さん:変わった立ち位置にいるなとは思うんですよね。エンジニアとのコミュニケーションを密にしなきゃいけない立場だし、紙もやれば、デジタルサイネージやオンスクリーンもするし。ちなみに僕は他のアートディレクターの方に入ってもらって、いまは『デジタルプリンティングディレクター』という肩書を名乗ってみたりしていますね。全部浸透しませんけど(笑)
ーーありがとうございます。最後に皆さんより、今回対談してみての感想をお願いいたします。
右田さん:この3人でどういう話になるかっていうちょっと不安だったんですけど(笑)、それぞれ違う視点の話ができてよかったんじゃないかなと思っています。
塚原さん:僕は普段同じような業種の方と交流する機会がなかったので、今日はすごく貴重な意見を聞けて勉強なりました。
木村さん:この3人の会話がどうなるか未知数だったんですけど、見事に噛み合ってすごく面白かったです。これ以上話すと名残惜しくなるところでした(笑)。
※『ジョブクロッシング』はこれで一度区切りを迎えます。配信&動画を見てくれた皆さん、本当にありがとうございました!
撮影/武石早代
文/ヒガシダシュンスケ
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