新米フリーランスに必要な12のこと【12】「法人化は“or”だけじゃなくて“and”もある」

小商いをする人に向けて経営ガイドを行う税理士の松崎怜先生が、新米フリーランスのアパレルブランドのオーナー・鈴木香澄さんに、フリーランスに必要な12のことを1年間に渡ってレクチャーします。最終回となる今回は、フリーランスの人なら必ずといっていいほど思い浮かべる法人化について。「法人化は“or”だけじゃなくて“and”もある」と語る松崎先生の話は、最後の最後まで自分らしく働くためのヒントがたっぷりです!
本日のレジュメ
「法人化は“or”だけじゃなくて“and”もある」
メリットもデメリットもある法人成り。それを踏まえたうえで、所得税+社会保険料+法人税+消費税=最も少なくなるケースをシミュレーションしてから決めるのが吉。個人事業と法人を同時、かつ個別に運用するという選択肢もあるのもお忘れなく。
【目次】
- 法人成りのメリット・デメリット
- フリーランスと法人成り。ボーダーラインの捉え方
- 個人事業と法人を同時&個別に運用することもできる
【CHECK 01】法人成りのメリット・デメリットを理解しよう



そもそも、法人成りのメリットってあるんでしょうか? 個人的には、顧客からの見え方だったり、社会的な信用が上がることかなって思っているんですけど。



フリーランスだと「利益=自分の所得・収入」となり、その全てが課税対象となります。しかし、法人の場合は「利益=会社の利益」であって、その利益を役員報酬として自分に支払うことで利益を法人と個人に分散でき、節税につながるんです。






例えば、法人成りして20年間役員として会社勤めをし、退職金を2,000万円に設定した場合、手取りで受け取れるのがだいたい1,800万円くらい。給与として2,000万円もらうと、半分以上は税金がかかりますが、退職金だとおよそ9割も受け取れるんですよ。
退職所得の計算式
・退職所得の金額=(収入金額−退職所得控除額)×0.5
※この算出した金額に所定の税率をかけると、納税額が算出されます
退職所得控除額の計算式
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数−20年 |
注1:勤続年数に1年未満の端数があるときは、たとえ1日でも1年として計算します。
注2:上記の算式によって計算した金額が80万円未満の場合は、退職所得控除額は80万円になります。
注3:障害者となったことに直接基因して退職した場合は、上記により計算した金額に、100万円を加算した金額が退職所得控除額です。
出典:国税庁HP
所得税の税額表(求める税額=A×B-C)
A課税退職所得金額 | B税率 | C控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁HP


ほかにも、出張などで日当を非課税で受け取れる「旅費日当」や、節税にぴったりな法人専用の保険などが、法人成りのメリットに挙げられますね。





あと、運用にもコストがかかります。フリーランスの場合、頑張れば確定申告を自分で行えますが、法人だと手続きがより複雑なので難しい。そういう税務まわりを税理士にお願いすると、年間で少なくとも20〜30万円くらいの費用はかかりますね。しっかりとした良いサービスを受けたいなら、年間50万円以上が目安です。



【CHECK 02】フリーランスと法人成りのボーダーラインは?



もう少し細かくお話しすると、実質的な税負担率を実効税率といいますが、法人の場合、800万円未満の所得だと25%ほど、所得が800万円を超えたら33%くらいになります。
一方、フリーランスの場合、実効税率は所得税の累進課税に加えて住民税10%が乗るので、所得が700〜800万円だと実効税率が約25%となります。個人事業税の対象となる業種であれば、さらに3〜5%の税率で一定の負担があります。なので、利益が600〜800万円以上の場合を基準にする方が多いんです。



それにしても節税って大切なんですね。


水平方向というのは、働く人員を増やすことで利益を分散して税率を落とすこと。家族を人材として雇えば、世帯としての収入は一緒だけど税負担は軽くなるし、法人成りすればそこに分散することができます。


あと、これは荒技ですが、決算月を変更するという方法もあります。利益がどかんと増える月を翌期になるように決算月を早めてしまうことで、今期の利益を抑えることも可能です。もちろん、何回も使える方法ではありませんけどね。
【CHECK 03】個人事業と法人を同時かつ、個別に運用することも可能!








個人事業で青色申告特別控除65万円を受けつつ、先ほどお話しした役員報酬や社宅などの法人のメリットも受けられたり。だから2つ以上の事業を行う場合は、個人事業と法人の両方を運用するという選択も視野に入れるのもありだと思います。

ちなみに、経営者の諸先輩方から「法人成りしたら、もう逃げられない」なんて言われたりするんですが、やっぱりそうですか?

もちろん、それなりの手間も費用もかかるんですけどね。どんな時も選択肢は1つじゃない。いくつかあるものなんですよね。





松崎先生からフリーランスに必要なメソッド12個を学び、新米フリーランスを卒業した鈴木さん。ほかのジャンルの事業展開も視野に入れ、この先も精力的に活動をしていくそうです。1年に渡ってお届けしたこの連載は、今回で最終回。ご愛読いただいた読者のみなさま、最後までありがとうございました!
松崎怜(まつざき りょう)

鈴木香澄(すずき かすみ)

撮影/酒井恭伸
取材・文/おかねチップス編集部
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新米フリーランスに必要な12のこと【12】「法人化は“or”だけじゃなくて“and”もある」
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