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新米フリーランスに必要な12のこと【12】「法人化は“or”だけじゃなくて“and”もある」

新米フリーランスに必要な12のこと【12】「法人化は“or”だけじゃなくて“and”もある」

小商いをする人に向けて経営ガイドを行う税理士の松崎怜先生が、新米フリーランスのアパレルブランドのオーナー・鈴木香澄さんに、フリーランスに必要な12のことを1年間に渡ってレクチャーします。最終回となる今回は、フリーランスの人なら必ずといっていいほど思い浮かべる法人化について。「法人化は“or”だけじゃなくて“and”もある」と語る松崎先生の話は、最後の最後まで自分らしく働くためのヒントがたっぷりです!

本日のレジュメ
「法人化は“or”だけじゃなくて“and”もある」

メリットもデメリットもある法人成り。それを踏まえたうえで、所得税+社会保険料+法人税+消費税=最も少なくなるケースをシミュレーションしてから決めるのが吉。個人事業と法人を同時、かつ個別に運用するという選択肢もあるのもお忘れなく。


【目次】

  • 法人成りのメリット・デメリット
  • フリーランスと法人成り。ボーダーラインの捉え方
  • 個人事業と法人を同時&個別に運用することもできる

【CHECK 01】法人成りのメリット・デメリットを理解しよう

法人成りのメリット・デメリットを語る松崎先生
松崎先生
1年かけてお届けしてきたこの連載も、今日で最終回です。最後に僕からお話ししたいのは、法人成りについて。鈴木さんはフリーランス2年目となりましたが、法人成りについて考えたことありますか?
鈴木
さん
そうですね。アパレル以外にも挑戦してみたいことも出てきたので、よきタイミングが来たらと思っています。

そもそも、法人成りのメリットってあるんでしょうか? 個人的には、顧客からの見え方だったり、社会的な信用が上がることかなって思っているんですけど。
松崎先生
おっしゃる通りです。もちろん、法人成りする理由は人によってさまざまですが、大きな理由の1つとしては「節税」が挙げられるかなと思います。
鈴木
さん
節税??? それは興味深いです。
松崎先生
法人成りにおける節税の手段の1つとして、役員報酬があります。法人成りして会社を設立すれば、自分に給料が出せるんです。

フリーランスだと「利益=自分の所得・収入」となり、その全てが課税対象となります。しかし、法人の場合は「利益=会社の利益」であって、その利益を役員報酬として自分に支払うことで利益を法人と個人に分散でき、節税につながるんです。
鈴木
さん
なるほど。ほかにもメリットってあるんですか?
松崎先生
あとは、社会保険に加入できることですね。フリーランスだと国民年金への加入になりますが、法人だと厚生年金への加入になるので、将来、受給できる年金が大きく変わってきます。国民年金よりも厚生年金の方が、2〜3倍も多く受給できるとされていますからね。
鈴木
さん
わ、わ、わ。将来のこと考えると、厚生年金に加入できる法人も魅力的ですね。
松崎先生
さらに、社宅の利用もできます。住居の家賃はフリーランスだとすべて自己負担ですが、社宅なら一部の負担で済みます。会社としても経費として落とせて節税になるので、両者にとってメリットが大きいですね。
鈴木
さん
ふむふむ。
松崎先生
そして法人成りの大きなメリットは、将来の自分へ退職金が出せること。退職金は所得税と住民税がかかりますが、その税率がかなり低いんです。

例えば、法人成りして20年間役員として会社勤めをし、退職金を2,000万円に設定した場合、手取りで受け取れるのがだいたい1,800万円くらい。給与として2,000万円もらうと、半分以上は税金がかかりますが、退職金だとおよそ9割も受け取れるんですよ。

退職所得の計算式

・退職所得の金額=(収入金額−退職所得控除額)×0.5

※この算出した金額に所定の税率をかけると、納税額が算出されます

退職所得控除額の計算式

勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円×勤続年数
20年超800万円+70万円×(勤続年数−20年

注1:勤続年数に1年未満の端数があるときは、たとえ1日でも1年として計算します。
注2:上記の算式によって計算した金額が80万円未満の場合は、退職所得控除額は80万円になります。
注3:障害者となったことに直接基因して退職した場合は、上記により計算した金額に、100万円を加算した金額が退職所得控除額です。
出典:国税庁HP

所得税の税額表(求める税額=A×B-C)

A課税退職所得金額B税率C控除額
1,000円から1,949,000円まで5%0円
1,950,000円から3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円

出典:国税庁HP

鈴木
さん
退職金は法人成りの大きなメリットですね。でも自分以外の人を雇用したら、その分の退職金を会社の資金としてプールしとかないとですよね。
松崎先生
退職金の金額や支払いの有無は、就業規則などで決められるんですよ。

ほかにも、出張などで日当を非課税で受け取れる「旅費日当」や、節税にぴったりな法人専用の保険などが、法人成りのメリットに挙げられますね。
この1年でフリーランスとして力をつけた鈴木さん。法人成りへの率直な疑問を松崎先生に投げかけます
鈴木
さん
法人成りにたくさんのメリットがある一方で、デメリットもあるんでしょうか?
松崎先生
まずは、法人の設立費用ですね。お金も手間もかかります。法人設立には司法書士などに支払う報酬なども必要になり、株式会社だと約25万円、合同会社だと10万円くらいが目安だとされています。
鈴木
さん
法人を設立するのは、やっぱりプロにお願いするのがいいんですね。
松崎先生
自分でされる方もいらっしゃいますが、手続きが煩雑なので専門家に頼るのがいいかなと思います。

あと、運用にもコストがかかります。フリーランスの場合、頑張れば確定申告を自分で行えますが、法人だと手続きがより複雑なので難しい。そういう税務まわりを税理士にお願いすると、年間で少なくとも20〜30万円くらいの費用はかかりますね。しっかりとした良いサービスを受けたいなら、年間50万円以上が目安です。
鈴木
さん
う、う、う……。でも、そりゃそうですよね。ほかにもデメリットってあります?
松崎先生
あとは、法人税を支払わないといけません。法人成りすると赤字であろうが、最低でも7万円は必ずかかります。
鈴木
さん
そうですか。法人成りするなら、そのメリット・デメリットを理解したうえで検討しないとですね……。

【CHECK 02】フリーランスと法人成りのボーダーラインは?

「フリーランスの収入がいくらになったら、法人成りするのがいいんですか?」と、素直な質問を投げかける鈴木さん
鈴木
さん
法人成りする場合の目安を知りたいです。フリーランスでいくら以上の利益を出していたら、法人成りすべきなんでしょうか?
松崎先生
これも人によってさまざまですが、よく言われるのは利益が600〜800万円以上出た場合ですね。なぜかというと、フリーランスの所得税と法人の法人税の税率がちょうど重なってくるのがこのラインだからです。

もう少し細かくお話しすると、実質的な税負担率を実効税率といいますが、法人の場合、800万円未満の所得だと25%ほど、所得が800万円を超えたら33%くらいになります。

一方、フリーランスの場合、実効税率は所得税の累進課税に加えて住民税10%が乗るので、所得が700〜800万円だと実効税率が約25%となります。個人事業税の対象となる業種であれば、さらに3〜5%の税率で一定の負担があります。なので、利益が600〜800万円以上の場合を基準にする方が多いんです。
鈴木
さん
へぇ、そうなんですね。よく理解できました。
松崎先生
法人成りするかどうか迷っていたら、所得税、社会保険料、法人税、消費税など、法人成りする場合にかかる税金を鑑みて、自分の事業の現状と照らし合わせてシミュレーションするのがいいと思います。
鈴木
さん
もしその時がきたらやってみます!
それにしても節税って大切なんですね。
節税の基本的な捉え方をレクチャーする松崎先生
松崎先生
ええ。僕が考える節税の基本は、「水平方向」もしくは「時間軸方向」に所得を分散することです。

水平方向というのは、働く人員を増やすことで利益を分散して税率を落とすこと。家族を人材として雇えば、世帯としての収入は一緒だけど税負担は軽くなるし、法人成りすればそこに分散することができます。
鈴木
さん
なるほど、なるほど。
松崎先生
一方の時間軸方向に節税するというのは、先ほどお話しした退職金や保険のように、今手元にある利益を将来に繰り延べること。利益を今ではなく、将来、相対的に税率が低くなるときに受け取ることで節税になりますからね。

あと、これは荒技ですが、決算月を変更するという方法もあります。利益がどかんと増える月を翌期になるように決算月を早めてしまうことで、今期の利益を抑えることも可能です。もちろん、何回も使える方法ではありませんけどね。

【CHECK 03】個人事業と法人を同時かつ、個別に運用することも可能!

法人成りへの理解を深める鈴木さんに、松崎先生から新たなる選択肢があることが告げられます
松崎先生
ここまで法人成りについてお伝えしましたが、実は個人事業を継続しながら、法人を設立するという選択肢もあるんですよ。
鈴木
さん
えっ!!!
松崎先生
それぞれ別の事業であれば、個人事業と法人を同時かつ、個別に運用できるんです。
鈴木
さん
同じ事業じゃいけないんですか?
松崎先生
はい。同じ事業にしてしまうと利益操作ができちゃう場合もあるので、それを避けるための措置ですね。
鈴木
さん
あ〜、たしかに。でも個人事業も法人も運用するとなると、なかなか大変そうですね。
松崎先生
そうですね。ただ、個人事業と法人の2つとも運用するのは、それぞれのメリットが享受できるから、得られるものが大きいんですよ。

個人事業で青色申告特別控除65万円を受けつつ、先ほどお話しした役員報酬や社宅などの法人のメリットも受けられたり。だから2つ以上の事業を行う場合は、個人事業と法人の両方を運用するという選択も視野に入れるのもありだと思います。
鈴木
さん
個人事業と法人の両方のメリットを受けられるのはいいですね。

ちなみに、経営者の諸先輩方から「法人成りしたら、もう逃げられない」なんて言われたりするんですが、やっぱりそうですか?
松崎先生
もし法人を廃業したくなったら、個人事業主に戻ることも可能です。これを個人成りと言ったりします。

もちろん、それなりの手間も費用もかかるんですけどね。どんな時も選択肢は1つじゃない。いくつかあるものなんですよね。
鈴木
さん
そう考えると、心が軽くなります。なんだかこの先も頑張れそうです。
松崎先生
それはよかったです。当初からお話ししている通り、事業活動で大切なのは、目標に向かってどう歩んでいくか。フリーランスを続けるにしても法人成りするにしても、仕事相手を喜ばせつつ、十分なお金を稼ぎながら自分のビジョンや目的に向かって歩んでいってくださいね。
鈴木
さん
はい、これからも精進していきます。先生、1年間どうもありがとうございました! 楽しく学ばせていただきました。
松崎先生
こちらこそです。僕も1年間楽しかったです。鈴木さんはフリーランスとしてこの1年間でメキメキと成長されたので、この先も大丈夫だと思います。ぜひ、事業活動を楽しみつつ、頑張ってくださいね。
松崎先生と鈴木さん、1年間お疲れさまでした!

松崎先生からフリーランスに必要なメソッド12個を学び、新米フリーランスを卒業した鈴木さん。ほかのジャンルの事業展開も視野に入れ、この先も精力的に活動をしていくそうです。1年に渡ってお届けしたこの連載は、今回で最終回。ご愛読いただいた読者のみなさま、最後までありがとうございました!

松崎怜(まつざき りょう)

税理士、創業コンサルタント、財務コンサルタント。税理士事務所ASCOPE 代表、株式会社GO CFO、株式会社&FINANCE 代表、Doppio合同会社 共同代表。1983年、神奈川県生まれ。一児の父。「小商いと、社会を彫刻する」ことをミッションに、小商いがずっと続くように、経営のガイドを行っている。現在は、自身の「クリエイター」「フリーランス」「独立開業/ 創業」といった経験と実践をもとに、小商いの持続可能性を自分ごと化して探求している。

鈴木香澄(すずき かすみ)

1984年生まれ。大学卒業後、スウェーデン発のクリエイティブエージェンシー「GREAT WORKS(グレートワークス)」に入社し、ディレクターとして活躍。2019年に「ロンドンに住むLilly Lee(リリー リー)ちゃんが愛用している服」をコンセプトにしたカジュアルブランド「Lilly Lee(リリー リー)」を創設し、2020年1月より本格始動。

撮影/酒井恭伸
取材・文/おかねチップス編集部

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