お客さまは神様じゃない。創業者の児玉昇司が明かす、今「Laxus」が選ばれるワケ
ブランドバッグを月額6,800円でレンタルできるサブスクリプション型シェアリングサービス「Laxus(ラクサス)」。取り扱っているバッグは4万種類以上と実に膨大ながら、徹底した品質管理と低価格、さらにユーザーのみならずスタッフへの感謝の気持ちも大切する独自の経営スタイルで、今話題を集めています。どうしてこのサービスや経営スタイルにたどり着いたのか。ラクサス・テクノロジーズ株式会社の創業者にして代表取締役会長の児玉昇司さんに、その秘訣を伺いました。
月額6,800円を実現できるのは、社員を守り続けているからこそ
——ブランドバッグのシェアリングサービスを始めようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。
児玉昇司さん(以下、児玉さん):海外でプラスチックなどの廃棄問題が大きく報道されていたことがきっかけです。ここ数年日本でも話題になっていますけど、海外ではそれ以前から問題視されていて、僕らが起業するならそこにきちんと向き合う必要があると思っていました。そんな時に気づいたのが、ファッションが地球のお荷物になっているんじゃないかということでした。安い賃金で子どもたちを働かせて商品を次から次へと作るのに、シーズンが終わるとすぐに廃棄してしまう。でも、ファッション自体をなくすのは現実的ではない。そこで思いついたのが、ラグジュアリーな商品のシェアリングでした。
——児玉さんはサブスクリプション型シェアリングサービス「Laxus(ラクサス)」を2015年にスタートされますが、当初から高級バッグ専門だったのですか?
児玉さん:最初は洋服とアクセサリーで始めようと思い、2013〜14年頃にかけてアイテムをたくさん集めていたんです。だけど、どう計算してもこれでは利益が出ない。それでどうしたらいいか吟味し、高級バッグ1本に絞ることにしました。ただ、当初はこうしたビジネスモデル自体に需要がないのではないか、方針転換しようか、とためらってしまったこともありましたね。
というのも、ラクサスのローンチ前に、社員を集めて「これを6,800円で借りたいと思うか」と質問したところ、全員の回答がノーだったんですよ。「借りてまでブランド品を持ちたくはない」とまで言われてしまったんです。それで「ルイ・ヴィトンやシャネルに興味ないの?」「レンタルなら良くない?」と再度聞いたら、「今の若い人にとってブランドはダサいんです」「プチプラの3万円ぐらいのバッグがおしゃれなんです」って返ってきて。
——社員の方全員に、ですか?
児玉さん:ええ。社員全員に、です。それで僕も「このビジネスは無理だ。もうやめよう」となりまして……。回答してくれた社員たちに、「もうこのブランドバッグいらないから好きなの持っていっていいよ」と言ったら、「じゃあ私はシャネル」「私はヴィトンが良いです」と、喜んで持っていくんですよ。
——んん? 社員の方は興味ないって言いましたよね?
児玉さん:そうなんです。だから改めて質問を「自分で借りたいかではなく、友人知人が借りると思う?」という質問に変更したところ、全員がイエスと答えたんですよ。「私は借りませんけど前職の先輩なら借ります」とか、「私は借りないけど大学時代の友人なら借りる」とか。その心理としては、高級バッグは手が届かないとか、ファッション的に使いこなす自信がないとか、そういうことから「自分は興味がない」と答えてしまうんですよ。そういう深層心理に気づいてからは、「やっぱり高級バッグのシェアリングやれるじゃん」となったんです。
——サービス立ち上げを諦める一歩手前だったんですね。それは危ないところでしたね。
児玉さん:はい。実際にラクサスをローンチしたら、ありがたいことにみなさんに利用していただけたので、あのとき断念しなくて本当に良かったですね。
——ラクサスの月額料金は6,800円ですが、この金額に決めたのはなぜですか?
児玉さん:月額6,800円だとコストが見合わないんじゃないかと、実は当初は29,800円の予定だったんです。だけど、借りる側からしたら、レンタルで月額29,800円だと高過ぎますよね。そこで高くなる理由を排除しようということになりました。
——月額料金が高くなる理由って何ですか?
児玉さん:具体的にいうと、ヤバいお客さんへの対応にお金がかかってしまうんですよ。クレーマーというか、もうちょっとラフな言い方をすると、いばりん坊の人たちですかね(苦笑)。そういう方々は、本来こちらの不手際や責任じゃないことにもあれこれ言ってくるので、その度にオペレーターが謝罪して、その分人的なコストがかかってしまう。だけど、そういういばりん坊タイプのユーザーさんって全体の1%に過ぎないんです。その1%の厄介な人たちを排除すれば、月額6,800円にできると思ったんですよ。
——そのいばりん坊の人たちはどうやって排除したんですか?
児玉さん:そういうユーザーさんだけ、アプリを開くと全商品レンタル中と表示されるようにしたんです。借りられるバッグの在庫ゼロに。そうすると諦めてもう我々のサービスを利用しなくなるんです。
——えぇ! 諦めてもらうには良策ですが、それだと変なウワサを広められたりしませんか?
児玉さん:アプリのレビューに使えないサービスだとかなんとか書かれるんですけど、「借りられるバッグが1つもないクソサービス」とか書かれたら、むしろそこで興味を持ってくれる方もいるんですよ。逆説的に注目されて、新たなユーザーさんの獲得に結びつきました。
——思い切ったやり方ですね。でもその手法ってここで書いちゃっても良いんでしょうか(笑)?
児玉さん:ええ、そういう方々はすでによその類似サービスに移行してますからね。僕らとしても「お客さまは神様です」なんて思っていませんから。ユーザーさんもスタッフも、お互い気持ちのいい関係でいられることが大事なんです。だから僕は、マナーが悪いユーザーさんには、「あなたたちよりうちの社員の方が大事なので退会していただきます」とはっきり言っちゃいますね。
——確かに、ラクサスのWEBサイトを拝見すると、退職されたスタッフさんたちへの感謝のコメントも書かれていて、社員さんを大事にしている様子がよくわかります。
児玉さん:今のラクサスがあるのは、僕1人の力なんかでは決してなく、社員みんなの力があったからこそですからね。こうした姿勢のおかげか、一度弊社を辞めたけど戻ってくるスタッフも何人もいるんです。辞めて復職してを4回繰り返している社員もいますからね。
バッグも仕事もシェアして、働きやすい環境づくりを徹底
——ラクサスは4万種類以上のバッグを揃えていますが、シェアリングならではのニーズってあるんですか?
児玉さん:「購入するにはちょっと」というような、普段買うには至らないけど持ってはみたいといったアイテムが人気です。具体的には、真っ赤なバッグ、真っ青なバッグなど、一度は使いたいけど日常的に使うには躊躇するようなものがよく利用されていますね。買うなら何度でも使えるもの、レンタルなら1回限りだけどインパクトのあるものといった構造なんだと思います。実は、買うよりレンタルの方が価格的にお得だからという理由はあまりなくて、そのときだけ使いたいからというニーズが多いですね。例えば、12,000円のバッグを購入すれば2カ月で元が取れるけど、今だけ使うからラクサスのレンタルでいいんです、という感じです。
——そもそもユーザーは高級バッグの所有はしたくない、ということでしょうか。
児玉さん:それは確実にありますね。2022年の現在に男性だから女性だからという言い方はふさわしくないかもしれませんが、男性というか、いわゆる男性脳とされる方は集めたり所有したりしたがるんです。フィギュアのコレクションとか、いろんな資格を取得したいとか。でも、いわゆる女性脳の方は所有したいのではなく、持っているのを見せて共感されたいという思いがあるんじゃないかと。それで、弊社のユーザーさんは男女関係なく、いわゆる女性脳の方に利用されているということですね。
——所有するのではなく、ある種の承認欲求を満たしたい方が増えたというのもありそうですね。
児玉さん:そうですね。本質的なところで言うと、あれもこれもしたいという価値の多様化があると思います。僕が大学生の頃は小説ばっかり読んでいて、その他の着る物や食べる物もなんでもいいというような、何か1つだけ極めるタイプの人間が多かったんですけど、今はそういう人は減ってきた。高度経済成長期には冷蔵庫とテレビと洗濯機で三種の神器といって、日本ではどの家にもこの電化製品があるのが当たり前になりましたし、さらにはマイカー、マイホーム、果ては別荘の所有まで一般化しかけましたけど、今後はそういう時代でもなくなってくると思います。あれもこれもとなると所有してばかりはいられませんからね。
——そういう時代背景も関係しているんですね。また、ラクサスさんでは自社で用意したバッグだけでなく、ユーザー所有のバッグをレンタルするCtoCサービス(消費者間の商業取引)もやられていますよね。
児玉さん:CtoCサービスを行う理由は2つあって、ラクサスでは4万点のバッグを用意していますが、それでもユーザーさんへの貸し出しに追いつかないというのが1つ。もう1つは、新作バッグに限らず、どんな時代のアイテムでも需要があるということに気付いたからなんです。ユーザーからは、高級ブランドの新作バッグを使いたいのではなく、今使っているのとは違うバッグを使いたいという要望が多いんです。
——過去のアイテムに需要があるとしても、各ブランドから新作は出続けていますよね。新作に需要が集まるものではないんですか?
児玉さん:各ブランドのヘビーユーザーは、これまでに発売されたアイテムをすでに持っているから新作が必要なのであって、新作こそが最高というわけじゃないんです。それにブランドをずっとウォッチしている人じゃなければ、本当にそれが新作かどうかもわからないですからね。
さらに、ブランドバッグを所有している方だってずっとそれを使い続けるわけじゃないけど、だからといって処分できるとは限らない。誰かからのプレゼントだったり、思い出のあるアイテムだったりしますからね。そこでCtoCサービスを活用して自分で所有しながらも、使っていないバッグを利用できるシステムを提供したわけです。
——CtoCサービスを活用するとき、自分のアイテムが貸し出した先で汚されるのでは?という心配がよぎることもありますよね……。
児玉さん:そもそも汚されたらイヤだと思われる方は貸し出そうとしないですし、そういう事故の発生率も実はものすごく低いんですよ。1%にも満たないくらいです。先ほどお話ししたようにわざと汚すようなユーザーさんは排除しちゃいますから、どうぞご安心ください。
——心強いです(笑)。なんだか児玉さんの発想って効率的ですね。
児玉さん:効率重視でいうと、バッグの管理もそうです。弊社の所有するバッグは全てICタグを入れているので、戻ってきた順番に並べてスキャンすればそこがそのバッグの置き場所になるんです。バッグそれぞれに住所を設定していないので、置き場所を間違えて行方不明になるということもありません。
このシステムを導入してからは、紛失ゼロなんですよ。自分で言うのもなんですけど、驚異的な数字ですよね(笑)。こうしたテクノロジーを積極的に使うことで、スタッフ10人でも対応できなかった業務を2人で対応できるようになりました。ただ、このことで雇用を減らしたわけではありません。
——といいますと?
児玉さん:人生っていろんなことが起こるじゃないですか。例えば、家族に介護が必要になって、週休3日にせざる得なかったり。人員に余裕が出たことで、そうした社員の要望に応えることが可能になったんです。バッグをシェアするように、仕事もシェアして、働ける人は働く、休む必要がある人は休みを取りやすくする。僕たちの会社では、そういう環境も実現できるようになりました。
——勝手なイメージですが、伸びている企業だけにガンガン働くスタイルかと思っていました。
児玉さん:僕自身、かつてはそういう価値観でした。だけど、世の中が変化しているんだから、企業もそれに合わせて社員ファーストで考えるべきだと思ったんです。弊社では有給も100%取ることを推奨していますしね。
プランはシンプルに、品数は豊富に
——現在、ラクサスのプランは月額6,800円だけですけど、ほかのプランを打ち出したりはしないんですか?
児玉さん:僕はビジネスはシンプルであるべきだと思ってるんです。価格のプランが1つだけなのも、扱う商品をバッグだけにしているのもそういう考えからです。基本的にビジネスを設計する人って、複雑なプランを作りたがるんですよね。いろいろなお客さまに合わせてカスタマイズしやすいようにする。要は、時代が多様化しているからそれにマッチさせるために複数のプランを作るということなんでしょうけど、本来ユーザーに最適なものを提案するのがサービスを提供する側の仕事なんです。プランの複雑化は、我々がやらなきゃいけないことをユーザーに放り投げているだけなんですよ。
——では、ラクサスでは今後もプランは1つだけですか?
児玉さん:ラクサスとしてはそうですね。実は別の価格帯のプランもあるんですが、それはブランド自体を分けているんですよ。そうすることで、ユーザーさんがわかりやすく利用できるんです。
——なるほど。サブスク・シェアリング業界を牽引する児玉さんにだからこそお聞きしたいんですが、現在、業界での課題はありますか?
児玉さん:サブスクというシステムの問題としては、月額固定だけど使い放題ではなく回数制限が設けられていたり、解約しづらいというのは問題ですよね。ああいうのは悪徳ですし、サブスク業界全体として考えるべき課題かと思います。あとは僕もかなりいろいろやってきた方ですけど、20代の経営者が手がけるシェアリングビジネスなんかを見ていると、発想がさらに新しくて興味深いですね。集客方法も僕らとは全然違って、Instagramの投稿だけでユーザーを集められるから、そもそもの集客の方法なんて考えていなかったりして。めちゃくちゃ勉強になりますよね。
——シェアリング業界で活躍している若い世代の方との交流もあるんですか?
児玉さん:彼らが相談しに来てくれるんで、こちらからもいろいろ質問しているんです。それでわかってきたのは、やっぱり中途半端なやり方じゃダメなんだなということ。ユーザーの平均に合わせたサービスを作るのではダメなんです。嫌われないけど好かれもしないものより、嫌われる方がまだマシ。嫌われたら1周回って好きになってもらえたりもするので。
——ここまでお話伺って児玉さんは無双感が凄まじいなと思ったのですが、これまでの一番の失敗ってあるんですか?
児玉さん:やはり、先ほどお話したラクサスローンチ前の社員アンケートでしょうか。あれで一度、このビジネスを諦めようと思いましたからね。それを踏まえて、弊社では社員に対して「年末までに10回失敗して」というような指示を出しています。「下手な考えやすむに似たり」って言うじゃないですか。最初から成功を目指すと考えすぎて準備しすぎて、動き出すまで3年とか5年とかかかっちゃうんですよ。だったらさっさと起業して失敗して、そこから学べばいいんです。
——4度も起業を経験された児玉さんならではの言葉ですね。では、最後に今後の目標などがあれば教えてください。
児玉さん:まだまだサブスクとかシェアリングといってもわかってもらえない国もあるので、一度売ったものを9割の価格で買い戻すというスタイルの事業を、これまで進出していなかった国でも展開していこうと考えています。このビジネスはすでに進出し撤退したケースもあるので、そういう反面教師を参考にしながら、アイテム数や場所を増やして、よりシンプルにサービスを提供していきたいですね。コロナが落ち着いてきたので、世界を目指すならこれからがチャンスだと思っています。
児玉昇司(こだま しょうじ)
広島県広島市出身。1995年に早稲田大学入学半年後に最初の起業を経験。その後、会社売却などを経て、自身4度目の起業となるラクサス・テクノロジーズ株式会社を2006年に創業。2015年2月、毎月定額で有名ブランドバッグが無限に使い放題(貸したり借りたり)になるサブスクのC2Cファッションシェアアプリ「Laxus(ラクサス)」をスタートする。
Laxus:https://laxus.co
児玉さんのTwitter:@shoji_kodama
撮影/武石早代
取材/おかねチップス編集部
文/田中元
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お客さまは神様じゃない。創業者の児玉昇司が明かす、今「Laxus」が選ばれるワケ
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