お金に関する悩みを抱えたフリーランスや若手経営者が扉を叩く、「チップスくんのお金の相談室」。請求書の作り方や税務関係など“初心者あるある”なお金まわりの悩みからリアルに困っているお悩み相談まで、「おかねチップス」のどSマスコット・チップスくんがわかりやすく指南します。
今回相談に訪れたのは、Twitterで「自撮ラー女子」として注目を集め、いまではライター・エッセイストとして人気を確立した「りょかち」さん。
長年、IT企業で企画職を務めつつ副業で活動していましたが、今年7月に独立したばかりだそうで。新米フリーランサーとして、きっといろいろ気になることがあるのではないでしょうか。その悩み、チップスくんにぶつけてもらいましょう!
相談【1】源泉徴収されるときとされないときがあるのはどうして?
5年間「会社員」と「エッセイスト」2足のわらじを履いてきたりょかちさん。まずは現在の状況を教えてもらいました。
チップスくん、はじめまして。りょかちと申します。最近会社を辞めてフリーランスライターとなりました。主にコラムやシナリオを書いて暮らしています。また、会社員としてずっとWEBマーケターやプロダクトマネージャーをしていたので、IT企業のお手伝いも少しだけしています。
社会人6年目を迎えて、だんだん両方の仕事で求められるレベルが高くなってきたんです。このままだと、どちらも中途半端になってしまうから1つに絞ろう、自分の得意なことを伸ばしていこうと思いまして。
お金まわりのことでいうと、これまで会社がやってくれていたことを1つずつ調べないといけないのが大変だなって思っています。保険はどうなるんだろう、とか。調べても難しいことばかり書いてあるし、ケースバイケースなことも多いし、「わからん!」ってなっちゃって……。
基本的な質問になっちゃうんですけど……、源泉徴収って何なんですか? 引かれるときと引かれないときがあって、「そもそもこれは何のためのものなんだろう?」と思いながら、クライアントに言われるがまま請求書に記載しています。
えー。わからないまま、請求してるのはよくないね。じゃあ、まずは源泉徴収税とは何なのかを説明するよ。
まず、源泉徴収とは、源泉所得税という税金を徴収すること。所得税の分割払いと前払いが合体したものと思ってもらうといいかな。
確定申告によって所得税額を確定する前に、税金を払っているということですか?
そのとおり! 事前に引かれているから、確定申告によって差額を精算するんだね。
確定申告で戻ってくる還付金ってそういうことなんだ。……でも、なんで分割して払うんですか? 確定申告後に払えばよくないですか?
いい質問だ! 源泉徴収は、もともと戦時中に戦費を調達するために始まったんだ。
源泉徴収額の計算方法
<支払われる報酬額が100万円以下の場合>
報酬額×10.21%
<支払われる報酬額が100万円を超える場合>
(報酬額-100万円)×20.42%+100万円×10.21%
確定申告を待っていると、国に収入が入ってくるタイミングが年に1度だけになっちゃうでしょう。それだと緊急の出費に対応できないし、最終的に収入がいくらになるかの目処がつきにくい。効率的かつ効果的に税金を集める目的で、源泉徴収という仕組みが導入されたんだ。
ただ、デメリットもあるよ。それは、国民の納税意識が希薄になってしまうこと。とくに会社員だと、毎月天引きされていた源泉所得税を、年末に確定した年税額と比較して所得税額の過不足を調整してくれる”年末調整”があるから、「自分の意志で納税している」という感覚が薄いでしょ。過去に、「源泉徴収制度は民主主義に不可欠な参政意識を育むことを阻害する」として、裁判になったこともあるんだよ。
へえ〜! 源泉徴収の制度について、よくわかりました。でも、源泉徴収されるときと、されないときがあるじゃないですか。それはどうして?
源泉徴収される項目は法律で決まっているよ。原稿料やデザイン料、撮影料などはそれに該当するから、クリエイターは源泉徴収されることが多いだろうね。講演料も該当するよ。
コンサルティング費は該当しない。ただ、コンサルティングという名目で原稿を書いたり、講演をした場合は話が別。源泉徴収しなければいけなくなるんだよ。実態通りに徴収しないといけないんだ。
なるほど……?? それってつまり、実態通りに請求しないといけない、ということですか?
あ、違う違う。源泉徴収の義務は、支払い側に課せられるものなんだ。だから支払いを受ける側は、源泉徴収するかどうかクライアントに委ねるしかないんだよ。源泉徴収に対して間違った知識を持っているクライアントがいるかもしれないけど、「本当は源泉徴収しないといけないのに怠った」場合、罰則を受けるのは支払側だけだから安心して。
よかった……。ちなみに、私が誰かに仕事をお願いしたときは、源泉徴収をしないといけないんですか?
個人事業主として1人でやっているなら、源泉徴収しなくても大丈夫だよ。ただ、個人事業主でも人を雇ったり、法人になった場合は、源泉徴収の義務が発生するから気をつけて!
そっか。ちなみに、ほかに源泉徴収の必要がない項目って何かありますか?
変わったところでいうと、WEBデザインは源泉徴収する必要があるけど、WEB制作やプログラミングは必要ないとされているね。
おそらく、法律ができたときはまだプログラマーという職種がなかったからじゃないかな。
それが更新されてないんだ。結構適当なんだなぁ……。
源泉徴収されなければならない報酬
- 原稿料、講演料、デザイン料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士等へ払う報酬
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手、プロサッカー選手、モデル等に支払う報酬
- 芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払われる報酬
- 宴会等で接待を行うコンパニオンへ支払われる報酬
- プロ野球選手の契約金など役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
相談【2】フリーランスのための情報ってどこに載っているんですか?
りょかちさん、源泉徴収に対する理解が深まったようですね! さて、次の相談は?
コロナ禍で、対象者には一時支援金や月次支援金が給付されていますよね。私はそれをTwitterで知ったんですが、「みんなどこでそういう情報を見つけているんだろう?」と不思議に思っています。フリーランスが見ておいたほうがいいサイトってありますか?
情報は能動的に手に入れにいかないといけないよ! 待っているだけじゃダメだからね。
しょうがないなぁ〜。公的な支援制度を知りたいなら、経済産業省や中小企業庁、都道府県や市区町村のサイトに直接アクセスするといいよ。
おすすめは、経産省・中小企業庁が運営している中小企業向け補助金・総合支援サイト「ミラサポplus」。ちょっと開いてみてよ。
「よく見られている補助金・給付金」だって! まさに求めていた情報です!
でしょ。自分にあった支援制度を探すことができるし、登録している専門家に相談することもできるよ。
便利! でも、専門家への相談って、費用はどれくらいかかるものなんですか?
相談内容と相手によるね。成果報酬で5〜10%としているところも多いかな。
まずは「よろず支援拠点」へ相談するのがいいんじゃないかな。国が設置している無料の経営相談所で、何度でも無料で相談することができるよ。
こんなところがあるんだ、知らなかった〜。誰も教えてくれないんだもん……。
公共サービスが認知されてないっていうのも問題だよね。ほかにも、税理士やファイナンシャルプランナー、中小企業診断士が初回は無料で相談に乗ってくれたりするよ。そこで相性のいい専門家が見つかったら継続して依頼するのもアリだよね。
ちなみに、もし会社を設立して人を雇うようになったら、厚生労働省のサイトを確認しよう。雇用や人材育成、労働環境の整備などにかかる費用が助成される助成金の情報が載っているよ。
相談【3】個人クリエイターの場合、会社にしたほうがいい? 個人のままでいい?
わからないことはどんどん聞いて、アドバイスは素直に受け入れるりょかちさんの姿勢に、チップスくんもノッてきた様子。チップスくんから、逆質問が飛び出しました。
っていうかさ、りょかちさんは、ずっとフリーランスの予定?
それ、ぜひ相談したいです! このまま個人事業主でいるか、会社を設立したほうがいいのか迷っていて。どういう状況になったら、法人にしたほうがいいんでしょうか?
じゃ、個人事業主も法人も両方やるのはどう? ちょっと難しいけど、それぞれのメリットが享受できるよ。
両方!? その発想はなかったです。まず、それぞれのメリットを教えてもらえますか?
個人事業主のメリットは、事務負担が少ないこと。確定申告も、事業所得くらいだったら自分でできないことはない。でも、法人にすると事務手続きが難解だから、専門家にお願いする場合がほとんど。税理士費用だったら、安くても年間30〜50万円かかるだろうね。
法人をつくるメリットは、まず社会的信用が高くなること。個人事業主の場合、一定の所得があって、ちゃんと税金を払っていて……といった実績がないと、お金や家を借りたり、クレジットカードをつくったりするのが難しいんだ。法人じゃないと受けられない仕事もあるしね。
あと、法人は節税の選択肢が増えるのもメリットだよね。たとえば、住居を借りるときに会社で社宅として契約すれば、家賃の自己負担額は1〜2割で済むことも。車も法人で契約すると会社の経費になるよ。もちろん、仕事で使うことが大前提だけどね。
理解! でも、個人事業主と法人を両方やるといいというのは、どうしてですか?
まず、法人にすると、自分に役員報酬を支払うに当たって社会保険に加入しないといけなくなる。会社員の場合、社会保険料が給料から天引きされるでしょ。実は、同じ金額を会社も出してくれているんだ。ということは、会社を設立して自分に役員報酬を支払うと、社会保険料が倍かかるということ。
ん? でも、個人事業主でも社会保険料を払いますよね?
個人事業主の場合、国民健康保険と国民年金を払うのが一般的だよね。国民健康保険はだいたい所得の10%程度で、国民年金は月1万6千円程度で固定。一方、会社を経営していたら、役員報酬の約30%分の社会保険料を払わないといけない。金額が全然違ってくるでしょ。
ほう……? じゃあ、個人事業主のままでよくないですか?
ところが、個人事業主には税率の高い所得税の論点がある。所得税は利益、つまり所得に応じて段階的に税率が上がって、最大で45%もかかる。加えて、住民税も10%ぐらいかかるし、業種によってはさらに個人事業税が3〜5%かかったりもする。一方、法人だったら法人税は30%ちょっとで止まるし、所得税や住民税がかかる役員報酬の金額も一定のルールに則って自分で設定できる。整理すると、所得税・住民税・個人事業税・法人税・健康保険料・年金保険料が合計で小さくなる位置を探ることが重要なんだ。
そこで、考えられるひとつの方向性は、個人事業主として稼ぎながら法人でも事業をして、個人と法人で利益を分散しつつ、法人側では低い役員報酬を自分に払う。そうすると、低めの社会保険料で厚生年金に加入できるうえに、さっき伝えた法人のメリットをすべて享受できるんだ。もちろん、個人事業主の大きなメリットである最大65万円の青色申告特別控除も活用できるよね。
ただ、注意点がひとつあるよ。個人事業主と法人で、同じ事業を行うのはNGなんだ。
だって、どっちに売上をつけるか選べる状態だと、意図的に税負担を減らすことができちゃうでしょ。それは明らかに法律違反。だからりょかちさんだったら、たとえば、個人事業では執筆活動を、法人ではプロジェクトマネージャーの事業を行う、というようなわけ方で考えるのがいいんじゃないかな。
大体いくらぐらい稼げるようになったら、個人事業主と法人の両輪で活動するといいですか?
その基準は難しいところだけど、2つの仕事のうち片方の利益が300〜500万円ぐらいに成長してきたら検討を始めるといいかな。利益が小さいうちだと、法人化してもコストばかりかかっちゃうし、利益を分散しても効果が低かったり、所得が低すぎても社会的な信用が得られないからね。または、年商が1,000万円を超えるとその2年後から消費税がかかるから、その少し手前で検討するのもひとつのタイミングかも。でも、本質的には、自分の目標や生活水準によって必要なお金が異なるはずだから、そこから逆算することをオススメするよ。
なるほど、ありがとうございます。早くいっぱい稼げるようになりたい!
相談【4】フリーランスで妊娠・出産するのが心配。対策はありますか?
法人化を視野に入れ、意欲を見せるりょかちさん。でも、1つ心配ごとがあるようで……?
この先、結婚や出産をしたとして、会社員だったらいろいろ保障がありますよね。フリーランスってどうなるんですか?
まず、会社員であってもフリーランスであってももらえるのが「出産育児一時金」。現在は1児あたり42万円もらえるよ。
会社員の場合、さらに産休のときに健康保険から出産手当金が出たり、育休のときに雇用保険から育児休業給付金が出たりして、産前産後の給料がいくらか補填される。それが会社員の特典だよね。
ただ、1つだけ朗報がある。2019年2月から国民年金の免除制度ができたんだよ。これは産前産後4カ月分の年金を免除するというもので、約1万6千円×4カ月だから額としては大きくないけど、働き方の多様化に合わせて新しく策定された制度だね。
少しずつ変わってきている部分もあるんですね。ちなみに、自分で会社をつくった場合はどうなるんですか?
社会保険に加入すれば、出産手当金はもらえるよ。ただ、社長は雇用保険に加入できないから、育児休業給付金はもらえない。
そっかぁ。じゃあ、やっぱり自分で産前産後働けない期間の分のお金を貯めておかないとですね。
まぁ、フリーランスや経営者は会社員と違って自分の裁量で休んだり働いたりできるから、育児の隙間時間で仕事をしている話をよく耳にするよ。
はい。法人化の話も自分で調べたりしていたけど、詳しい人に聞いたほうが早いし確実だなって思いました。手厳しさもあったけど、チップスくんに教えてもらえてよかったです!
そう言ってもらえてボクも嬉しいよ。お金まわりのことで困ったことがあれば、ぜひまた相談に来てね。いつでも待ってるよ!
撮影/武石早代
取材・文/飛田恵美子