お金に関する悩みを抱えた人たちに、お節介だけど心やさしい「おかねチップス」のマスコットキャラクター・チップスくんがアドバイスを授ける「チップスくんお金の相談室」。
今回のテーマは、初心者でもできるという資産運用「NISA」と「iDeCo」。昨今「老後2,000万円問題」が話題となっていますが、そういった状況に備えて貯蓄を増やす方法として注目されています。とはいうものの、そもそも「NISA」と「iDeCo」ってなんのこと? どういう仕組みなの? 将来に不安を抱えるWEBデザイナーの廣木優理さんが数々の疑問をぶつけつつ、「NISA」と「iDeCo」をやるべきか否かを考えます。
うまい話なのに裏がない? 国家主導の資産運用
はじめまして。会社員としてWEBデザイナーをしている廣木優理と申します。茨城県の水戸在住で、シングルマザーとして4歳の娘を育てながら仕事をしています。学資保険には入っているんですが、今後娘に私立の学校や美大に入りたいと言われてしまったらどうしようという不安がありまして……。
今日はその辺りのアドバイスをいただけるとのことで期待しています。チップスくん、どうぞよろしくお願いします。
こちらこそよろしく!
確かに物価は上がるのに給料が上がらないなんて毎日ニュースでも言われているもんね。銀行に貯金したところで金利は本当にちょっとで、年間0.01%程度。廣木さんの娘さんが大学入って学費が必要なくなるまで16〜7年程度と考えて、その間の金利なんて、いくら預けるかによって違うけどおそらく何百円って程度にしかならないだろうしね。
う、う、う……。すごくやばいですよね。いっぱい貯金があるわけでもないから金利も少ないし、私みたいな庶民はちょこちょこ貯金していくしかもう道はないのかな。一発逆転みたいな奇跡が起こらない限りは難しいのかな……。
うーん、今から貯金をして利息でどうにかって考えているんなら甘いかもね。しかも、銀行の場合、ATMを営業時間外とかコンビニとかで使うと手数料もかかっちゃうから、せっかく利息がついてもそれ以上のコストがかかっちゃうこともあるよね。
タンス貯金の方がまだマシな気がしてきますね。WEBデザイナーとはいえ会社員だから、給料は一定だし、その中でやりくりしていくしかないし。どうしたらいいんでしょうか???
だったら今話題の「NISA」や「iDeCo」を使ってみたらどう? もちろん、知ってるでしょ?
ニーサ……イデコ……。どっかで目にしたことはあるような気がしますけど。
知らないかぁ。
「NISA」と「iDeCo」というのは、投資の一種なんだ。まずそれぞれの口座を開設して、資金となるお金を口座に預けて運用商品を選ぶ。すると投資のプロがその資金を使って株式などを売買し、その利益が入ってくる仕組みなんだ。しかも非課税なんだよ。
なんですか、それ。そんなうまい話があるわけない。詐欺だ、詐欺だ!
あるの! 国主導でやってるの!
廣木さんにしっかり理解してもらうために、もうちょっと詳しく説明するね。
まずは「NISA」を学んでみよう!
それじゃあ、まずは「NISA」から伝えていくよ。これはヨーロッパでスタートした非課税投資システム「ISA」の日本版のこと。
毎月一定額を積み立てて、それを資金として運用し利益を増やしていくんだ。世の中、あらゆることに税金がかかるでしょ。給料もあれこれ天引きされているし、所得税や住民性も利益に対して支払わなきゃいけない。株などを売買して得た利益だって、普通は課税されるでしょ。
それでも投資の資金運用はまだ優遇されている方で、通常のものでも20.315%(復興特別所得税含む)。約20%の税金で済んでいるんだよ。
それでも十分すぎるぐらい大きい気がしますけど。だって本当なら500円もらえるはずが、課税されて手元に入るのは400円ってことでしょ。
まあね。だけど、さっき言った通り、「NISA」で資産運用をすると、そこで得られた利益に対しては非課税になるんだ。その上限もあって、「NISA」なら年間120万円、「つみたてNISA」なら年間40万円まで対象になるよ。ちなみに「NISA」と「つみたてNISA」の違いはこんな感じ。
「NISA」と「つみたてNISA」の違い
| 最大期間 | 非課税で投資できる上限 | 対象商品 |
---|
NISA | 5年間(最長10年) | 120万円/年間 | 海外・国内株式、投資信託 |
つみたてNISA | 20年間 | 40万円/年間 | 条件を満たす投資信託のみ |
「NISA」と「つみたてNISA」というのがあるんですね。しかし違いはあれど、こんなに税制が優遇されるんだ。絶対やった方がいいじゃん。今から手続き行ってきます。どこにいけばいいんですか?
ちょっと待って! 絶対儲かるなんてうまい話があるわけないって言ったの、廣木さんでしょ? 実際その通りで、全部が全部メリットしかないわけでもないんだ。そういうこともこれから話すから、最後まで聞いて!
ええとね、「NISA」は毎月いくらか口座にお金を積み立ててそれを元手に運用されるんだけど、利益は出ることもあれば、運用がうまくいかないケースだってもちろんあるんだ。10万円積み立てて利益が1万円出る、なんてのは理想的だけど、積み立てた10万円が運用した結果9万円になっちゃった、なんてことだって起こり得る。そういうリスクがあることを念頭においたうえで、「NISA」をやるかやらないか決めてほしいんだ。
そもそもこの場合の投資って、何に対して投資しているんですか?
良い質問だね。基本的には日本企業の株や海外企業の株が複数入ったものがパッケージとしてまとめられていて、選んだパッケージに入っているものに投資する、ということになるんだ。個人で1つの銘柄ごとに売買するよりも幅広いところに分散する形で投資するので、その分柔軟性があるし、大損もしづらいんだ。
ふーん。もう1つ聞きたいんだけど、さっき投資のプロが売買するとか言ってたけど、それってどういうことですか?
それは投資信託のことだね。意味は文字通り、「投資を信じ託す」ということ。「NISA」で選んだパッケージが、たとえば電気自動車銘柄のものだったとするよね。そうすると、投資のプロが電気自動車関連から数十銘柄に絞って売買・運用をしてくれるんだ。
「NISA」に積み立てている人は投資のプロにお任せして、利益が出たら還元されるという仕組みなんだよ。
なるほど。旅行に例えると、全部自分でスケジュールを組むから自由度は高いけど、手間がかかるバックパッカー旅行みたいなのが銘柄単体の売買で、効率的にあちこち巡ることができるツアー旅行みたいなのが投資信託ってこと?
その通り! いい例えだね。投資信託だと「NISA」でそのパッケージを選んだ人たちの総額を共同出資というかたちになるから、個人だと扱えないような銘柄も売買できるしね。
投資ビギナーにとっては個別株式よりも投資信託の方が安心な気がしてきたな。
でしょ。もちろん常に儲かるわけじゃないってことはさっき話した通りなんだけど、プロが分散投資するだけに、上がるにしても下がるにしても極端な動きは少なく、安定感があるのは間違いないんだ。
チップスくんが教える「NISA」のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|
運用で得た利益が非課税になる | 非課税となる期間の上限が決まっている |
いつでも現金化できる | 個別の株式に投資できない(つみたてNISA) |
投資信託や海外・国内株式など選べる商品が豊富にある | 運用がうまくいかない場合もある |
プロが投資するから安定感がある | 手数料がかかる |
もう1つの年金システム「iDeCo」もおすすめ!
もう1つの「iDeCo」っていうのは、「NISA」と何が違うんですか?
「NISA」の場合は、毎月お金を積み立てながら運用することでさらに貯金を増やしていくことが目的で、いつでも自分の都合の良い時に引き出せるんだけど、「iDeCo」は「個人型確定拠出年金」といって、その名の通り年金、老後の蓄えを目的としているものなんだ。
「NISA」は都合の良い時にお金を引き出せるってことは、「iDeCo」はそうじゃないんですか?
うん。毎月積み立ててそれを資金に運用するという点は「NISA」と同様だけど、「iDeCo」は原則として、60歳以降にならないと引き出すことはできないんだ。
会社で厚生年金にも入っているのに、「iDeCo」の加入も必要ですか?
確かに、細かいことはよくわからないけど、厚生年金で入ってくる金額だけじゃ暮らしてくのはなかなかきついって話もちらほら聞きますよね。
だから、通常の年金とは別に自分のお金を積み立てて、もう1つの年金とするのが「iDeCo」なんだ。
しかも、「NISA」以上のメリットがあるんだよ。
「NISA」は利益分が非課税って話はさっきしたよね? 「iDeCo」はそれに加えて、積立金も非課税になるんだ。
そうそう、お得になるんだ。
具体的には、「iDeCo」に積み立てた分は所得から控除されるんだよ。たとえば、月々5,000円を「iDeCo」に積み立てると年間6万円になるよね。1年間の所得が仮に500万円だったとすると、そこから6万円控除されて年間所得が494万円という扱いになり、所得税や住民税はその額面から計算される。だから、その分お得になるってことだね。
ふふふ。そうでしょ。
控除額の大きさから考えても、「NISA」と「iDeCo」どちらかだけ始めてみるということなら、ボクとしては「iDeCo」がおすすめだね。もちろん「NISA」と同じく上がり下がりはあるので絶対に儲かるとは言えないんだけど、ちょっとずつ積み立てて元手を増やしながらプロが投資運用する以上、大勝ちはしなくてもそれなりの結果がついてくる。それは、これまでのデータからほぼ間違いないし、少なくとも貯金の利息よりはずっといいはずだよ。
月5,000円から始められるよ。もちろん、毎月拠出できる掛金には上限もあって、自営業者など第1号被保険者なら月額6.8万円まで、第2号被保険者のなかでも企業型確定拠出年金のない会社の社員のなら月額2.3万円と決まっているよ。
1つだけ注意点があるとしたら、入れる年齢に上限があるってことぐらいかな。年金なので65歳未満じゃないと入れないよ。ちなみに「NISA」は年齢制限ないけどね。
チップスくんが教える「iDeCo」のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|
運用で得た利益が非課税になる | 原則、60歳までお金を引き出せない |
積み立てると住民税と所得税の負担が減る | 加入年齢は65歳未満 |
月5,000円からはじめられる | 個別の株式に投資できない |
「NISA」と「iDeCo」はどうやって始めたらいいの?
ところで「NISA」も「iDeCo」も、入ろうとするならどこで手続きしたらいいんでしょうか?
今一番多いのは、ネット証券で口座を開設する人たちだね。でもネット証券だとオンラインだから、直接疑問点を聞きながら手続きしたいなら、メガバンクや郵便局でも始められるよ。
へぇ〜。元手が多ければ多いほど良い気がするんだけど、いくらでもいいんですか?
証券会社や銀行によって上限下限は異なるので、それを確認してからどこで口座を開設するのか決めるといいかもね。ただ、元手が多ければ多いほど良いかっていうと、そこはどうかなあ。
「NISA」も「iDeCo」も、あくまでも将来設計のためのものでしょ。なのにそこにばっかりつぎ込んで、今現在の生活を圧迫するんだったら本末転倒だよ。あくまでも普段の生活に無理のない範囲で積み立てていくのが賢いやり方だよね。
それに積立額は随時変更できるから、たとえばひとまず5,000円とか1万円からスタートして、1年様子を見てどれぐらい上下したか判断して、今後の積立額を検討するというのもいいんじゃないかな。
そうですね。あとはどの商品を選ぶかが大事そうですけど、チップスくんのおすすめってある?
うーん、基本的に「NISA」と「iDeCo」で扱っている銘柄は金融庁が絞り込んだものだから、どれを選んでも問題はないんじゃないかな。
ただ、繰り返しになるけど、投資成果はあくまでも未来のことなので絶対に上がるとは言い切れない。でも、基本的に問題のないと思われる商品が最初からパッケージに入っているので、確約はできないけど安定感はある、そういう感じだね。
じゃあ、その都度、経済の動きも把握しておいた方がいいですか?
そうだね。あとは誰かに相談するのがいいかも。資産運用とか投資商品については証券会社の人とかが詳しいからね。ファイナンシャルアドバイザーとかに相談するものいいと思うよ。
資産運用の方法ってほかにもいろいろあるけど、投資初心者だったらプロに任せる投資信託がいいと思うんだ。だって国が認めた制度だし、非課税という特典もあるし。だから第一歩としてはやっぱり「NISA」と「iDeCo」がいいんじゃないのかな!
そうですね。将来への不安はあるけど、知識ゼロじゃなくなったし、大人の仲間入りのためにもやってみるのもいいかも。ちょっと元気が出てきました。ありがとう、チップスくん!
廣木優理(ひろき ゆうり)
1986年生まれ。茨城県出身。多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科卒業。
都内デザイン会社のWEBデザイナーとして、コーポレートサイトや商品、イラスト、UX/UIデザインなどを担当する。国際的なWEBデザインアワードの受賞歴を持つ。ユーザビリティを考えつつも、キュンとするワクワク感をデザインに加えるのが得意で、将来は忍者屋敷のようなWEBサイトの制作を目論む。現在はシングルマザーで4歳の娘と猫1匹と暮らしている。
撮影/武石早代
取材・文/田中元
監修/GBFアドバイザーズ株式会社