企業の広報担当者にとって、重要なPR方法の一つであるプレスリリース。各社さまざまな工夫を凝らしていますが、昨今はどんなプレスリリースに注目が集まっているのでしょうか。今回は、現役の広報担当者の4名に、「一番バズったプレスリリース」について、あれこれ伺いました!
ブロードマインド株式会社 広報・冨永冴季さん
「受け取り手に寄り添った情報をお届けしています」
冨永冴季さん
ブロードマインド株式会社 広報担当。広報歴は約3年。内容が難しいと嫌厭されがちな金融サービスを、同社のサービスだからこそ解消できる課題や、なぜその課題に立ち向かうのか、また課題をどのように解消するのかといったことを、わかりやすく具体的に伝えることをモットーにプレスリリースを配信している。
――これまでに最も注目されたプレスリリースは何ですか?
当社が開発・提供する
『ブロっこり』というサービスに関するプレスリリースです。『ブロっこり』は企業従業員向けの福利厚生サービスで、動画コンテンツを中心としたラーニングプラットフォームを提供しています。なぜご注目いただけたかというと、
サービスの紹介よりも、このサービスの重要なコンセプトである「ファイナンンシャル・ウェルビーイング」という概念や重要性を伝えられるよう意識したことが大きいと思います。
――「ファイナンンシャル・ウェルビーイング」とは、どんな概念なのでしょうか?
現在〜将来にわたってお金の健康の見通しが立てられていて、人生を楽しむ選択肢が確保できている状態のことを指します。この概念は欧米では国策になっているほど認知されていますが、日本ではあまり知られていない言葉だったため、プレスリリースでもサービス概要よりもまず「ファイナンンシャル・ウェルビーイング」について丁寧に記載しました。
また、導入企業さまの声やアンケート結果なども継続的に発信しながら、この概念の啓蒙に賛同してくださるメディアの方を見つけるようにしてきたのですが、その複数のメディアの方に取り上げていただきました。
――客観的に見て、注目された要因は何だと思いますか?
1つは話題性だと思います。「ファイナンンシャル・ウェルビーイング」はウェルビーイングの構成要素の1つといわれていますが、健康経営を包含するウェルビーイング経営というテーマには注目が高まっていましたし、『ブロっこり』の軸となる金融教育というテーマとしても、高校で義務化されるなど社会的重要性が喧伝されていたタイミングだったと思います。
また、『ブロっこり』というネームのキャッチーさも、ダイレクトにサービスへ興味を持っていただける要因の1つになったと感じています。この名前は、社名の「ブロードマインド」の“ブロ”に、受講者の笑顔を連想させる“にっこり”が合わさってできたものです。野菜のブロッコリーは欧米では「健康の象徴」ともいわれており、“お金の健康を支援できる”サービスというダブルミーニングになっているんです。そういったこともあり、メディア関係者だけでなく、他社の広報の方や弊社のお客さまから「ブロっこりって可愛い名前だけど何?」と聞いていただくことも増えました。
――「これはやられた……!」と感じた他社のプレスリリースは?
各所で話題になりましたが、
Soup Stock Tokyoさんの「離乳食提供開始の反響を受けまして」というプレスリリースです。昨今企業の発信に対してもSNSを起点として多様な意見が届けられるようになりましたが、それぞれの意見に耳を傾けることも重要ですし、こういった批判的な投稿に対しては「意見を受け止め今後に活かす」という対応や回答が一般的とされていると思います。
ただ今回のSoup Stock Tokyoさんの場合は、謝罪や方針変更ではなく、企業理念に立ち返り自分たちの考えや目指すものを丁寧に、あえてプレスリリースで伝えていらっしゃいました。そうした
一貫した企業姿勢が何より企業の想いを伝える機会になり、いっそうファンが増えたのではないかと思います。
ブロードマインド株式会社
「金融の力を解き放つ」をパーパスに掲げる、人々のライフプラン実現をサポートする金融サービス開発カンパニー。保険・証券・住宅ローンなどを横断して提供可能な金融コンサルティング『マネプロ』をはじめ、ファイナンシャル・ウェルビーイング(経済的な幸せ)の実現をサポートする金融教育プログラム『ブロっこり』など、これまでの金融業界の既成概念に囚われないサービスを開発・提供している。フィナンシャルパートナーとして“誰のための金融か”を問い続け、「あるべき姿の金融」を社会に実装することを目指している。
株式会社サーキュレーション 広報・竹内美晴さん
「自社ならではの情報を発信しています」
竹内美晴さん
株式会社サーキュレーションでの広報歴は2年。同社では経営者や事業責任者のお客さんが多く、いわゆるBtoBの無形商材を扱うが、プロシェアリングは社内にも深く入り込んで担当者の方とプロジェクトを遂行するモデルとなっている。ステークホルダーとなるビジネスパーソンの人たちに、プロシェアリングの価値を広く知ってもらうため、「働く人びと」に興味を持ってもらえるような独自の情報を発信することを心がけている。座右の銘は、「人間万事塞翁が馬」。
――これまでに最も注目されたプレスリリースは何ですか?
――プレスリリースを広く周知させるために行ったことは?
「働きやすさ」を考えたときに、リモート環境や高い報酬が望ましいというのは当然上位に上がってくると考えていましたが、こうしたある種の「機能的価値」だけで案件を選ぶ人ばかりではなく、「情緒的価値」でも重視されている条件があるのではないかと仮説を立て、このプレスリリースを発信しました。心がけたのは、現場のコンサルタントが「お客さまやプロ人材の方に伝えたい」と感じてもらえることですね。「PR TIMES」を活用し、一般の皆さまにも広く見ていただけるよう工夫しましたが、社員が自発的にSNSなどで紹介してくれたことも心強かったですね。
――「これはやられた……!」と感じた他社のプレスリリースは?
リクルートワークス研究所が4月に発表した
「未来予測2040」です。働き方全体に対して予測を行った上で、専門家でなくとも内容が理解できる工夫が施されていて、大変勉強になりました。わかりやすい文章やインフォグラフィック、ストーリーが盛り込まれている点がとても気になりました。
株式会社サーキュレーション
「世界中の経験・知見が循環する社会の創造」というビジョンのもと、外部プロ人材の経験・知見を複数の企業で活用するプロシェアリング事業を運営。高い専門性を有するプロ人材の経験・知見を雇用ではなく、プロジェクトベースで活用いただくことで、企業の抱える課題の解決、ミッションの達成を支援する。20,000名以上のプロ人材のリソースから、企業の経営課題・業界・成長フェーズ・社風・経営における理念・思想を鑑み、企業に最適なプロ人材を選出、課題解決プロジェクトチームを組成。登録している20代から70代のプロ人材は、インタビューを実施し、独自の人材アセスメントにより、スキル・経験・志向性・人物について適正な評価・知見を蓄積している。2014年設立以来、導入実績は4,121社/13,597プロジェクトを数える。(2023年1月末時点)
株式会社IVRy 広報・Kさん
「プレスリリースは、タイミングと話題性が要です」
Kさん
広報・PR歴は9年。プレスリリースでの発信では、受け取り手にとってわかりやすく、この会社・サービスのことをもっと深く知ってみたいと思っていただけることを常に意識している。座右の銘は、「おもしろきこともなき世をおもしろく 住みなすものは心なりけり」。
――これまでに最も注目されたプレスリリースは何ですか?
――客観的に見て、注目された要因は何だと思いますか?
いかに時流に合わせて、スピード感を持って公開できたかという点が最も大きかったと思います。
――どのようにプレスリリースを作成されたのでしょうか?
今回のプレスリリースを発信したのが今年の3月13日ですが、動き始めたのは実は3日前なんです。OpenAI社が公開した「ChatGPT」に関するAPIを活用して、当社AIエンジニアがChatGPTと電話で会話できる本機能のデモを作成したのが3月10日夕方で、「これを上手く情報として加工して、世に出すことができれば話題化を狙えるのではないか」という仮説のもと、当日夜にはプレスリリースを出すために動いていました。
――着想から3日後にプレスリリースを発信されたのですね。そのスピード感で発信が実現できたのはなぜですか?
電話を使った技術と音声認識の技術の知見が元々あったことと、それを早い速度で開発するアジリティの高さ、及びソフトウェア開発基盤が準備できていたことが大きかったと感じています。ちょうど「ChatGPT」のAPI公開や社会実装が最も話題になり始めていたタイミングかつ、「GPT4」の噂なども出ていたタイミングだったので、世の中のアーリーアダプター層の関心も最も高かったのではないかと。
また、一部の人にとっては少し難しい印象のあった「ChatGPT」に対して、”普段当たり前に使っている電話で簡単に触れられる”というコンセプト自体も時流とマッチしていたと思われます。コミュニケーションのあり方を変えるべく、電話DXに常日頃から取り組む当社だからこそ、仕掛けられたプロジェクトであると自負しています。
――「これはやられた……!」と感じた他社のプレスリリースは?
株式会社IVRy
フロントオフィスDXを推進し、安価に誰でも利用できる電話DXサービス『IVRy』を提供。電話応答の分岐を自由に設定でき、AI自動応答やSMS返信・電話転送・アプリ転送・顧客管理(CRM)といったフロントオフィスの業務を支えている。2020年11月のリリースから約2年半で5,000アカウント発行・500万着電を突破し、日本の中小企業・スモールビジネスを中心として、様々なDXを推進する。
株式会社クラス 広報・小林美穂さん
「会社と社会の架け橋になるために」
小林美穂さん
広報歴は約6年。株式会社クラスの広報専任3年、前職で3年。トップ画像、タイトル、ワード選び、内容、配信タイミングなど、プレスリリースへのこだわりはひとしお。また、自社やサービスのことを知らないユーザーが読んでもわかりやすいよう、端的な表現にも定評がある。一般的ではない用語はなるべくわかりやすい日本語にして、誰が読んでもプレスリリースだけで理解できる内容にすることを心がけ、「広報は“通訳のような存在”であること」を大切にしている。
――これまでに最も注目されたプレスリリースは何ですか?
――プレスリリースを広く周知させるために行ったことはありますか?
商品説明の文章と画像だけでなく、人気アイテムTOP5、お客さまの声、説明動画、3DのGIFアニメなどを入れ込んで、少しでも商品のことが伝わるように工夫をしています。
また、5月30日「ごみゼロの日」、11月27日「組立家具の日」などの記念日に合わせて配信するなど、リリースタイミングもこだわりました。
――客観的に見て、注目された要因は何だと思いますか?
「CIRCLE」シリーズの家具は、パーツ単位で管理しているため、部分的に破損したり劣化し利した場合でも、パーツ交換によって商品を廃棄することなく、より長くお使いいただくことが可能です。循環することを前提にデザインしているので、家具やインテリア関連をはじめ、女性向けのファッション紙やライフスタイルメディア、SDGs関連に興味関心のある方など、幅広く注目されています。2023年6月時点で累計約5,000点お使いいただいており、自社開発商品のため、高品質な家具をお求めやすい価格で利用できるのも、人気が高い要因だと思います。
――「これはやられた……!」と感じた他社のプレスリリースは?
スタートアップ企業は、資金調達のプレスリリースは注目されやすく、弊社でも常にPV数が高い傾向にあります。なかでも、
ノンデスクワーカー向けの現場DXプラットフォーム「カミナシ」さんの資金調達プレスリリースは、「やられた!」と思いました。まず、アイキャッチ画像だけで企業がどんな方向を目指しているのかストーリーが伝わってきます。さらに、コーポレートムービーなどのコンテンツも非常にわかりやすく、ビジョンとともにサービス内容も伝わってくるのも素晴らしい。コーポレートPRをうまく活用している点は、いつも参考にさせてもらっています。
株式会社クラス
家具と家電のレンタル・サブスク「CLAS(クラス)」は、個人・法人向けにライフスタイルや環境の変化に合わせて、必要なときに必要なものが月々440円(税込)から使える自由さを提供し、お客さまのQOL(生活の質)や生産性の向上に寄与。返却された商品は修繕やクリーニングを施して次のお客さまへ再レンタルし、廃棄を回避。大量生産・大量消費の生活様式を見直し、SDGs12「つくる責任 つかう責任」達成に向け、サステナブルな循環型の「所有しない利用」を促進、「持たない、捨てない社会」の実現を目指す。
対象エリア:東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・大阪府・京都府・兵庫県※
※大阪府・京都府・兵庫県は一部地域を除く。今後拡大予定。
取材・文/おかねチップス編集部