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先輩起業家に聞く、起業に踏み切る原動力|澤田経営道場コラムvol.11

先輩起業家に聞く、起業に踏み切る原動力|澤田経営道場コラムvol.11

若手起業家を育成する澤田経営道場で、起業に向けて日々勉強に励む山下楓美香さん。前回は、道場の先輩である株式会社dec boc代表の小栗紬さんから体験談を聞きました。

今回も引き続き、先輩道場生の体験談をお聞きします。株式会社GLiN代表の占部智久(うらべ ともひさ)さんはパナソニック株式会社に13年間勤めた後、道場入門を経て起業したという経験の持ち主です。山下さんは、既婚者でお子さんもいる占部さんの決断力の秘訣に興味があるようで……?

13年勤めたパナソニックを辞めて起業した理由

大企業に勤めながら起業に踏み切った、株式会社GLiN代表の占部智久さんにお話を伺います!
山下
さん
占部さん、今日はよろしくお願いします!
占部
さん
こちらこそよろしくお願いします。私の体験談が少しでも参考になればうれしいです。
山下
さん
占部さんはお子さんが3人いらっしゃる身で、10年以上勤めた大企業を辞めて起業したんですよね。もし失敗したら失うものがたくさんあるのに、決断できる意志の強さを感じました。それで、お話を聞いてみたいと思ったんです。
占部
さん
ありがとうございます。そうは言っても、はじめに「起業しようかな」と思ってから2年くらいは悩んだんですけどね(笑)。
山下
さん
そうだったんですか!? その辺りの迷いの吹っ切りかたも含めて、今までの経験を聞かせてください!

「日本人は海外で尊敬されている」ことを知ってもらいたい

山下
さん
占部さんが起業しようと思ったきっかけは何だったんですか?
占部
さん
前職のパナソニックに13年間勤めたうち、はじめの6年間は国内向けの営業をしていて、その後に海外事業を担当することになりました。それで海外へ出てみて、カルチャーショックを受けたんです。
山下
さん
カルチャーショック???
占部
さん
私が行ったのはフィリピンだったんですけど、新興国で貧しくてもみんな楽しそうに働いているんですよね。それって経済も伸びていて、「今まさに成長しているんだ」と実感できるからだと思うんです。
山下
さん
成果が目に見えると「もっとがんばろう!」って楽しくなりますもんね。
占部
さん
私自身も働いていてめちゃくちゃ楽しくて、「成長するのってこんなに楽しいんだ」と初めて気付きました。それで、この「成長する楽しさ」をもっと味わいたくなったんです。

あともう1つ海外に出て驚いたことなんですが、日本人って海外、とくにアジアや東南アジアではすごく尊敬されているんですよ。
山下
さん
えーっ、そうなんですね。国内では「日本は海外に比べて経済成長していない」と悲観する人が多いので、意外です。
占部
さん
この話をすると、今みたいにみんな「えーっ」って言いますね(笑)。実際に行った人なら「そうだよね、わかる」と言ってもらえると思います。
海外からの日本の評価を語る占部さん
山下
さん
どういうところが尊敬されているんですか?
占部
さん
まず、歴史的にヨーロッパと対峙してきた唯一の国であるという点。それと、高度成長期に経済大国としてアジアの中で非常に発展した点。
 
それから、向こうで技術指導をしてきた日本人の先輩方のあたたかい人間性も要因の1つだと思います。
山下
さん
日本人としては、日本と日本人を好きでいてくれるのはうれしいですね。
占部
さん
ですよね。だから私は、日本人のみなさんにもっと海外の人たちのことを知ってほしいし、海外のみなさんにも、もっと日本のことを知ってほしいと思ったんです。
山下
さん
そうですね。みんなきっと喜ぶし、元気がでると思います。
占部
さん
「日本は経済成長していない」と悲観的になっている日本人でも、もっと海外とつながって「実はこんなに尊敬されているんだ」ということを知ってもらえば、自信を持てますよね。そうすれば、きっと日本社会も明るくなりますし、経済成長の著しい海外のいいところをもっと取り込めるのではと思っています。

だから、海外と関わりを持つ人を増やす事業を始めようと思ったんです。

自分の将来に直結することなら、勉強はこんなにも楽しい!

山下
さん
占部さんが澤田経営道場に入ったのはどういうきっかけからですか?
占部
さん
先ほども言った通り、海外から帰ってきてからも「起業しようか、どうしようか」と2年くらい悩んでいたんですよ。そのときに、たまたま何かのWEB記事で澤田経営道場を知りました。

その頃は大企業に勤めていて、自分と同じく起業しようとする人が周りにいなかったので、正直「起業する」ということに対してピンときていなかったんです。だから、具体的に起業のイメージを固めたいと思って入門しました。
山下
さん
道場で印象に残っている講義はありますか?
占部
さん
道場に入って一番よかったと思っているのは、学ぶことの楽しさを知れたことです。学生時代は勉強ってつまらないと思っていたんですけど、自分のやりたいことに直結する勉強はこんなに楽しいのかと、新鮮な驚きを得ました。
山下
さん
自分ごと化すると楽しくなりますよね。
占部
さん
新規事業の作り方だけではなく、政治・宗教・地政学など、すべての学問が将来の起業につながっていくんだと思うと、どれも楽しかったです。だから、印象に残った講義は全部ですかね(笑)。
山下
さん
すべてを将来の起業につなげようという姿勢だからこそ、つなげて活かせる部分もあるんじゃないでしょうか。私も見習わないと。
占部
さん
自分ひとりだけで学ぶのではなく、同期の道場生5、6名で意見のキャッチボールをしながら学ぶのが本当に楽しかったです。最初の半年間の座学講義で、自ら積極的に学ぶことの楽しさを知れたのが一番の収穫だったと思います。

熱量の高いチーム結成! ……そして、挫折

山下
さん
起業するにあたって、まずはどんなことから始めたんですか?
占部
さん
やはり英語がネックで海外に出られない日本人が多いということで、教育分野の事業を作ろうと計画を始めました。完璧に知っている業界ではなかったので、まずは業界について徹底的に調べました。実際に何十人もの人から直接話も聞きました。
山下
さん
話を聞かせてくれる人とは、どういう風にコンタクトを取るんですか?
占部
さん
ビザスクさんのような有識者に話を聞けるサービスや、Yentaさんのようなビジネスマッチングアプリを使っていました。

無料でアンケートを取ってある程度ターゲットをしぼり、顧客課題をヒアリングさせてくれる人を探す有料サービスで深堀りしたりもしていましたね。
山下
さん
ビジネスマッチングアプリは、前回小栗さんも使っていたと言っていました。
占部
さん
そうやって業界のことや想定顧客のことを相当研究した上で、どういう戦略で行こうか計画したんです。「海外とつながる」という世界観から始まった事業なので、もちろん海外の人ともつながりました。
山下
さん
海外の人とつながるのって、どうしたらいいんですか? 海外勤務経験がない人でもできることってあります?
占部
さん
私の場合、フィンランドの教育系オンラインサロンに入りました。フィンランドの教育ってすごく有名なんですよ。すると、つながりのつながりでフィンランドのエデュテック(教育×IT)系企業のCEOともつながることができました。
山下
さん
えーっ、すごい! オンラインサロンに入るだけでそんなにどんどんつながれるとは思えないんですが、どうやったんですか?
占部
さん
「こういうことがやりたい」というのを周りに積極的に発信していたのがよかったんだと思います。スキルが高い人が集まってきてくれて、熱量の高いチームができ上がりました。
 
……でもですね、結局事業はうまくいかず、このチームは解散してしまったんです。
山下
さん
ええっ!? どうしてですか???

解決すべき顧客課題の理解不足がつまずきの原因だった

占部
さん
今振り返ってみると、一番大切な顧客課題の解像度が非常に低かったんだと思います。業界についてはいろいろ調べたんですけどね。
山下
さん
でも、顧客課題をヒアリングできるサービスでちゃんと話も聞いたって、さっきおっしゃってたじゃないですか。
占部
さん
今思えばヒアリング量も全然足りなかったと思いますし、「こういうことをやりたい」という計画が先行してしまって、実際の現場の困りごとを計画に後付けで整合させようとしてしまっていたんです。
 
道場でそれはいけないと教わっていたはずなんですけど、いつの間にか忘れていたんですよね。
失敗点や反省点を包み隠さずに教えてくれる占部さん
山下
さん
実際にやってみると、教わった通りにはいかないものですよね……。
占部
さん
ペルソナを作る際も、複数人から聞いた話のうち、自分のやりたいことに都合のいい部分だけをツギハギして、存在しない人物像を作り出してしまっていたんです。点でいいとこ取りをしていただけで、顧客を立体的に捉えられていなかったといいますか。
山下
さん
自分に都合のいいペルソナを作り上げてしまうのは、あるあるのミスだと第4回の谷田先生もおっしゃっていましたね。
占部
さん
本来なら、たくさん話を聞いた中から「ここだけはみんな同じ」という共通点を見つけ、それを始点に普遍的なパターンを見つけなければいけなかったんですよ。
山下
さん
共通点を重ねていけば、実在しそうな人物になりますもんね。
占部
さん
結局私は道場で教わった「起業家に1番大事なのは旗を立てること」という言葉をはき違えていたんだと思います。
 
例えるならば、桃太郎が「鬼を倒しに行こう!」と旗を立ててみたものの、鬼の居場所が分からなくて右往左往してしまうようなものです。この場合、鬼の居場所=顧客課題ですね。
山下
さん
それは……イヌ・サル・キジも困ってしまいますね。
占部
さん
鬼がどこにいるか分からず東奔西走しながら探し続け、なかなか事業がうまく立ち上がらなかったんです。最初は熱量が高かったメンバーも次第に熱量が落ちてきて、最終的にチームは解散しました。
 
旗を立てるのが大事なのはもちろんのこと、「旗を立ててチームをどこへ導くのか」まで考えなくてはいけなかったんですよね。今でも当時の仲間たちには感謝の気持ちでいっぱいです。

一歩踏み出したら景色が変わる。起業を迷っている人へのアドバイス

起業したいけれど不安を抱える人へのアドバイスも
山下
さん
前職の大企業での経験は、起業に役立っていますか?
占部
さん
基本的に全部役立っていますよ。基本的なマインドやノウハウは活かせています。
 
さらに、前職でうまく成果を出せた時のプロセスを今冷静に振り返ってみると、現場に深く入り込んで、現場の意見をしっかり聞いて、現場視点で顧客課題をつかめていたことが多かったように思います。顧客課題が一番大切だというのは共通していますね。
山下
さん
その前職を辞めるのってかなり大きなプレッシャーや負担があったと思うんですが、怖くはなかったですか?
占部
さん
キャリアを捨てるということに対する怖さはありませんでした。

それよりも、13年間勤めて、それまで本気で私を育ててくれた何人もの上司の方や先輩方に申し訳ないという気持ちがありました。起業の決断をするまで2年悩んだというのは、そこがなかなか吹っ切れなかったためです。
山下
さん
いい会社・いい上司だからこその迷いですよね。ちなみに、奥さんは反対しなかったんですか?
占部
さん
いや〜、事後報告でしたね。今は「早くいっぱい稼いで」と発破をかけられています(笑)。
山下
さん
仕事のキャリアや大切な家族など、失うものや守るものがあって起業を迷っている人に、占部さんからアドバイスはありますか?
占部
さん
最初の一歩を踏み出すのには勇気がいりますが、そこを踏み出してみると景色が変わります。私自身、失敗もたくさんしましたが、無理やりにでもとにかく動いてみたのは間違いではなかったと思っています。
山下
さん
失敗できるのも、動いてみたからこそですもんね。
占部
さん
反省点は数々あれど、動いたこと自体は後悔していません。動かなかったら反省点もわからなかったわけですからね。
 
今は大企業に勤めながら起業する人や、副業をしている人も増えています。私が会社を辞めた4年前とは環境も変わってきているので、チャンスといえるのではないでしょうか。

志を高く持てば、くじけず夢に進んでいける

占部さんの話を聞いて、さらにポジティブな気持ちが湧き上がった山下さん
山下
さん
占部さん、今日はありがとうございました! 私も勇気を持って一歩踏み出してみたいと思います。
占部
さん
澤田経営道場の道場訓に「志高く、夢大きく」というのがありますよね。「こうしたい」という志があると、最初の一歩を踏み出す行動力につながるし、上手くいかない時期もくじけにくくなります。
山下
さん
「志」、つまりこの連載でも先生方がよくおっしゃっている「意志」ですね。
占部
さん
精神的にしんどいこともありますが、やはりやり続けることが重要だと思います。山下さんもこれから楽しいことも大変なこともたくさんあると思いますが、志を高く持って、くじけずに進んでくださいね。
山下
さん
はい、がんばります!

10年以上勤めた大企業を辞めて起業した先輩の体験談を聞いた山下さん。前職でのキャリアは断ち切ったのではなく、立ち上げた事業にもいかされていると学びました。次回も引き続き、澤田経営道場の先輩起業家たちに創業期を振り返ったアドバイスをお聞きします。ゲストは変な商社株式会社 代表取締役のホ ヨンジュさんです。

占部 智久(うらべ ともひさ)

パナソニック株式会社にて国内外の家電商品を担当したのち、澤田経営道場5期生として入門。2020年にグローバル人材を育成する株式会社GLiNを設立。グローバルに繋がる人材を輩出し、個々人が主体的に生きる社会創出を目指し活動中。
株式会社GLiN Webサイト:https://glin-corp.jp/

山下 楓美香(やました ふみか)

株式会社JALスカイ退職後、インド旅行中にバイク事故でリハビリに8か月かかる大怪我を負う。生死に関わる経験を経て、助かった命を多くの人の力になるために使おうと起業を決意。2021年、7期生として澤田経営道場に入門。

取材・文/内島美佳

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