「THE MATCH」は、世間を賑わせるビジネスやお金にまつわる話題をテーマに毎回ゲストインタビュアーをお招きし、対談形式(対決形式)で語り合うコーナーです。
第4回では、ソースコード記述不要の“ノーコード”でWeb制作ができるプラットフォーム「STUDIO」を提供するSTUDIO株式会社のCEO・石井穣さんと、大手企業のWebサイトを多数手がけるデザイン会社QUOITWORKS Inc(クオートワークス)代表のムラマツヒデキさんの対談が実現。今やあらゆるビジネスに欠かせないWebデザイン制作について、最前線で活躍するムラマツさんとプラットフォーマーの石井さんにそれぞれ違った立場から語っていただきました。 Webサイトの変遷から今のWebデザインに必要なこと、ノーコードデザインツールはデザイナーにとって脅威となるかまで、刺激に満ちた対談となりました。
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情報発信の民主化により、 Webサイトの領域や価値が変化
――石井さんは学生時代にWeb制作会社などで働いた後、旅行系スタートアップの創業・事業譲渡を経て2016年にSTUDIOに参画。翌年2017年に「STUDIOプロジェクト」をMBOし、以降STUDIO株式会社のCEOに就任。一方、ムラマツさんは2007年頃からWeb制作会社で働き、2015年にQUOITWORKS Incを設立し、今も自らもデザイナーとして活躍しています。これまでに数々のWebサイトを作ってきたお二人ですが、昔と今で変わったと大きく感じることはありますか?
昔はWebという媒体を通しての初めての体験が多く、新鮮だったと思います。ネットワークを利用し不特定の人が関わることができるコンテンツや、Webの先進的な技術を利用した広告など、テレビや紙の時代では作ることができなかった体験が多くあり、目を輝かせて自分でも作りたいと夢見ました。
でも、今や新しいことを体験できる場はWebに限らず、テクノロジーを使った体験型イベントや、VR、ネットゲーム、Youtube、SNSなどに取って代わられてしまった気がしています。そして、これらは必ずしもWebデザインを伴わないのが特徴かと思っています。
確かにそうですね。そうした変化により、Webデザイナーに求められることも変わりましたか?
単純にWeb制作の領域が狭くなってきていると思います。昔はすべてがWeb制作の領域で、インターネットを制していたとも言える(笑)。でも今は発信することを一つの方法とした時に、YouTubeやSNSなどに領域が細分化された。今のWeb制作だけの領域って、日本地図で言うと北海道くらいなんじゃないかな、と。
だから自分の領域を広げようと、僕はSNSやYouTubeでの情報発信を積極的にやっています。Webの制作の専門家でありながら、インターネットにおける他の領域でも戦えることで独自の価値が生まれるんじゃないかと思っているんですよね。
では、インターネットの領域が分散されたことは、良いことと言えるんでしょうか?
良い悪いではなく、客観的にインターネットの民主化が起きたということ。昔はインターネットで何かを発信したいなら、ホームページを作ることがマストだった。それが、今は各自が好きな方法やプラットフォームを選んで簡単に自由にインターネットで発信できるようになってきた。ソースコードを書いて作る、ノーコードで作る、YouTubeやSNSで発信する。予算と希望に応じて選べる選択肢が増えましたよね。
――その点では、例えばネットでモノを売るということをとっても、Webサイト制作に多額の投資は必ずしも必要ない。インスタのショッピング機能からBASEを活用するなど、新しい気軽に使えるツールがたくさん増えましたよね。
そうそう。このことを恐怖と感じるのか、新しいことが増えて嬉しいと思うかは、その人のインターネットリテラシーによると思います。Webデザイナーの仕事は、トータルのボリュームで言ったら減っているはず。小規模な飲食店はWeb制作会社に発注せず、食べログやSNSでいいじゃんってなりがちだし、YouTuberの多くはホームページを持たない。あらゆる業界でこうしたことが起きているから、昔ながらのWeb制作をしている人は危機感を覚えていると思いますね。
僕も少なからず危機感はだいぶ前から感じています。ただ、すべて1から作るWebの制作がなくなっていくという話ではなくて、わざわざ1から作るほどの価値を生めているのか? 提供できているのか?といったことにこだわることが今は重要になってきていると思います。
そうですね。だからこそ、Webサイトに対する価値や重要性の理解は進んできていると感じます。特に大企業は、以前にも増していいSNSとは違う役割として、Webサイトをしっかりと作ろうという気運が高まっていますよね。
ノーコードで目指す表現により早く到達できる「STUDIO」
ーーでは、そんなWeb制作の領域や価値が変わるなか、ノーコードWeb制作プラットフォームの「STUDIO」はどういう立ち位置を目指して開始したんですか?
STUDIOが目指しているのはノーコードで簡単に Webサイトが作れるだけでなく、ムラマツさんのようなプロのデザイナーさんのクリエイティブを加速させること。それが「STUDIO」の一番の狙いです。
僕自身が昔デザイナーだったとき、簡単に Webサイトが作れるツールはたくさんありましたが、積極的に使いたいと思わなかった。なぜならテンプレートベースのツールが多く、表現が限られてしまい、作りたいものを作れないから。
その点、「STUDIO」はデザイナーが作りたいデザインを自由に作れるカスタマイズ性に加え、ノーコードで目指す表現により早く到達できるのが強みです。自身がデザイナーだった背景もあり、単純作業をノーコード化することで減らして、デザインに集中できる機能を追求した作りになっています。
ぶっちゃけると僕は今のところ仕事ではノーコードのツールは使っていないのですが、「STUDIO」はもちろんリリース当初から注目しています(笑)。所感ですが、「STUDIO」って、ちゃんと知識がある人しか使えない「プロ仕様」ですよね。
おっしゃる通り。Webサイトのレイアウトの基礎知識や、CMSの知識がないと使いこなすのは難しいと思います。最初の頃は、初心者向けのノーコードツールだという印象を持たれがちでした。でも、「STUDIO」でいいサイトを作る方の大半がプロのデザイナーだったので、プロ向けに打ち出し方を絞り、高水準のニーズに応えられるようにプロダクトを発展させています。
めちゃくちゃ独自性があるなと感心しながら、いつもチェックしています。
ちなみに、ムラマツさんは実制作ではコーディングは外注されていますか?
そうですね。うちのお客さんは大企業、もしくはこだわりが強い企業が多いので。既存のシステムやテンプレートを利用したパッケージ開発ではなく、ゼロから作るフルスクラッチ開発で、オーダーメイドでしかできないWeb制作をしています。昔はコーディングも自分でやっていましたが、そこまでスキルがなく、自分のできる範囲内でしかデザインできないと困ると思って、外注にシフトしたんです。
コーディングとデザインを1人でやらない方がいいというお考えなんですね。
はい。だって、手持ちのカードの中だけで最強を出す戦い方は、弱いじゃないですか。得意ではないコーディングを自分でやると、自ずとできることの中で考えるのでデザインの幅は狭まります。本来、「何でもできる」というフラットな状態で仕事を受け、「それをどうやって実現するか」というプロセスに力を注ぐべきなんです。
とはいえ、エンジニアに「ここだけ直して! お願いします!」って毎回言うのも大変(苦笑)。「STUDIO」を使って、実装まで自分でできたら気持ちいいだろうなぁとは思いますね。
もちろん、使いたいとは思ってるんです(笑)。
今、使っていない理由としては、「STUDIO」でできる限界値を知るのに時間かかってしまうから。いろいろな機能を試して表現力の限界を知った上でないと、「STUDIOにハマるデザイン」はできないので。
「STUDIO」ってスクラッチ開発に比べて、圧倒的に早く作れる。それって唯一無二の価値だと思うんです。だから、期限が短く予算が潤沢にない案件で「STUDIOを使えばここまでできます」って言ったら、喜ぶお客さんは多いと思います。
たしかに、早くていいものが作れるのは「STUDIO」の強みの一つです。
今、手が足りなくて断ってしまう案件もありますが、「STUDIO」を使えば受けられる案件もあるかもって思っています。ノーコードの実績も上げられますし。
テクノロジーの進化は、デザイナーにとって必ずしも脅威ではない
ーー「STUDIO」や「Wix」「Webflow」など、次々と普及するノーコードの Web制作ツールは、Webデザイナーやエンジニアにとって脅威となるか。この点について、ぜひ意見をお聞きしたいです。
たとえば、電気ドリルがない時代、キリで穴を開けていましたよね。時代が移り変わるにつれて、当時キリしか使えなかった人は淘汰されてしまったと思います。だから、テクノロジーで仕事が淘汰されることは必然だし、リスクとは思わないですね。
同意見です。「STUDIO」は脅威ではなく、便利なツールとしてプロの方にどんどん使っていただきたいと思っています。業界全体で考えると、新しいツールによって作業が効率化することはいいことですよね。
ツールの使い手か、ツールにとって代わられる働き手かで、「STUDIO」の捉え方は変わると思います。
数年前、「STUDIO」で作られたマネーフォワードの採用サイトやメルカリのLP※を見たとき、その出来栄えに驚きました。それらを見て、お客さんがより賢くなってきているな、と。コンセプトやデザインやビジュアルといったものにコストをかけて、開発・実装のアウトプットは手軽に行うといった方向にシフトしていると感じます。
※ランディングページの略。検索エンジンや広告などを経由し、訪問者が最初にアクセスするWebページのこと
まさにそう。「STUDIO」はプロ中のプロのエンジニアがCMSの構築、セキュリティやSEO対策などのインフラを整えています。だから、時間や予算、人員が限られた中で作るなら、「STUDIO」がフィットすると自負しています。
「STUDIO」はデザインしたらサイトがすぐ公開できるようにサーバーも自社で保持してますよね。プラットフォームのサーバーって落ちたらヤバいから、「STUDIO」はかなりコストをかけて管理しているんですよね?
はい、サーバーもバッチリ管理しているのでご安心ください。
それならサーバー代や実装費も込みのサブスク型だからいいですよね。って僕、「STUDIO」の宣伝マンじゃないですが(笑)。
ありがとうございます(笑)。
以前は「ノーコードだといいものは作れない」という誤解があったので、そこを払拭すべく、2020年からを「STUDIO DESIGN AWARD」開催しています。ユーザーの事例を元に「STUDIOでここまでできる」ということを証明することが僕らの狙いです。当初は個人の方のエントリーが多かったのですが、最近は有名な制作会社も増え、どんどん盛り上がってきています。
全員が同じ条件のもと、一番いいものを作りましょうってゲーム的なおもしろさがあっていいですよね。
ムラマツさんの参加もお待ちしています(笑)。あとはオリジナルのテンプレートの販売も行っているので、こちらもぜひ。ムラマツさんが作ったテンプレートなんて、すごくニーズがあるはずですし。
時間があればなぁ……(苦笑)。
あ! 僕のYouTubeの企画「BREAKING DESIGN」で、いろいろなデザインにフィードバックしまくっているんですが、「STUDIO」のテンプレを参加者に作ってもらったらおもしろそうっすね!
僕としてもその企画を通して、「STUDIO」の限界値がわかるから一石二鳥(笑)。
それで今回、受託の Web制作会社の代表として言いたいのは、ノーコードに完全シフトは危険だと言うこと。なぜなら、ノーコードに最適化した知識しかなくなってしまうから。オーダーメイドの店がセミオーダーの店に鞍替えすると、価値が下がってしまいますよね。両軸を持つことが正しい在り方なのかなと思います。
これからはオーダーメイドとセミオーダーが共存する時代になるはず。コードを使う場合とノーコードと、適材適所で選ぶのが一番いいと思います。
「STUDIO」を絶対に使う必要はないと思うけど、ノーコードで、「STUDIO」で、何ができるかをチェックしておくことは大事。最低限、「STUDIO DESIGN AWARD」を見て、限界値や可能性を知ることが今のWebデザイナーにはマストかなと思います。
デザインのヒントにもなると思うので、ぜひチェックしていただけると嬉しいです。
石井 穣(いしい ゆたか)
STUDIO株式会社 代表取締役CEO
学生時代に海外留学やWebデザインやアプリケーション開発を経験。2014年から約2年間バンコクに居住し、東南アジアをターゲットとした旅行サービスを創業。2016年に東証1部上場の大手旅行会社に事業譲渡。2016年12月、ノーコードWeb制作プラットフォーム「STUDIO」を提供するSTUDIO株式会社に入社。デザイン及びマーケティングを担当。2017年6月に代表取締役就任。2017年8月にシリコンバレーの「Product Hunt」でトップ獲得。2022年11月時点で公開サイト数は6万サイト、ユーザー数は約30万人となっている。
ムラマツヒデキ
QUOITWORKS Inc代表 デザインギャラリーサイト「MUUUUU.ORG」運営者
3社のWeb制作会社での経験を経て、2013年フリーランスに転向した後、2015年に法人化。とにかく元気な東京目黒のデザインファームQUOITWORKS Inc.の社長に就任。実績に、「rockin’on holdings」「ORICO」「パーソルWSA2020」「ONE MEDIA」「LOFTWORK」「文化庁東京上野ワンダラー」など多数。AWWWARDS/SOTD、CSS DESIGN AWARD/WOTDなどの受賞歴を誇る。YouTubeチャンネル「MUUUUU.TV(ムーテレ)」で、デザインに関する情報を自ら配信。近年は、WEBデザインポータルサイト「MUUUUU.ORG」の運営者や、Awwwards2022-23審査員としても活躍している。
撮影/武石早代
取材/おかねチップス編集部
文/川端美穂