場所の貸し借りがビジネスに。スペースマーケット重松大輔が見出すシェアリングの可能性
仕事でも遊びでも、一時的に利用する場所をさまざまなエリアや条件から選べるサービスとして、多くの人に利用されている「スペースマーケット」。スペースマッチングシェアリングプラットフォームとして、競合の追随を許さず独走状態の同社がいかに事業を成功に導いたのか。創業者であり代表取締役CEOの重松大輔さんにお話を伺いました。
大手企業とスタートアップを経て誕生したスペースマーケット
——今、スペースを貸したい人と借りたい人をマッチングするプラットフォーム「スペースマーケット」には、どのくらい貸し借り可能なスペースがあるんですか?
重松大輔さん(以下、重松さん):現在は約19,000箇所です。スペースの種類はミーティングなどの会議室から、パーティルーム、ネイリストさんや美容師さんが利用できるサロンまであります。大きいものですと体育館やグランド、お城、お寺、廃校といったものまであるんですよ。
——管理者のいる廃校なら、安心安全に肝試しができそうでいいですね(笑)。重松さんが2014年に会社を創業してシェアリング事業を始めるとき、ビジネスのモデルにされたものってあるんですか?
重松さん:私が創業を考えていたのは2013年頃。どんな事業にするか、さまざまなビジネスモデルを検討していたんですが、「Airbnb」や「Uber」といった、今でいうシェアリングエコノミーがアメリカですごく伸びていた時期で、日本でもこれから大きくなりそうな分野だなと。当時、シェアリングエコノミーという言葉は浸透していなかったんですが、ビジネスモデルとしてありだなと思いました。
だけど、当時の日本は宿泊業の場合の法律が厳しくて、Airbnbそのものは立ち上げが難しいと感じました。その一方で、会議室などの時間貸しについては規制がほとんどありませんでしたね。
——確かに、貸し会議室のサービスは以前からありましたね。
重松さん:実際に日本では、貸し会議室のサービスがすごく伸びていましたからね。それでシェアリング自体にポテンシャルがあると感じ、スペースシェアリング事業に挑戦しようと思ったんです。
——なるほど。シェアリングに可能性を感じたとはいえ、重松さんは新卒でNTTに入社されていて、転職したり起業したりしなくても良さそうじゃないですか。そもそも、どうして起業しようと思ったんですか?
重松さん:確かにNTTは大手ではあるんですけど、僕が就活していたその当時は就職氷河期で。本当なら総合商社やテレビ局とかに行きたかったけど落ちてしまって、拾ってくれたのがNTTだったんです。それでも最初の頃は「これからインターネットの時代がやってくる」「最前線で仕事ができる」と意気込んでいたんですけどね。だけど、大企業ならではの伝統や慣習を重んじる体質が、自分の肌にあまり合わなくて(笑)。
——それで転職しようと。
重松さん:はい。おもしろい仕事がやりたくて職を探していたときに、NTTからサイバーエージェントへ転職した先輩が「フォトクリエイト」という会社を創業したんです。カメラマンを学校などに派遣してオンラインで個別に発注してもらう、というようなサービスを行うスタートアップでした。そこが僕に声をかけてくれまして。「すぐに上場するから一緒にやらないか」って。
実際にはすぐには上場しなかったんですけど(笑)、スタートアップは本当に面白かったんですよ。NTTと違って少人数で売上もほぼなく、営業しても誰も会社の名前なんて知らない。だけど、それがやる気につながったし、自分の性格に合っていたんですよね。
——フォトクリエイトにはどれくらいの期間いらっしゃったんですか?
重松さん:8年です。どっぷり浸っていました。自分はこのために生まれてきたんじゃないかと思うぐらい楽しかったんです。会社の知名度がゼロなだけに、自分の名前で仕事ができるし、たいていのことは自分の裁量で決められて、おもしろいぐらいに結果も出るし。
——ではなぜ、フォトクリエイトをやめたんですか?
重松さん:僕も会社の株を少し持っていたんですが、上場したときに創業者じゃなければ経済的なメリットがあまりないとわかったんです。当たり前なんですけど、自分で会社をやるかどうかで、株で受けられる利益に雲泥の差があると。幸いにも妻が投資家でそれなりに稼いでくれていて、フォトクリエイトの社長も「失敗したらいつでも戻ってきていいから」と言ってくれて。周りにも起業家が多かったんですが、「この人たちができるなら自分も挑戦したい」なんて思ったりもして、失敗してもリスクは限定的だろうと。
——そこで起業となるわけですね。アメリカでの流れがあったとしても日本でシェアリングエコノミーがくるという、重松さんの時代の先読み能力はすごいですよね。そうした感覚はどこで培われたのでしょうか?
重松さん:インターネット業界で成功する人たちを見てきたことや、フォトクリエイトでアナログからデジタルに切り替わっていったタイミングだったので、まだ誰もやっていないことをやればマーケットは作れると学んだことが大きいと思います。これまでアナログでやっていたところにデジタルテクノロジーを入れることで無駄が省けるというケースを多く目にして、自分でもあれこれ考えたりするのが好きだった、というのもありますね。
同時多発のサービスが絡み合い、会社が急成長
——現在、スペースマーケットでは19,000軒ものスペースを取り扱っていますが、創業時はどうやって掲載施設を集めたんですか?
重松さん:初期はこのビジネスモデル自体を理解していただくのが難しかったので、地道に貸し出せるスペースを持っている知り合いを辿ったり、インターンに片っ端から電話をかけてもらったりと、ありとあらゆることを行いましたね。いろいろなジャンルの施設に掲載登録してもらうことで、意外なところに需要があるのがわかるようになってきたんです。
——意外なところへの需要とは?
重松さん:例えば、雰囲気のある古民家。コスプレイヤーの方たちが撮影する場所として利用してくれるようになったのは意外でしたね。
それから、2014〜15年頃に日本でもハロウィンがイベントとして認知され、盛り上がりを見せましたよね。そんな中、「仮装はしたいけど混雑する渋谷を練り歩きたくはない」「帰りは化粧を落として普段着になりたい」というような人たちが、ハロウィンパーティを楽しむ場所として利用してくれたり。
——確かにそれは盲点ですね!
重松さん:また、日本でも2015〜16年にかけてAirbnbのサービスが本格化したことで、不動産オーナーの方々がスペース貸しに参入してくるんですが、先ほどお話しした通り宿泊は規制が厳しい。それでスペースマーケットに流れてきてくれたのが、私たちのシェアリング事業が大きく伸びるきっかけになりましたね。
——ここで改めてお聞きしたいんですど、宿泊の規制ってそんなに厳しいんですか?
重松さん:民泊新法では簡易宿泊所の免許を取れば1年中宿泊施設として貸し出しできるんですけど、免許取得のハードルが高いんです。そこでもう少しライトなものを取得するとなると、年間180日という制限がかかるんです。でもそれだと宿泊施設のオーナーとしては儲からない。そこで時間貸しのスペースマーケットなら、そうした制限もないし365日稼働が可能なので、時間貸しに興味をもってくれたというわけです。しかも宿泊施設だと歯ブラシや寝具も必要ですし、リネンの洗濯なども発生しますがスペースマーケットならそれらは必要ない。貸し手としても、オペレーション的に宿泊より、時間貸しの方が楽と言われる方も多いですね。
——重松さんはその仕組みをうまく狙ったわけですね。
重松さん:タイミングも良かったんですよ。Uber Eatsのような飲食のデリバリーも同じタイミングで伸びてきたし、動画配信サービスも同じ頃に浸透してきたので、それらを組み合わせれば場所を抑えて好きな音楽や映画を流しながら食事の手配もできる。簡単にパーティを開ける環境が整ったわけです。さまざまなサービスが同時多発で起こったのが、弊社が伸びた一因に違いないですね。
——スペースマーケットが支持される理由として、ほかに考えられる要因はありますか?
重松さん:弊社アプリの使い勝手が良くなったこともありますが、先行する会議室貸出サービスがほかのレンタルスペースを抑えていなかったので、弊社がそれを独占状態にできたのも大きいですね。
——現在、重松さんが注目しているスペースなどはありますか?
重松さん:最近、駅にワークボックスができ始めたじゃないですか。あれがすごく伸びているんです。ワークボックスを運営する企業が集客を目的にスペースマーケットを積極的に利用してくれているので、お互い非常に助かっている状態ですね。
負担なく貸し手が儲けられる仕組み作り
——スペースシェアリングの競合するサービスはいくつかありますけど、スペースマーケットが一番リーズナブルに感じます。どうして低価格を実現できているのでしょうか?
重松さん:やはり利用数が多ければ多いほど安く提供できるんですが、それを実現しているのは圧倒的なボリュームの物件数と、レビューの蓄積だと考えています。そのため、誰もが簡単に掲載できるよう常に機能をアップデートしてますし、オーナーさん向けの写真撮影セミナーのほか、掲載方法や運営ノウハウを公開したオンライン勉強会などを頻繁に開催したりしています。
——実際に写真のディレクションは、スペースマーケットで行うんでしょうか?
重松さん:最初の頃は少しやっていました。それこそ前職のフォトクリエイトのカメラマンに物件を撮ってもらったり。やはり美しい写真の方が利用されやすいですからね。ですが、最近はフリーのレンタルスペースカメラマンという職種の方が現れてきたので、基本的には彼らにお任せしています。
——外部の方に任せることもあるんですね。システムの構築などはどうされているんですか?
重松さん:予約の仕組みやアプリ開発などは内製化しています。空室管理については、Googleカレンダーと連携するなど既存のシステムも利用しています。
——ビジネスモデル的には、掲載ごとに1件でいくら、という形でしょうか。
重松さん:いえ、できるだけみなさんの負担を減らしたいので、掲載料はいただかず、成約手数料を掲載者と利用者からいただくスタイルです。
また、一定以上の売り上げが上がっているスペースに関しては、インセンティブとして売上金の一部を還元する制度も導入しています。
——スペース貸し出し価格の決まりはあるのでしょうか。
重松さん:相場みたいなものはありますけど、あくまで参照していただく程度で、価格を決めるのは貸し手の方です。繁忙期や閑散期の価格設定についてアドバイスをすることはありますけどね。弊社のカスタマーサービスでは、掲載時のサポートはもちろん、利用者が物損をしてしまった場合の保険やオンラインでの弁護士相談サービスなども提供しているので、初めての方でも安心してスペースの貸し出しを開始できると思います。
——スペースマーケットを通さず自分でやった方が儲かりそうと思っても、そこまでお任せできるならとお願いしちゃいたくなりますね。
重松さん:シーズンに合わせた施策のノウハウなども、我々から提供できますからね。例えば、コロナ禍でYouTuberやSNS用の撮影需要が増加しているので、こんな備品オプションやデザインが人気ですよ、といった傾向をお伝えしたり。そのためのオンラインセミナーやホスト同士の交流会、スペース見学会なども開催しています。
——もし、シェアリングビジネスを開始するとき、初期費用はどれぐらいかかるものなのでしょうか。
重松さん:物件によってさまざまですが、想像されるより安く済むと思いますよ。壁紙の張り替えや、机やモニターなどの備品の導入などは必要ですけど、今は地元情報などを辿って中古品をタダで引き取ることもできますし。
しかも最近は、管理のための人件費なども抑えることもできるんですよ。スマートロックにしたり、カメラの設置をしたりと、やり方次第で無人で運用することも可能です。利用後の掃除だけ、アルバイトの方にやってもらえばいいですし。こういう手法で主婦の方2〜3人で50拠点を回して、かなり稼いでいるケースもあります。
——それは夢がありますね。
重松さん:ですよね(笑)。遠隔オペレーションを使って運用しているから、自分は国内旅行をされているなんて方もいますよ。シェアリングのビジネスだけで十分食べていける方も増えてきましたし、我々もそうした方々と一緒に成長してきたので、今後もオーナーさんとは持ちつ持たれつでやっていければと思っています。
コロナによる打撃から黒字転換へ
——コロナ禍以降、売上への打撃はありましたか?
重松さん:めちゃくちゃ大変でしたね。とくに2020年の緊急事態宣言の最初の頃が本当に大変で、上場直後だったのにその年は赤字でした。当時は毎日キャンセルの嵐で、もう耐えるしかないと思っていました。今も大人数での利用の戻りは鈍いですけど、むしろ少人数での利用が増えてきましたね。不特定多数の場所を避けて、貸切スペースでいつものメンバーで楽しむという利用がとても増えました。都心以外にも、船橋や大宮、三鷹、吉祥寺などの郊外の需要がすごく伸びています。
——今シェアリングビジネスを始めるなら、郊外でやるのが良さそうですね。コロナ禍でも黒字に転換されて、今後の展開として考えていることはありますか?
重松さん:ワークボックスの需要が増えているので、もっと利便性をあげていきたいと思っています。
それから、曜日限定でスペースを貸し出す方も増えています。火曜日だけ休みという美容室が多いので定休日だけ貸し出して、フリーの美容師やネイリストの方などにご利用いただいたり。また、銀座のクラブも土日は休みが多いので、同窓会のために貸し出すということもあります。高級なお酒もないし、接客する方もいませんが、立派な場所があれば軽い食事とカラオケで十分というような使い方ですね。スペースのカテゴリーにかかわらず、多様なスペースの掲載を増やしていきたいです。
——利用者側のアイデアも多種多様なんですね。今後も掲載数はどんどん増えていきそうですね。
重松さん:そうですね。受験のための勉強合宿や楽器の練習など、いろんな用途に使えるようにしたいと考えています。
売上もどんどん伸ばして、いずれは国民的インフラにまで成長できたらと思っています。誰もがリーズナブルに安心して使えるサービスにしていきたいんです。
——スペースシェアリングってすでに成熟している印象があったんですけど、まだまだ成長の余地があるんですね。
重松さん:課題はまだまだ山積ですが、スペースシェアリングの可能性は無限にあると信じています。例えば、スペース内のモニターに広告を流したり、新商品を無料で楽しめるサービスをつけたりと、他社との連携を増やすことでもっと利用者の体験価値や満足度をあげていけると思います。それを追求すれば、結果的に会社のクオリティや存在価値が上がりますし、スペースシェアリング自体の経済圏も広がる。そしてスペースシェアリングが盛り上がり、そこから新しいビジネスモデルがどんどん形成されていくといいなと思ってます。
重松大輔(しげまつ だいすけ)
1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年にNTT東日本に入社し、主に法人営業企画、プロモーションなどを担当する。 2006年に株式会社フォトクリエイトに参画。新規事業、広報、採用などに従事し、2013年7月には東証マザーズ上場を経験。2014年1月、全国の貸しスペースをマッチングする株式会社スペースマーケットを創業。2016年1月にシェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指す一般社団法人シェアリングエコノミー協会を設立し、代表理事に就任。2019年12月東証マザーズ(現:グロース市場)に上場。
スペースマーケット:https://www.spacemarket.com
Twitter:@masurao99
撮影/酒井恭伸、武石早代
取材・文/田中元
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