旅行業界大手・HIS創業者の澤田秀雄さんが、若手起業家育成のために設立した澤田経営道場。そこでは、新たなビジネスを世に送り出そうとする志のある若者たちが日々切磋琢磨しています。今回登場する山下楓美香さんも道場生の一人。以前は航空会社で働いていましたが、起業を目指して澤田経営道場に入門しました。
山下さんが起業家に必要な心構えとスキル・知識を学ぶ様子を1年間にわたってレポートするこのコラム。第1回は、起業家にとって一番大切な意志、そして7つのスキルについて、澤田経営道場事務局長の渡邉拓斗さんから学びます。
澤田経営道場とは?
株式会社エイチ・アイ・エスの創業、スカイマークの設立、ハウステンボスの再生などの実績を持つ、日本を代表するベンチャー経営者の澤田秀雄さんが2015年に設立した人材育成道場。澤田さんが経営者として学んだこと、経験したことを後進に伝え、世界で活躍できる起業家、次世代リーダー、政治家を生み出すことを目的とする。内閣府認定の公益財団法人SAWADA FOUNDATIONが運営。
澤田経営道場ホームページ:https://sawadadojo.com
若手起業家育成のために設立された「澤田経営道場」
起業へ向けて日々勉強に励む山下さんのところへ、澤田経営道場事務局長の渡邉さんが様子を見に来たようです。
は、はい! 半年の座学研修が終わって実地研修に入ったところです。自分でビジネスを起こすのは未知の領域なので、わからないことだらけですが……。
誰でも最初は未経験です。経験は乏しくても志を持った若い人に、理事長の澤田をはじめとした諸先輩たちが経験したことを伝えるために設立されたのが、この澤田経営道場ですからね。
ところで渡邉さん、起業家が絶対に身につけておいたほうがいいスキルってありますか? 今のうちに勉強しておきたくて。
そうですね、スキルはもちろんとても大切ですが、起業家にとって一番大切なのは“意志”だと思いますよ。
意志ですか……!? ビジネスプランや経営ノウハウではなく?
起業に一番大切なのは意志。その真意とは!?
会社員として働いている人は業務領域が決まっていて、それをやればお金がもらえますよね。ミスをしたり、不慣れで上手くできなかったとしても、雇用契約がなくならない限りは、どんな働き方をしても給与自体は出るわけです。
でも起業家はそうはいきません。どんなに一生懸命働いてもバリューを生み出すことができなければ、当然お金はもらえませんよね。
そうです。起業家にとって大切なのは、決められた業務をこなすのではなく、試行錯誤しながら道筋を見つけること。何をどうやるか、誰とやるか、組織形態はどうするか、どういう世界・商品をつくりたいのか。こうしたたくさんの選択肢の中で、どれを選ぶかはすべて起業家の意志が反映されます。だから意志がなければ仕事自体が成り立たないんですよ。
なるほど! おっしゃる通り、全部自分の意志次第なのに、意志がなかったらどこへも進めませんね。
そう。それにしんどくて辞めたくなっても引き留めてくれる人はいないので、やり遂げるには自分で自分自身を支えなくてはなりません。そのためにも強い意志が必要です。
上司や同僚が引き留めたり支えたりしてくれるわけではないですもんね……。
意志のある起業家が身につけるべき7つのスキル
……とまぁ、起業へ向けての強い意志があるのは大前提として、起業を志すならばぜひ身につけておきたいスキルは次の7つです。
「澤田経営道場」が教える、起業家に必要なスキル
- マーケティング
- 経理
- 人事・組織
- IT
- 資金調達
- 助成金調達
- 法務
わ〜、たくさんあるんですね。それぞれの詳細を知りたいです!
では順番に説明していきますね。まず「マーケティング」ですが、ものすごく簡単に言うと自社のプロダクトやサービスを必要とする人のもとへきちんと届けられる仕組みを作ることです。どんなに素晴らしいプロダクトやサービスを作っても、それを必要とする人に届かなければ売上につながりませんからね。ビジネスを成り立たせるためには、最初にマーケティングを学ぶ必要があります。
座学研修でもいろいろなマーケティング手法を学びました。
そもそも顧客のニーズや課題を調査せずにサービスを作ろうとする人もいますが、それはマーケティング以前の問題ですね。
次は「経理」です。実務は経理担当や任せるにしても、会社に今どれだけお金があって、これからどれだけ出ていく予定かを把握してコントロールするためには、経営者も経理を知っておく必要があります。マーケティングができてお金が入ってきても、お金を使い過ぎて会社がダメになってしまうパターンはよくあるんですよ。
基本的に企業間の取引は、掛取引(代金をつけておいて後からまとめて支払うこと)なので、お金を使うタイミングと実際に出ていくタイミングにズレが生じます。だから、きちんとお金の状況を把握していないと使い過ぎてしまうことも起こり得ます。
まだお金が十分にあると思って使っていたら、そのお金は翌月の支払いのためのものだった……みたいな。財務諸表の見方は習いましたが、毎月の帳簿の見方も分かるようになったほうが良さそうですね。
続いて「人事・組織」。一人や少人数で起業したとしても、事業を回していくためには人を増やさなくてはいけませんよね。考え方も行動原理も違う人たちをうまくまとめる必要があります。
多くの人が一緒に働くには、まずルールを決める必要があります。簡単なところで言えば、就業時間や休日は就業規則というルールで決めますし、どのような部署を置いて誰が所属するかを決めるのも人事組織のルールです。
そう考えてみると、会社にはたくさんのルールがありますね。
仕事の現場で日々起こることに円滑に対応するには、さまざまなルールが必要ですからね。その中でも一番大事なルールは、会社がこれから向かう方向を示すミッション・ビジョン・バリューです。
ミッション(=使命)は「会社が社会の中でどのような役割を果たすか」、ビジョン(=未来像)は「将来的に会社が目指す姿」、バリュー(価値観)は「行動指針」を表します。どれだけたくさんのルールを作っても、現場で起こる全ての出来事に対して予めルールを決めておくことは難しいですし、そもそもルールが多すぎたら覚えきれないですよね?
なので、あらかじめ大きな指針を用意しておいて、判断に迷ったときにミッション・ビジョン・バリューに照らして決めるという使い方をします。
次は「IT」ですね。これは起業家自身がプログラミングをできるようになれと言っているわけではなく、エンジニアやシステム会社へ適切に発注できるだけのスキルや知識を身につけましょうという話です。システムは「こういう場合はこうする」というルールの集合体なので、正確にルールを作り、作る人に伝えられるようにならなくてはいけません。
今の時代にサービスを作るなら、ITと無縁ではいられませんもんね。
そうですね。さて、事業を拡大していくとどうしても直近でお金が必要になります。次の2つはお金についてですが、まず「資金調達」は大きく分けて借入と出資があります。調達にはいろいろなパターンがあるので、どんな手段があるのか知っておく必要があります。
そして、将来どのようにお金を作り返済、またはリターンを返すかを説明できるようにならなくてはいけません。見返りなしにお金を出してくれる慈善事業家はそうそういませんからね。
借入にせよ出資にせよ、利益が上乗せされて返ってくると信用してもらわなければいけないんですね。
おっしゃる通りです。そして「助成金調達」は、資金調達の一種です。国や自治体が助成金でスタートアップや起業の支援をしてるので、これを活用できるかできないかで資金的な余裕が違ってきます。起業は一番最初が一番大変なので、そこを乗り越えるための手段として知っておきたいですね。
どういう制度があるのか知っておかなければ、利用することもできないですもんね。助成金についても、さらに勉強しておきます!
最後は「法務」です。資金調達や他企業と契約を結ぶ際には、法の知識が必要になります。スタートアップだからといって法律面をおざなりにしていると、痛い目を見ることもありますよ。起業時に必要な知識は最低限知っておいた方がいいでしょう。
次回予告:それぞれの道のプロに話を聞こう!
こんなところでしょうか。いっぺんに話してしまいましたが、一つひとつ確実に身につけていきましょう。
は、はいっ。意志に関しては自信がありますけど、あとのスキルや知識はこれからもっと勉強しなきゃいけませんね。
それなら、澤田経営道場でそれぞれのテーマの講師をしている方々を紹介するので、詳しい話を聞きに行ってみてはどうですか。みなさんきっと喜んで教えてくれますよ。
それでは、一番大切な「意志」の話をしてくださる守屋実先生をご紹介したいと思います。起業のプロとして数多くの起業をご経験されていて、先生ご自身も「起業には意志が大事」だとおっしゃていて。『起業は意志が10割』という本も出しているんですよ。
守屋先生には、新規事業開発の研修でもお世話になりました。次回、お話を聞きに行ってみます。ありがとうございました!
いえいえ。若手起業家を育てるのが我々の役割ですから。これからも、がんばってくださいね。
起業家にとって一番大切な意志と7つのスキルとは何かを学んだ起業家の卵・山下さん。次回以降はそれぞれの専門家の皆さんから、さらに詳しい説明を聞きに行くそうです。悩める起業家のみなさんも、山下さんと一緒にステップアップしていきましょう!
渡邉拓斗(わたなべ たくと)
2009年株式会社エイチ・アイ・エスに入社。店舗営業やインバウンド事業に従事。2020年より澤田経営道場事務局長に着任。
山下楓美香(やました ふみか)
株式会社JALスカイ退職後、インド旅行中にバイク事故でリハビリに8か月かかる大怪我を負う。生死に関わる経験を経て、助かった命を多くの人の力になるために使おうと起業を決意。2021年、7期生として澤田経営道場に入門。
取材・文/内島美佳