「量産型リコ」の畑中翔太Pと寺原洋平Pが巻き起こす、テレ東深夜ドラマ革命
テレビ東京で6月30日(木)からスタートした深夜ドラマ「量産型リコ -プラモ女子の人生組み立て記-」。アイドルグループ乃木坂46の人気メンバー・与田祐希さんがプラモデルというホビーと出会い、実在するさまざまなプラモデルを組み立てながら成長していく姿を描くという、これまでにないタイプのドラマです。
本作の企画・原案・脚本は、同じくテレビ東京の深夜ドラマ「絶メシロード」「お耳に合いましたら。」「八月は夜のバッティングセンターで。」も手がけた株式会社dea/BABEL LABELの畑中翔太さん、そしてプロデューサーを務めるのはテレビ東京の寺原洋平さん。今作で4度目のタッグとなる二人が描くものは? 深夜ドラマの未来とは? テレビドラマの気になるあれこれを伺いしました。
ドラマ畑出身じゃないから生み出せる、◯◯×□□の新しい深夜ドラマ
——「量産型リコ-プラモ女子の人生組み立て記-」(以下、「量産型リコ」)でお二人のタッグは4度目となりますね。今回は、どのように二人のタッグが実現したんでしょうか?
寺原さん:テレビ東京ではここ3年ぐらい、一人キャンプを描いた「ひとりキャンプで食って寝る」やサウナの魅力を伝える「サ道」、一人でさまざまなことを楽しむ「ソロ活女子のススメ」など、ライフスタイル系のドラマが支持を得ているんです。そうした流れがあるなか、畑中さんと僕がつくるドラマは、しがない中年が車中泊をしながら絶品なメシを楽しんだり、チェーン店グルメが好きな主人公がポッドキャストのパーソナリティとして成長していったりと、さらに変化球気味で(笑)。そこが面白いと言っていただけるスポンサーさんたちからお声がけをいただくことが増えたんですよね。今回の「量産型リコ」も、バンダイスピリッツさんが僕たちと一緒に何か作りたいとおっしゃってくださって実現しました。
——プラモデルを軸に置いたドラマって、なかなかマニアックですよね。これまでにもなさそうな題材ですし。
寺原さん:テレビ局やテレビの制作会社さんだけでミーティングしたら、おそらく思いつかなかったでしょうね(笑)。畑中さんは最初、この話を聞いてどう思いました?
畑中さん:これは絶対に面白くなるぞと、けっこうワクワクしちゃいましたね。これまでに寺原さんと一緒に作った「絶メシロード」「お耳に合いましたら。」「八月は夜のバッティングセンターで。」でも、意外とどんなテーマでもドラマというものにできるという手応えがあったので。誰かの好きなものを掘り下げ、情熱を注いでドラマにすればその分野に興味がない人にも面白さが伝わるというのが実感としてあったのも大きいですね。
——今作の「量産型リコ」にも、これまで培ったノウハウが使えると思ったんでしょうか。
畑中さん:そうですね。僕はもともと広告畑出身なので、何かと何かをかけ合わせてドラマにするという、広告的な発想でものづくりを常々していたというのもありますね。それに、車中泊と絶滅グルメをかけ合わせた「絶メシロード」のときに、こういうタイプのドラマをもっと作ろうという話をしていたんです。その後、寺原さんと作った「お耳に合いましたら。」はポッドキャスト×チェーン店グルメ、「八月は夜のバッティングセンターで。」は野球×人生と、「絶メシロード」で学んだことをいかしています。
寺原さん:テレビ東京としても僕らのドラマって、ほかに比較対象がないから新しいサンプルになるんです。しかもテレビ東京の人たちって、「テレ東らしさ」とか「ニッチ」という言葉が異様に好きで、僕らのドラマみたいにライバルがいない道路をガーっと走っている様子を喜んでくれるんですよね。自由にやらせてくれるおかげで、どんどんドラマ化の話が進められるんです。
——いい環境でドラマ制作ができているんですね。だけど、前例がないドラマを作るというのは視聴率が読めなさそうですし、ちょっと怖そうな気もします……。
寺原さん:ドラマ制作ってほかの商売のように在庫を抱えることがないので、目に見えるような実害がないんですよ。視聴率に関しては1.5%から0.8%になっても、「いくらの損失だったぞ」と言う指摘は誰からも言われないですし。僕が視聴率に対するモラルが低いだけかもしれませんが、そうした実害がないからこそ、無理してでも新しいタイプのドラマ制作は誰かがチャレンジしなければいけないと思っています。これまでに挑戦したドラマの反応を振り返ると、前例がないところで戦うことを社内も視聴者も喜んで受け入れてくれている気がしています。だから、前例のないドラマ制作はやるメリットの方が大きいんです。もちろん、前例がないことって企画段階で会社に跳ね返されたりもするんですが、そこを踏ん張って実際にドラマを作って放送すると、テレビ東京のブランディングの1つとして愛着を持って受け入れてくれるというか。そこは本当に面白い会社のカルチャーだと思いますね。
畑中さん:僕も寺原さんもドラマ制作出身じゃないから、ドラマとはこうあるべきというセオリーを気にしていないというのも良いのかもしれません。
寺原さん:気にしてないというか、知らないというか(笑)。従来のドラマが大企業だとしたら、僕らは新しいことにチャレンジするスタートアップ企業みたいなものですね。
畑中さん:そうそう。毎回かなり自由にやらせてもらってるんですよね。
寺原さん:人と同じ行列に並んだら負けだって思ってますからね。畑中さんもそうでしょ?
畑中さん:そうですね。そもそも僕らは既存のドラマ文化のことをよくわかってないですし、あえてそこと同じ土俵には立とうとしてないかもしれません(笑)。
周囲を巻き込み、密度を高める。他人事じゃないドラマを目指す
——ドラマ制作出身じゃないお二人だからこそ、こだわっている部分ってあるんですか?
寺原さん:そもそもテレビって、電源をつければ勝手に番組が流れてきちゃう特殊な媒体ですよね。自ら取りに行かなくても自動的にいろいろな情報を目にできてしまう。だから、僕らのドラマを何気なく見てくれた方をがっかりさせたくないし、その人の時間を無駄にはしたくないと思っています。
畑中さん:それを踏まえて僕たちがまず気にするのは、ドラマが放送される曜日や時間帯です。例えば、金曜日の深夜0時過ぎの放送枠だとしたら、大抵の方は1週間の終わり。平日、一生懸命に働いて帰宅したこのときに視聴者の方が目にしたいのは、僕らが伝えたい・表現したいという一方的なものではなく、もっとフワッといい気持ちになって土曜日を迎えられるようなドラマだと思うんです。だから、いい週末を迎えるため1週間の疲れを取り除き、静かの背中を優しく押してあげられる“サプリ”のようなドラマを作りたい、なんてことをよく寺原さんと話しています。
寺原さん:社会の潮流を無理やり反映したようなものではなく、この深夜の時間帯に視聴者に寄り添えるようなドラマを作りたいんですよね。
畑中さん:僕らが作っているのは、原作ありきのものではなくオリジナルのストーリー。企画会議の時点から、ぎゅうぎゅうに熱が詰まった“鉛”のようなものを作っている感覚です。会議を重ねるごとに何回もパンをこねるようにその密度を高めていっているから、プラモデルやバッティングセンターという一見テーマが目立ちそうなドラマでも、最終回ではなぜか泣けてしまうような、じんわり熱いヒューマンドラマになるように心がけています。
——車中泊やバッティングセンター、プラモデルなどのテーマが目立つドラマだと、そのテーマに興味のない人もいたりしますよね。そういう視聴者を置いてけぼりにしないために、お二人がドラマ制作で心がけていることはありますか?
畑中さん:今作でいうと、プラモデルは男の子が親しむことが多いホビーです。だからこそ、プラモデルと一見距離がありそうな女の子、その中で乃木坂46の与田祐希さんを主演に起用しました。いろいろな方々がご覧になるテレビドラマだからこそ、どうやったら視聴者を引き入れられるかは常に考えていますね。
寺原さん:プラモデルを今作の題材にしていますが、決してプラモデルだけに特化しているわけではなくて。タイトルにあるように「量産型」な人、自分も含めてナンバーワンでもオンリーワンでもない人たちが、自分自身を肯定していけるようなストーリーを目指しているんです。これまでのドラマでも、「お耳に合いましたら。」なら入社3年目の青春をテーマにしていたりと、他人事と思えないものを3カ月かけて描くリアリティ、そういうものを大事にしています。
畑中さん:僕らのドラマをジャンル分けするなら“◯◯ヒューマンドラマ”ですかね。「八月の夜はバッティングセンターで。」はベースボールヒューマンドラマ、「量産型リコ」ならホビーヒューマンドラマみたいな。最初の切り口はちょっと新しいけど、最終的には一人ひとりの人間の物語になっているものを目指しています。
感覚が似ていて役割が被らないから実現した、二人のタッグ
——ここまでお話をお伺いして、畑中さんと寺原さんには共通した情熱があるんだなと思いました。そもそもお二人の出会いはどんな感じだったんですか?
寺原さん:改めてそういう話になると、ちょっと気持ち悪いですね(笑)。
畑中さん:長年連れ添った夫婦みたい(笑)。僕らの出会いって、どんな感じでしたっけ?
寺原さん:めっちゃ遡ると、そもそも僕自身、テレビマンになりたくてなったわけじゃなくて。記念受験してみたら、運よくテレビ東京に合格できたんですよ。だから最初は制作に配属されたけど覚悟ができていなかったですし、その後は編成やコマースに長くいたことで外部の人たちとの交流も多かったんですけど、その時にテレビ側の人間と外部の人たちとの間に温度差があるように感じていたんです。世の中の人たちってそんなにテレビの話なんてしてないな、と。
——寺原さんはザ・テレビマンという感じではないんですね。
寺原さん:全く違いますね。編成時代も周囲はみんな編成っぽく企画書を抱えて熱く話し合っているんですけど、飲み屋に行ってもそういう話をしていると、ほかのお客さんからは「なんだこいつら」という目で見られるんです。テレビ業界と世間には、確実にズレがあるんですよね。その世間とのズレを修正するのが自分の課題だと思って各部署でそれなりに頑張っていたところ、ドラマを作る部署に配属となってしまって。自分は思いっきりサラリーマンでクリエイターでもなんでもないので、最初はマジかと落ち込んでたんですけど、そこで畑中さんと出会ったんです。
——広告という異業種の。
寺原さん:はい。広告業界の方のなかには、マーケティングとかロジックとか、僕が無機質さを感じているところを熱く語る人も多いんですけど、畑中さんはその無機質さとか温もりのなさを僕と同様に寂しく感じているように思えたんです。ザ・広告マンじゃない畑中さんとだったら今までにないものを作れる、自分が感じていた世間とのズレを一緒に解消できるんじゃんないかと。
畑中さん:僕からしても、「これが正解だよね」と物事の核心を共有できる数少ない人が寺原さんだったんです。ドラマって本当に正解がわからない。30分のドラマを10話分作るのって、大作の絵を描くような工程が必要なんですけど、その中で自分が思う面白さを言語化するのは難しい。それこそ起承転結がしっかりあって起伏に富んでいても、つまらないものはつまらないですし、ただ食事をしているだけのドラマが面白かったりもしますし。感覚的にこれは面白いんじゃないか、つまらないんじゃないか、そういうところが僕と寺原さんは同じなんです。そういう部分が一緒だから、そこが言語化できなくてもわかってくれる。
——なんだか本当の夫婦のようですね。お二人の感覚が一緒とはいえ、意見が食い違ったりはしないんですか?
畑中さん:ないですね。というのも、僕と寺原さんで役割が被らないというのも大きいかもしれません。感覚が共有できるから最初に壁打ちしながら企画を練って、その後はまず寺原さんが放送枠を社内で決める。この場合は寺原さんが馬で僕が騎手みたいなものです。放送枠と企画の方向性、今回で言えばプラモデルのドラマというところが決まると、今度は僕が馬になって、せっせと原案を作ります。企画が本決まりになると寺原さんがキャスティングで動き、僕が脚本作り、というように交互に走っていくイメージです。ようやく一緒に作業するのはパーツが組み上がる編集の段階ですね。このように、いいドラマを作るという共通の目標を叶えるためにお互い別々の動きをしているから、ぶつかったりはしないんです。
寺原さん:畑中さんって説得力があるから、そもそもの役割を被りたくないんですよね。邪魔したくないですし。しかも広告業界の名クリエイターなのに、自己顕示欲が全くないのがすごいんですよ。普通なら作品内にちょっとは作り手のエゴが入りそうなものなのに、畑中さんからはそれを全然感じない。なぜですか(笑)?
畑中さん:与えられた放送時間、例えば金曜24時ならどういうメニューを出したらお客さんはお腹いっぱいでちょうどいい感じで帰ることができるのか。そういう発想の元でドラマを作っているからですかね。放送枠がどこだろうと俺が好きなメニューを出す、みたいな気持ちは僕にはないんです。もちろん、最高のものを作りたいとい気持ちはありますけどね。
寺原さん:疲れて帰ってきてたまたま見たテレビドラマに説教なんてされたくないですからね。
畑中さん:映画や配信ドラマならお金を払うのも、見る・見ないの判断も視聴者に委ねられます。だけど、さっき言ったようにテレビは強制的なメディア。だから自分のエゴをぶつけるために使いたくないですし、そこを勘違いしたくないと思っています。
小さな“バルス”を仕掛け、視聴者との共犯関係を結ぶ
——お二人が作られているのは民放地上波のドラマですが、近年は配信オリジナルドラマが非常に増えていますよね。ほかのメディアを脅威に感じたり、その手法を取り入れたりはしないんですか?
寺原さん:僕自身、Netflixが大好きで配信ドラマもたくさん見ますし、配信オリジナルに食われてしまうような民放地上波ドラマも一定数あるとは思っています。だけど僕らの場合は、その一定数には入らないんじゃないのかな。僕たちが作るドラマは、パブリックビューイングとしての地上波の機能と相性がいいんですよ。というか、今のテレビの利点ってほとんどパブリックビューイングだけといってもいいぐらい。同じ時間に多くの人たちが一斉に同じものを見てくれる。これは配信だとほぼありえないじゃないですか。
——確かに。同じ時間に同じものを見られるのは、民放地上波ならではですね。
畑中さん:だから僕らのドラマでは、リアルタイムでツイートしてもらうためのキーワードを必ず入れるようにしていて。「絶メシロード」では“絶メシフォーエバー”、「八月の夜はバッティングセンターで。」では“ライフイズベースボール”、そして「量産型リコ」では“ギブバース”といった決め台詞もその工夫の一つ。「八月の夜はバッティングセンターで。」で毎回実在する元プロ野球選手が登場したり、「お耳に合いましたら。」で実在する往年のラジオパーソナリティーが登場するのも、リアルタイムツイートのための要素だったりします。金曜ロードショーでジブリの「天空の城ラピュタ」を放送するたびにTwitterが“バルス”だらけになりますけど、そういう小さなバルスをドラマの中に仕掛けておくと、放送中に視聴者が盛り上がってくれるんです。
寺原さん:このやり方ってラジオ好きの人たちがいう「共犯関係」のようなものだと思うんです。マニアックなものを公共の電波を使って流し、こんなマニアックなテーマを公共電波に!っていう共犯関係を味わいながら、リアルタイムで楽しんでもらう。だから僕らが参考にしているのは、ほかのドラマよりもラジオのMCとリスナーの関係性と言ってもいいかもしれません。「量産型リコ」では毎週どんなプラモデルが出てくるんだろうと、楽しんでいただけたら嬉しいですね。
——「量産型リコ」は、バンダイさんからのお声がけで実現されたドラマということでしたが、他社の商品も登場するんですか?
寺原さん:もちろんです。ガンプラとかだけじゃありません。
畑中さん:昔ホビーショップに通っていた方も今日はこれかと喜んでもらえると思います。プラモデルというテーマは一見ニッチですが、その分観たら忘れることのない、人生のお気に入りドラマになることを目指しています。配信が伸びていることもありますが、そもそもテレビ離れとも言われていますし、かつてのようにマスを狙った視聴率30%のドラマなんて難しいでしょうし。
寺原さん:テレビ離れって議題として話すのはとても面白いんですが、そこで導き出された解決策に従ったところで、結局視聴者は戻ってこないんですよ。それよりも僕らなりのドラマを仮説を持って一つひとつ積み重ねていくしかありません。これまでに4作品作っておぼろげに見えているのは、その題材が好きな人たちに振り切って、純粋に、熱と愛情を持って丁寧にボトムアップ式で作りあげていくこと。多くの視聴者に向けたドラマを軽薄に最大公約数だけ見つけてトップダウン式に作って成功するなんて、既に売れている原作の力を借りる以外は幻想だと思ってます。
——テレビ局のプロデューサーがそう断言するのはすごいですよね。
畑中さん:寺原さんはいつもこんなことを言ってるんですよ(笑)。
寺原さん:このままだと完全に衰退産業、レガシーメディアなんです。
畑中さん:言っちゃった(笑)。今ってスマホで見られる短いコンテンツも山のようにある中で、テレビ番組は30分とか1時間とか比較的長いので、そこでつまらなかったらめちゃくちゃ罪が重いと思うんです。時間を奪われた気にはさせたくないですよね。
寺原さん:本当にそう。レガシーメディアだからこそ、今までと違うアプローチで面白いものを作る努力をもっともっとしなくちゃいけないと思ってます。そんな中、畑中さんは広告のクリエイティブディレクターという違ったバックグランドがありながら、それを言い訳にせず、コンテンツ作りにおいて一番非効率だけど重要なところ、企画や脚本などゼロからイチにする本当に苦しい工程も逃げずに自分でやるんですよ。だからこそドラマ制作に自分の時間を最大に費やし、実際に自分の手まで動かしている畑中さんの言葉は信用したいですね。
畑中さん:それは寺原さんも同じじゃないですか。クリエイティブの面白さを高めるために、やるべきタスクを考えて一つずつ実行してくださって。
寺原さん:ありがとうございまず(笑)。お互い高め合ったところで、畑中さん、これからもドラマ制作のタッグ、よろしくお願いします!
畑中さん:こちらこそです。まずは「量産型リコ」をいいドラマにするため、全力で駆け抜けましょう!
畑中翔太(はたなか しょうた)
寺原洋平(てらばる ようへい)
撮影/酒井恭伸
取材・文/田中元
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