広告換算80億円!? PSG日本ツアーをゼロから仕掛けた広告代理店「CIRCUS」の話
キリアン・エンバペ、リオネル・メッシ、ネイマールといったサッカー界最強の選手たちを率いるパリ・サンジェルマン(PSG)が今年7月に来日。東京・大阪でJリーグのチームと真剣勝負をするだけでなく、イベントでは気さくにファンと触れ合う姿を見せ、メディアやSNSを大いに賑わせました。この「パリ・サン=ジェルマン ジャパンツアー2022」をゼロから企画したのは、海外に6つの支社を持つ少数精鋭・独立系の総合広告代理店「CIRCUS」。一体どうやってこのツアーを実現させ、成功に導いたのか。
同社のプロデューサー・大村春洋さん、クリエイティブ・ディレクターの小竹海広さんに“祭りの裏側”を徹底取材。企画の成り立ちから、名コピー「全員、超人。」の制作意図、コロナ禍で成功に導いた秘訣まで。気になる疑問の数々をお二人にぶつけました!
コロナ禍の鬱憤や閉塞感を晴らすお祭り的なイベントを
——2004年に創業したCIRCUSはプロジェクトごとに一人がクリエイティブやマーケティング、プロモーションなどを越境して担当する“独立系総合広告代理店”ですが、お二人がジョインされたきっかけから教えてください。
大村春洋さん(以下、大村さん):僕は大学を卒業後にアメリカに留学して、東南アジアのスタートアップで働いた後、2016年にCIRCUSに入社しました。サッカーが大好きだったので、CIRCUSなら仕事でサッカーと関われるかも!と思いまして(笑)。というのも僕が入社する前からCIRCUSは、「西川 [AiR] マットレス×ネイマール」や「SIXPAD×クリスティアーノ・ロナウド」といった世界的なサッカープレイヤーを絡めた日本では稀なプロモーションをしていたので。広告業界は初めてで最初は右も左もわからない状態でしたが、CIRCUSは広告未経験でも今までの経験値ややる気を尊重する社風があるので、6年間でたくさんの経験を積めました。一方、小竹さんはどっぷり広告畑出身ですよね?
小竹海広さん(以下、小竹さん):そうですね。僕は大学院を卒業後、外資系の広告代理店に入り、「TBWA HAKUHODO」で日本マクドナルドやJINROのクリエイティブを担当したり、転職したクリエイティブ・ブティック系の会社でゼンショー×シン・エヴァンゲリオンのコラボ企画「外食5チェーン共同作戦」などのクリエイティブディレクターを担当していました。一方的にテレビCMを流すだけでなく、二次的にSNSで反応が広がっていくような企画をいつも心がけています。自分で言うのもなんですが「マスとバズの二刀流」を意識しています。
CIRCUSに入社したのは今年4月。受注仕事だけでなく、さまざまなコネクションをいかして自らコンテンツを作り、マーケティングから販売、運営まで行うCIRCUSは、めちゃめちゃハイリスクと思いましたが「広告会社の枠を超えた新しいことやっている!」と衝撃を受けたんです。
——CIRCUSならより刺激的でクリエイティブな取り組みできると感じたんですね。
小竹さん:僕は中学生からネットによく触れていて、大学生のときにSNSでクリエイティブをテーマにした発信で何回かバズったことがあったので、そこからクリエイティブの道に進むことにしたんです。広告会社を何社か経験し、今年32歳で「マスとバズの二刀流」という広告クリエイターとしての方向性が見えてきたタイミングで、もっと自分流を極められる環境を探していました。そこで、ある方にサーカスを紹介いただいたんです。あえて、プロデュースが得意な会社に飛び込んだら、のびのびと自分の理想とするクリエイティブを追求できるのではないかと。
大村さん:CIRCUSの社員のうち、クリエイターは小竹さんともう1人しかいないから、自由度が高いよね。
小竹さん:プロデューサー中心の会社にクリエイターとして飛び込んだら、自分のクリエイティビティを最大限発揮できるんじゃないかっていう仮説が僕の中にあって。今、その実験中です。って言ったら、会社に怒られちゃいますかね(笑)。
大村さん:ハハハハハ! まぁ 大丈夫じゃない?
小竹さん:よかった(笑)!
——そんなお二人は「パリ・サン=ジェルマン ジャパンツアー2022」(以下、PSG日本ツアー)を成功させたキーパーソンだそうで。大村さんは企画の立ち上げから携わったと伺ってますが、それぞれどんな役割を担っていたんですか?
大村さん:僕は1年半くらい前にプロジェクトチームのリーダーになり、主に3つの役割をこなしていました。1つは、PSG側との交渉。2つ目は開催に向けてプロジェクトを進行させること。3つ目は国内のクリエイティブワークです。小竹さんには入社早々、プロジェクトに加わってもらいましたよね。
小竹さん:はい、入社2週目ですね。クリエイティブ・ディレクター(以下、CD)として、ロゴやコピーの制作、キービジュアルやCMのディレクションなどを担当しました。最初は、「え、本当に広告会社が、海外サッカークラブを日本に呼んじゃうの?」ってプロジェクトに対して半信半疑でした(笑)。というのも、CIRCUSは記者会見、キービジュアル・CM制作などのPSGの広告だけでなく、チケット販売、スタジアム運営、グッズ制作、テレビ放映権の折衝、選手のホテルの予約までを一括で、最上流で仕切ることになっていて。通常、大手広告代理店が何百人かけてやるようなプロジェクトの規模ですからね。
——身内の小竹さんでもそう思ったんですね(笑)。PSG日本ツアーはどういう経緯で企画されたんですか?
大村さん:PSG日本ツアーは、さまざまな条件が重なって生まれたプロジェクトなんです。まずはコロナ禍。有事のなかで、多くの企業は広告の発信を中止する事態が相次ぎました。CIRCUSも例によって契約がなくなったり、広告の規模が縮小したりして、広告代理店として今後どう生き残っていくかを模索していました。そこで、代表の河野(広一)から「コロナ禍の今こそ、グローバルコンテンツを日本に呼び込んで、人々の閉塞感を打破すべきだ」という話があって。CIRCUSの強みであるスポーツ領域でのグローバルなコネクションに目を向けたとき、PSGを日本に呼ぶことが一番目的にふさわしいとプロジェクトが始動しました。
——CIRCUSがスポーツに強いとはいえ、なぜPSGだったのですか?
大村さん:2021年にメッシがFCバルセロナからPSGに移籍し、エンバペ、メッシ、ネイマールという世界のトップが集結したこと。さらに、2022年はこれまで夏に開催されていたFIFAワールドカップが開催地のカタールの気候を考慮して冬(11〜12月)開催になったうえに、ほかの国際大会も夏の開催がないという完全オフだった。PSGを日本に呼ぶのに好条件が奇跡的に重なったんです。
——“日本で数十年ぶりに見られる皆既月食”みたいな感じですね!
大村さん:まさにそんな感じですね(笑)。
小竹さん:僕は社長の想いを聞いてプロジェクトを進めるなかで、「コロナ禍の閉塞感をブレイクスルーする世界的なイベントにしたい」と思うようになりました。当時、コロナ禍でお祭りが激減し、代わりに暗い話題が増え、みんな鬱憤が溜まっていた。そういう人が現地やテレビで試合を観戦することでスカッとできたら最高だな、と。僕は個人的にSNS誹謗中傷を止めるための活動をしてきたのですが、単純に投稿を止めてもらおうとするだけではダメなんだと、あるとき気づいたんです。心の鬱憤って、いくら止めてもダムのように定期的に放水しないと、あるとき一気に決壊するんですよ。
現代社会では「ネットリンチという歪んだ形のお祭り騒ぎ」がありますが、その解放弁として「スポーツ観戦のような健全なお祭り」を増やしていくという道もあるのではないかと思いました。サッカーの11対11のフェアプレーを見ていると、一対多で個人攻撃するのは、歪んでいると自然に思えてくる。あるいは、メッシやネイマールのプレーで90分ほど熱狂して放心状態になった後に、ネット炎上に参加しようという気にならないですよね。そういう意味でPSG日本ツアーは、これまでの自分の活動と繋がっている部分があるんです。
PSGとの契約、対戦チーム、冠スポンサーが未定のまま“国立”を予約!
——現実問題、コロナ禍で渡航制限など先行きの見えない中で、大型のグローバルプロジェクトを進めることに不安はなかったのですか?
大村さん:もちろん、めちゃくちゃありましたよ(笑)。チケットは幸運にもたくさん売れましたが、当初は「PSGの試合なんて誰も見に来ない」「チケットが高すぎる」「平日の開催なんてありえない」と、まわりから言われたりもしましたし。
それに、コロナ禍で直前に来日が取りやめになる、チケットが売れない、スタジアムで集団感染が起きる……といった可能性があり、主催者としてのリスクはかなり大きかった。「社長を止めること」も僕の仕事の1つですから、PSGと契約を結ぶ直前、河野に最終確認をしました。「1回しか聞かないですけど、本当にやるんですか」って。そしたら、間髪入れずに「やります」という返事だったので僕も腹を決めましたね。未曾有の困難のなか、会社として次のステージに進むためにも社運をかけてやるしかない、と。
——広告代理店って、クライアントから仕事を請け負ってCMを制作したり、商品のプロモーションを企画するのが一般的ですよね。PSG日本ツアーでは、自ら主催者になるという発想に驚きました。
大村さん:そもそもCIRCUSは一般的な広告代理店とは少し違い、普通は縦割りの業務を社員ひとりひとりが全部やるんですよ。ホテルのコンシェルジュのように「私に言ってもらえたら、広告に関することは全部対応します」という考え方が根底にある。だから、その延長線上でイベントの主催も、広告代理店という枠に囚われずに自ら事業側にまわることもチャレンジしないと将来がないという気持ちで挑もうと考えていました。
小竹さん:CIRCUSは、今までに在籍した広告代理店とは全然違うんですよ。アカウントプランナー(メディアに広告出稿をサポートする職種)やマーケター、クリエイティブディレクター、PRプランナーといった広告関連の仕事を入社3日で全部やることになる(笑)。そういう環境に適応するために、みんな自然とその全部を担う筋肉が鍛えられますよね。
大村さん:そうそう(笑)。
小竹さん:いい意味で、普段から無茶ぶりに慣れている。だから、「PSGを呼ぼう!」って突っ走れたのかもしれないですね。
大村さん:PSGを日本に呼ぶというアイデア自体は誰でも思いつくものではあるし、サッカー好きなら誰かしら居酒屋で盛り上がって話していたはず(笑)。でも、その妄想に近いようなプロジェクトを実現するための実行力や交渉力があるのがCIRCUSの強みだと思います。また、世界のトップアスリートと交渉・契約するための実績やコネクションなども揃っていたし、実現に向けて協力してくれるパートナーさんがたくさんいたことも心強かったですね。
小竹さん:プロジェクトの進行自体は全社員に共有されてたんですけど、PSGとの契約やクリエイティブの承認は大村さんとCIRCUSロンドン支社長の橋本久実さんが担当し、来日中のプランはイベントのスペシャリストのメンバーが中心になってすごく丁寧に進めていました。その様子を見ながら、「これならいける!」と徐々に期待が膨らみましたね。
——とはいえ、試合会場のスタジアムを押さえる経験って普通はなかなかありませんよね。
大村さん:僕も初めてでしたし、それはもう大変なこと続きでした。冠スポンサーやPSGと対戦するJリーグのチームが決まっていない。そんな状況で試合会場のスタジアムに「この日空いてますか? 実はPSGが来るんです」って話しても、当然なかなか信じてもらえなかったですね(笑)。
——すごいプレッシャーのなかで進行していたんですね。PSG日本ツアーは日本のサッカーファンにとっては最高のコンテンツですが、PSGにとってメリットはあるものですか?
大村さん:PSGは今、アジアでのマーケティングに力を入れているのですが、アジアのなかで日本は最重要国の1つ。だから、親善試合だけでなく、公開練習やイベントなどのアクティビティを通じてファンとの交流を深め、大きなムーブメントを作ることが大きな目的でした。最終的にPSGから「選手がここまでアクティビティに参加することはない」と驚かれるほど、たくさんファンとの交流機会を設けることができました。
——世界的なチームであるPSGが、日本のマーケティングにそこまで力を入れているとは驚きです。
大村さん:日本では、エンバペ、メッシ、ネイマールと選手名で報道がされることが多く、PSGというチーム名の知名度はそこまで高くなかった。だから、選手個人というよりチームを知ってもらう大事な機会だったんです。PSGはサッカーが強いだけのチームを目指しておらず、ハンドボールチームや柔道のチーム、eSportsチームを発足し、ファッション性やエンタメ性を取り入れた「The club of NewGeneration」がコンセプト。僕らもそうした側面をアピールできるよう心がけましたね。
小竹さん:当日、選手のみなさんが想像以上のファンサービスをしてくれたのには驚きました。VIPチケットのファンから服にサインをお願いされたエンバペ選手が、帽子にもサインを書いてくれたり。ネイマール選手が華麗な足技を披露してくれたり。素敵な場面が多くて感動しましたね。
——PSG日本ツアーの主催者として、どのような収入源があったのでしょうか?
大村さん:一番大きな割合を占めるのはチケット収入。次にグッズなどの物販収入とスポンサー収入です。チケットは話題性を含めて、豪華特典つきのNFTを活用した1,000万円のプレミアムチケットや100万円のVIPルームチケットも用意。興行の規模に合わせて、一般のチケットは最低7,000円と強気な価格だったにも関わらず完売となりました。3試合で16万席あったのですが、抽選受付を開始して4日ほどで定員数以上の申し込みがあり、最終的に応募総数が100万件以上となりました。社員みんなでうれしい悲鳴をあげましたね。
——ということは、最終的には黒字だったんでしょうか!?
大村さん:リスクは大きかったのですが、それなりのビジネスにはなりました(苦笑)。ここまで大きなイベントを取り仕切ったのは会社として初めてということもあって、本当に大変なことだらけでしたね。会社のメンバーもフル稼働で、労働時間なんて怖くて数えられないぐらい。これまで積み重ねてきた自分の信頼残高もほぼなくなりました(笑)。だけど、いろいろな方々のたくさんの力添えがあって、どうにか実行できた。会社として、新たなステップを踏み出せたし、まわりから「提案するだけでなく実行力がある会社」と改めて認識してもらえたと思います。外部の方々とのやりとりの幅が大きく広がった。会社の実績として「PSGがクライアント」とアピールできますし、次に生かせるような経験もたくさんできたので大成功だったと感じています。
名コピー「全員、超人。」やロゴデザインの制作秘話
——PSG日本ツアーの「全員、超人。」というコピーは、報道やSNSでたくさん使われたりと、とても話題になりましたよね。生みの親である小竹さんにぜひ制作の流れを聞きたいです!
小竹さん:最初に「サッカー好きにしかわからないコピーは作らないようにしよう」と思いました。PSGが来日するとなったら、サッカーファンはコピーの内容に関わらず自然に話題にしてくれると思ったので。コピーの役割は、コアな層の興味や関心を同心円状に広げて、多くの一般層に届けること。それで話題性や期待感が高まってムーブメントが大きくなれば、おのずとチケットの購買につながると思いました
僕自身、サッカーにそこまで詳しくない、まさに一般層なんですが、その視点でPSGを見ると、スター選手が勢揃いしていることが一番の取っかかりになると思い、「全員すごい」みたいなニュアンスの言葉をいろいろ考えました。素質だけでなく、想像を絶する努力を重ねてここまでのスーパースターになったという選手の功績を表現するには、「天才」より「超人」の方がよりふさわしいと思い、「全員、超人。」に決めました。
——コピーの反響の大きさに対して、小竹さんはどう感じましたか?
小竹さん:PSGの来日が決定した際、記者会見でキングカズ(三浦知良)さんに「まさに『全員、超人。』だよね」と言及いただき、報道としても広がったのが最初のフェーズです。次にPSG来日後の実況解説でも「全員超人のプレーでしたね」という形でコピーが使われたのが第二フェーズ。とくに最終フェーズとして、今回ツアーではPSGが三戦三勝し、最後の試合のPSG対ガンバ大阪戦では、PSGが「6−2」で勝利し、そこで「本当に全員超人だった」とSNSでもリアルな声として広がっていったことで、二重三重に世の中でワークするコピーになったのではないかと思います。最終的に「サッカーをよく知らない層にもPSGのすごさを伝える」という当初の狙いは、達成できたと捉えています。
——小竹さんはコピーだけでなく、ロゴやビジュアルのディレクションも担当されたとのことですが、PSGとのやりとりで印象的なことはありましたか?
小竹さん:僕はロゴデザインの途中から参加したのですが、海外の方が思う日本のイメージと日本人が思う日本のイメージが異なる可能性もあるので、そのすり合わせを行う作業を慎重に行いましたね。結果的に、ディテールにさりげなく毛筆を取り入れて、日本っぽさを表現しました。
——なるほど。価値観や文化が大きく違うクライアントとの仕事は何かと大変そうですね。
小竹さん:実は、来日中の撮影ロケ地の候補として、新名所の展望デッキ「SHIBUYA SKY」と、東京タワーを望む増上寺の2つを候補に出したんです。僕ら的には、日本の新しいランドマークであるSHIBUYA SKYにPSGの選手たちが立ったらかっこいいよね!って盛り上がっていたんですが、PSGとのオンライン会議で「増上寺めっちゃかっこいい、パーフェクト!」って、秒で増上寺に決まりました(笑)。結果、新ユニフォームが映える、最高にいい写真になってよかったのですが。
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広告換算費80億円! 大成功の裏には涙も……
——PSG日本ツアーを成功させるまで一筋縄ではいかないことが多かったと思いますが、たとえば、今後「FCバルセロナのジャパンツアーをやろう」と言われたら、大村さんはやりますか?
大村さん:やりたいですね(笑)。というのは、PSG日本ツアーで自分ができたところとできなかったところがすごく明確になったから。僕はCIRCUSに入社して、普通10年でやることを6年でがむしゃらに経験して、ある程度の自信を持っていました。でも、PSG日本ツアーの仕事では、自分の足りないところをまざまざと見せつけられて……。たとえば、予定していたアクティビティの参加がチーム側にきちんと伝わっておらず、トラブルになってしまって、最終的に泣いてお願いしたりとか(苦笑)。この反省を生かして、リベンジしたいですね。
——精神的にだいぶタフですね……! 反対に、PSGから評価されたのはどんなところですか?
大村さん:車やホテルの手配、席順など、PSGからアテンドに関して事前に細かな要求があったんですが、それにひとつひとつ応えて信頼関係を築けたことですね。来日中、快適に過ごせる環境があってこそ選手は最高の状態でプレーに臨める。結果、白熱した試合をファンの方々に楽しんでいただけたと思っています。
——小竹さんはいかがですか?
小竹さん:苦労はいろいろとありましたが、結果的にPSG日本ツアーは広告換算費※80億円もの効果が得られましたし、おかげさまでプロモーションとしては大成功でした。ただ、今回はプロジェクトに参加したのが後半からだったということもあって難しかったのですが、動画やキービジュアル、グッズデザインなど、もう一粘りしたかったという思いはあります。
もちろん世界的なスターをお招きしての大規模なイベントなので、あらゆる条件で難しいのはわかっているのですが、そんな状況でも公式動画のナレーションを声優の大塚明夫さんにお願いできました。また、新規の動画撮影はスケジュール的に難しかったのでモーショングラフィックに費用をかけたり、世界的な写真家のレスリー・キーさんにツアーの帯同フォトグラファーとして参加いただいたり、入稿期限3時間前にCMデータが完成するスケジュールで制作を粘ったりなどなど、こだわれるところは妥協なくやりました。本当にいろんな方の協力いただきました。心から感謝の気持ちでいっぱいです。
※広報やPR活動をした結果、テレビや新聞、WEBサイトのメディアによって情報が拡散され、人々に認知された効果を金額に換算したもの
——限られた時間の中でクリエイティブの瞬発力を求められる場面も多かったと思いますが、どんなところを工夫されましたか?
小竹さん:準備に使えるスケジュールは通常の10分の1くらいだったので、クリエイティブチームのみんなが瞬発力を持って進めていましたね。顔を見ながら打ち合わせをするよりも、Slackでの短い言葉のやりとりで、どんどん話が進むという感じでした。コロナ禍でリモートワークになったことを最大限活かして進められたのはよかったです。いろいろな分野のスペシャリストとオンラインで気軽につながれたし、海外の人とのやりとりもスムーズにできたので。
——今回、PSG日本ツアーを実現し成功させたCIRCUSは、広告代理店における新たな可能性を示したと思います。
大村さん:従来のビジネスモデルのように「クライアントから予算をもらったからやる」という面に加えて、自分たちで意志を持ち、リスクを取ってプロジェクトを実行することで、なかなか真似できないユニークさが打ち出せたと実感しています。クライアントや関係者と交渉するスキルや人脈、コーディネート力など、従来の広告代理店が持つ強みに自ら発信する姿勢などのオリジナリティーがプラスされると、これからの時代における広告代理店というビジネスモデルの存在価値がより高まると思いましたね。
小竹さん:本当そうですね。リスクが高い中で挑戦をし、成功の確度をあげる術を知る。これを学ぶことできたのが何より大きかったです。
大村 春洋(おおむら しゅんよう)
1988年生まれ。2012年に国際基督教大学を卒業後、アメリカへ2年間留学。2015年に東南アジアのスタートアップに1年間たずさわり、帰国後の2016年にCIRCUSに入社。既存のクライアントから新規の案件まで幅広く手掛けるCIRCUS1の営業マン。META ALL-STARS代表取締役としても活躍する。
小竹 海広(おだけ みひろ)
1990年生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。TBWA HAKUHODOなどの外資系広告会社を経て、2022年4月よりCIRCUSに参画。近年は「全員、超人。」パリ・サン=ジェルマン ジャパンツアー2022、「#外食5チェーン共同作戦」 ゼンショー×シンエヴァンゲリオン、「日本でいちばん明るい朝番組」TBSラヴィットなどを担当。ヤングスパイクスアジア日本代表・本選特別賞、釜山国際広告祭NEW STARS銅賞など受賞多数。2022年5月に単著「言葉のアップデート術」を刊行。
写真/武石早代
取材・文/川端美穂、おかねチップス編集部
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