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旅人ならではの価値を地域に生み出す。SAGOJO社長・新拓也のロードマップ

旅人ならではの価値を地域に生み出す。SAGOJO社長・新拓也のロードマップ

2016年のサービス開始以降、2万人以上のユーザーが利用している、旅とシゴトのマッチングサイト「SAGOJO(サゴジョー)」。旅をしながら依頼に応えることで、地域に深く関わりながら、観光では味わえない貴重な体験ができると支持を集めています。今回は株式会社 SAGOJOの社長・新拓也(しん たくや)さんに、旅で人生観が変わった話や大手メーカーを経て起業するまでの苦労、そして無料で泊まれる地域拠点「TENJIKU(テンジク)」について伺いました。

自分が旅をできるのは、たまたま境遇に恵まれただけ

「SAGOJO(サゴジョー)」誕生の背景とは?

——新さんが運営する「SAGOJO(サゴジョー)」は旅人と企業をつなぐマッチングサイトだそうですが、どのような仕組みなのでしょうか?

新拓也さん(以下、新さん):SAGOJO のサイトに“旅人”として登録していただき、気になった“シゴト”に応募して、選考を通過したらマッチング成立となります。シゴトは、国内外の地域を訪れて、記事の執筆や写真・動画の撮影をするといったコンテンツ制作が多いですが、お祭りの運営のお手伝いや畑作業などバリエーションはさまざまです。リターンはお金だけでなく、無料宿泊や食事提供などが含まれることも多いですね。

——ライターやカメラマンの経験がなくても旅人になれますか?

新さん:もちろん、誰でも旅人になれますよ。フリーランスだけでなく、会社員の方が副業としてシゴトをしているケースも多いです。あとは、学生や定年退職後の方、コロナ禍前は実際に旅をしてる最中の方からの応募もありましたね。

SAGOJOでは、地域活性化に貢献したい “旅人” を地方自治体や企業などとマッチングさせている

——旅に特化した事業を行うからには、新さんご自身も過去に印象的な旅体験があったのでしょうか?

新さん:大学4年生のとき、バックパッカーとして東南アジアとインドを5カ月旅しました。前期に単位をギリギリ取り終え、夏休みにアルバイトして旅費を貯め、後期は卒論も書かずにまるっと旅へ(笑)。このときに価値観が変わる体験が2つあったんです。

1つはカンボジアで親切にしていただいたとき。「今度みんなが日本に来たときは、僕が日本を案内するね」と話したら場が凍り、「僕らは日本に行くことができない。君は世界を旅することができて羨ましい」と言われたんです。自分が旅をできるのは、優れているからでも人一倍努力したからでもなく、たまたま境遇に恵まれただけだった、と痛感。生まれた環境の違いによって旅の可能性が変わってしまうことに違和感とやるせなさを感じましただから、自分のこの恵まれた環境を生かして、誰もが気軽に旅できる世の中にしたいと思いました。

もう1つは、インドとパキスタンを旅したとき。歴史的・政治的な理由で隣国なのに国民同士がいがみ合っていたんですけど、「行ったことがあるの?」って聞いたら、どちらの国の人も「ない」と。どちらも本当に素敵な国なので、もしお互いの国に気軽に訪れることができ、個人と個人の付き合いが増えたら、また隣国に対する捉え方も変わるのではないかと思ったんです。

——旅をして地域の人と直接触れ合ったからこそ、価値観が大きく変わったと。それにしても、言葉が通じない国で積極的にコミュニケーションが取れるのがすごいですね。

新さん:もともとサッカーが好きすぎて、バックパックにサッカーボールをくくりつけて旅していたんです。すると、「一緒にサッカーやろう」「そのボールをちょうだい」と、大人から子どもまで現地の人が話しかけてきてくれて。当時、中田英寿選手と中村俊輔選手が有名だったので、「ナカタ!」「ナカムラ!」って絡まれたりもしたんですけど(笑)。事前に現地の言語は勉強して、何とかコミュニケーションを取ってました。アジアの人も空気感も僕はすごく好きでしたね。

アジアを旅していた頃の新さん。各国でさまざまな価値観に触れた

——旅先での貴重な経験をもとに、大学卒業後はやはり旅関係のお仕事に就いたのですか?

新さん:いえいえ。海外でシゴトをしようと、大手の非鉄金属メーカーに就職しました。オーストラリアやブラジル、南アフリカ、国内でレアメタルを買いつけ、国内のクライアントに販売する業務を担当していたんですが、僕の部署はたまの海外出張しかなくて。それなら、自分で旅に関するシゴトにつくり出そう!と、副業で「Travelers Box」というWEBマガジンを立ち上げ、経験豊富な旅人たちに取材して、旅にまつわるストーリーを紹介していました。ただ、最初はWEBの知識がゼロだったので、WordPressすら知らなくて。仲間を集めたりhtmlで地道に作ったりしていたら、リリースまでに2年もかかってしまいました(笑)。

新さんは大手メーカーに勤務する傍ら、旅にまつわるWEBマガジンをスタートした

マネタイズに失敗。メディア運営の基礎をイチから学び、SAGOJOをリリース

——リリース後、Travelers Boxは軌道に乗ったのでしょうか?

新さん:メディアを運営しながら、「100人100旅」という本づくりのプロジェクトにも参加し、旅のエピソードを綴った本まで出版させていただきました。イベントで1冊1,000円で手売りしたんですけど、目の前で買ってくれるのが、めちゃくちゃ嬉しくて。その頃の僕は、会社で実物を見ずに電話やパソコン上で金属の売り買いをしていたので、大きな金額が動くにも関わらず実感があまり持てなかった。だから、本を手売りしたとき、自分で大きな価値を生み出せたような気がしたんです。それで会社を辞め、Travelers Box 1本でやっていこうと決意しました。

——大手メーカーを辞めて独立するとは、なかなか大胆な決断ですね。

新さん:はい。Travelers Boxのマネタイズのために試行錯誤して、大手企業とのコラボなども実現したのですが、継続的な広告収入は得られず……。貯金を切り崩して生活していたので、人生で一番お金がない時期でしたね。

——マネタイズがうまくいかなかったのに、すぐに転職しなかったのはなぜですか?

新さん:「Travelers Boxでやっていく」といきがって辞めた手前、気軽に転職できなかったんです。会社を辞めるとき、長く会社員をやっていた父に「逃げるな」って言われたことが悔しくて、絶対に成功しなきゃっていう変なプライドもあって……。一般的に旅って遊びとかドロップアウトという見方をされがちなので、そうではないと証明したかった。取材を兼ねてインドで1カ月10万円以下で生活したり、NPOの手伝いをしてわずかな収入を得ていました。でも、そんな生活には1年で見切りをつけ、WEBサイトやコンテンツ制作などを手がけるLIGに就職したんです。

——どうしてLIGに就職しようと思ったのですか?

新さん:ずっと素人のままメディア運営をしていたので、本格的に勉強しなきゃダメだと思ったんです。LIGでは、クライアントのオウンドメディアの運営やコンテンツ制作を経験しましたが、プロ意識が高く自立したメンバーとシゴトをするのがとても刺激的で、めちゃくちゃ楽しかったですね。また、編集者としてもレベルアップできたと思います。

——具体的にどうレベルアップできたのでしょうか。

新さん:それまで、僕は「これおもしろそう!」と直感的にシゴトを進めるタイプだったんですが、クライアントワークをするための論理的な思考が身につきました。また、情報を収集し、それに基づいたSEO対策※1を行ったり、顧客が商品やサービスに触れ、購入至るまでのカスタマージャーニーマップ※2を引くといったマーケティング戦略の基礎をイチから学んだことが、今もすごく役立っていますね。

※1 Search Engine Optimization の略で検索エンジン最適化のこと。検索エンジンで自社サイトを検索結果に上位に表示させ、検索流入を増やすための施策のことを指す ※2 ターゲットとなる顧客の行動や感情、思考などを可視化したもの

LIG時代を振り返る新さん

——なるほど。新さんはその後、Travelers Boxを閉鎖し、2015年に起業して翌年SAGOJOを立ち上げます。旅とシゴトをマッチングするというコンセプトにはどうやって行き着いたのでしょうか?

新さん:自分に与えられたミッションは何かと考えたとき、旅の社会的価値を上げることだと思ったんです。それで、旅でお金を稼いだり、キャリアアップができるシゴトを提供するSAGOJOを立ち上げました。旅先でコンテンツ制作をすることで、移動という旅の特性を活かしたり、その土地にない目線を持ち込んだりできるので、旅人ならではの価値を地域に生み出せると思いました。

——学生時代にバックパッカーを経験して人生観が変わった人は多くいると思いますが、ビジネスにするほどの熱意と行動力がある人はなかなかいないですよね。

新さん:僕はもともと住む世界が狭く自分本位な人間で、「バックパッカーになって目立ちたい!という軽いノリで旅に出たんです。それが5カ月旅をして帰国した頃には、「世界に対して自分に何ができるか」と考えるようになった。それほど僕にとって旅は衝撃的な経験だったので、SAGOJOでも普通では味わえない旅の体験を提供したかったんです。ただ、旅のビジネスをするとしても、旅好きだけで集まって「旅っていいよね」って言い合う閉鎖的な場所にはしたくなかった。旅への距離感は人それぞれだと思うので、SAGOJOは境遇に関わらず、多様な価値観で旅を楽しみたい人が集まる場でありたいと思っています。

SAGOJOは2016年4月にリリースされた

——SAGOJOをリリースするにあたって、旅人はどうやって集めたんですか?

新さん:シンプルにコンセプトを打ち出したティザーサイトをつくって公開したら、斬新でおもしろいと反響をいただき、旅人の事前登録者数が3000人になったんです。リリース前は投資家からは全く理解を得られてなかったので、僕らとしては意外な反響が本当に嬉しかったですね。多くの旅人が集まったおかげでクライアントからの依頼を順調に獲得でき、さらに旅人が増えるという良いサイクルをつくることができました。

——シゴトの企画や進行といったディレクションは、SAGOJOとクライアントのどちらが行うんですか?

新さん:リリースしてすぐの頃は、ほぼSAGOJOがディレクションしていました。SAGOJOがディレクションのプロになり、旅人の能力を最大限発揮させたかったので。旅人と一丸となって、「クライアントに僕らの力を見せてやろうぜ!」と常に全力で最高のアウトプットを心がけましたね。期待を上回ることで、また新たな依頼をしていただき、受注を継続することができました。今はクライアントがディレクションするケースも増えています。

地元の人と“ソトモノ”がフラットに協力することで地域活性化ができる

——コロナ禍で世界中の人が旅を自粛せざるを得なくなったとき、SAGOJOもダメージを受けたのではないでしょうか?

新さん:そうですね。最初の緊急事態宣言のときは新規の案件を受注できないだけでなく、すでに始動していたプロジェクトも全部止まってしまい、めちゃくちゃ大変でした。やむを得えず、旅の企画をオンラインでできる企画に差し替えたりして……。会社存続の危機感もありましたが、幸いなことに以前から自治体のシゴトを受注していたおかげで、何とか乗り切ることができました。コロナ禍で地域活性化関連の予算が増え、SAGOJOへの依頼も増加し、企業よりも自治体の案件の比率を上げたんです。

——自治体と組んで地域を活性化するというプロジェクトは、SAGOJOがまさに得意とするところといった感じですね。

新さん:そうですね。地元の人かそれ以外の“ソトモノ”、どちらかがやるのではなく、両者がフラットに協力することが地域活性化につながると実感しています。主役はもちろん地元の方々ですが、旅人は強力な右腕になれるんですよね。

——なるほど。地域のお手伝いをしながら無料で宿泊ができる「TENJIKU(テンジク)」というサービスについてもお聞きしたいです。どういったきっかけで始まったんですか?

新さん:コンテンツ制作のスキルはないけど地域の役に立ちたいという方に、旅を通じた体験を提供したいという想いがあって。SAGOJOと関係が深いキーマンがいる奈良県吉野町、京都府京丹後市、山口県下関市という3つの地域を拠点に、2019年からTENJIKUをスタート。拠点は順次拡大していました。TENJIKUは、たとえば旅人がゲストハウスに無料で宿泊しながら、「ミッション」と呼ぶ地域の人々のお手伝いに取り組むサービスです。初回は5泊まで、2回目以降は最大1カ月無料で宿泊できます。TENJIKUは普通の観光と違って、地域のコミュニティに深くコミットできるので、旅人の満足度がすごく高い。地域への親しみが生まれ、ファンになる旅人も多いんです。

2019年6月、奈良県吉野町、京都府京丹後市、山口県下関市の3拠点からスタートしたTENJIKU。全国へ順次展開している
2022年10月、TENJIKUをリニューアル。“投げ銭”で経済的にも地域を応援できる「サゴチップ」を導入した

——地域の人たちのお手伝いって、どんなものがあるんですか?

新さん:農作業やお祭りのお手伝い、神社の掃除、あとはおじいちゃんおばあちゃんのゲートボール大会のスコアをつけたりも(笑)。1日2〜4時間、地元の人々と仲良くなれるようなお手伝いを体験できます。家族で訪れ、キッザニアみたいに子どもが楽しんでお仕事体験することも。あとは休職中の人や学校が通いづらくなってしまった学生など、1人で訪れる方も多いですね。

——都会での日々に疲れたときにTENJIKUを利用したら癒されそう……。

新さん:休職中にTENJIKUを利用されたデザイナーさんは、ある地域に滞在したら「人生が変わった」と言っていました。個人的なつながりができ、定期的にその町に通ってデザインのシゴトも生まれ、「結婚式もここで挙げたい!」と言うほど、お互い良い関係を築かれています。

——旅人と地域、双方にとって魅力的なサービスなんですね!

新さん:TENJIKUを続けていて感じるのは、旅人が地域に関わることで、地元の人々がどんどん前向きになること。それまでは町でイベントを企画しようと思っても、忙しい、スキルがない、人手が少ないからと、できない理由ばかりを挙げ、諦めてる人が多かったんです。それが今は、TENJIKUで旅人を呼べば解決できる。旅人が「この町、めっちゃ素敵ですね!」と喜ぶと、みなさんとても誇らしそうなんです。この変化を間近で見て、すごいことだなと感動しました。

旅や旅人の力を信じ、新さんはSAGOJOで地域社会に寄与していく

——ちなみに6年間SAGOJOの運営を続ける間に、お父さまから何か反応はあったんでしょうか。

新さん:まぁ、一応のたれ死ぬことなく会社を経営してるので(笑)、頑張ってるなと思ってくれているはずです。あと、父が定年退職後、母と2人で四国を1カ月巡ったと聞いたときはびっくりしました。そんなことをするタイプじゃなかったので、心境の変化があったのかなと。まぁ、僕の影響じゃないかもしれませんけどね!

——素敵なお話ですね。では、最後にSAGOJOの今後の展望を教えてください。

新さん:いろいろなサービスを展開し、旅の可能性を今以上に広げていきたいと思っています。そのうちの1つが、「SAGOJOスクール」。これは地域を訪れ、ある領域のプロからスキルやマインドを学べるというものなんです。たとえば、長野県に滞在しながら、プロに教わってドローンの撮影スキルをマスターできるとか。スクールを通じて地域にお金を還元するだけでなく、専門スキルを得た旅人がシゴトを次々獲得し、得たお金で新たな旅に出たり、スキルアップのために自己投資していただけるといいな、と。旅を通じたSAGOJOの経済圏をつくり、ますます地域社会に貢献していきたいと思っています。

新 拓也(しん たくや)

SAGOJO代表取締役
1987年生まれ、愛知県知立市出身。2010年、立教大学経営学部国際経営学科を卒業。2010~12年に大手非鉄金属メーカーでレアメタルの調達業務を行う。在職中の2012年から “旅×人×ストーリー” をテーマに掲げたWebマガジン「Travelers Box」を立ち上げる。2014年、株式会社LIGに編集者として入社し、企業のオウンドメディア運営やコンテンツ制作に従事。2015年12月に株式会社 SAGOJOを創業。2016年より、旅人と企業をつなぐ、旅とシゴトのマッチングサイト「SAGOJO(サゴジョー)」、地域課題を解決する”ミッション”に取り組みながら無料で滞在できる関係人口創出サービス「TENJIKU(テンジク)」の企画・運営を行う。

写真/武石早代 
取材・文/川端美穂、おかねチップス編集部

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