前澤ファンドが出資した履修管理SNS 「Penmark」横山直明の大学内DXから始まる新しいキャンパスライフ
次世代を担う新しい職業を生業としている方々へのインタビュー企画「シゴトとワタシ」。今回ご登場いただくのは、大学生向け履修管理SNSアプリ「Penmark」を開発・提供している株式会社ペンマークの代表取締役社長・横山直明さんです。
慶應義塾大学の授業履修管理アプリとしてスタートした「Penmark」。2019年3月にリリースされ、その1か月後には慶應義塾大学の学生2万8000人のうち約1万人が利用するまでに。公式シラバスの授業データから時間割をつくれるほか、先輩による授業レビューが読めたり、同じ授業をとっている人とコミュニケーションが取れたりと、多くの大学生にとって欠かせないアプリとなっています。
そして現在は、全国の750大学に対象を拡大中。その影響力を徐々に大きくしています。コロナ禍でキャンパスライフというものの価値観が揺らいでいる中で、どのような事業展開を考えているのでしょうか。
留年して実感した「情報格差」をなくすための交流の必要性と選択肢の広がり
——横山さんが手がける「Penmark」は、2019年4月のリリースからわずか1カ月で慶應に通う学生の約40%、約1万人がダウンロードしたそうですね。どのようにして短期間で多くのユーザーを集めることができたのでしょうか?
横山さん:そもそも僕たちは、学生団体として「Penmark News」という慶應生向けの情報メディアを2017年から運営していたんです。そこでは履修制度に関する情報や在学生のインタビューなど、慶應生の学生生活に関わる情報を幅広く掲載していたのですが、あらゆる情報を収集するのに限界を感じるようになりました。そこでユーザー同士で情報を持ち合えるプラットフォームを作りたいと思い、開発を進めていたのが「Penmark」です。2018年の秋から開発を始めて、2019年の3月にリリースできる体制が整ったので、メディアのTwitterアカウントでアプリのリリース情報を出しました。
すると口コミで一気に広がって、翌日までの1日で3,000人ほどがダウンロードしてくれて。その後、キャンパスでアプリをダウンロードしてくれた人にハーゲンダッツを配るキャンペーンなども実施し、幸先よくスタートを切ることができたんです。
——「Penmark」は大学の情報が得られるだけでなく、同じ授業をとっている人とトークができたり、同じサークルにいる人とグループを作ったりできますよね。そうやってコミュニケーションできる仕様にしたのはどうしてだったのですか。
横山さん:これは僕自身の体験が大きく影響しています。お恥ずかしい話、僕は1度留年しているんです。情報収集に失敗して出席必須の授業を見逃してしまって。それ以外の場面でも、大学内で所属するコミュニティ、例えば学科やサークル、ゼミなどによって入手できる情報に差があると感じました。
就職活動を始める際、サークルや部活に入っている人は先輩から情報をもらえることが多いですよね。場合によっては志望する会社の人を紹介してくれる場合もあります。一方、どこにも所属していない人は、情報がない状態でスタートしなければいけません。そういった「学内の情報格差をなくしたい」と考えたんです。
——確かに、どんなコミュニティに所属するかによって得られる情報に差が生じますよね。
横山さん:大学生活のなかで所属するコミュニティを選ぶ機会って実はそこまで多くないんですよ。大きなものだと学部学科のクラス、サークルや部活、3年時のゼミくらいでしょうか。そうすると、たとえば慶應には28,000人も学生がいるのに、4年間で交流できるのはせいぜい100人とか200人くらいしかいないわけです。
でも、Penmarkを通じてさまざまな人とコミュニケーションを取ることができるようになれば、その100人、200人を1000人、2000人にできるかもしれない。それだけ情報を得る機会も増えて将来に対する選択の幅が広がります。大学生活は自由な時間が多いだけに、選択肢の幅が学生の将来を考えたときに大切だと思っています。
——コミュニケーションが活性化することで、選べる選択の幅が増えるのは面白いですね。現状、Penmarkは700校以上の大学に対応していますが、コミュニケーションは各大学内でしかできない仕組みになっていると思います。インカレのように大学を飛び越えた交流は考えていないのでしょうか。
横山さん:最終的にはさまざまな機能を備えたいと考えていますが、いきなりそれをやってしまうと「なんかいろいろできるらしいけど結局何のアプリなの?」という印象を抱かせてしまうと思うんですね。そうすると、便利らしいけど誰も使っていないアプリになりかねないなと。
だから、まずは同じ大学内の授業を受けている人同士が情報交換できるように。それが当たり前になったら大学内の人とコミュニケーションがとれるように。そして、学外の人へと広がる。ユーザーの動向を見ながら一つひとつ受け入れられているのを確認しながら機能を充実させていく予定です。
コロナ禍の無人のキャンパスで感じた危機。そこから見出した新たなる挑戦と活路
——事業がスタートして2年目の2020年に新型コロナウイルスが猛威を奮いました。入学式や新歓がなくなったり、授業がオンラインになったりと大学生活に大きな変化があったと思うのですが、影響はありませんでしたか?
横山さん:正直な話、「なんでこのタイミングなんだ?」と思いました。ちょうどその頃、慶応だけでなく、全国の大学100校にPenmarkを広げようとしていたんです。そのためにシードラウンドの資金調達を実施してプロモーションのために動いている最中にもかかわらず、コロナ禍でキャンパスに学生がほとんどいない状況に陥りました。
各大学の学生向けのTwitterアカウントを通じてアプリのリリース告知はできたのですが、1年目に実施したキャンパス内のキャンペーンができなくなってしまいました。たとえば、ハーゲンダッツさんから配布用のアイスを協賛していただいたのですが、一切配ることができませんでした。ほかにもオンラインで打てる手は打ったのですが、プロモーションの要であるオフラインの口コミがうまく機能せず、利用者の数を思うように伸ばすことができませんでした。
——あらためて、この頃を振り返ってみるといかがですか。
横山さん:正直な話、1年目、2年目はめちゃくちゃ強気でした。シードラウンドで訪問した10社中9社から合計で約5800万円の資金調達を実現できたこともあって、このままの勢いで一気に規模を拡大させていく予定だったんです。ところが、新型コロナウイルスが猛威を振るって、事業計画とは大きく乖離したプロモーション結果となってしまいました。
——資金もどんどんなくなっていくわけですよね?
横山さん:はい。ただ、この時期になんとか会社を存続させたいと必死に考えたからこそ、今でもきちんと活動できていると感じます。預金残高が減り続ける中で、僕たちに残された道は資金調達してキャッシュアウトを防ぎ、次の一手につなげることでした。それを実現させるため20社も30社もベンチャーキャピタルを訪問したんですけど、業績もそこまで良くなかったので納得のいく条件での交渉がなかなかできませんでした。それで自分たちのビジネスモデルについてあらためて真剣に考えました。その結果、事業の解像度がどんどんあがっていって、大学生協が取り組んでいる事業をPenmarkで代替するという展開が見えてきたんです。
——大学生協というと、売店や学食のイメージがありますが……。
横山さん:大学生協のビジネスモデルは、簡単に説明すると販売代理店なんですよね。売店や学食は全体の売り上げの一部でしかなくて、教科書やPCの販売、資格講座や旅行プランの提案、仕事探しや家探しのサポートなど、大学生が4年間で利用する物やサービスを紹介したりすることで売上をあげているんです。
そのビジネスモデルをオフラインではなくオンラインで実現できたらと考えています。大学生協は年間で約2000億円の売上があるのですが、そのパイの1%でもPenmarkでとることができたら20億円になるじゃないですか。しかもPenmarkを利用する人が増えれば、詳細なデータを取得できるようになるので、ターゲティング広告も効果的に出稿できます。この仕組みを100大学、1,000大学と広げていったら大きな可能性が見えてきますよね。
——結果としてシリーズAラウンドでは前澤ファンドからの出資を受けることに成功していますよね。
横山さん:そうですね。先ほど話したベンチャーキャピタルを訪問しているうちのひとつが前澤ファンドだったんです。個人的には前澤さんからアドバイスをもらえればいいくらいの気持ちだったんですけど、1次審査、2次審査と順調に通過し、3次審査、4次審査で前澤さんと話をするなかで出資が現実味を帯びてきて。前澤さんからいろんなアドバイスをもらえたことで事業の解像度が上がった部分もあります。
——先行きが不透明な状況で資金調達を目指すのは自ら困難な道を選んだとも言えます。極端なことを言えば、事業売却してしまえばある程度気持ちが楽になったのではないかと思うのですが、その選択肢を選ばなかったのはなぜだったのでしょうか。
横山さん:もともと図太い性格だったこともあるのですが、それ以上に大きかったのは自分の幸せを追求するためです。僕はどちらかと言うと些細なことでも幸せに感じやすいタイプなので、利己的な幸福だったらいつでも自分を満足させることができるんですよね。でも人生を長い目で見たときに、利他的な幸福も含め、自分の幸せを最大化したいと思っています。そのためには、このまま会社を大きくして社会にインパクトを残すことができたら、サービスを利用してくれる大学生はもちろん、一緒に働いてくれるスタッフへの還元も大きくなるじゃないですか。それが自分の幸せを最大化できる選択だと思ったので、事業売却という選択肢はありませんでした。
学生のうちだけでなく、その後の人生も豊かにする存在でありたい
——資金調達に成功し、Penmarkは多くの大学生にとって欠かせないアプリになっています。今後はどのような展開を予定していますか。
横山さん:大学生活全体を包括的にサポートできるようなアプリにしていきたいと考えています。情報交換やコミュニケーションツールとしてだけではなく、不要となった教科書や日用品の売買やアルバイトの斡旋、家探しまですべてPenmarkで担えるような、学生生活におけるスーパーアプリですね。
そして最終的には、大学生活だけでなく、入学前や卒業後も含めた、学生の一生を豊かにできるようにしたいと考えています。ライフステージの変化に合わせて、Penmarkをひとつの居場所としていつでも使ってもらえるようにしていきたいですね。
横山直明(よこやま・なおあき)
Penmark Webサイト:https://penmark.jp
横山さんのTwitter:https://twitter.com/ykymnoak
撮影/武石早代
取材・文/村上広大、来海優子
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