スタートアップを⽀援する会社StartPassの代表で、経営支援プラットフォーム「StartPass」の運営も行っている小原聖誉(おばら まさしげ)さんが、スタートアップ業界でチャレンジしている人たちにインタビューする新企画「スタートアップって食べれるの?」。
今回は、大手有料テレビ局のWOWOWから、スタートアップでもあるStartPassに今年の3月に入社したばかりの岩崎庄太朗さんに、スタートアップに参画したきっかけや、実際に業界に入って感じたギャップなどを、小原さんが根掘り葉掘り伺います。
自己実現の場を求めて、テレビ業界からスタートアップに転職
連載初回ということで、まずは身内から攻めたいと思います(笑)。岩崎さんは、スタートアップである弊社StartPassに入社する前、WOWOWさんでどんなお仕事をされていたんですか?
なんだか社長と社員の面談みたいな雰囲気ですが(笑)、よろしくお願いします!
前職のWOWOWでは、海外スポーツの生中継番組の制作を3年、スポーツコンテンツを活用したルート営業を3年の、合計6年間在職していました。
WOWOWからStartPassに転職って、ぱっと見あまり脈絡がないように思えますが……。
一見そう思えるかもしれませんが、僕の中では一貫しているんです。
というのも、元々、WOWOW入社したのは、自分のアイデアをコンテンツにして1人でも多くの方に届けたいと思ったからでして。WOWOWはテレビ局の中でも有料放送。だから、視聴者の方はよりおもしろいものを求めているので、そういう環境こそが自分のやりがいに直結すると考えていました。だけど、テレビ業界で6年間働く中で、限界みたいなものを感じてしまって。
当時、僕が携わっていた番組制作は、海外からコンテンツを買い付け、それに自分たちで色をつけて届けるというものでした。しかし結局、視聴者の方は僕たちが番組にした味付けを見ているのではなく、中身の素材を見ているのだと気づいたんです。極論、おもしろい試合をそのまま放送しても視聴率は取れてしまう。
それで、もっとダイレクトに自己実現ができる場所はどこだろうと模索した結果、スタートアップで起業するということに行き着いたんです。
まずはスタートアップで起業することを考えたんですね。ではなぜ、StartPassに入社してくださったんでしょうか?
小原さんの著書『凡人起業 35歳で会社創業、3年後にイグジットしたぼくの方法。』を手に取ったのがきっかけです。
それで小原さんのSNSを拝見したら、起業家の方々と盛んに交流されていらした。もし自分が起業するなら起業のリアルを知ることが大切なのではと思って、WOWOW在籍中にStartPassが運営する経営支援プラットフォーム「StartPass」に登録しました。
僕の著書から「StartPass」にたどり着いてくれたんですね。それはありがとうございます(笑)。
「StartPass」を利用されて、ご自身の中で何か変化はありましたか?
「StartPass」では、さまざまな起業家さんのリアルを知ることで、みなさんが事業にかける情熱にたくさんの刺激を受けました。
なかでも大きく心を動かされたのは、スタートアップのピッチ大会で優勝経験のある起業家さんの行動力。すでに急成長を遂げているのに、何度も練習を重ねてピッチ大会に臨まれたと伺って。その圧倒的な行動力に触れて、僕も一生情熱を感じられる仕事をしたいと。それで、それが叶えられるスタートアップ業界に身を置くことに決めました。
そのままテレビ業界にいては、情熱を感じられそうになかったですか?
AmazonプライムやNetflixなどの台頭によって、テレビ業界全体としてもかなり厳しい状況でしたし、僕自身がテレビにかける情熱がもうなくなっていたんです。視聴者の方の心を動かすような番組を作るのは、とてつもない努力と情熱がないとできません。そこにはもう向き合えないと思いました。
なるほど。岩崎さんは最初、スタートアップで起業を考えていらっしゃいましたが、StartPassに入社を決めたのはどうしてですか?
最初は起業を考えていたんですが、「StartPass」を利用していくうちに、まずはスタートアップ業界に身を置いて修行を積みたいと思うようになりました。転職を考えていたとき、StartPassからスタートアップを数社ご紹介いただいて。何社か面談した結果、最終的にStartPassからもオファーいただいて入社を決めました。
99%の人から大反対‥…。給料が減っても、自己実現ができる業界へ
現在、岩崎さんは「StartPass」を利用されている起業家さんの伴走支援をしたり、新たに始まるメディア運営の準備に携わっています。率直に伺いますが、大手企業からの転職先がスタートアップで、本当に大丈夫だったんですか?
転職することを周囲に話したときは、99%の人に大反対されました(笑)。
そりゃそうですよね(苦笑)。
周りの方々からは、どのような心配をされたんですか?
「給料は大丈夫?」「将来性はあるの?」「怪しい会社じゃないよね?」とかですね。
そういった心配の声は、スタートアップに対する世間一般のイメージそのままだと思うので納得です。とくに大手企業からの転職となると、給料面が一番心配されそうですね。
テレビ業界全体の給料体系でいうと、新卒でだいたい500万円オーバーからスタートし、その後は査定によってコンスタントに上がっていく感じだと思います。一般的に考えて給料はいい方ですが、スタートアップに転職することで給料が少し落ちることは、承知の上での決断でした。
これまでの給料を落としてまで、スタートアップに転職したかったんですね。スタートアップのどんなところに魅かれたんでしょうか?
努力して成果をあげれば、自分の実力となって確実に返ってくるところですかね。それを踏まえて考えてみたところ、自分の将来に有益なのは、スタートアップに転職することでした。僕個人でいうと、今はお金を重要視しているわけではないんです。
今の岩崎さんの中では、“何のために働くか”が大切なんですね。では、岩崎さんは何のために働いているんですか?
情熱の持てる仕事をし続けること、そして直接的に人のためになる仕事をすること。この2つを達成するため、それができるスタートアップで働いています。
実際に転職されて、大手企業とスタートアップそれぞれで働くメリット・デメリットに気づくことも多いと思いますが、いかがですか?
WOWOW時代でいうと、自分のやった仕事に対しての社会的な影響力を感じられることが多かったので、やりがいのある仕事だったと思います。その一方、やはり視聴者の方と直接触れ合うことができないので、フィードバックを得てその後の仕事にいかすことが叶わなかったのはもったいなかったなと。
StartPassは人生をかけて起業された起業家さんのご支援をさせていただいているので、自分自身の仕事や人生観にもよい影響を与えています。もちろん、創業期の会社さんが多いので、文化的な部分と構造的な部分というのを自分たち含めたメンバーでどんどん作っていかなければならないし、自分自身で成長していかなければなりません。でも結局、それもおもしろいと感じています。
スタートアップ業界に身を置き、刺激的な毎日を過ごされているんですね。StartPassに入社されて3カ月ほど経ちましたが、一番ギャップを感じた部分ってありますか?
あらゆる場面で感じるのは、スタートアップ業界は一つひとつの仕事が繊細だということ。なぜかを考えたら、大手企業では社員が会社の看板で仕事をするのに対して、より個の力が際立つスタートアップは個人としてのコミュニケーション力が事業の成果に大きく左右する。だから、些細な仕事も重要になるし、それと向き合うには、丁寧さと繊細さが大切なんだと思いました。
そんなスタートアップで働く中で、大手企業での経験が現在の仕事にいかされていると感じる部分はありますか?
WOWOWでは外部の方とお仕事する機会もたくさんあり、進行や管理といったマネージメント業務が多かったので、人の意見を汲み取り、円滑にプロジェクトを進めていく力を身に付けたと思います。そこで培ったマネージメント力は、細かい業務の多いスタートアップでも存分にいかせると。
反対に、スタートアップでは多岐にわたる業務を担当させてもらえるので、トライアンドエラーを繰り返し、自分の中に経験値を蓄積していけると感じています。
今はそういったスタートアップ業界のことを深く学んでいる最中かと思いますが、岩崎さんはこの先、起業を視野に入れていくんでしょうか?
起業家の方々の知見やマインドを吸収し、将来的にはスタートアップで起業したいと思っていますが、今はStartPassの社員として会社の発展にフルコミットしていきたいと考えています。まだ入社したばかりではありますが、自分の原動力で上場まで会社を引っ張っていきたいですね。
自分が起業するときの練習台として、StartPassを使ってやろう、僕がスタートアップ経営で苦労する姿を間近で見てやろう。そういうことですね(笑)?
転職に迷ったらまず動く。新しい世界を知ることは、自分自身を知ること
岩崎さんは実際にスタートアップに転職されましたが、どんな人がこの業界に向いていると思いますか?
スタートアップに転職するか、大企業に定着するかみたいな二元論の話題が最近よくあがりますが、そもそもスタートアップに転職するか否かで迷っているような人は向いてないような気がします。
お〜、なかなかのことを言いますね(笑)。どうしてそう思います?
スタートアップへの転職に迷っている方って、結局のところ、まわりからの目を気にしてるんだと思うんです。もし自分が実現したいことがあるなら、そんなこと気にならないはず。スタートアップでの仕事が自分の将来に必要なことだと確信できれば、転職するかどうかなんて悩まないのではと。
素晴らしい視点ですね。今、転職を考えている人は、スタートアップも転職先の候補として視野にいれる必要があると思いますか?
転職の選択肢の一つとして、スタートアップを加えるべきだとは思います。自分は何のために、どうして働くか。そういった自己実現するために、スタートアップで働くのは一つの手段になり得るはずです。
なるほど。ではズバリ、岩崎さんはスタートアップ業界に転職されて、後悔はありませんか?
現状はありません。これから不安や迷いは出てくるかもしれませんが、きっと後悔はしないと思います。転職を決めたのも、後悔のない毎日を過ごしたかったからなので。
StartPassの代表としては、ホッとしました(笑)。スタートアップへの転職に迷っている方へアドバイスを授けるとしたら、なんとお伝えしますか?
とにかく動いてみるといいと思います。転職のためというより、まずは外の世界を知るために動いてみてください。人材採用サイトに登録するのでもいいですし、気になる経営者の方や実際にスタートアップに転職された方にコンタクトを取るのでもいいと思います。
外の世界を知ることで自分のことが客観視できるので、自ずと自身の現在地も見えてくるはずです。だから、まずは動いて外の世界の状況を見ることをおすすめします。
自分が抱える不安や迷いを拭うためにも、どんどん動くことが大切だということですね。最後に、岩崎さんが気になっているスタートアップや起業家を教えてください。
障がいや難病のある人たちが活躍するDXプラットフォーム「NEXT HERO」を展開するVALT JAPAN株式会社の代表・小野貴也さんです。
なぜ自分が、何のために事業を実現させるのか。そういった思考と行動を直結させながら動かれている小野さんの姿は、本当に痺れるくらいかっこいいです。僕自身、人の感情やエモーショナルで心を動かされることが多いので、そんな力が凄まじい小野さんをすごく尊敬しています。
岩崎さんが小野さんのように大活躍される日を楽しみにしています。僕を踏み台にしつつ(笑)、これからも躍進していってください。
岩崎さん、今日はありがとうございました。
そんな、そんな(笑)。
こちらこそ、ありがとうございました!
小原聖誉(おばら まさしげ)
連続起業家・元エンジェル投資家、株式会社StartPass代表取締役。
2013年にAppBroadCast社を創業し、400万⼈にサービスが利⽤されたのちKDDIグループmedibaへバイアウト。その後、エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し3社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。2019年の週刊東洋経済で、“若⼿起業家が選ぶすごい投資家“第1位選出される。現在はスタートアップを⽀援する会社StartPassを創業し、経営支援プラットフォーム「StartPass」を通じてスタートアップ350社の⽀援を⾏う。ラジオNIKKEI『ソウミラ』スタートアップ情報コメンテーターとしても活躍中。
StartPass:
https://startpass.jp/
岩崎庄太朗(いわさき しょうたろう)
株式会社StartPass 事業開発本部コンサルチーム兼副編集長。
山梨大学工学部卒業後、2016年4月に株式会社WOWOWへ入社。スポーツ局に配属され、NBAやスペインサッカーなどの海外スポーツ生中継業務に従事。番組プロデュースやキャスティング、取材・撮影など制作全般を担当。2019年にはマーケティング局へ異動し、メガベンチャー、大手小売店などへスポーツコンテンツを活用したパートナーセールスを担当。2022年3月より株式会社StartPassへ参画し、起業家へのコンサルティングやビズリーチ採用支援、メディア立ち上げを行う。
StartPass:
https://startpass.jp
取材・文/おかねチップス編集部