小商いをする人に向けて経営のガイドを行う税理士の松崎怜先生が、アパレルブランドのオーナーとして独立したばかりの鈴木香澄さんに、フリーランスに必要なお金の話を伝授する本連載。第3回は、確定申告の捉え方について。今回も、フリーランスの人のモチベーションを高めてくれる“松崎節”が炸裂します。
■連載
第1回「独立したら依存先を増やすべき」
第2回「フリーランスには退職金がない。法人や会社員との違いを理解しよう」
本日のレジュメ
「確定申告はゴールじゃない。ビジョンに向かう過程のマイルストーンと心得よ」
1年の仕事の成果が現れることから、自分の事業の「成績表」だなんて言われる確定申告。そもそもフリーランス・個人事業主になったのは、目標やビジョンがあったからこそ。だから確定申告はゴールではなく、その目標やビジョンに向かう過程における中間点、マイルストーンでしかない。
【目次】
【CHECK 01】“確定申告に振り回されず、本来の目標やビジョンを全うしよう”
鈴木さん、本日はこの連載の終着点でもある確定申告についてお届けします。「確定申告って、意外と難しくないじゃん」と感じていただければと思っています。
はい、今日もよろしくお願いします。確定申告ですか……。正直、難しくてややこしいイメージしかありません(苦笑)。
ぱっと思い浮かぶのは、手続きがめんどくさい、税務署がすごく混んでいる、不明点が多い、ですかね。
基本的にはその通りで、僕もそう思います。確定申告は1年の仕事の結果が反映された「成績表」と言われたり、いわば1年のゴールという認識をされることが多いのですが、むしろ僕はビジョンに向かう過程の中間点、マイルストーンであると考えてます。
フリーランス・個人事業主のみなさんは、そもそもやりたいこと、成し遂げたいことがあって独立されたわけであって、ご自身が掲げる目的やゴール、ビジョンはもっと先にあるはずです。そこに向かっている過程に、毎年1回、国の制度としてお金まわりのことを区切って報告をする確定申告というルールがあるだけ。なので、確定申告はゴールではなくて、あくまで中間ポイント。確定申告で「今年はこういう状況だったね」という報告をしているだけなので。
早速の名言! ちょっと前向きになれます。そもそも、確定申告って何なんでしょうか? 年末調整とは違うんですか?
個人にかかる税金は所得税や住民税、個人事業税、消費税などいろいろな種類がありますが、世間一般に「確定申告」と呼ばれているものは、1年の間に得た所得を集計して、年間分の所得税を精算する手続きのことを指します。税法の世界では「所得」という儲けが出たら税金を払うような仕組みなので、この確定申告を基に所得にかかる税金が算出されます。
年末調整は、いわば会社員の確定申告です。会社が代わりに集計と申告をしてくれるものなので、鈴木さんに給与所得がない限りは無縁ですね。
なるほど。やっぱり確定申告ってやらないとダメないんですか?
ダメです。無申告加算税や延滞税といった追加で税金を払わなければいけなくなるだけならまだしも、無申告が発覚して、かつ故意に納税を免れる意思があった場合は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方」が課されてしまうことも……。
また、青色申告であればそのメリットが受けられなくなったり、青色申告できる権利が取り消しになるなどのペナルティもあります。
わ、わ、わ……。めちゃくちゃ厳しいんですね。提出の期限も絶対に守らないとダメですか?
まずは期限を守るのが第一。ただ、期限を過ぎたとしても提出はできるので、確定申告はした方がいいです。万が一、確定申告を忘れてしまった場合は、なるべく早く自主的に申告を行うことで、ペナルティを最小限に抑えられる可能性があります。「本来の申告期限から1カ月以内に自主的に申告している」「期限内申告をする意思があったと認められる一定の場合に該当する」など、すべての要件を満たしている場合、無申告加算税が課されない場合があります。
それは大変。確定申告って、私のようなフリーランス1年目からやるんですよね?
はい。ただし、副業で得た所得だったら、利益が20万円以下なら確定申告しなくていいというルールがあります。しかし注意点もあって、住民税の確定申告は1円でも利益がある場合はしないといけないので、結果として所得税の代わりに住民税の確定申告をすることになります。
へぇ。実際に概要を聞くと、やっぱりややこしい感じがしちゃいます。
国税庁の発表によると令和元年に事業所得をメインの収入として確定申告をした人は160万人いますが、別の民間調査では、事業所得で確定申告する人のうち65%は自分で申告しているという調査もあります。つまり半分以上の方、100万人以上がご自身で確定申告を行なっている。そう考えると、絶望するほど難しいものではないと思いませんか?
そんなにたくさんの人が自分で確定申告しているとは……! ちょっとだけ希望の光が見えたような気がします。
【CHECK 02】“利益が出るところに必ず税金がかかるけど、控除を活用して節税対策を”
先ほど、確定申告=所得の集計と所得税の精算と話しました。ここで少しややこしいことに、「所得」にもいろいろな種類があるんです。給与所得、事業所得、不動産所得、譲渡所得、雑所得など全部で10種類に区分されていますが、鈴木さん、どれか知っているものありますか?
給与所得は給料で得た所得、事業所得は私のように事業によって得た所得のことですよね。あと、なんとなくわかるのは、不動産所得、譲渡所得かな。
不動産所得は、不動産を賃貸した場合に得る所得、譲渡所得は株式や土地、建物を売買したときなんかに得た所得のことを言います。所得税って身近な取引が細かく区分されているんですよ。
わかりやすいところでいうと、年金。あと最近で多いのは、副業も雑所得になります。ほかの9つの所得に区分されないものがすべて雑所得に含まれます。
年金はちょっと違うかもですが、とにかく儲かったら所得になるということですね。
10種類の所得
- 利子所得……預貯金や公社債の利子、合同運用信託等の収益の分配に係る所得のこと。
- 配当所得……株主や出資者が法人から受ける配当や、投資信託等の収益の分配に係る所得のこと。
- 不動産所得……不動産やその権利等の貸し付けによる所得のこと。
- 事業所得……農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業などの事業から生じる所得のこと。
- 給与所得……勤務先から受ける給料、賞与などの所得のこと。
- 退職所得……退職によって勤務先から受ける退職手当などの所得こと。
- 山林所得……山林を伐採して譲渡したり、立木のまま譲渡した場合に生じる所得のこと。
- 譲渡所得……土地、建物、株式などの資産を譲渡することによって生じる所得のこと。
- 一時所得……上記8つのいずれにも該当しないもので、営利目的や継続的ではなく、労務や役務の対価でもない、当たり馬券、宝くじ、満期保険金など一時的な所得のこと。
- 雑所得……上記9つのいずれにも該当しないもので、公的年金や副業に係る所得のこと。
おっしゃる通りです。利益が出るところには税金が発生します。この10種類の所得を合算して、確定申告をするわけです。なお、所得とは、簡単に言うと収入から経費を引いた利益のこと。所得税を算出するときは、ここからさらに所得控除と呼ばれるものを差し引いてから計算します。たとえば、国民健康保険などの社会保険料、ふるさと納税などの寄附金、医療費控除、基礎控除、配偶者控除といったものがあります。
きちんと入れないと、利益として算出されてしまうわけですね。
無駄な税金を払うことになってしまうので、所得控除はとても重要ですね。
15種類の所得控除一覧
控除の種類 | 対象者 | 控除額 |
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基礎控除 | すべての人 | 最大48万円 ※合計所得金額が2,400万円を超えると減額 |
社会保険料控除 | 健康保険料、国民年金保険料、国民健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料などを支払った人 | 支払った保険料の合計 ※配偶者や親族分の支払いも含む |
寄附金控除 | ふるさと納税や特定の寄付をした人 | 2,000円を超えた金額、その他一定の金額 |
医療費控除 | 一定額以上の医療費を支払った人 | (支払った医療費−保険金などで補填される金額)−10万円(上限200万円) ※その年の総所得金額などが200万円未満の人は、総所得金額等×5% |
雑損控除 | 災害や盗難、横領などによって損害を受けた人 | 次のうちいずれか多い方 ・(差引損失額)-(総所得金額等)×10% ・(差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円 |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済などの掛金を支払った人 | その年に支払った掛金の合計額 |
生命保険料控除 | 生命保険料や介護医療保険料、 個人年金保険料などを支払った人 | 上限12万円 |
地震保険料控除 | 地震保険料などを支払った人 | 上限5万円 |
障害者控除 | 本人や納税者や控除対象配偶者、扶養親族が障害者の人 | 障害者:27万円 特別障害者:40万円 同居特別障害者:75万円 |
寡婦(寡夫)控除 | 配偶者と死別または離婚して扶養家族がいる人 | 27万円 ※一定の要件を満たす場合は35万円 |
ひとり親控除 | 本人がひとり親である人 | 35万円 |
勤労学生控除 | 特定の学校に行きながら勤労していて、合計所得金額が75万円以下など一定の人 | 27万円 |
配偶者控除 | 控除対象配偶者を持つ人 | 一般控除対象配偶者:最大38万円 老人控除対象配偶者:最大48万円 ※控除対象配偶者の年齢が70歳以上の場合
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配偶者特別控除 | 本人の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者が一定の要件に該当する人 | 最大38万円 |
扶養控除 | 年間の所得が48万円以下の16歳以上の子供や親などを扶養している人 | 一般の控除対象扶養親族:38万円 特定扶養親族:63万円 ※扶養親族が19歳以上23歳未満の人 老人扶養親族:最大58万円 |
この所得控除のほかにも、所得税の金額を直接減らすころができる税額控除というものがあります。一定の要件を満たすことで住宅ローン控除や配当控除、外国税額控除などあるので、ご自身が該当する場合は忘れずに申告してくださいね。
【CHECK 03】“最大65万円の控除に赤字の相殺など、青色申告にはメリットがいっぱい”
所得税の確定申告、とくに事業所得の確定申告をする際に、大きく関わってくるのは、青色申告で行うのか、白色申告で行うのか、という点です。
青色申告と白色申告の何が違うのか知りたいです! そもそもなぜ、青と白なんだろうっていう素朴な疑問もあります(笑)。
諸説あるようですが、書類の色も実際に青(緑っぽい)やグレートーンです。いまでも税務署で原本を取得すると、青色申告決算書の書類は青いんですよ。
青色申告を行うためには、「所得税の青色申告承認申請書」を開業から2カ月以内、または青色申告をしたい年の3月15日までに、所轄の税務署に提出しなければなりません。ひと手間ありますが、それなりのメリットを享受できるんですよ。
最大65万円の特別控除を経費として受けられるんです。自分でこの分の経費を使うとなると結構大変なので、この控除は大きいですね。
あとは赤字を一定のほかの所得と相殺できるというメリットもあります。たとえば、給与所得が100万円ある場合、事業所得で100万円の赤字が出たら相殺して所得はゼロ。所得税もゼロになりますね。しかも、この赤字は相殺しきれなかったら3年後まで繰り越して使うことができるんですよ。ほかには、専従者給与と言って、家族に給与を支払うこともできます。
さらにもう1つ。「少額減価償却資産の特例」と言って、30万円未満の固定資産を一気に経費にできるんです。通常であれば、固定資産は定められた年数をかけて徐々に経費計上する減価償却をしなければならないのですが、青色申告書を提出できる個人事業主には特例としてこの制度が認められています。
これらのメリットは、白色申告では得られないってことですよね?
はい。白色申告のメリットって実はあまりなくて。以前は、所得が300万円未満のひとは記帳も帳簿書類の保管も義務付けられていなかったんですが、この最大のメリットがなくなってしまったので、いまでは青色申告の書類を作成する手間とそんなに変わらないんです。
だとしたら、青色申告にすべきですね。でもやっぱり複雑なイメージです……。
青色申告で事業所得の確定申告をする場合、確定申告書Bと青色申告決算書の提出が必要になります。でも確定申告でやることと言えば、これくらいですよ。
日々の収支の集計ができていれば、国税庁のWEBサイトでつくれます。先ほどお話しした所得金額や控除金額などの数字を案内に従って入力すればいいし、ヘルプのような説明も見れるので、絶望するほど難しくはないんですよ。
なんだか私にもできるかも、という気持ちになってきました!
冒頭でお話したように、現在、大半の方が自分で確定申告をしているので、きっと大丈夫です! 確定申告の時期になると、青色申告会や税理士会などでも、無料相談会をやることがあるので、そこに頼ってもOKですしね。税務署に直接相談する方法もアリです。必要以上に構えることなく、確定申告ってこんなものなんだって思っていただけたら。
はい! フリーランスだと自分の事業のことでいっぱいいっぱいになっちゃうから、税務関係に対してあまりエネルギーを注げないのが実情ですが、確定申告自体に対する不安はだいぶ解消されました。先生、本日もありがとうございました!
青色申告のメリット
- 最大65万円の青色申告特別控除を受けられる
- 赤字をほかの所得と相殺でき、それを3年後まで繰り越して使える
- 備品30万円まで一括で経費にできる
- 家族への給与が経費にできる
フリーランスの人たちの中で「地獄」とウワサされる確定申告について、新たな視点を持って学べた鈴木さん。難しいイメージから一新、「自分にもできるかも」と前向きなマインドを得た模様です。次回は、独立後の手続きや役所とのコミュニケーション方法をお届け予定です。
松崎怜(まつざき りょう)
税理士、創業コンサルタント、財務コンサルタント。税理士事務所ASCOPE 代表、株式会社GO CFO、株式会社&FINANCE 代表、Doppio合同会社 共同代表。1983年、神奈川県生まれ。一児の父。「小商いと、社会を彫刻する」ことをミッションに、小商いがずっと続くように、経営のガイドを行っている。現在は、自身の「クリエイター」「フリーランス」「独立開業/ 創業」といった経験と実践をもとに、小商いの持続可能性を自分ごと化して探求している。
ASCOPE:
https://www.ascope-tax.net
鈴木香澄(すずき かすみ)
1984年生まれ。大学卒業後、スウェーデン発のクリエイティブエージェンシー「GREAT WORKS(グレートワークス)」に入社し、ディレクターとして活躍。2019年に「ロンドンに住むLilly Lee(リリー リー)ちゃんが愛用している服」をコンセプトにしたカジュアルブランド「Lilly Lee(リリー リー)」を創設し、2020年1月より本格始動。
Lilly Lee:
https://lillylee.theshop.jp
撮影/酒井恭伸
取材・文/おかねチップス編集部