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小学生起業家を育てた佐藤ねじから学ぶ「子供も大人も出来るお金とマーケティングの勉強法」

小学生起業家を育てた佐藤ねじから学ぶ「子供も大人も出来るお金とマーケティングの勉強法」

面白法人カヤックを経て、株式会社ブルーパドルを設立したアートディレクターの佐藤ねじさんは、アイデアとクリエイティブで数々の広告賞を受賞してきた一流クリエイターだ。彼は仕事だけでなく、ユニークな子育てでも大きな注目を集めている。

後追いが激しい1歳児のために作成した「等身大パネルマザー」、子どもの作品を売る「5歳児が値段を決める美術館」、家庭内でコーヒー屋さんを開く物語「小1起業家」など、ねじさんを知らずともこの「企画」を目にしたことがある人も少なくないだろう。

今回は、佐藤ねじさんに「お金」と「教育」をテーマに話を聞きました。

小1起業家は、小5レタス農家になっていた

おかねチップス編集部
お子さんとの接し方がとてもユニークなねじさんですが「お金」に関してどんな教育をされてるんですか?
 ねじ
さん
特別な教育みたいなことはしていないです。僕自身は元々ただ貯金だけをひたすらしている人間だったんですが、起業後に経営とか投資について集中的に勉強したんです。自分がハマってることを子どもに日々話しているので、そのうちに「へえ〜」という感じで興味を持ってくれたんです。
おかねチップス編集部
そうなんですね。お子さんが珈琲屋を起業していると聞いていたので、てっきりお金のことに関してはしっかりとした教育方針があるのかと思っていました。
ねじ
さん
教えるというよりは、子どもが興味を持ったことをアシストするぐらいの距離感ですね。四年生ぐらいから子どもと日曜の朝カフェで会社でやる1no1ミーティングみたいなことを定例でやるようになったんですが、そこでお互いに興味を持っていることを話したりしていますね。珈琲屋はコロナがキッカケで廃業してしまったんですが、小5になってまた、家庭内ビジネスを始めたんですよ。
おかねチップス編集部
おおー、小学生にして連続起業家ですね!次は、どんなことを?
ねじ
さん
レタスを家庭菜園してサラダを作って提供する「レタスハザード」という家庭内サブスク事業を始めたんですよ。これもぼくがビジネスモデルの話をしたのがきっかけで。サブスクならいろんなドレッシングがある方がユーザーは楽しい、ということで色々と食べ比べるのにハマってます。
おかねチップス編集部
お子さんの事業の運転資金はねじさんがサポートしているのでしょうか?
ねじ
さん
しないですね。以前に稼いだお金を事業にそのまま使っていますよ。息子は物欲があまりなくて、お金は事業を作るために使いたいみたいです。
おかねチップス編集部
では、事業とは別にいわゆる「お小遣い」はあげていますか?
ねじ
さん
我が家のお小遣いの制度は小学1年生が100円。そこから毎年100円ずつ上がっていくお小遣いシステムです。
ねじさんと毎週1on1ができるサービスがあったら申し込みが殺到するのではないだろうか?
おかねチップス編集部
かなりお子さんの意志を尊重されてるんですね。では、遊ぶ時間やゲームの時間は1日で制限を設けたりしてますか?
ねじ
さん
僕は遊びやゲーム、勉強などのバランスは時間で決めなくてもいいという考えなので、特に決めていないですね。その代わり、タスクの管理の仕方を教えました。
おかねチップス編集部
え、タスク管理!?どういうことでしょうか?
ねじ
さん
僕は仕事のタスクを全部Googleカレンダーに入れてるんですけど、そのやり方を息子にも教えたんです。子供はほっとくとずっとゲームしたりするじゃないですか。でも、それを頭ごなしに怒っても良くない。だからやらなくてはいけないタスクの管理方法だけを教えて、どんなふうに自分でスケジュールを組むかを子どもに考えさせるようにしました。

宿題をやらなきゃいけないなら、その時間を入れるみたいに。そのバランスを日々自分で考えていると、いろいろやりたいことはあるし、ゲームやYouTubeだけに時間を使うともったいないと、自然にわかるようになるんですよ。
おかねチップス編集部
なるほど、大人顔負けですね。でも、それだけで自然とバランスが取れるようになったんですか?
ねじ
さん
これやる前はいちいち時間の使い方を注意していたりもしたんですが、このやり方にしたらうまくいきましたね。勿論、子供も色んな性格の子がいるので、一般化できないやり方かもしれません。ただ、うちの場合はカレンダーを埋めていくことを楽しんでいるので、相性が良かったんだと思います。

あと子どもは、iPadとか「光るもの」が基本好きだから、デジタルツールでの解決策を示すと効きやすいとも思ってます。
「ゲームが大好きなので子どもが欲しがるゲームを僕が先に買っちゃってますね」

子育ては「強くてニューゲーム」

おかねチップス編集部
子供にとっては学校の時間が多くを占めますよね。学校教育って根本的な部分ではアップデートされていない気がしてしています。その辺りはねじさんはどう感じられてますか?
ねじ
さん
効率が悪かったり、形式的だなと思うことはありますよね。ただ、「それ意味ないよ」と言って僕ら目線のリアルだけを教えても、ものごとを斜めに見るようになってしまうかもしれない。だから、例えばその勉強の向こう側にある世界を教えることが大事だなと思います。
おかねチップス編集部
勉強の先とは?
ねじ
さん
例えば小1の頃家で、音読の宿題してたとき、適当に声に出して終わらせてて。「宿題だから」と仕方なく読むだけの子どもも、それを聞く親も意味ないなーと思って。

でも音読の向こう側には、声優とか役者の世界もあるかもしれなくて、読むって面白いことかもよと伝えたり。そこで遊びで、役者の演技指導みたいに「次はカタコト外国人っぽく読んでみて」など、やってみたこともありました。

そうやって、「つまらないと思ってる5教科」の向こう側には、「楽しい遊び / 仕事」が潜んでるんだよというのは伝えたいですね。数学はゲームプログラミングにつながるし、とか。

AかBかっていうより、Cを探すのが僕は好きなんですよ。どんな勉強がいいかとか、効率的にとかではなくて、違う道に繋がる方法はないかって考えてますね。
おかねチップス編集部
過去のインタビューで「子供に教えることは自分にとっても学びになる」とおっしゃっていましたね。
ねじ
さん
子どもの反応は学びになりますよ。ただ、それも学びというか遊びという感覚なんですよね。子どもとのコミュニケーションを通じて、子ども時代を追体験できるのがすごく楽しくて。大人の目線から「強くてニューゲーム」をしているような感じなんです。

今、うちの子がフォートナイトにハマってるんです。子どもたちが公園に集まる感じで、ゲームの世界で集まったりしてて。「今の子はこうやって遊ぶんだ!」って驚かされるんです。だらっと集まってだらっと抜けてくみたいなあの会話の感じとか、「ああこれがリアルなんだ」って。

同じ時代にいるんだけど全然違う世界線にいるというか。今の小学生を「メタネイティブ」と勝手に呼んでるんですが、「メタバースは未来でこうなる!」などの話を概念的に聞くよりも、リアルな子どもたちの行動を見てる方が、未来を考えるヒントが多い感じはします。
こんなお父さんがいたら子どもは勉強も遊びも楽しくなるに違いない。

アイデアを大きくするには、「嫁ぎ先」を大事にすること

おかねチップス編集部
話は変わりますが、ねじさんは最近マーケティングにハマったそうですね。
ねじ
さん
そうなんですよ。今まではPRや広告を考える仕事が多かったのですが、最近はその先にある「販売」まで求められる仕事が増えてきて、今までの自分の持っている知識だけでは心許ないなと思い、マーケティングを勉強し始めたんです。
おかねチップス編集部
佐藤さん自身マーケティングを学んで何が変わりましたか。 
ねじ
さん
考え方が変わりましたね。それまでは良いクリエイティブを世に送り出すことが正義という感覚だったんですが、全体の市場のなかでどれだけ認知が取れたのかを数字で見ていったら実は全然だったりして……。そこでマーケティングを勉強したら考え方がより多様になりました。
全然面白くなくてもバズらなくても、届けるべき100人には届く。それが効果的な場合もある。それってむしろ格好いいじゃんて。今までは必殺パンチを打つ練習だけをひたすらしてたけど、アウトボクシングしたり、相手の急所にジャブを打つような戦い方もあるなと。極端な話、僕たちがクリエイティブを作らなくても配荷率(​​どれだけの店舗で自社製品を取り扱われているかを表す割合)あげることが、売上アップのための一番の近道な場合もあるわけで。そういう広い視点で、ものごとを考えるようになりました。
クリエイティブって、結局企業の時価総額を上げるためにやってる行為の一部なんですよね。そう捉えるようになってからは企業の株価とかIRを追うようになりましたし、視点が一個増えた気がしますね。今はクリエイティブの発想で、営業とか、総務とかそういうものを考えたりするとより面白くなるんじゃないかなと思っています。

マーケティングを学ぶことで生存率を上げる

おかねチップス編集部
マーケティングを学んだことで自社に大きなインパクトはありましたか?
ねじ
さん
ブルーパドルは会社の売上高に重点をおいてないので、そこまで大きなインパクトはないです。しかし、単純にマーケティングを勉強するとクリエイターとしての引き出しが増えるし、生存率は上がるなとは感じますね。特にフリーランスの方でマーケティングのこと全く知らない人は、これから勉強するだけでも結構仕事の仕方が変わると思います。
おかねチップス編集部
売上高を重視していないというのが気になったのですが、そもそも、なんでねじさんは自分で会社を立ち上げたんでしょうか?
ねじ
さん
クライアントワークを中心に仕事をしていたら、「そのアイデア自分でやってみたら」と言われることが多かったんです。だから、それを実現するために起業しました。
僕は仕事もゲームのように捉えているフシがあるのですが、それでいうと「仕事というゲーム」においての自分の得意なスタイルはゼロイチの演出なんです。1つのことをずっとやるのはどうも合わないなと思っていて、できれば、1から先は他のプロの方にお任せしたいんです。ただ、このアイデアを実現するならこの会社だろうとか、この人にお願いするべきだというのは常にゼロイチの段階から頭の中にあります。

だからこそ、アイデアの嫁ぎ先をとても大事にしているんです。現在はクリエイター発のBtoCのサービスとかが増えていく流れがある中で、いろんな街のいろんな中小企業とつながって、ちょっと違うやり方でモノを作っていきたい。そんなやり方を実現出来る会社が、自分には合ってると思っています。
ブルーパドルが企画、コンテンツ制作、WEB、PR、を担当した一晩中遊べるボードームホテル「MIMARU大阪 難波STATION」。世界中の130種類以上のボードゲームを常備していることに加え、「人狼・マーダーミステリーの部屋」などまるごとゲームコンテンツとなっている部屋も。

ホテルでしか遊べないゲームの開発も担当した。

おかねチップス編集部
アイデアの嫁ぎ先というのはとてもいい言葉ですね。 
ねじ
さん
事業を大きくするにはその道のプロがいるので。プロダクトを100点のクオリティを作ろうと思ったら自社の方がいいかもしれないけど、それでは形にならないことも多い。形にしていく方を僕は優先したいので、クライアントをどうやって探してどう関係性を作るかっていうことに情熱を注いでますね。

一方で、自分たちでやるべきだと思えるアイデアもあるんです。そのために、今は自社事業を行なっていく準備を少しずつしているんです。自社事業は大勝ちもしないけど大負けもしない、何ターンも飽きずに続けられるゲームのようなものがいいですね。
ブルーパドルが発売した「0歳ボドゲ」と「1〜6歳ボドゲ」。赤ちゃんや子どもが「いるときだけ」楽しむカードゲームを制作した。
おかねチップス編集部
お子さんのお話から、ねじさんの近況までありがとうございました。最後に、これからクリエイターがマーケティングやお金のことを学ぶためには、何から始めるのがいいと思いますか?
ねじ
さん
マーケティングに関しては、事業や会社を作ると強制的に全部やらないといけないから勉強になりますよ。あとは実際にものを売るとか。株や投資を学びたいならとにかく買ってみる。僕も買った瞬間に一気に解像度が上がったんですよね。最初は上がっても下がっても楽しいですよ。売れない、どこで売ったらいいんだとか、塩漬けだーってなっちゃったりして(笑) 
おかねチップス編集部
やってみるのが一番早いと。ねじさんは今も投資は続けているんですか?
ねじ
さん
いえ、個別株はもう全然。しばらくしたら飽きてしまって、自分は日々チャートを追うような投資スタイルには向かないタイプだとわかりました(笑)作ることに集中したいので、あんまり何も考えなくていいドルコスト平均法で、コツコツ投資信託してます。
お金に関しては必要な分だけ稼げればいいと思ってます。それよりもいつも企画のことが頭にあります。ただ、集中的に投資を勉強したことで、改めて自分はこういう人間だったんだと理解が深まったのは収穫ですね。

佐藤ねじ(さとう・ねじ)

ブルーパドル代表/アートディレクター 1982年生まれ。面白法人カヤックを経て、2016年ブルーパドルを設立。WEB・アプリ・商品やお店などの企画とデザインを行う。主な仕事に「ボードゲームホテル」「約束のよなよなエール」「アルトタスカル」「不思議な宿」「佐久市リモート市役所」「小1起業家」「劣化するWEB」など。


撮影/石橋 優希
取材・文/おかねチップス編集部

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