今年5月に起業したばかりの新米経営者・成田龍矢さんが、アートやカルチャーを専門領域とする税理士の山内真理先生に、税務や会計について教わる本連載。第2回では、知ってるようで知らない、税理士や公認会計士の仕事の内容、依頼するとどんなサポートが受けられるのか、はたまた気になる相場について。今回も、学習意欲満々な成田さんの疑問は尽きません!
■連載 第1回目「起業に必要なマインドとタイミングの見極め方」
自営業の父が反面教師となり、税務への責任感が芽生えた話
夏なのになぜかコーデュロイの服を着てきた新米経営者・成田さん
連載初回では、起業のメリット・デメリットから、2023年から始まる「インボイス制度」まで教えていただき、ありがとうございました! ちなみに僕の父も自営業でして。ただ、お金の管理があまりできていなかったと聞いています(苦笑)。
父の会社ではしっかり者の母が経理をしているのですが、会社設立の報告をしたら、「あなたは会計ちゃんとやってるの!? しっかりやらないと大変なことになるで!」って(笑)。
反面教師的な(笑)。自営業って自由だけど、すべての責任を追わなければならない。その姿を身近に見てきたのですね。
だから、まず経理の人を雇いたいと思っているんです。会社のお金は、プロに任せてきちんと管理しようって。
本日のレジュメ 「税理士・公認会計士を賢く“使う”コツ」
【POINT 01】“税理士・公認会計士って、どんな職業か知っていますか?”
税理士と公認会計士の役割を丁寧に教えてくれる山内先生
今回は税理士と公認会計士、それぞれの仕事内容や上手な関わり方についてお教えしますね。意外と知らない人が多く、よく聞かれるので。
僕も実際よくわかっていません……! 山内先生は税理士と公認会計士、両方の資格を持っていらっしゃいますね。
公認会計士は独占業務である監査や会計のスペシャリスト業務を行う職業ですが、実は公認会計士の資格を持つと、税理士登録の権利も持ちます。 そのため、公認会計士は独立すると税理士登録もして、公認会計士・税理士を名乗ることも多い。ややカバー範囲が広いのが公認会計士といえるでしょう。
へ〜、知らなかった! どちらの職業も税務や会計に関わる似た職業というイメージでした……。
税理士は税の専門家。税務申告や税務相談は、税理士の国家資格がないとできません。税理士が独占できる業務は、税務代理と税務書類の作成、税務相談の3つ。 税務は大企業から、中小企業、非営利法人、個人事業主まで幅広く必要となるものです。
一方の公認会計士の独占業務は、金商法監査や会社法監査などに代表される監査業務 。クライアントは主に上場企業などですが、監査の種類によってさまざまです。財務資料や決算資料のチェックを第三者的な立場から行う専門家のイメージになります。
そもそも税務と財務の違いって?
税務 納付税額を正確に計算して税金を納めること 財務 資金の調達や運用、資金の管理などに関する業務のこと
となると、公認会計士さんって、個人事業主の方や、僕のような中小企業の経営者とは無縁な感じがします……。
そう思われる方が多いんですが、監査法人に勤務する公認会計士が独立し、中小企業向けの各種コンサルティングを行ったり、税理士登録をして個人事業主や中小企業の税務面のサポートをするケースも多い んですよ。
山内先生も日本で有数の監査法人といわれる「有限責任監査法人トーマツ」に勤務後、独立されていますもんね! ちなみに僕は、知人から紹介してもらった税理士さんに個人事業主のときからお願いしていて、法人成りした後もその方に依頼することにしました。
法人化すると、税務申告及び納税のための申告を代理してもらう必要があるから、必然的に税理士さんと顧問契約を結ぶ方が多いですよね。当然ですが、税務専門家とお付き合いする際は、相手方が税理士登録をしている人かしっかり確認してくださいね。税理士資格のない者が税務相談や税務申告作成を代行するのは違法になります。無資格者が違法な業務をしている場合もあるので、念のため注意してくださいね。
一般に公認会計士は、上場企業や上場準備企業などの監査業務やコンサルティング業務を通じて、財務分析や、内部統制と言われる組織内コントロールの仕組みに関する知識を有しています。公認会計士の強みは、そうした組織内の管理体制の構築を支援したり、「ゆくゆくは上場したい」という経営者に対しても必要な支援メニューを準備出来るといった点にあるのではと思います。 もちろん、税理士にもファイナンスや経営コンサルに強い人はいるので、経験値はさまざまですけどね。
山内先生は前向きなマインドと言葉で、迷える経営者の背中を押してくれる
上場かぁ(遠い目)。そのときは、ご相談させてください!
税理士と公認会計士の独占業務の比較
税理士 ・税務代理 ・税務書類の作成 ・税務相談 公認会計士 ・金商法監査や会社法監査などの監査
【POINT 02】“税理士に依頼する場合の顧問料についてお答えします!”
税理士や公認会計士に依頼するときの費用はどのくらい!?
税理士さんや公認会計士さんに依頼するときって、どのくらいの費用が必要なんでしょうか? だいたいの相場が知りたいです。
顧問料に関しては、相場は正直あってないようなものですね。事務所により提供するサービスの内容も多種多様ですので、一概に金額だけでは比較するのは難しいと思います。弊所の場合、年間の顧問料の目安は、個人事業主なら30万円程度から、法人だと40万円程度からといった感じでしょうか。 複数人体制で年を通じて細やかにサポートする体制をとっており、これが採算ラインぎりぎりというのが正直なところ。事業規模がまだ小さいうちはこの金額を高いと感じるケースもあるでしょう。そうしたまだ駆け出しの方には、顧問契約を結ばず、教育プログラムを提供する別プランをご提案することもありますし、ほかの事務所さんを推奨させていただくこともあります。
ふむふむ。でもめちゃくちゃ低価格なところもありますよね。何が違うんですか?
個々の事務所の状況はさまざまかと思いますが、低価格で高品質のサービスを十分なリソースを割いて提供するのは、現実的に難しいところがあると思います。例えば、期中の相談は受け付けないで決算の作業と税務申告作業を決算期に集中して引き受けることで格安にする、チームで対応せず担当者1名のみが対応する、といったことで、コストをかけない代わりに割安にしている事務所もあると思います。
逆に、低価格にも関わらず、年を通じ随時相談やフォローを行いサポートしている税理士さんは泣きながらやっているといったケースもありそうです。同業のSNS等を見ているとそんな悲痛な叫びが多く聞かれます(苦笑)。顧客の事業規模が小さくても、必ず年を通じて行うべき税務行事がありますし、当事者の知識レベル向上に骨を折るケースもあります。たとえば経理作業をご自身で行っている方への指導の成果は相手方のご努力もあってのことだったりもしますよね。サービスの性質上、そうした二人三脚の関係になってきますので、安すぎる金額は関係の持続可能性という意味でも課題となり、長期的にはお互いのためにならないこともあると思います。
どちらかが無理した価格だと、長く続かないんですね。
たとえば、年商500万円の個人事業主が会計事務所と顧問契約を交わしてたとして、投じた予算に対してペイしない感じがすることも多いと思うんです。「外注したわりにあまり楽になっていない」という実感になりやすい。これまでは知識が無かったがゆえにちょっと適当にやってしまっていたことが、知識が向上していくと、その状態ではまずいのだと気付くことになる。会計事務所側も適当に処理するわけにはいかないので、書類や事実関係の整理や精査に以前より時間がかかる感覚になっていきやすい。最近はクラウド等でご自身で会計入力が「出来ている気になりやすい」状況がありますが、正しい内容に補正するためには正しい知識が要りますので、当事者も「それなりに骨を折る」ケースが多いのです。
なので、そういった労力と費用を負って十分な成果が出るタイミングで、会計事務所の支援をがっつり受ける方が、投資に対する納得感を得やすい のはたしかと思います。
しかし、事業規模や年商が上がると、節税相談はもちろん、税務や会計以外の相談や事業戦略における知見がほしくなる。すると、コンサル的な性質を含んだサービスや分析的フィードバックをタイムリーに必要とするようになってくる。サービス内容のレベルと価格はグラデーションだから、自分が腑に落ちるレベルのところを選択されるといいと思います。正直、事業の売り上げによっては、法人で年間顧問料の40万円はなかなか勇気がいる価格だと思います。着目すべきは、限りあるリソースを割いて、何に投資してどんな学びを得るのか、その費用対効果ということですね。
僕は税理士さんへの依頼は、前向きな投資だと思っています!
「自分の学びになるなら、お金を払ってでも税理士さんの力を借りたいです」と話す成田さん
個人事業主や新米経営者の方なら、専門家に依頼せず、管轄税務署の窓口や国税局の電話相談センター、青色申告会に頼るなど、公的なサービスを使い倒すという選択肢もあります。 自分の頭と足を使うため、時間も労力もかかって大変かもしれませんが、その分学びも多いはず。もちろん事業規模が大きくなればリスクも大きくなっていきますので、個人的には無理のない範囲で専門家を活用することをおすすめです。
【POINT 03】”税理士は身近なサブスク。新米経営者の心のよりどころにして、悩みをぶつけて!”
どんな些細な質問&悩みにも真摯に向き合ってくれる山内先生
僕は、法人成りの際も個人事業主のときからの税理士さんにお願いしましたが、起業する場合、どのくらいのタイミングで会計事務所や税理士さんに依頼するのがベストなんでしょうか?
法人成りされる手前ぐらいからご相談される場合が多いですね。あるいは、これまで勤務してきた会社から独立する方が新たに法人を設立し、人を採用し、資金調達もしたい。そのために、事業計画の策定の相談に乗って欲しい、そして法人設立後は顧問として支えて欲しいといった感じです。その他としては、代理店からの独立や、クリエイターがマネージメント会社から集団で独立するといったケースもあり、独立の形態やタイミングはさまざまです。
そのタイミングだと、ほかにはどんなことを相談できるんですか?
起業に必要な資金調達、たとえば融資や助成金獲得の相談に乗ることもあります。人の雇用方法等についてもよく相談されます。税理士はまず最初に頼れる窓口になりますが、士業の専門領域は細かく分かれてくるので、異業種の専門家を紹介するケースも非常に多いです。 たとえば、法人化にあたって定款作成や登記準備が必要となるので司法書士さんをご紹介したり。また、独立にあたって競業の問題などを勤務先と調整や交渉したい場合や、新サービスを開始するうえで必要となる法務のサポートにあたっては弁護士さんに繋いだり、あるいは会社のロゴやブランドを作るのに商標登録をしたいという場合は、知的財産権の専門家である弁理士さんを紹介したりなど、さまざまです。経営者の困りごとを交通整理してサポートし、必要な場合は他分野の専門家に繋げることは日常的に行っていますね。
起業時、税理士・公認会計士に相談できることの一例
・資金調達(出資、融資、補助金など)の相談
・人材雇用の相談
・事業計画策定に関する相談
・弁護士、司法書士など専門家の紹介
へぇ。公認会計士さんや税理士さんって、僕の仕事であるプロデューサーの役割と似ているなぁと思いました。 クライアントの最初の相談窓口になって戦略を練り、会社をどう成長させるかを考えるというあたりが。
近いところもあるかもしれませんね。会社が小規模で経理をお願いできる人がいないから、会計処理業務は会計事務所に丸投げするといった使い方もできます。 社員を5人以上雇うなど、規模が大きくなってきたら経理の人を雇って、経営者は指示を出して任せられますしね。組織を作るって、そういう役割分担が生まれることだと思います。
僕は経営者として、資金力や経営状況といった会社の健康状態をわかっていたいです。 自分が理解できていないと危険だなって。だけどまだ勉強不足なので、不安です……。
成田さんは、「通常業務が忙しくて、経理や税務の知識を身につける時間の確保が難しくて……」と悩みを吐露
おっしゃる通り。いまは経理だけではなく、請求書発行、振込処理といったバックオフィス業務なども、お金を払ってアウトソーシングできる時代です。ただ、外注するだけだと3〜5年経っても、経営者に知識が増えないまま。バックオフィスの人の大変さやコントロールするポイントがわからず、ノウハウを内部化出来ないままに非効率に外部にお金を払い続けるパターンも生じやすい。 各種クラウドなどでバックオフィスの業務の自動化が進んでも、会社の中枢の業務を中の人が理解し、最適化できないとエラーや非効率が是正されない恐れもあります。そうならないために、経営者がいかに学ぶかも大事です。弊所の場合、クラウドの導入・最適化を含め、そうした管理体制の構築のご相談に乗るケースも多いですよ。
経営者ってやらなければいけないことが多いんだなぁ……。だからこそ、山内先生のように一緒に伴走してくれる会計士さんや税理士さんがいたら心強いですね!
私に限らず、税理士や公認会計士もそっちのほうが楽しいし、やりがいが大きいはず。面倒なことを丸投げするだけでなく、新しい事業を始めたいときの相談や悩みをぶつける存在として、壁打ち相手にするのが、会計事務所や会計専門家のいい使い道ではないかな。 税理士や公認会計士は一番身近なサブスクとして、新米経営者の心のよりどころになる存在なんですよ。
うぅ、泣ける……。僕はまだ税理士さんに丸投げの状態なんですが、今後経営が軌道に乗ったら、ぜひ力を貸していただきたいと思いました。今回もためになるお話、ありがとうございました!
税理士や公認会計士に依頼するしないに関わらず、経営者自ら経理や会計について学ぶ姿勢が大事であると、胸に刻んだ成田さん。次回は、気になる1年間の税務行事についてお届け予定です。お楽しみに!
山内真理(やまうち まり)
公認会計士・税理士。1980年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、有限責任監査法人「トーマツ」を経て、2011年にアートやカルチャーを専門領域とする「公認会計士山内真理事務所」を設立。豊かな文化の醸成と経済活動は裏表一体、不可分なものと考え、会計・税務・財務等の専門性を生かした経営支援を通じ、文化・芸術や創造的活動を下支えするとともに、文化経営の担い手と並走するペースメーカー兼アクセラレータとなることを目指す。芸術文化活動に関わる人に法律的側面から支援を行う非営利の活動団体「Arts and Law」の理事、特定非営利活動法人「東京フィルメックス実行委員会」理事、東京芸術祭監事ほか。
公認会計士山内真理事務所/株式会社THNKアドバイザリー:
https://yamauchicpa.jp/
成田龍矢(なりた りゅうや)
1994年生まれ。大学卒業後、人材事業会社に入社。スポーツ領域の人材事業やスポーツイベントや興行支援に従事。その後、大阪のクリエイティブ系のスタートアップ企業に転職。東京支社を設立し、ウェブ制作事業の営業やディレクターとして活動。2019年、独立してフリーランスのプロデューサーに。2021年4月、自身の会社「LON」を設立。
撮影/武石早代 取材・文/川端美穂(きいろ舎)