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りょかちのお金のハナシ#08「副業時代に必要な『安い・高い』以外のプライシング」

りょかちのお金のハナシ#08「副業時代に必要な『安い・高い』以外のプライシング」

エッセイスト・ライターとして活躍するりょかちさんが、“お金にまつわるエピソード”をお届けします。今回は、副業をする人やフリーランスにとって重要な、自分の仕事や成果物に対して行う価格設定「プライシング」ついてのハナシ。

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「副業」が当たり前になっていくにつれて、実は必要になっていくスキルに「自分のプライシング」をする能力、というのがある。

会社員をしていると、給料を決めるのはだいたい自分以外で、(交渉する人もいるけれど)あまり自分の仕事が「いくらなのか」を考える機会がない。

けれど、ひとたび業務委託やフリーランスになると「自分の仕事がいくらなのか」「自分の時間をいくらで売るのか」、仕事をするたびに考えさせられる。自分でビジネスをやったことがある人ならば、 「プライシング」 の重要さは承知だろう。そしてそれは、商品を作る場合でも、自分が商品になる場合でも変わらない。

少し前にフリーランス仲間で飲み会をしたときも、「自分の値付け」の話になった。「友達価格で始めた仕事で、どんどん頼まれる量が増えて辛いが、友達だからこそやめにくい」という話題だった。

友人たちは「相手のことは気にせずにやめてしまったら?」とか、「値段が安いのが問題なら、価格を上げてもらったら?」と話していた。しかし、ある友人は「関係性を変えたいなら、まず値付けの仕方から変えたら?」という提案をしていた。

自分のプライシングは解像度を高く、細かく設定する

そう提案した彼はまず、「君は何の仕事に対してお金をもらっているの?」と悩み相談をしてきた彼女に聞いた。

「えーっと、なんだろう、まるっとお手伝いする感じ」

彼はやっぱり、という顔をしてこう答える。

「その内容をそれぞれ細かく見積もらないと! もっと細かく自分のことを商品にしなよ」

同業種の飲み会は日々の癒しだった。飲み会にいつでも行ける日常を今年は味わいたい

隣で聞いている私も、「なるほど!」と思った。

つまり彼は、「私が手伝います」に値付けをするのではなく、仕事で生じる「○○」「▲▲」「■■」など細かい業務それぞれに値段をつけるべきだという話をしていたのだ。

私もどちらかというと業務範囲が広いので、「自分って何を求められてここにいるんだっけ」というのがわかりにくくなりがちだ。それは「どういうタスクが割り振られているのか」はもちろん、「どういう成果を求められているのか」ということも含まれる。

けれど、例えば「企画でいくら」「執筆でいくら」「編集でいくら」あるいは、「数カ月で○○という目標を達成する費用としていくら」と細かく分けて金額を考えていれば、自分は何のためにそこにいて、どういうことにお金が支払われているか明確になる。

それに、細かく自分の作業の値段を決めていれば、相場に合わせて相手にその価格の理由を説明しやすいし、もし自分が手伝えなくなっても、タスクを移譲しやすい。実際私は、「今回予算が少ないなら、これとこれは私でなく、社内の方にやってもらえますか?」と予算に合わせて提案したこともある。「この作業を私がやっちゃうと費用が発生するので、社内でお願いしたいです」と言ったりもする。

細かく費用を見積もっておけば、「仕事をする or しない」ではなく、もっと細かく距離感を測れるようになるのだ。自分が力になりたいと考えるクライアントがいるならば、項目を増やしてガッツリ仕事するもよし、「自分とは合わない」と思うクライアントならば、項目を減らして、必要最低限の仕事だけをするスタイルも取りやすい。

「自分の商品化」は暮らしのレベルだけではなく、暮らし方も左右する

自分のプライシングの話になる時、だいたいが「相場」の話になりがちだ。「ライター」という職種の人はいくらもらうのが適切だ、みんないくらもらっている、とか。

しかし、実は「プライシング」はもっと奥深い。仕事の期待値や領域や進め方をコントロールしている。

だいたい、意外と職業の名前って曖昧で、現場レベルに落とすと、その案件ごとに必要とされているスキルや、達成してほしい目標が違っていたりする。だからこそ、「職業名」ではなく、「自分のタスク」や「スキル」「出すべき成果」でプライシングしていくのが大事なのだと思う。

費用に紐づく期待がずれてしまうと、報酬と労力が噛み合わなくなったり、あるいは「こちらの期待値と違う」と思われてしまったりする。見積もりを細かくするということは、仕事の内容や期待値を細かくすり合わせておくということにもつながる。それは、自分も得意な仕事に注力しやすいし、クライアントの満足度を上げるに違いない。

日中の時間をオフにして植物園に行ったときに見たキバナフジ

それに、せっかくフリーランスや副業で「自分のスキルを生かして」「時間を有効活用して」働くならば、クライアントとの関係性や、自分がやるべきことをプライシングを使ってうまく調整する技術を身に着けた方が楽しく働ける、とも思う。

「自分が何でお金をもらうか」「何を売り物にするか」が明確になっていれば、自分が仕事にしたい内容だけをプライシングして売ることもできるし、限られた時間の中で、どういう仕事を優先的に受けていくかも細かく調整しやすい。

つまり、プライシングを工夫すれば、「自分の得意な仕事だけ商品化する」「新しいインプットをする時間分を残して働く環境づくりをする」ことも可能ということだ。

意外と見落としがちだが「どういう仕事でお金をもらうか」は、健やかに楽しく働けるかどうかを左右する。そして今は、それを決める裁量権が一部自分の手元にある時代なのである。

取材のあと、海沿いでドーナツを食べながらひと休みした写真

プライシングを、相場より「安い」か「高い」かだけで考えているのはもったいない。さらに、「商品はなにか」「どう売るか」にまで頭を捻れば、クライアントとの関係値を調整し、自分の働き方をデザインすることだって可能なのだから。

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒業。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題に。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、企業のコピーライティング制作なども行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで記事の連載も。

Twitter:https://twitter.com/ryokachii
note:https://note.com/ryokachii/

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