りょかちのお金のハナシ#12「リスキリングが話題の今、自分の“再教育費”を考えるべき」
エッセイスト・ライターとして活躍するりょかちさんが、“お金にまつわるエピソード”をお届けするこの連載。今回は、大人になってから学び直すための、自分の“再教育費”のハナシ。
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ビジネス関連の記事を書くことも多い私だが、最近アツいキーワードの一つが “リスキリング” だ。
リスキリングのつづりは 「Reskilling」で、つまりは仕事に活用できる新しい知識やスキルを習得し直すことを指す。日本語で「学び直し」と言われることもある。
“人生100年時代” の生き方について書かれたベストセラー『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』でも、「学生」「社会人」「引退後」という3ステージに分かれた人生は終わり、人生のステータスが何度も変わるマルチステージを生きる時代がやってくる、そしてステージが変わる隙間には、自分を “リクリエーション(再創造)”することが必要、ということが書かれている。
職業の流行り廃りのスピードが高速で変化し、ジョブ型雇用への移行も叫ばれる中、「即戦力」を求める傾向が高まり、「オトナになってからスキルを一新する」ことが求められる世の中になっているのだ。意識してみてみれば、新聞にも毎日「リスキリング」や「学び直し」という文字が記載されていることがわかるのではないだろうか。
企業の寿命は短くなり、一生ひとつの企業に勤める慣習が変わり始めた現代の日本だが、世界で見れば学校を卒業して会社員を引退するまでずっと会社員でいつづける慣習も変わろうとしており、一足飛びに変化を求められているのが今なのである。
これからは、何度も学ぶために投資する時代
そういった風潮もあってか、最近は、長年活躍した芸能人が海外に留学したり、大学院生になったりするニュースも時折見かける。
芸能人という特殊な職業でなくても、私の周りにも “マルチステージ” の人生を選ぶ人も出てきた。例えば、大学院生になったり、ただ数カ月海外に行ってみたり、オンラインスクールに通ってみたり。会社を辞めて、「すぐに会社で働くわけではないんです」という人を少しずつ見るようになった。
しかし、副業会社員を辞めてフリーランスになった私も、リスキリングとまでは言えないかもしれないが、自分を “リクリエーション” する選択を選んだと言えるかもしれない。
今後のキャリアを歩むために、このままIT企業社員とライター “半々” にして過ごすのではなく、ライター仕事に絞ってもっとスキルをつけなければいけないと考えて選んだ選択だったからだ。
もちろん、もしこれからもう一度就職することになれば、さらに自分を “リクリエーション” しなければならないこともあるかもしれない。
これまでは「キャリアの間に空白ができるなんて、リスキーすぎる」という声も多かった。その苦悩を昔、別の媒体の記事に書いたこともある。
しかし今や、これほどまでに “学びの時間の必要性” が説かれている。この時代の変わり身の速さには驚くばかりだが、しかし「常に働いていなければならない」という呪縛から解き放たれ、オトナになっても空白の時間を作って良くなってきた、という見方をすれば、喜んで良い変化に違いない。
正しい投資をするために、これからの必要経費「自分の再教育費」を認識する
さて、これは “お金の連載” なので、これをお金の面から考えてみたい。
私がフリーランスになることを選んだ時、数カ月「とりあえずじっくり休んでみよう」と決意したので、ざっと数十万円が預金口座から蒸発した。
本格的な学校に通うなら百万円単位でお金がかかることもある。仕事を辞めてそれに取り組むならば、それに加えて月数十万円が必要になる。 “社会人になってから、どこかで学びの時間を設ける” とはつまり、お金に絡めて考えれば “社会人のうちに、稼ぐことに注力しない時期をつくる” ということであり、それは “社会人のうち、稼ぎが圧倒的に少なくなる期間が生まれる” ということでもある。
最近では、リスキリングに政府が投資するというニュースも出ているので、今後何かしらの補助やこの問題を解決する動きがあるかもしれない。しかし、今のところで言えば、この政策も中身はわからないし、先行きは読めない。
つまり、我々は長年「子供の教育費」の高さに頭を悩ませてきたわけであるが、それに加えて「自分の再教育費」についても考えるべき時代が来ていると言えるのである。
もちろん、キャリアアップするための費用なのだから、例えば100万円投資して、年収が数百万上がる転職ができたなら、そんなお金はすぐにペイしてしまう。しかし、そういったお金を人生で想定していなければ、まとまった金額を支払うことに腰が引けてしまうこともあるだろう。
私たちは何度も人生を変えられる。何度も生まれ変わることができる。だけど、それを自発的に起こそうとするならば、人生の舵を取ろうとするならば、お金が必要なときもある。
今後、きれいな言葉でそんな “華麗なる変身” を語られるたびに、その転身を果たす人は時間だけではなくお金もその転身に投資したのだ、というのを忘れないようにしたい。
それは、”自分の再教育” を批判したいからではない。人生を変えるための費用の高さで世の中を煽りたいわけでもない。実際に、お金を無為に使うよりも自己投資するほうがよっぽど価値のある使い方だと、私も思っている。
むしろ、だからこそ、私たちは金額の大きさにひるまず正しい投資ができるようになりたい、と思うのだ。
これから私たちは、何度も生まれ変わる。そのためには、一時的にまとまったお金も必要になる。正しい投資は、人生を豊かにする。これからは、そんな事実を前提にキャリアを歩んでいかなければならない。そういった事実が飲み込めていれば、それに対して備えて蓄えることができる。本当に自分に必要な投資なのか、冷静に見極めることができる。
オトナになってからも成長できる、素晴らしい現代で正しい投資をするために、これからのキャリア形成の必要経費である「自分の再教育費」について、きちんと事前に把握しておきたいと思うのである。
チャンスを掴めるのは、そのチャンスを「掴もう」と決めた人だけだ。「オトナになってから勉強なんて遅い」「人生に空白を作るなんてリスキーだ」といったような言葉にやる気を押し込まれず、「来たるべき時が来た」と、一歩前に進める自分でいたい。
りょかち
Twitter:https://twitter.com/ryokachii
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