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りょかちのお金のハナシ#13「人生には『鞄ひとつ分の自由』が必要だ」

りょかちのお金のハナシ#13「人生には『鞄ひとつ分の自由』が必要だ」

エッセイスト・ライターとして活躍するりょかちさんが、“お金にまつわるエピソード”をお届けする本連載。今回は、自分の人生の主導権を握るための、お金を大切にする技術のハナシ。

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「なんで働くかって? 自分の好きな鞄や服くらい、欲しくなった時に、誰の許可も取らんと自分で自由に買いたいやん」

母が度々私に言っていた言葉のうち、記憶に残っているのがこの言葉だ。
世代的に専業主婦が多かったにも関わらず、母はそんなセリフと共にずっと働くことをやめなかった。そうやって、自分の好きなモノを誰に遠慮することなく購入して毎日を楽しんでいる母を、かっこよく思っていた。

そういう家庭に生まれた結果、お金にまつわるエッセイも書くほどお金が好きな人間が生まれてしまったのかもしれないが、その言葉のおかげで、20代は「仕事が楽しい!」と思いながら駆け抜けることができた。

ただし、20代の頃は、この言葉を、「働く醍醐味とは、自分で自分の欲しい物が買えること」だと思っていた。

ところが30歳になった今、もう少し違う意味にも聞こえることがある。

人生を変えるには、お金が必要

何年か前、度々「奢るから、ごはん行こうよ」と誘ってくる人がいた。それは別によくあることだし、気を許している人なら私も会いたいのでありがたいのだが、必ずその人はこう言うのだ。

「行きたい店の候補出しと、誘いたい女の子を揃えといてくれない? 奢るからさ」

最初の頃は、仕事上の付き合いがあったこともあり、当日までのあらゆることをセッティングしていたが、そのうちなんでもかんでも「奢るからさ」と言われるので、そうやって奢ってもらうよりも、諸々の時間の方が大切になってしまい、いつのまにかその人とは疎遠になった。

面白いのが、この話を友人とすると、必ず盛り上がることだ。誰もが似たような経験があるという。プライベートな関係にも関わらず「お金を払っているんだから、もてなしてくれ」という振る舞いをする人が多いという話になることが多い。

そういった、プライベートな関係に接待のようなシステムを持ち込む良し悪しについては次回以降で書きたいと思っているのだが、それ以前にこういったことに巻き込まれないための一つの方法が、「払ってもらいたくねぇわ、バーカ!!!」と思えるマインドと経済的余裕を持つことだ。私も「ごはん屋さんくらい自分が好きな時に好きな人と行けばいいや」という思いが出てきたからこそ、その人の誘いを取り合わなくなった。若い頃は、「こんな良いお店、自分で行くのは大変だから嬉しい」という思いと感謝が確かにあった。

先日某有名店に仲良しで行ったら「ここ接待でよく来てたけど、こんなにおいしかったっけ!?」と話題に。食事のおいしさはその場の空気が重要……!

食事する相手を変えるということは、人生においてそこまで大きなことじゃないけれど、人生に大きく関わる人を変える時にも同じことが言える。

例えば最近同棲を解消したのだけれど、引っ越しだったり家具の新調だったり、そういったことが(ある程度出費が痛いけれど…笑)不可能ではない蓄えがあるからこそ、そこまで元恋人と険悪にならずに関係をアップデートできた。

あるいは、ネットでよく「本当にサイテーのパートナーだけど、金銭的に離れられない」というような話を聞くことがある。そういった事象を見るとやはり、人生を変えるためにはお金が必要なのだと思う。

恋愛だけでなく、職場に行くのがどうしてもつらい時、リスクをとって仕事をやめられるかどうかを考える際にも、絶対に金銭的な事情を鑑みるだろう。

人生の舵切りを行うときには、必ずまとまったお金が必要になるのだ。

人生に、鞄ひとつ分の自由を

「お金があっても幸せにはなれないよ」と言う人がいる。

とはいえ、留学とか旅行とか、金銭的余裕がなくていろいろなことを諦めた若い頃を思い出すと、幸せになるためにある程度お金は必要だと思う。だけど、それ以上にお金は「イヤなことを『えいや!』と消し去ってくれる」役割が大きい、と感じる。

留学とか旅行とか、正直しなくても生きていけるけれど、本当に困った時、お金がないことで選択肢を持てないことは、時に人生を致命的に壊していく。それはまるでRPGの「ぶき」と「やくそう」のようだ。日常的なパワーを高める「ぶき」は確かに大事だけれど、強い敵が出てきた時に「やくそう」がなければ、すぐにゲームオーバーしてしまう。

お金は、ある程度の幸せをくれるが、それ以上に、お金は私たちから厄介を遠ざけてくれる。

それは稼ぎというよりは、大きな金額を払えるだけの蓄えだ。「お金を稼ぐ」というだけではなく、「お金を上手に使う」という意味を含む活動を経済力と呼びたい。

そしてそれは、いつも自分に紐付いていなければならない。恋人とか結婚相手とか、そういう人からもらうお金に依存してしまうと、その人の許可なしに人生を変える決断ができなくなる。本当に自由な舵切りはできないのだ。

母が言っていた、「鞄ひとつ分の自由」とは、それを買える喜びもあるけれど、それを買えない苦しみを避ける、自分を不自由にする人からいつでも逃れられることを指していたのではないだろうか。

思いも寄らない日常の変化が、お気に入りの毎日を遮ろうとするのを、ひとりの大人として振り払って必死に生きていくほど、そう思うようになった。

なぜ働くのか。なぜお金を大切にする技術を身に着けなければならないのか。
それはいつも人生に「鞄ひとつ分の自由」を持って生きていくためだ。
お金を手に入れ、上手に扱うことは、人生の主導権を自分にたぐり寄せることにつながる。

お金は刺激的な人生だけじゃなく、堅牢な日常もくれる。
「人生に、鞄ひとつ分の自由を。」
私は母からもらった言葉を、次の世代にも伝えていきたい。

宮古島の海。また疲れたらここに戻ってこようと、自分を嫌なことから一時脱出させるのもある程度の自由があるからこそ

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒業。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題に。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、企業のコピーライティング制作なども行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで記事の連載も。

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