若手起業家を育成する澤田経営道場で、起業に向けて日々勉強に励む山下楓美香さん。前回はフェアプライズ代表の谷田さんから創業期におすすめのデジタルマーケティングを教わりました。
今回は数多くの会社の「お金の悩み」を見てきたH.I.F.株式会社代表の東小薗光輝(ひがしこその みつてる)さんから、経理・会計の重要さを学びます。山下さんは外注の専門家に経理を任せるつもりのようですが……。
澤田経営道場とは?
株式会社エイチ・アイ・エスの創業、スカイマークの設立、ハウステンボスの再生などの実績を持つ、日本を代表するベンチャー経営者の澤田秀雄さんが2015年に設立した人材育成道場。澤田さんが経営者として学んだこと、経験したことを後進に伝え、世界で活躍できる起業家、次世代リーダー、政治家を生み出すことを目的とする。内閣府認定の公益財団法人SAWADA FOUNDATIONが運営。
澤田経営道場ホームページ:https://sawadadojo.com
経理は自社のお金の状態を知るための重要スキル!
東小薗さん、今日はよろしくお願いします。
早速ですが、会社の経理は税理士さんや会計士さんとか、専門家に任せようかと思ってたんですけど、それじゃマズいんですか?
う~ん、実は「経理を自分でやろうとせず、税理士に丸投げする」のは、“倒産する社長あるある”なんですよね。
そ、そうなんですか!?
だって専門知識がない私がやるよりも、専門家だったらきっちりちゃんとやってもらえるじゃないですか???
知識がないなら今から覚えればいいんですよ。
会社経営や組織づくりの知識はゼロからがんばって覚えるでしょう? 経理は自社のお金の状態を知るための非常に重要なスキルなのに、覚えようとしない人が多いのが不思議です。
僕は債権の買い取りや与信審査の事業を通して、経営危機に陥っている企業をたくさん見てきました。そういう会社の特徴でいちばん多いのは、「まず試算表やキャッシュフロー計算書を見せてください」と言っても出てこないこと。これはつまり、社内に経理がわかる人がいないんです。
税理士さんにお任せしてしきってしまうと、「それ何?」ってなってしまうんですね。
試算表もキャッシュフロー計算書も作れないのに会社を運営するのは、今自分がどこにいるのかもわからずに山をさまよっているようなもの。
僕らが救助隊として「助けに行きます、今どこですか?」と聞いても、「わかりません」って言われてしまうんです。そりゃあ経営危機にも陥りますよね。
そうならないように、改めて経理を基本から学びたいです。
わかりました。僕も起業するにあたってゼロから勉強しましたから、山下さんもきっと大丈夫ですよ。
儲かっていないのに儲かっている気がしていませんか?
先ほども言ったとおり、経理は自社のお金の状態を知るための重要なスキルです。自社のお金の現状がどうなっているのかよくわからないまま経営を続けると、うまくいっていないときにうまくいっていないことに気付けません。
そして、「ヤバいかも」と思って僕たちのところへ相談にきてくれた頃には、取り返しのつかないことになっているケースが多いんです。
山で遭難していて、いつの間にか飲み水が1日分しかなくなっていた、みたいな。この場合の飲み水は会社に残ったお金です。市街地まであと少しなのか、100kmあるのかもわからない。「せめて飲み水の状態くらい確認しようよ〜!」って思いますよね?
そうですね。でも、ものやサービスを売ってお金がやり取りされるのを見ていても、お金の状態ってわからなくてなってしまうものですか?
その油断が危険なんですよね。
たとえば、原価80万円のものを100万円で売ってお金を受け取ったら、20万円儲かった気になってしまうかもしれません。
ものを売るには、ものを作る人や売る人の人件費がかかっています。事務所や作業所の家賃だってありますよね。それらを含めたらトータルでは赤字だった、というケースも多いんですよ。
20万円の儲けと赤字では大違いですね。ちゃんと自社の状況を把握しておかないと、儲かっていないのに儲かったと勘違いしてしまいそうです。
そのお金、本当に使っていいお金!?
“倒産する社長あるある”でほかにもよくあるのが、掛取引の記入漏れです。
わかりやすく言うと、掛取引とは後払いのことです。後払いがゆえ記入し忘れてしまって、儲かっていると勘違いしてしまうんですよ。
たとえば、僕が今月30万円で山下さんに仕事を発注したとしますよね。今月の末締めで請求書をもらって来月末に支払うことになる場合、経理をちゃんとやっていれば30万円の債務として今月の帳簿に記載するはずです。あ、ちなみに債務というのはお金を払う義務のことです。
今月仕事を発注して、その時点で支払い義務が発生したから今月記入するんですね。
そうですね。あくまで見かけだけで、支払先は決まっているお金です。うっかりお金が余っていると思って今月のうちに使ってしまったら、来月お金が足りなくなってしまうかもしれません。実際、支払期限が近づいてから「お金が足りない!」とあわてる人も多いんですよ。
そういう人は大体、社会保険料や税金などのあらかじめ支払いのタイミングが決まっているものも、直前まで気付きませんね。
経理をやろうとしないのが倒産する社長あるあるって、何となく理解できた気がします。
ちゃんと経理をやっていない会社は、経営がうまくいかないだけではなく、資金調達をしようとしても銀行やVCに相手にされません。社長がお金の状況を把握していない会社なんて、怖くて誰も投資したくありませんよ。
社長の言動は見られていますからね。経理をわかってなさそうな社長だと思われたら財務諸表だって「こいつらちゃんと作ってるのかな」「この数字合ってるのかな」と思われて、信用がなくなります。
僕らが創業して2年で70億調達できたのも、ちゃんと自分で経理を勉強して信頼を積み上げた結果だと思っていますよ。
帳簿の記入はクラウドツールを使うのがおすすめ
経理スキルの大切さがよ~~~くわかりました!
がんばって勉強して、自分でやってみようと思います。会社の経理ってどんなことをすればいいんですか?
基本的には取引が発生したら毎日家計簿のように記録するだけなので、絶対できるはずです。月に一度記録を整理して状況を確認する月次決算は、起業したらすぐにでもやったほうがいいですよ。
ひと昔前は紙の帳簿やExcelで記録を管理していましたが、今は便利なクラウドのツールがたくさんあります。毎日きちんと正しく記録していれば、月々の決算はそれを確認するだけです。
そうなんですね。なんだかできそうな気がしてきました!
会社で使っている銀行口座やクレジットカードをツールに連携しておくと、入出金があったら自動で記録してくれるので、入力作業自体もずいぶん楽になっています。ただ、自動入力には間違いもあるので、必ず確認しなくてはいけませんけどね。
たとえば、会社のお金でワインを買って経費計上するとしますよね。ワイン屋さんの店頭で売るために買ったのならば、仕入れとして記帳します。取引先の接待のために買ったのならば接待交際費です。単に自分が嗜好品として飲むためだと経費計上できませんが、仕入れ先検討のための試飲ならばマーケティング費や研修費になります。
何のために買ったのかはツールにはわからないので、自分で確認しなくてはいけません。これは、税理士に記帳代行を頼んでいる場合でも同じですね。
同じものを買っても、目的によって記入する際の分類が違うんですね。
そうなんです。どういう場合にどういう分類にするのか定義する「勘定科目一覧表」をはじめに決めておいて、それに従って分類します。ちなみに、取引を分類して帳簿に記入することを「仕訳」といいます。
経理の方法は、やっている人に聞くのが一番!
仕訳や決算の方法とか、経理の知識ってどうやって学べばいいんですか? やっぱり本とか会計スクールとかでしょうか。
たぶん本だけでは必要な知識を網羅できないと思うんで、実際に経理をやっている人に聞くのが一番早いと思いますよ。
ただ、まったく知識ゼロだと何を聞いていいかわからないと思うので、基本を本で勉強して、細かいところや個別ケースを詳しい人に聞くのがいいかもしれませんね。
ちなみに僕は起業前に勤めていたHISの経理の人に「今度独立するので、経理をどうやっているかを教えてください」と聞いて教えてもらいました。
企業秘密でもないし、普通に教えてくれましたよ。勘定科目一覧表も見せてもらって、うちの規模や業種用に手直しして使わせてもらってます。
経理をやっている人かぁ……身近に詳しそうな人がいない場合はどうすればいいですか?
全くいないのであれば自主学習するしかありませんけど、本当にいません? 知り合いの経営者とか、先輩の起業家とか。ちゃんと自社で経理をやっているならわかるはずですよ。
あっ、そうか! 経理専門の人じゃなくてもいいんですね。
そうです、そうです。僕や澤田経営道場の卒業生がいるじゃないですか。せっかく相談できる環境があるんですから活用していきましょう!
利益に数千万円の差が出る? 経理習得は会社経営に必要不可欠なスキル
今日お話を聞いて、経理スキルの大切さがよくわかりました。
直接売り上げをつくる業務ではないので甘く見られがちですけど、利益を残すという意味では経理ってめちゃくちゃ強いスキルなんですよ。
減価償却の処理の仕方とか税効果会計とか、その辺をきちんとわかっていて経営に活かせる人材がいるのといないのでは、利益の残り方が全然違います。場合によっては年間何千万の差が出ますからね。
しかも利益ですよ? 売上じゃないですからね。だから経理は会社経営の必須スキルだし、甘く見てはいけないんです。
私も起業したらちゃんと月次会計をやって、お金の状況を把握するところから始めよう思います。
そうそう。取引が少ない創業初期のうちからきちんと自分でやっておいたほうがいいですよ。後になればなるほど、昔ちゃんとしていなかった部分を正しい処理にするための手間やコストが大きくなりますからね。
はい! わからないところはまた相談させてください。
地味に思われがちな経理スキルの重要さを学んだ山下さん。外注する前にまずは自分で責任を持ってやってみようと決めたようです。次回は、株式会社One Purpose代表取締役の明石知樹さんに、銀行や公庫からお金を借りる「調達」についてお聞きします。
取材・文/内島美佳