日本全国47都道府県やフィリピンなど、国内・海外含めて600店舗(2021年11月1日現在)のコワーキングスペースを展開する「いいオフィス」。代表を務める龍崎コウさんは、2032年までに世界10万店舗出店を目指したいと話します。
そして「100年以内に会社を潰したい」とも。普通であれば自分が退いた後も会社が続くことを願いそうなものですが、なぜそのような思考にならなかったのでしょうか。龍崎さんの目指す未来をビジネスとして実現させていくための思考法を覗いてください。
積極的に人を巻き込んでいくための”お金の仕組み”
ここ数年、様々な場所でコワーキングスペースが生まれています。WeWorkをはじめ競合が多数存在するなかで、「いいオフィス」はどのように規模を広げていきたいと考えているのでしょうか。
私自身、コワーキングスペースの需要はターミナル駅ではなく、自分が住んでる家の近所にあるべきだと思っているんです。
どうしてそう思うのですか? 都心の方が人も多いので、需要が見込めそうですが。
特にコロナ禍で出勤頻度が減っていると思うのですが、そのなかでわざわざ都心に出るのって面倒じゃないですか。とはいえ、家だと仕事に集中できないという方にとって、徒歩5分圏内に仕事場があったら便利ですよね。
確かに。都心に出る必要があるならば、出社してしまうかもしれません。
ターミナル駅に店舗を出すのを 「デパート型」と呼ぶとしたら、私たちが目指しているのは生活圏内にいくつも店舗が存在する「コンビニ型」。多くの人にとってコワーキングスペースを身近なものにしたいと考えています。
近所に仕事場があったら移動の時間も減って便利ですが、店舗数が増えれば増えるほど維持費や人件費が膨大になって運営が大変になりませんか?
おっしゃるとおり、我々だけで全国にある店舗を管理するのは難しいので、現在はフランチャイズの形式を取っています。だから、自社で運営しているのはごく少数で。もともとコワーキングスペースを運営していたり、会社の空きスペースを利用したいと考えているオーナーさんに私たちのシステムを導入していただくことで、「いいオフィス」として利用できるようにしているんです。そうすることで立ち上げや管理コストをかけずに店舗を拡大して、全国47都道府県すべてに「いいオフィス」の加盟店を置くことを実現しました。地方創生の一環として参画いただく機会も増えています。
コワーキングスペースが地方の活性化にどう関係があるんでしょう?
たとえば地方に支社を設立したいと考えていたとしても、どう転ぶかわからない段階で固定のオフィスを構えることはコストもリスクも高いですよね。でも、いいオフィスのように全国で使えるコワーキングスペースがあれば、コストもリスクを抑えた状態で地方に進出することができます。また移住を検討している人にとっても、いきなり住んでしまうのは勇気がいることだと思います。だからこそ、まずはその地方のコワーキングスペースで働いてみて、気に入ったら移住する形のほうが失敗がないと思うんですよね。
なるほど。お試しで地方に長期間訪れることが可能になるわけですね。それは確かに、地方で働くことへのハードルが低くなりそうです。
加えて、コワーキングスペースのオーナーさんが私たちの事業に参画しやすくなる仕組みも設けています。たとえば、お客さんを新規で獲得した店舗に対して利用料の15%を分配額として受け取れるようにしていて。
いいえ、毎月の利用料です。ちなみに「いいオフィス」のプランには入会金制度はありません。現在、いいオフィスではプレミアム会員1人あたり2万2000円(税込)を月額料金としていただいているのですが、これを1人単位で各店舗に分配していて。まず入会した店舗に15%、私たちに25%、残りの60%はどの店舗を何時間利用したかで分け合うようにしています。そうすることで、入会した会員さんが他店舗をメインに使うようになったとしても、インセンティブが働くようにしているんです。
各店舗のモチベーションやオペレーションに期待するものが、報酬体系という仕組みに落とし込まれていてすごい……。
「いいオフィス」は、良いオフィスを運営してもらう仕組みを作る会社
つまり株式会社いいオフィスは、各コワーキングスペースを運営している会社かと思いきや、実は各店舗を運営するオーナーをマネジメントする会社なんですね。
コワーキングスペース事業に関しては、そうですね。報酬体系以外にも、コワーキングスペースを運営しやすい仕組みを作っています。実は現在、実は2021年11月に「いいアプリ」というスマートフォン向けアプリを自社で開発してリリースしました。第一弾の目玉機能としてスマートロックの解錠と決済機能を搭載していて、「いいアプリ」があればコワーキングスペースに限らず、あらゆるスペースやサービスの解錠から決済までが一元化できます。
内製で開発したんですか、すごい! でも、どうしてそれでコワーキングスペースの運営がしやすくなるのでしょうか?
例えば、会社の一部スペースをいいオフィスとして貸し出してくださる方がいたとします。でも、オーナーさんがその場にいる時間しか利用できないとなったらお互いに不便じゃないですか。オーナーさんはその場から動けなくなるし、お客さんは時間に制約が生まれてしまいますから。実際、地方でいいオフィスを利用しようとしたら開いてなかったケースも起きていて、それを解決したかったんです。
コワーキングスペースには場所だけでなくて、人も必要なのか……。
そうなんです。でも、「いいアプリ」があれば、お客さん自身が鍵を開けていいオフィスを利用できるようになるので、オーナーさんは人件費を抑えて運営できるようになります。
それは便利ですね! ユーザーとしても、いいオフィスを使いたくなってきました。
これからも、お客さんやオーナーさんがいいオフィスを利用するメリットを作れるように、様々なことを仕掛けていきたいと考えています。
入退会などの簡素化を実施したいと思い、今回のアプリのリリースを契機に入会金もなくし、すぐに退会もできる仕組みにしてあります。例えば、来月はほとんど使わないことがわかっている場合、1回利用のドロップインなどのほうが安いわけですよね。でも、再入会の費用1ヶ月がかかるなどの制約があると辞めづらいじゃないですか。辞めさせないではなく、また利用したいと思わせるサービスでありたいと思っています。そういう経験ありませんか?
コワーキングスペース事業の先に広がる事業展望
龍崎さんはもともと24歳で起業して、29歳のときには年商数十億円を超えるほどの成果をあげていたと伺っています。そんな龍崎さんが、どうしてほぼゼロの状態からコワーキングスペース事業に取り組もうと考えたのでしょうか?
きっかけはフィリピンで仕事をしたことでした。現地で働く人々はすごく純粋で、貰った賃金の使い道を聞くと「家族にいい思いをさせてあげるんだ!」と素敵な答えを返してくれる。そこでふと、疑問が湧いたんです。同じ人間で、同じ仕事をしているのにどうして彼らの賃金は日本人の1/5なんだろうと。様々な事業を24歳から成功させてきたけれど、この大きな課題に取り組みたくなりました。
その思いがコワーキングスペースの運営につながるんですか?
彼らが這い上がる方法を考えていたときに、コワーキングスペース事業が成功すれば、すべての問題を解決できるような気がしたんです。
あくまでコワーキングスペース事業は第1フェーズで。2027年までに1万店舗作ることを目標にしているのですが、第2フェーズではクラウドソーシング事業に取り組もうとしているんです。いいオフィスの会員同士、国境を超えてフィリピンの人にも仕事を依頼できる仕組みを作りたいなと。
コワーキングスペースは、仕事を流通させるための港みたいな考え方なのでしょうか?
まさに。初期段階こそ、フィリピンに依頼する費用は日本の会社に依頼する1/5の値段かもしれません。でも、仕事のクオリティが高いことが証明されれば、彼らは英語もできますし、単価をどんどん上げられるはず。そうすると、多くの人がプログラミングを勉強するようになって、低賃金の労働から抜け出して高い賃金を得る人が出てくると思うんですよ。そういう世界を作りたいんです。
コワーキングスペース事業はまだまだ入り口の部分なのですね。その先に大きな夢が広がっていて驚きました!
我々は、コワーキングスペース事業で儲からなくてもいいと思っているんです。さきほどクラウドソーシング事業は第2フェーズだという話をしましたよね。そこから第3フェーズでは仕事で得た利益をいいオフィス圏内で使っていただくことで暮らしをサポートするライフスタイルプラットフォーム事業、第4フェーズではスコアリング事業に取り組みたいと考えています。
要は仕事をする人の食べログのようなものなんですが、第2フェーズで仕事のやり取りができるようになったら、各々の仕事ぶりを軸に個人の信用を数値化できるんじゃないかなと。現在、不動産を購入したりする際の信用情報はその人が所属している企業や納税額で決められていますが、実際はその人の仕事の出来・不出来で評価されるべきだと思っていて。仕事の評価でスコアリングをつけることで、フリーランスでも不動産を買いやすくなったり、お金を借りやすくなったりできる未来を創造したいんですよね。
目標は、自分の会社が必要のない未来を作ること
先日緊急事態宣言も明けて、これからオフィス出社を再開する企業も増えそうです。まだまだ先は見えないですが、コロナ禍が落ち着いた後のコワーキングスペース事業の運営についてどう考えていますか?
むしろ、これからが盛り上がりどきだと考えています。人間って一度でも楽なものに慣れたらもとには戻れないと思うんですよ。昔はみんなスーツで働いていましたよね。でも、オフィスカジュアルが浸透したことで、その決まりはどんどん緩んでいきましたよね。かつてのように私服で働いている人たちに違和感を感じることもなくなりました。働き方も同じで、満員電車に乗るのが当たり前だった頃にはもう戻れないと思います。
オフィスに関してもそうなると思うんです。全員が出社する必要がなくなれば、これまでのように広大なスペースはいらない。とはいえ、家で仕事がしづらい人もいる。そういうときコワーキングスペースが家の近くにあれば便利ですよね。だからこそ、いいオフィスの利用はこれからどんどん伸びていくと思います。
これからの発展が楽しみですね。ちなみに長期で目指している目標などはありますか?
100年続く企業って、ある視点から見れば、企業が解決すべき課題を100年解決できていないとも言えると思うんです。私が目指すのは、100年後、この会社がなくなっても問題ない世界。会社の存在価値がなくなって、「良い世界を作ったな」と言えるのを楽しみにしています。
撮影/武石早代
取材・文/りょかち
龍崎コウ(りゅうざき こう)
株式会社いいオフィス 代表取締役
芝浦工業大学情報工学科卒業後、ガリバーインターナショナルに入社。営業から本社FC管理チームにてSVになる。その経験から健全な経営とは財務からと実感し、独立。2014年、取引先でもあった株式会社LIGに入社。LIGでCFOを務める傍ら、働く場所の流動性、自由度を高めるために副社長として推進した事業の中のひとつであるコワーキングスペースの株式会社いいオフィスを設立。全国47都道府県に600店舗以上展開し、契約ベースでは2021年11月の時点で850店舗。2032年までにコンビニのようにどこにでもあるコワーキングスペースを世界10万店舗を目指す。
いいオフィス:
https://e-office.inc/龍崎さんのTwitter:
https://twitter.com/ryuzakiioffice