近年、様々なムーブメントを起こしているショートムービープラットフォーム「TikTok」。現在、様々な現象がこのアプリから起こっていますが、その黎明期からクリエイターを起用したプロモーションを手がけてきたのが株式会社TORIHADA。
代表を務める大社武さんは現在、子会社の「PPP STUDIO」でTikTokクリエイターのマネジメントに携わっているほか、TikTokクリエイターが抱える課題にアプローチしたマネタイズプラットフォーム「Fanme」を新たに準備中。これを機にクリエイターにとって理想的な環境を作っていきたいと話します。一体どのような想いがあるのでしょうか。その内実に迫ります。
TikTokといえばダンス動画!はあまりにも古い。現在のTikTok市場
TORIHADAではTikTokに特化したプロモーションを手掛けていらっしゃいますよね。TikTokといえば、若者が見るものというイメージがありますが……。
それは2019年でイメージが止まっていますね。2021年現在、視聴者層の中心は若者ではなく30代前半になっていて、一時期TikTokの代名詞になっていた「ダンス動画」だけでなく、多様な動画が見られるようになっています。
思い返してみれば、瑛人さんの『香水』をはじめダンスに関係ない音楽もTikTokからヒットが生まれていますよね。
そうですね。でも、TikTokからヒットが生まれるのは音楽だけじゃないんです。「TikTok売れ」と呼ばれる事例が、様々なカテゴリで出てきています。
例えば
ファイブミニ。
通常の2倍以上も売れて、日本中の店舗からファイブミニが消えたと言われています。また、
30年前に発売された筒井康隆さんの小説『残像に口紅を』がTikTokで紹介されて重版されるなんて出来事もありました。
すごい。これまで感じていたTikTokの印象とは大きく違いますね。でも、どうしてそんなに商品が売れるんでしょう? 他のSNSとはどう違うんですか?
TikTokはSNSというイメージが強いと思うのですが、実際はものすごく精緻にパーソナライズされたメディアなんです。
TikTokで最も優れているのは、レコメンドシステムだと言われています。「おすすめ」フィードでは、ユーザーの興味に合わせてぴったりのコンテンツを見せてくれるので、好きなコンテンツやクリエイターを簡単に見つけることができるんです。
確かに。TikTokって次々と気になる動画がレコメンドされるので、一度アプリを開いたらずっと観続けちゃうんですよね。それもあってか、最近はYouTube ShortsやInstagramReelsなど、TikTokとよく似たメディアも現れていますよね。
それだけニーズがあるということでしょう。僕自身、これから“ショートムービー”を創れるクリエイターの時代が来ると考えています。
これから先、YouTuberのように存在感が大きくなっていくのでしょうか。
2020年までは各企業の広告予算のうちTikTokに充てられる金額は全体予算のうち数百万程度とごくわずかでした。ところが、TikTok発のヒットが数多く生まれていることを契機に状況がガラリと変わり、2021年はTikTok発ビジネスが一気に盛り上がりました。今ではテレビ広告と同じくらいのリーチが取れるようになっています。
それだけでなく、人を動かすパワーを持つTikTokクリエイターもたくさん現れてきているので、「TikTok売れ」のような事例も、2022年にかけてさらに増えていくはずです。
クリエイターが抱える課題。フォロワーがいても稼げない
TORIHADAでは、TikTokのプロモーション支援に加えて、クリエイターを支援するマネタイズプラットフォーム「Fanme」を立ち上げようとされていますよね。どういう課題感があってこの事業をはじめようと考えたのでしょうか?
個人が自由に発信できる時代になっているし、個人の世の中に対する影響力もどんどん強くなっているのに、クリエイターの活動を支援するインフラがないと感じたんですね。
確かに、日本でクリエイターとして生きていくって大変なイメージ……。
今は生き方や働き方が多様化していて、近い将来には1億人総クリエイター時代が到来するとも言われています。しかも、このコロナ禍で、その流れは加速している。ところが、クリエイターの社会的信用は一向に上がっていないですし、クリエイターが活躍するための土壌も一部の人にしか与えられていないと感じます。「どうしてこんなに世の中にいい影響を与えているのに、世の中から得られるリターンが少ないんだろう?」と。現状、クリエイターとして生きていく人が増える世の中に仕組みが追いついていないんですよね。
フリーランスだと賃貸物件の契約でさえ苦労することがありますもんね。
だから、クリエイターにとって活動の基盤となるような場所を作りたいと考えたんです。なかでも、マネタイズはクリエイターの支援を実現するうえで考えなければならない問題のひとつです。TikTokは素晴らしいサービスですが、現時点では単体でマネタイズすることはできません。それもあってクリエイターは自身がプロデュースする商品を発売して収益を得ようとしているのですが、商品が売れる人と売れない人が分かれてしまっている現状があるんですよね。
売れるクリエイターと売れないクリエイターの差は何なのでしょう?
厳密にはファンとフォロワーは概念が違っていて。InstagramとTikTokを比較するとわかりやすいと思います。前者は友人+フォローしたいアカウントになっていることが多いと思いますが、後者は友人をフォローしているケースって実はすごく少ないんですよ。ブックマークに近いというか。だから、TikTokはあくまでメディアなんです。
確かに、TikTokはフォローしている人としていない人の違いも意識せずに見ている人が多い気がします。
それもあってクリエイターは応援されにくい。僕はクリエイター活動の本質は、ファンの人たちと向き合うことだと考えているんですね。だからこそ、ファンを可視化して長く付き合うことを可能にするプラットフォームが必要だと思ってるんですよ。
そうです。クリエイターが自力でファンを増やしていくための拠点としてうまく活用してもらえるように鋭意開発を進めています。それが実現できれば、クリエイターエコノミー(※クリエイターの情報発信やアクションによって形成される経済圏のこと)を盛り上げていけるんじゃないかなと考えています。
目指すのは、クリエイターの人生を本当に支援する仕組み
「Fanme」のリリースによって、TORIHADAのビジネスモデルも変わっていくのでしょうか?
これまでTORIHADAでは、弊社の子会社である「PPP STUDIO」に所属するクリエイターにご依頼いただく案件の収益から数%のマージンを貰っていました。しかし、それだと私たちがクリエイターに依存することになるし、クリエイターにとっても収益が減ってしまってお互いにとってよくありません。
かつては、マネジメントを担当する企業が間に入ってクリエイターと企業の橋渡しになっていたと思うんです。でも、今はクリエイターと企業がダイレクトにつながれるようになっているんですよね。そうなると、個人では請けられない規模の仕事があるとか、膨大な仕事を抱えて雑務にまで手が回らないとか、何かしら特別な理由がないかぎり、中間マージンを取られることはクリエイターにとって不利益にしかならないと思うんです。
最近はマネジメント会社から独立する方々も増えていますもんね。
だからこそ、私たちマネジメントを担当する企業とクリエイターが、ビジネスパートナーとしてサステナブルに成長し続けられるモデルを「Fanme」を通じて作っていきたいと思います。
どうしてそんなにクリエイターの支援に一生懸命になれるんですか?
僕は16歳の夏にフジロックにボランティアとして参加して、鳥肌が立つくらいの感動を覚えたことが起源にあるんですね。自分自身もフジロックのような場所を作りたいなと。
アーティストに憧れたことは一度もなくて。自分はプロデューサーになりたいんだとずっと考えていました。だからTORIHADAでは、映像を制作する事業やショートムービーに特化したプロモーションをサポートする事業にこれまで取り組んできました。でも、それだとバックバンドくらいのサポートにしかならないんじゃないかと思うようになったんです。
素晴らしいクリエイティブが創り続けられていく場や仕組みを生み出すオーガナイザーになりたいと気づいたんですよね。
ショートムービーを軸に様々な事業で取り組んできたからこその気づきですよね。
そうですね。これまでの事業で感じてきた違和感を解決するようなプロダクトにしていきたいと思っています。
クリエイターがもっと主役になっていく未来が楽しみです。ありがとうございました!
撮影/SHUNYA KAWAI
取材・文/りょかち