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VALUを手がけた広告クリエイター中村洋基がスタートアップスタジオの社長になったワケ

VALUを手がけた広告クリエイター中村洋基がスタートアップスタジオの社長になったワケ

資金面でのサポートだけでなく、各分野のプロフェッショナルであるパートナー企業とともに、スタートアップの新規事業を創出し成長させる。スタートアップスタジオ「combo」の代表を務めるのは中村洋基さん。中村さんは最新テクノロジーとストーリーテリングを融合した様々なクリエイティブを手がける「PARTY」のクリエイティブディレクターとして、広告を中心にWEBや映像やデザイン、UI/UX設計※、新規事業立ち上げなどを行ってきました。そんな彼が「スキルのあるプロフェッショナルの坩堝」であるPARTYからスピンアウトし、スタートアップ支援に取り組む理由とは?

comboを立ち上げたのは、スタートアップと同じ船に乗っていたいから

——スタートアップの支援に特化したcomboですが、どのような会社なのでしょうか?

中村さん:comboでは大きく2種類のことをやっています。

ひとつは、すでにある程度成長しているスタートアップのマーケ戦略やクリエイティブ・CM制作など。

もうひとつは0→1で無の状態からスタートアップにあらゆる方面で伴走すること

顧客が動いたり、スケールする事業の軸がハッキリするのがだいたいシリーズB※くらいです。そこからマーケティングや広告に思いっきりアクセルを踏むことが多く、その前と後では支援の仕方がまったく違います。前者は初期の「落とし穴あるある」を避けながら、チーム構築や意思決定のお手伝い。後者ではグロースのためのプロモーションやPRに特化します。

PARTYでは、もともと規模の大きなナショナルクライアントとお仕事することが多かったので、スタートアップのシリーズA、B※くらいでもなかなか予算感がフィットしなかった。じゃあ、その予算のギャップをcomboで出資するから制作費と相殺しましょうというかたちで、スタートアップとの取組みをスタートさせました。

※シリーズA、シリーズB:「投資ラウンド」と言われる企業の成長段階ごとの分類。そのうちシリーズBは顧客獲得の目処がつき、サービス拡充を実施する段階、シリーズCは経営が安定し、新規事業や新商品を開発し、上場やM&Aを目指す段階を指す。

——身銭を切り出資する形では、スタートアップが倒れたら、comboもその影響を受けますよね?

中村:そのリスクは常にあります。僕らはPARTYで受託仕事をやってきましたが、良くも悪くも受託は一回の仕事で利益も確定するし、そこまでのお付き合いになることもあります。PARTYはクライアントに寄り添って、愛を持って全力で伸ばそうとプランニングと実行するスタイルなので、一回きりで終わってしまうのは虚しいなと感じていました。

それならば、出資して血を分けた仲間になることで、互いに継続的な関係性が生まれます。すると私たちも「話題になるプロモーションをして終わり」ではなく、数値に責任が生まれます。もちろん事業は失敗するかもしれないし、伴走はとても大変なんですが、成長過程を共にするというスタイルは、事業として価値を感じるし、自分の人生の使い方としても非常に意義深いと思っています。

ただ、PARTYが得意なクリエイティブやUI/UXというのは、事業会社の経営にとって非常に狭い一側面でしかない。そこで、comboでは、マーケティング、ブランディング、PR、法務、財務、人事など、各分野のプロフェッショナルとしていろんな企業にパートナーとして参画してもらい、多角的に経営に必要なことをお手伝いしています。

comboでは同じ船に乗らせていただくチケット代として出資を行い、そこの船員として働きを真摯にやっていきます。

comboファウンダー・クリエイティブディレクター中村洋基さん。数々の広告賞を受賞する広告クリエイティブのクリエイターがなぜスタートアップにコミットするのか?

——制作費と相殺という形でスタートアップに出資を行うのは、既存の株主に対しての利益を損なわないのでしょうか?

中村:既存の株主にとっての最大の利益は、「その事業が爆伸びして成功すること」ですので、投資家やVCにとっては、むしろ「自分の代わりにハンズオンで伸ばしてくれる人たちが現れたので大ラッキー」な存在でありたいと思っています。

また、これは個人的な意見ですが、同様のスタイルを「ストックオプションをもらって行う」形式もありますが、私はあまり好きではないですね。双方にとっても曖昧というか。そもそもSOは基本的に社員へのインセンティブというたてつけの限られた持ち分。それを削ってもらって、「タダでリスクなく株をもらおう!」という虫のいい考え方です。「出資という形で血を入れさせてください。こちらも身銭を切ります」と伝え、それを受け入れてくれるスタートアップと組むのがいいかなと思っています。

※リード:特定の投資ラウンドでの主導権を握る企業、または投資家のこと。ラウンドにおける最大出資者であるケースが多い。

※ダイリューション:1株あたりの価値が低下すること

※ストックオプション:株式会社の従業員や取締役が、自社株をあらかじめ定められた価格で取得できる権利

——そもそも中村さんがスタートアップに関わりたいと思ったきっかけはなんですか?

中村さん:スタートアップという業界に初めて触れたのは、IVSでPARTYにいた川村真司くんの代打で私がキーノートスピーチをするはめになった時でした。川村のかわりに中村がやります、と(笑)。でも、そこで広告業界とスタートアップって全然違う人脈とエコシステムのなかで生きていることがわかり、すごく興味がわいて。やってみないと気が済まない性分なので、勉強して自分でも新規事業を始めていきました。

comboウェブサイトのトップページ。「0→1」「1→100」双方にコミットすることを潔く宣言するコピーワークが光る

市場の反応が最大の喜び。それは広告も事業も変わらない

——中村さんは2017年にはフィンテックサービスVALUを立ち上げられましたよね。

中村さん:はい。VALUは、株式会社が上場するように、ビットコインを使って自分自身の価値をトークン化して、価値を分配できる、ファンクラブの会員権に流動性がついたようなSNSサービスです。今までなかった発想をいきなり市場に浸透させていくことを「ハビットチェンジ」といいますが、「あなたは100万円の価値を持っているので誰にでも分配できます」というコンセプトで、運良く一定の成功体験を作ることができました。その後VALUのサービスはクローズしましたが、根本発想は今でも通用する。むしろweb3.0やDAOブームで、より確信しています。

——その喜びは、広告やクリエイティブで得られるものとは違う感覚だったのでしょうか?

中村さん:私はよく突飛な切り口の広告やデジタルキャンペーンをやるのですが、それを世の中に出した時にめちゃめちゃSNSでシェアされるみたいなことと似ています。「こうしたら世の中は反応するかも」「ついやってしまうかも」という実験をしているのです。市場や顧客が反応してくれたことが、もっとも大きな喜びです。

しかし、新事業であらためて痛感したのは、ひとつの事業を成功させるには、年単位の時間とさまざまな領域でのコミットが必要になるということ。しかし、やっぱり私が得意なのはクリエイティブ、PR、マーケティング、そしてUI/UXくらい。別の分野には別のプロフェッショナルがいるわけで、全てを自分達でやるのではなく、自分の得意分野、自分の軸をちゃんと武器にしていくべきだ、と改めて思うようになりました。そのほうが社会への貢献度も高いんじゃないかなと。それがcomboを立ち上げた理由のひとつでもあります。

マーケティング×クリエイティブで最適解を模索する

——スタートアップと密接に関わることで広告クリエイターとしての役割にも変化を感じますか?

中村さん:広告クリエイターとしては、良い面と悪い面があります。

良い面は、知見がすごく広がること。また、経営者と同じ気持ちで対話しながらものを作ることで、視座が上がっていきます。その一方で、「俺が思うおもしろい広告」にはフォーカスできなくなるんですよね。特にスタートアップの初期は一円でも安く、一人でも多くの顧客獲得することが目標で、「おもしろくして振り向いてもらおう」という余裕は、なくて当然。マーケティングがメインです。

昔は「自分が思うおもしろいクリエイティブ」を作ることに集中していたけれど、今は「話題になって、かつ数字に跳ね返るクリエイティブ」という、難しいけれどより本質的なことが求められていると感じますね。

マーケティングに深く関わることで新しい視座を得たという。鬼に金棒とはこのことか。

——「広告クリエイティブ」を商品を売ったり、事業をうまくワークさせたりするための手段だと考えると、むしろ中村さんの現在の取組みこそがその本流なのではないでしょうか?

中村さん:そもそも「クリエイティブ」という言葉が今、耳当たり良く聞こえすぎなんだと思うんですよ。広義と狭義の2種類があり、広義では「創造性や独創性」なんですが、狭義=広告のクリエイティブの本質は広告費の節約なんです。例えば、2つのCMを同じ金額分投下したとして、ひとつは全然アプリがDLされない、もうひとつはたくさんDLされた。その違いは何かというと、戦略とクリエイティブの違いなんです。つまり、広告効果を1倍にするか、10倍にするかという掛け算の部分がクリエイティブであり、これが上手くいくと結果的に節約になるんです。

——なるほど。さきほど、スタートアップの初期はクリエイティブよりマーケティングがメインになるとおっしゃっていましたね。

中村さん:マーケティングは、とにかく調査を積み重ねてWhoとWhat、つまり、「誰」に「何」を伝えれば売れるのかをあばきだすという垂直思考が必要なんです。その戦略を、水平思考のアイデアによってレバレッジを産むことが、クリエイティブ。また、それこそが企業がクリエイティブにお金をかける理由だと思います。

——マーケティングを学び、新たな事業を手掛けたことで、クリエイティブの矛先が変わり、気づいたことはありますか?

中村さん:電通で10年働いてPARTYで独立した時に、ビジネスパートナーに「中村さんのやった仕事で、商品がすごく伸びたものってあります?」って聞かれたんですよ。私はすごく考え込んでしまって。「あるかもしれないけど知らない」が答えでした。

振り返れば、SNSでバズったとかYouTubeで100万回再生いったとか、そういう目先のKPI※だけを見ていたんですよ。これは若い広告クリエイターも思っているかもしれないけど、「広告なんかで本当に売れるの?」と昔の私は思っていた。正しい人に対して正しい伝え方をすれば必ず商品は動くんです。当たり前のことですが、非常に大事なことです。

請求書を自分で出すことで、クリエイティブの見え方も変わる?

——冒頭で、スタートアップのシリーズA、Bあたりでも、PARTYでは予算感が合わない場合があるというお話がありましたが、金額的なギャップがあるスタートアップと深く関わる中で、お金に対しての価値観に変化はありましたか? 

中村さん:経営のお手伝いをしたり、スタートアップのエコシステムを知った時に、お金に対する考え方が変わりました。電通時代は広告の予算としてのお金については、プロジェクトをより良いチームでより良い結果に導くためのガソリンとしてしか考えていなかったです。そもそも、企業の広告クリエイターってあまりお金に関わらないでいい構造になっているんですよね。具体的に言うと、金銭の支払いと請求書を出すのが他の人の仕事になっているから、そもそもお金に触れる権利がないんです。でも、それって実はすごくもったいなくて。ある意味では、純粋なおもしろいクリエイティブにフォーカスできるという利点があるけれど、ビジネスパーソンとしては不具合のある状態にさせられている。お金のことをもっと知って、自分で請求書を書くだけでも、クリエイティブに携わる人の視野や引き出しが広がると思います。

——「お金」を多角的に考えるようになったということですね。

中村さん:私は文学部卒なので、経済・金融とか全然好きじゃなかったんですよ。でも、PARTYでの独立やcomboの立ち上げを経て、おもしろさがわかるようになりましたね。様々な投資信託、信用取引、債権、ヘッジファンド、ソーシャルレンディング、不動産など、いろいろ自分で経験して、痛い目を見ながら勉強しています(笑)。

苦労は買ってでもしろ、を体現する中村さん。株で損をすることにも学びがあるという。

——PARTY、comboの2社でお忙しいと思いますが、人手は足りているのですか。

中村さん:正直、comboはメンバーがまだまだ少なくて大募集中です(笑)。今は、私と田中と、事業計画と法務に強いメンバーがひとり、あと、凸版のマネージャーが社外取締役として来てくれています。もっと細かい分野になった時には、各プロフェッショナルにサポートで入ってもらっています。しかし、まだ全然スタッフが足りなくて。金融系・スタートアップ支援に知見のある人と、プロジェクトマネージャーを特に募集しています。また、経営者になりたい人はいつでも募集中です!

スタートアップを純粋に支援したいという気持ち、スタートアップがうまくいった時に一緒に笑える存在になるということ、そして、クリエイティブに出来ることを真摯に考えてスタートアップだけではできないことをお手伝いするということ。それがcomboの本質です。さらに現在、起業したいという人材とアイデアをマッチングさせるサービスの準備を進めているので、共感してくれるクリエイターや、興味を持ってくれる人とはぜひ一緒にお仕事したいと思っています。

中村洋基(なかむら・ひろき)


電通を経て、PARTYを共同創設。2022年にスタートアップスタジオ「combo」を設立・代表就任。また、顧問としてヤフーMS統括本部ECD、電通デジタル客員ECDを兼務している。人々のコミュニケーションを媒介にするキャンペーンを得意とし、プロダクト、テレビ番組づくりなど活動は多岐にわたる。最近の仕事に「SoftBank / 嵐:5Gバーチャル大合唱」、「警察庁 / TEHAI」「GAGADOLL」「バビブべボディ」や、誰でも自分の価値を売買できるプラットフォーム「VALU」などがある。

撮影/武石早代
取材・文/飯嶋藍子(souLLC.)

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