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スタートアップの「令和トラベル」に転職。元テレ朝アナウンサー・大木優紀の40歳からのプライドレスな挑戦

スタートアップの「令和トラベル」に転職。元テレ朝アナウンサー・大木優紀の40歳からのプライドレスな挑戦

18年間アナウンサーとして在籍したテレビ朝日を退職し、2022年1月からスタートアップの旅行代理店「令和トラベル」に転職した大木優紀さん。40歳で異業界・異業種への転職を決意し、現在は自由な環境で働き、広報の仕事に邁進していると言います。その柔軟かつプライドレスな働き方に迫ります。

仕事のミスを世間や家族に知られ「逃げ場がない」と感じることも

——まずはテレビ朝日時代の話からお聞かせください。アナウンサーという仕事には、どんな面白みや喜びがありましたか?

大木優紀さん(以下、大木さん):文化人やスポーツ選手など、ほかの仕事をしていたらなかなか出会うことができない方にお会いできたことですね。しかも、その方々から貴重な言葉を引き出せたときは、アナウンサーとして大きな喜びを感じました。また、報道やバラエティー、スポーツといった異なるジャンルの番組を担当するごとに、全く違う会社に転職するくらいの発見や学びがあって。アナウンサーとして働いた18年間は、いつも新鮮な気持ちで仕事に向かえ、恵まれていたなと感じます。

——受け持つ番組のジャンルがバラバラだと、その都度、題材となる業界やテーマについて勉強するのは大変だったのでは?

大木さん:そうですね。たとえば、クラシック音楽番組の『題名のない音楽会』とバラエティー番組とでは、当然その世界の“常識”が違いますからね。私がその常識を知らないと進行が務まらないので、ヒヤヒヤしながら勉強していました。でも、そのおかげで今まで知らなかった世界をのぞくことができて、楽しかったですね。

大木さんはテレビ朝日のアナウンサーとして18年活躍したのち、今年1月にスタートアップの「令和トラベル」に転職した

——大木さんはお笑いコンビ・くりぃむしちゅーの冠番組『くりぃむナントカ』などのバラエティー番組でもご活躍されていましたが、出演者からとても愛されているのが印象的でした。その秘訣は何でしょうか?

大木さん:う〜ん、ただただ、くりぃむしちゅーさんをはじめとした出演者の方がスゴかっただけで、私は地味なアナウンサーでしたので……。しいていうなら、誰よりも番組を愛して、楽しんでやらせていただいたことが秘訣なのかもしれません。

——アナウンサーの仕事は肉体的にも精神的にも大変そうなイメージですが、実際はどうでしたか?

大木さん:体力的なところで言うと、早朝の番組を担当すると夜勤に近いので大変でしたね。精神面では、仕事での失敗を世間のみなさんだけでなく、家族や友人にまで見られ、逃げ場がないと感じることもありました。一般的な仕事をしていれば、帰宅後、自分が言わない限り家族から失敗を指摘されることはないじゃないですか。でも、私の場合、家に帰ると「今日、番組で噛み噛みだったね」なんて母から指摘されることも(苦笑)。最終的には馴れましたけどね。

——仕事で失敗することなんてあったんですね。そういう場合、どうやって気持ちを切り替えていたんですか?

大木さん:もちろん失敗なんてしょっちゅうでしたよ。だけど、収録も生放送も1回1回にきちんと終わりがあるので、気持ちの切り替えはしやすかったですね。ミスしても、「次頑張ろう」と前向きに次の仕事に臨むことができました。むしろ、「令和トラベル」に転職して広報の仕事に就いた直後の方が気持ちのリズムを作るのに苦労しましたね。今はだいぶ慣れましたが、長期のプロジェクトだとゴールが遠いので、その間どうモチベーションを維持すればいいんだろうって。

——テレビ朝日時代は一度も異動も退職も考えなかったそうですが、そう思えたのは会社自体の魅力も大きかったんですか?

大木さん:テレビ朝日の何がいいって、人がいいんです。いわゆる「女子アナ」というと、足の引っ張り合いをしてるなどというイメージを持たれがちで、私も入社前はそう思っていたんですけど(笑)。実際は同期も先輩も後輩も楽しい人ばかりで、友達がたくさんできました。素晴らしい人間関係のなかで仕事ができたので、18年も続けられたのだと思います。

アナウンサーという職業について、「天職だったのかもしれません」と語る大木さん

入社1カ月で、子育てと仕事を両立するための人事制度を提案

——テレビ朝日という理想的な職場でやりがいの大きい仕事をされていたにも関わらず、スタートアップの令和トラベルに転職を決断されたのはなぜですか?

大木さん:弊社代表の篠塚孝哉が2021年4月の創業時に書いたnoteをたまたま目にしたのがきっかけです。コロナ禍で海外旅行が縮小しているにも関わらず、国内旅行ではなく海外旅行事業にあえて参入するという逆張りの発想に心打たれたんです。なんだか投資みたいでワクワクして。それまで、テレビ朝日もアナウンサーも辞めるなんて考えたこともなかったんですけど、両立はできないので退社を決意しました。

——令和トラベルに転職せず、テレビ朝日で新しいことに挑戦するという選択肢は考えなかったんですか?

大木さん:実は、篠崎のnoteを読む5カ月前に40歳という節目を迎え、「これから10年、テレビ朝日のアナウンサーとして画面に出続けることを目標に頑張ろう」と決意していたんです。というのも、40歳以降は管理職になったり、家庭を優先したりしてアナウンサーから退く方が多いので。だからこそ、そのときは50歳までアナウンサーを続けることが私にとっての挑戦でした。でも、あのnoteを読んだら決心がすっかり変わってしまって(笑)。アナウンサーを続けること以上に、令和トラベルで新たな挑戦をすることに大きな魅力を感じたんです。

——40代で異業界・異業種に飛び込むなんて、かなり勇気あるチャレンジですよね。

大木さん:40歳になり、今まで一生懸命に登っていた山の頂上が見えた気がして。そこで「人生の折り返し地点に立ち、残りの数十年で何をやり切りたいか、自分はどう生きたいか」を真剣に考えたことが、新しい道に踏み出す後押しになったんだと思います。

——大企業からスタートアップに転職することに不安はなかったんですか?

大木さん:全くありませんでした。入社前、スタートアップが何たるかや、厳しい競争のなかで生き残れる会社はひと握りだと知らなかったのもありますが(笑)。ただ、無知だからこそ、目をつぶって新しい世界に勢いよく飛び込めたのかもしれません。

——ご自身が令和トラベルに採用された理由は何だと思いますか?

大木さん:会社としての挑戦だったのかなと思います。私はアナウンサー以外の経験はなく、PCスキルもWordとメールくらいだったので。ただ、採用の面接では、令和トラベルで何でも積極的に挑戦して、将来的に令和トラベルのスポークスマンになりたいと伝えていました。突拍子もないことかもしれませんが、その熱意が伝わったのかなと思います。

代表の篠崎さんのnote記事に出会い、大木さんはみずから採用サイトに応募したそう

——海外旅行事業に挑戦することに魅力を感じたとおっしゃっていましたが、そもそも旅行業に携わりたいという思いもあったんですか?

大木さん:そうですね、もともと海外旅行フリークなので。年2回、長期休暇にどこの国に旅行するかを考え、計画するのが好きなんです。メキシコやアフリカのシンバブエを訪れたり、大好きなイタリアとニューヨークは何度も訪れたりしています。海外旅行って人生を豊かにするための経験ができますよね。だから、コロナ禍で海外旅行に行けなくなったらフラストレーションが溜まってしまって。仲の良い後輩からは「海外旅行に行きたいという気持ちが高まり過ぎて、ついに旅行代理店に転職しちゃった」って言われました(笑)。

——今年1月から令和トラベルで働いて、今までとのギャップを感じることはありましたか?

大木さん:それが全然なかったんです。というのも、弊社には「リクルート」出身で人事一筋の執行役員CHRO(最高人事責任者)がいるので、人事がとてもしっかりしていて。人事制度に関してとてもフレキシブルなのは、いい意味でのギャップを感じましたね。

——たとえばどんな人事制度があるんですか?

大木さん:子育てや介護、学びなど、仕事以外にフォーカスしたいことがある場合に、一定期間、働く時間を短縮できる「Focus」という人事制度があります。「Focus」は私が言いだしっぺで取得第1号なんです(笑)。入社1カ月目にこの制度を提案してみたら、ありがたいことに採用されました。

——入社後すぐに提案するなんて……! どうしてこの制度を作りたいと思ったんですか?

大木さん:私には小学3年生と小学1年生の子どもがいるのですが、テレビ朝日で働いているときは子どもの夏休みや春休みに合わせて長期休暇が取れなかったんです。夏休みに毎日お弁当持参で子どもを学童保育に通わせるのも、それはそれでいい経験ですが、家族一緒に過ごす時間もほしいし、感性が豊かな時期に海外旅行を経験させたいという思いもあって。だからこの夏は「Focus」を利用してニューヨークへ行き、リモート勤務しながら子どもと過ごすことにしました。ただ、予想外の円安で……吐きそうなんですけど(笑)。

——「Focus」を使って減らした分の業務は、どうやってフォローするんですか?

大木さん:令和トラベルには業務委託やインターンなどさまざまな形態で関わってくださる方々がいますので、そちらに仕事を引き継ぎます。「Focus」は利用した後に業務を何割こなしたかを報告するといった仕組みです。実際に利用してみて、問題点があれば改良していく可能性もあります。

——令和トラベルには、社員のみなさんが人事に関して意見しやすい空気があるんですね。

大木さん:そうですね。弊社では、今年4月から「NEWT MATEPASS(ニュート メイトパス)」という人事制度パッケージを始めました。この制度を作成するにあたってHRデザイン部がアイデアを募っていた際、長年会社員を経験して好きなときに長期休暇が取れない点がネックだと感じていたので、私も提案したという流れです。

人事制度「NEWT MATEPASS」全体像。大木さんが提案した「Focus」も組み込まれている

アナウンサーのプライドは完全に手放しました

——大木さんは令和トラベルで広報を担っていますが、もともとこの職種を希望されていたんですか?

大木さん:いえ、私としてはできることが少ないので、やらせていただけるなら何でもという感じで、広報に配属していただきました。今は人事のプロが決めてくれた仕事を全力でこなそう!と思っています。

——実際にどのような業務を担当されているんでしょうか?

大木さん:プレスリリースの作成をはじめ、メディアに売り込みをしたり、取材対応をしたり。アナウンサーとして言葉を選んで話す経験を積んだので、プレスリリースを書くときに役立っているかなと感じますね。プレスリリースを書くのは初めてなので、ほかの社員から意見をもらいますが、書く内容は私に一任されています。自分が書いた文章が公式のものとしてリリースされるのは責任が大きく、最初はすごく戸惑いましたね。アナウンサーのときは、何重にもチェックされた原稿が用意されていたので。今は広報の仕事について周囲に質問したり、手伝っていただきながら進めています。私があまりに知らないことが多いので、周りの社員たちは驚いているかもしれないですが(笑)。

——自分だったら「この歳でこんなことを聞くのは恥ずかしい」と、質問を躊躇してしまいそうです……。

大木さん:それは全然ありませんでした。もしフリーのリポーターなどアナウンサーと同業の道に進んでいたら、それまでのスキルを生かそうとしてプライドを捨てられなかったと思うんですが、異業界・異業種への転職なので、プライドを握りしめていてもしょうがない。だから、そういうプライドや羞恥心は完全に手放すことができました。

「新人広報なので、体裁など構わずに仕事に邁進していきたいですね」と大木さん

——なるほど。では、これまでに培ったアナウンサーのスキルや経験が足かせになることはないですか?

大木さん:あらゆる場面で「人に流されていないか」と自問自答することがあります。ずっと人前に出る仕事をしていたせいか、人に与える印象を気にしすぎるところがあるんです。今は自分のパーソナリティ云々より、いち社員としての成果を期待されるので、人に流されないで大事な場面では意見をしっかりと言うように心がけています。そうしたら、少しずつ心が自由になってきた気がします。

——アナウンサーという職種は、意外にも自分の意見を言う場面や機会が少なそうですもんね。

大木さん:そうですね。アナウンサーって話すより聞く技術の方が必要とされる職業なんです。質問して情報を引き出すことが主な役割なので、自分自身がどう感じるのかを問われることは少なくて。今、世の中は変わってきていますけど、とくに女性アナウンサーに対しては、意見を言うスキルは求められてこなかった。今後、そういった風潮がどんどん変わるといいなと思います。

——令和トラベルに入社した今は、自分の意見を言うことに慣れましたか?

大木さん:業務委託を除くと広報は私1人なので、自分で考え、決める場面ばかりで。私は誰かが決めたことを実行する二次的な立場の方が慣れているので、正直今もまだ一次発案者や決定者の立場に戸惑うことが多いですね。小心者なので、みんなの意見を聞きながら何とかって感じです……。この前、社内のSlackに「大木オーディエンス使います!」って書いたら、若い人に「わかりません」って言われましたけど(笑)、めげずに発言しています。

※2000年〜2007年に放送された番組『クイズ$ミリオネア』(フジテレビ系)内のクイズ回答者に与えられたライフラインという救済措置の1つで、自分以外の聴衆に「答え」を聞くアクションのこと

2021年に創業した令和トラベルでは、「あたらしい旅行を、デザインする。」をミッションに掲げている

——懐かしいテレビネタですね(笑)。ちなみに広報を半年間経験して、驚いたことはありますか?

大木さん:弊社のプロダクトをテレビで紹介していただいたとき、改めてその影響力の大きさを感じましたね。時流的に苦しんでいる部分はあるにせよ、やっぱりテレビ局はメディアのなかで大きな影響力を持っていると感じました。アナウンサー時代、私がたくさんの取材ができたのもテレビ朝日という大きな看板があってこそだったんだと、今改めて痛感してます。

——会社やプロダクトのPRのために、今後も大木さん自ら積極的にメディアに出る予定ですか?

大木さん:今は出していただけるなら出たいですね。実はアナウンサーをやめたら自分の意志とは関係なく、メディアに出るという選択肢はないと思っていたんです。でも、こうやって取材していただいて、「大木さんがいる会社だよね」と興味を持ってくださる方がいるとすごく嬉しくて。これが他社の広報にはないチャンネルだとしたら、しっかりとそれを武器にしないといけないと思っています。広報未経験なのでなりふり構わずにやっていきたいですし、うちは小さな会社だからこそ、1人1人が「どうにかしなきゃ」って思わないと成長できないですから。

——入社半年ですでに会社への愛が大きいですね! なぜ、そこまで情熱を注げるのでしょうか?

大木さん:海外旅行という、とても魅力的なものを提供している幸せが根底にあるからだと思います。たとえば、報道番組では伝えることを躊躇したくなるニュースを読まなければいけないこともありました。でも、海外旅行をすすめるって、躊躇う必要がないほどポジティブな仕事。自分たちのやっていることが誰かを笑顔にしていると思うと、常に楽しいし嬉しいんです。

——誰かの幸せを思える仕事なんですね! ちょっと失礼な質問で恐縮ですが、大企業からスタートアップへの転職だと収入ダウンもありそうですが……。

大木さん:はい、年収はハッキリと落ちました(笑)。ただ、弊社は創業メンバーには信託型ストックオプションが付与されるので、会社の成長を期待しながら働けますし。場所を問わずフレックスで働けたり、ワーケーション休暇も取得できたり待遇がいいので、とても満足しています。

※自社の株をあらかじめ定められた価格で買える権利を、「信託」によって受託者を介在させて、従業員に付与すること。将来IPOして株価が上がったときに、権利行使をして安い金額で株式を取得でき、売買することで利益を得られる

令和トラベルは2022年4月、海外旅行予約アプリ「NEWT(ニュート)」をリリースし、アプリとパスポートだけで行くスマートな海外旅行を提案している

——今は収入以上に得られるものがあるんですね。では、令和トラベルへの転職を決断した当時の自分に何て言ってあげたいですか?

大木さん:「いい決断をしてくれてありがとう」ですね。今はアナウンサー時代とは違う山を登っている感じで、そのおかげで日常のリズムやトーンがガラリと変わって、人生がよりおもしろくなってきました。山の頂上は全然見えなくなりましたが、先が見えないなかでいろいろトライしている自分が誇らしいですし、今の状態がけっこう好きですね。

——最後に新しいことにチャレンジしたいけど、なかなか踏み出せないという人にアドバイスをお願いします!

大木さん:私自身、40歳のとき、自分には何もないように感じていました。でも、新卒のときと比べたら社会人としての空気の読み方やコミュニケーションの取り方など、小さな武器がたくさん備わっているはずです。私はそういった武器をかき集めて新たな道に進めました。だから、恐れることなくピボット(方向転換)してみたら、すごく刺激的でおもしろい日々が待っているんじゃないかと思います。

「令和トラベルの広報として、旅行業界の課題を解決し、新しい旅の体験を提供していきたいですね」。大木さんの挑戦は続いていく

大木優紀(おおき ゆうき)

令和トラベル PRグループGM。
1980年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、2003年にテレビ朝日に入社。アナウンサーとして『GET SPORTS』『やじうまテレビ!』『くりぃむナントカ』などを担当。2度の産休・育休を経て、復帰後の18年からABEMA『けやきヒルズ』、翌19年から『スーパーJチャンネル』を担当。21年末に同社を退社し、令和トラベルに転職。海外旅行アプリ「NEWT」のPRに従事。小学生の長女・長男の2児の母。

写真/武石早代 
取材・文/川端美穂、おかねチップス編集部

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