日本最大のスタートアップカンファレンス「IVS」のCEO島川敏明が見据える“スタートアップの未来”
未上場のスタートアップに投資するベンチャーキャピタル「Headline Asia」で投資活動を行いながら、IVS株式会社(以下、IVS社)のCEOとして国内最大級の招待制カンファレンス「IVS」の運営を行う島川敏明さん。理研の研究者から投資業界に転職した経緯や、ベンチャーキャピタル(VC)※の仕組み、「IVS」で行われるピッチコンテスト「IVS LAUNCHPAD」の必勝法、スタートアップの未来予測について語っていただきました。新時代のビジネスに役立つ知識や情報が満載で、ビジネスパーソン必読のインタビューです!
※未上場企業に出資を行う投資会社や投資ファンドのこと。
「スタートアップがVCから出資を受けるのは、悪魔と契約するようなもの(笑)」
1つは、未上場のスタートアップに投資するベンチャーキャピタル(以下、VC)の「Headline Asia」のプリンシパルとして投資活動を行っています。
もう1つは、IVS社のCEOとして、主にインターネット企業の経営者や経営幹部、投資家が一堂に会する年に2回の招待制カンファレンス「IVS」の運営を行っています。関係性としては、Headline Asiaの子会社が IVS社という組織構造になっています。
そのスタートアップが東証などの証券取引所に上場して誰でも株取引ができるようになる「IPO(新規公開株)」、もしくは買収や合併などの「M&A」を行った際に、投資して購入した株をその時の企業の価値の金額で売って利益を出し、投資家に還元し、残りの収益をVCが得るという仕組みになっています。
※投資家たちから集めた資金を管理・運用する投資の仕組みのこと
ステージはシード、アーリー、ミドル、レイターの4つ。前半のシードやアーリーは将来性を予測しにくいうえ、該当する企業の数も多いので成功する確率はかなり低いんです。一方、後半のステージでの投資ほど成功確率は高いけれど、上場したときに価値が跳ね上がる率も低い。
具体的には企業価値を示す株価は、シード、アーリーなら20〜30倍、ミドル、レイターなら2〜3倍の価値になるといわれています。
スタートアップが上場(IPO)するまでのステージ
ステージ | 組織規模 | 資金 | |
---|---|---|---|
シード | スタートアップの最初のステージ。課題に対するソリューションの仮設検証を目的とする。 | 3〜5人 | 2〜3000万円 |
アーリー | 顧客が満足するプロダクトやサービスを市場に提供し、収益化ができている。 | 10〜20人 | 1〜3億円 |
ミドル | 安定した収益を得られており、事業の規模を見込めている。 | 30人〜 | 3〜10億円 |
レイター | 事業拡張が軌道に乗り始め、上場(IPO)の準備段階に入っている。 | 50人〜 | 10〜50億円 |
Headline Asiaならではの特長は2つ。1つ目は「IVS」という大きなカンファレンスを主催し、IVS LAUNCHPADの登壇者だけでなく、参加者であるスタートアップの情報に目を通すなど多くの接点を通して投資先を見定めています。
2つ目は、自社独自の経営分析ツールを開発・運用していること。このツールは、機関投資家しか使えない約20のデータソースを収集し、類似したサービスやプロダクトを比較検討できるんです。WEBサイトのアクセス数やPV※1、アプリならアクティブユーザー※2数やダウンロード数などを相対的に比較できます。スタートアップは上場企業と違って、公表されている情報が少ないため、経営分析ツールが効果を発揮するんです。
※1 ユーザーがWebサイトのページにアクセスした回数のこと
※2 ある期間内にWEBサイトに1回以上訪問したユーザーのこと
ちなみに日本以外のスタートアップにも投資しているんですか?
では、投資したお金の成果ってどのくらいでわかるんですか?
「ディープテック」と呼ばれる大学発ベンチャーの研究領域は、ITなどと違って年月が必要なので、15年と長いこともあります。
出資されたからには、決められた期間内にIPOかM&Aといったイグジットを果たす必要がありますから。
融資、出資、投資の違い
融資 | 銀行などの金融機関がお金を貸すこと。原則、返済の義務がある。 |
出資 | 投資家などが企業が発行する株券と引き換えに資金を援助すること。原則、返済の義務はない。 |
投資 | 将来的に利益を得るため、資金を援助すること。出資も融資も投資の一つとなる。 |
理研の研究者から「IVS」のボランティアスタッフを経てCEOに
それでまず、大学院生として理研で自分の力量を試したのですが挫折して、ビジネスの道に進もうと決意したんですよ。将来性が高いIT領域の最先端で働くには、経営者に会うことが一番だと思い、まずはGoogle先生に聞いたんです(笑)。
それで学生でも参加できるイベントとして「IVS」があるとわかり、ボランティアスタッフに応募しました。
当日は、「あの企業の経営者だ!」などと興奮しっぱなしで(笑)。ボランティアスタッフの中にも起業を目指している同年代が多く、刺激になりましたね。その後、IVS社の人に声をかけてもらって入社しました。
そのうえ、入社2カ月後には、台湾の当時の投資先「M17 Entertainment Limited177」の日本支社設立に携わることになって。当時の上司で、今のグローバルの「17LIVE」CEOを務める小野裕史さんと2人で立ち上げました。
会社登記や契約書の作成から、芸能事務所への営業まで、何でもやりましたね(笑)。約2年で従業員が100人規模になり、そのタイミングで経営企画室から退いたという感じです。
VC開催のカンファレンスが増えるなか、「IVS」の開催意義について改めて話し合い、「ステージ的に若いスタートアップを応援するために存在すべき」というビジョンに決定したんです。運営も若手に任せようとなり、任命していただきました。
ただ、「IVS」は人生が大きく変わるような機会を提供できる素敵な場だとも思っていて。僕も人生が変わった1人ですし。だから、「IVSを絶やさず、よりおもしろいものにしていきたい」という思いから引き受けました。
ただ、堅苦しい雰囲気なので、参加者によっては何を話していいかわからなくて、ストレスを感じることもありますね。そこでIVSでは参加者の負担を減らし、実利につながるカンファレンスにしようと、これまでの慣習を徐々に変えていっているところです。
カンファレンスは、他社のようにミニマムでやるのが戦略としては正しいと思います。ただ、僕は事業をゼロから作った経験から、「IVS」に大きな可能性を感じるんです。
スタートアップの登竜門「IVS LAUNCHPAD」で勝つ秘訣とは?
※スタートアップなどの起業家が、投資家などの審査員に対して事業計画をプレゼンテーションするイベントのこと
「IVS2021 LAUNCHPAD NASU」は、働く女性のためのキャリア支援サービスを運営する「SHE」が200社近い中から優勝しSNSでも話題になりました。
過去に登壇したスタートアップの15%がIPOやM&Aといったイグジットをしているんですよ。たとえば、資産運用の「WealthNavi」やクラウド会計ソフトの「freee」、スキルマーケットの「ココナラ」、ビジネスSNSの「Wantedly」が過去に登壇しています。
正直、プロダクトの成熟度は重要ではなく、最悪完成していないモックでもいいんです。コンセプトがあって、「〜を作ります!」というプランだけでもいい。いかに独創的かを重要視しています。
IVS LAUNCHPADの登壇者には「壮大なことができそう」「人を惹きつける話し方をする」と感じることが多いですね。人としての魅力が高いと投資家から支持され、人や情報が集まりやすく、会社のチーム力も高まるので成長の角度が高いと思います。
IVS LAUNCHPADは口頭ですべてをわかりやすく伝える必要があるため、ルールに沿って最適なピッチを仕上げた人は進みやすいと思います。
でも、このプロダクトはスイッチを押す権利を実家の親や友人に付与して、彼らが鳩時計の所有者のことをちょっと思ったときに押すというのが肝。ピッチの際の「エモテックです!」というフレーズが心に刺さりました。
YouTubeで公開しているので、ぜひ見てみてください。
スタートアップの未来は明るい!? 島川さんがズバリ予想!
コロナの状況次第ですが、海外の起業家や投資家も300人くらい招きたいですね。日本に入ってくる情報は、海外の最新情報と比べると2.5周くらい遅いので、Web3.0の一次情報を持っている人たちを招待したいと思っています。
普通、VCはお金で株を買いますが、株の代わりに経営者が発行するトークン(代用硬貨)を買う「クリプト(暗号資産)ファンド投資」が海外を中心に盛り上がっているんです。投資先が暗号資産の取引所に上場するとトークンの取引ができ、売買によって利益を得られます。
IVSの当日は、ゲームの構造を別分野に応用する「gamification(ゲーミフィケーション)」、分散型金融の「DeFi(ディファイ)」、株式会社に近い概念の「DAO(ダオ)」といったトレンドのキーワードについてセッションしたり、数カ月前から仕込んで、エンジニアなどのチームが新サービスを作って発表する「ハッカソン」※も行う予定です。
※ ハックとマラソンを合わせた造語。 プログラマーや設計者などが、 短期間に集中的に開発作業を行うイベントのこと
そして気になるのが、今後の日本のスタートアップ市場です。ズバリ教えてください!
投資にはシナジーを求める投資と、経済的なリターンを求めてする投資があって、事業会社がスタートアップに投資する「コーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下、CVC)」の場合は前者です。
一方、VCの設立は増え、ファンドの規模感は大きく活発になっていますね。
言語的な問題で海外に支社を作れないだけでなく、日本の国内総生産(GDP)は世界3位なので、日本国内でも成功すれば経営者は十二分に満足できる。上場してお金持ちになったら、リスクを背負ってまで海外進出するモチベーションを持ちにくいですから。
上場前に海外の投資家から超大型の調達をして、会社の企業価値を上げてから上場すると高値がつきやすいんです。というのも、海外投資家の株の保有スタイルは日本と違い、長期保有する傾向があり株価が安定しやすい。すると人気が出て「買いだ!」と個人投資家が買い、価値が上がるんです。IPOはいろいろな企業サイズで実施ができるのですが、最近はなるべく大規模で良いIPOをしようという目標を持っているスタートアップが増えていると感じます。
また、近年、日本政府がスタートアップ支援に力を入れています。昨年、経済産業省に「スタートアップ創出推進室」ができたり、大学発スタートアップに国家予算が何十億円と投入されたり。
自分のペースで自由に経営したい人は、契約しないのがベスト。「みんながみんなVCから調達しなさい!」とは絶対に言いません(笑)。
言葉の壁を越えるためにサポートするなど、スタートアップ界隈により良い環境を作れたらと思っています。
島川敏明(しまかわ としあき)
大阪大学大学院生命機能研究科卒。理化学研究所で分子生物学/神経学の研究に従事。2017年インフィニティベンチャーズLLPに入社し、投資活動に加え、IT企業の経営者層が約700名参加する招待制カンファレンス「IVS」の運営や日本最大のライブ配信アプリを提供する株式会社17 Media Japan(現 17LIVE)の立ち上げを行う。17 Media Japanでは創業メンバーとして2年間で日本のライブ配信業界において売上1位を達成する。2020年、株式会社インフィニティベンチャーズサミットのCEOに就任。起業家のための新しいIVSを創るため奔走中。
IVS:https://www.ivs.events/
島川さんのTwitter:@toshi_ivs
Headline Asia Twitter:@headline_asia
過去最大規模の「IVS2022 NAHA」が、7月6日(水)~8日(金)に開催!
今回は沖縄県那覇市にて、7月6日(水)~8日(金)に開催予定です。
現在、新規参加やボランティアスタッフの応募を受付中。
撮影/武石早代
取材・文/川端美穂、おかねチップス編集部
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日本最大のスタートアップカンファレンス「IVS」のCEO島川敏明が見据える“スタートアップの未来”
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