未上場のスタートアップに投資するベンチャーキャピタル「Headline Asia」で投資活動を行いながら、IVS株式会社(以下、IVS社)のCEOとして国内最大級の招待制カンファレンス「IVS」の運営を行う島川敏明さん。理研の研究者から投資業界に転職した経緯や、ベンチャーキャピタル(VC)※ の仕組み、「IVS」で行われるピッチコンテスト「IVS LAUNCHPAD」の必勝法、スタートアップの未来予測について語っていただきました。新時代のビジネスに役立つ知識や情報が満載で、ビジネスパーソン必読のインタビューです!
※未上場企業に出資を行う投資会社や投資ファンドのこと。
「スタートアップがVCから出資を受けるのは、悪魔と契約するようなもの(笑)」
理研の研究者からVCに転職という、異色の経歴を持つ島川敏明さん
はじめまして。投資についてよくわからずに、のこのことやって参りました……!
僕も5年前、インフィニティベンチャーズLLP(Headline Asiaの前身)に入社するまでは、投資やスタートアップに関する知識はゼロだったのでお気持ちはわかります(笑)。何でも聞いてください。
やさしい〜(泣)。 ありがとうございます! ではまず、島川さんのお仕事内容から教えてください。
現在2つの役職がありまして。 1つは、未上場のスタートアップに投資するベンチャーキャピタル(以下、VC)の「Headline Asia」のプリンシパルとして投資活動を行っています。 もう1つは、IVS社のCEOとして、主にインターネット企業の経営者や経営幹部、投資家が一堂に会する年に2回の招待制カンファレンス「IVS」の運営を行っています。関係性としては、Headline Asiaの子会社が IVS社という組織構造になっています。
ええっと、プリンシパルって何ですか? バレエの主役ですか??? カタカナに弱くてすみません……(汗)。
違います(笑)。プリンシパルとはVCやコンサル業界では一般的な役職で、会社の規模にもよりますが、社長の次かその次くらいの立場 になります。
そうなんですね。そもそもVCって、どんなふうにスタートアップに投資しているんですか?
お金の流れで言うと、「機関投資家」と呼ばれる生命保険会社や投資信託、年金基金といった大口投資家から数十億〜百億円の予算をVCが預かり、それを1つのファンド※ として、僕らが目利きしたスタートアップに投資をします。 そのスタートアップが東証などの証券取引所に上場して誰でも株取引ができるようになる「IPO(新規公開株)」、もしくは買収や合併などの「M&A」を行った際に、投資して購入した株をその時の企業の価値の金額で売って利益を出し、投資家に還元し、残りの収益をVCが得るという仕組み になっています。
※投資家たちから集めた資金を管理・運用する投資の仕組みのこと
投資したスタートアップが事業で成功したら、投資家もVCも大儲け!みたいなオイシイ商売なんですか……?
いえ、ハイリスクハイリターンな投資 です。スタートアップが上場(IPO)するまでの成長段階におけるステージがあって、どのタイミングで投資するかによって確度が違うから難しいんです。 ステージはシード、アーリー、ミドル、レイターの4つ。前半のシードやアーリーは将来性を予測しにくいうえ、該当する企業の数も多いので成功する確率はかなり低いんです。一方、後半のステージでの投資ほど成功確率は高いけれど、上場したときに価値が跳ね上がる率も低い。 具体的には企業価値を示す株価は、シード、アーリーなら20〜30倍、ミドル、レイターなら2〜3倍の価値になるといわれています。
スタートアップが上場(IPO)するまでのステージ
ステージ 組織規模 資金 シード スタートアップの最初のステージ。課題に対するソリューションの仮設検証を目的とする。 3〜5人 2〜3000万円 アーリー 顧客が満足するプロダクトやサービスを市場に提供し、収益化ができている。 10〜20人 1〜3億円 ミドル 安定した収益を得られており、事業の規模を見込めている。 30人〜 3〜10億円 レイター 事業拡張が軌道に乗り始め、上場(IPO)の準備段階に入っている。 50人〜 10〜50億円
シードやアーリーのスタートアップへの投資って、バンドのインディーズ時代のグッズが、メジャーデビュー後に人気になってプレミア価格になるみたいな感じですかね。売れてないときの数が少ないグッズほど後に高値がつく、みたいな?
島川さんは嫌な顔一つせずに、スタートアップの投資について詳しく教えてくれます
それでは島川さんが働くHeadline Asiaでは、どのように投資先を選んでいるんですか?
僕らはどちらかというと、シードとアーリーのスタートアップに投資しています。 Headline Asiaならではの特長は2つ。1つ目は「IVS」という大きなカンファレンスを主催し、IVS LAUNCHPADの登壇者だけでなく、参加者であるスタートアップの情報に目を通すなど多くの接点を通して投資先を見定めています。 2つ目は、自社独自の経営分析ツールを開発・運用している こと。このツールは、機関投資家しか使えない約20のデータソースを収集し、類似したサービスやプロダクトを比較検討できるんです。WEBサイトのアクセス数やPV※1 、アプリならアクティブユーザー※2 数やダウンロード数などを相対的に比較できます。スタートアップは上場企業と違って、公表されている情報が少ないため、経営分析ツールが効果を発揮するんです。
※1 ユーザーがWebサイトのページにアクセスした回数のこと ※2 ある期間内にWEBサイトに1回以上訪問したユーザーのこと
な、なるほど(横文字が多くて困惑気味)。独自の繋がりと独自のデータを持たれてるのが強みなんですね。 ちなみに日本以外のスタートアップにも投資しているんですか?
Headline Asiaは、北京・東京・台北など世界7拠点で活動するグローバルベンチャーキャピタルなので、アジア全体のスタートアップが対象です。正確に言うと、外資規制が厳しい中国本土以外となります。
その名の通りアジアを股にかけてるんですね。 では、投資したお金の成果ってどのくらいでわかるんですか?
ファンドの運用期間は、一般的にだいたい10年プラス2年です。
10年で利益が未回収だったときのための猶予 です。「あと1年で上場できます!」というときの「泣きの2年」が最初からオプションがついています(笑)。 「ディープテック」と呼ばれる大学発ベンチャーの研究領域は、ITなどと違って年月が必要なので、15年と長いこともあります。
莫大なお金を集め、先の見えない世の中で12年でしっかり投資家の期待に応えないといけないなんてシビアなお仕事ですね……。
VCの僕が言うのも変ですけど、スタートアップがVCから出資を受けるのは一種、悪魔と契約するようなものなんですよね(笑)。 出資されたからには、決められた期間内にIPOかM&Aといったイグジットを果たす必要がありますから。
ひぇ〜! その約束を破ったら、何か罰があるんですか?
いえ、銀行の融資と違ってペナルティーは基本ありません。VCの出資には返済義務はありませんが、目的を果たせなかった場合、会社が潰れてしまうことも……。
それは大変だ……。資金を調達する方法は、慎重に検討を行わないといけませんね。
融資、出資、投資の違い
融資 銀行などの金融機関がお金を貸すこと。原則、返済の義務がある。 出資 投資家などが企業が発行する株券と引き換えに資金を援助すること。原則、返済の義務はない。 投資 将来的に利益を得るため、資金を援助すること。出資も融資も投資の一つとなる。
理研の研究者から「IVS」のボランティアスタッフを経てCEOに
話は変わりますが、島川さんは理化学研究所から今の投資業界に転職されたそうで。何がきっかけだったんですか?
大学生の頃、将来は研究者か、資本のマネーゲームに思いっきり揉まれるかの2択のうち、どちらを選ぶか早めにジャッジしないとって思ってました。 それでまず、大学院生として理研で自分の力量を試したのですが挫折して、ビジネスの道に進もうと決意したんですよ。将来性が高いIT領域の最先端で働くには、経営者に会うことが一番だと思い、まずはGoogle先生に聞いたんです(笑)。 それで学生でも参加できるイベントとして「IVS」があるとわかり、ボランティアスタッフに応募しました。
はい。2015年の宮崎開催の「IVS」のボランティアスタッフとして、飛行機も宿も自腹で参加しました。 当日は、「あの企業の経営者だ!」などと興奮しっぱなしで(笑)。ボランティアスタッフの中にも起業を目指している同年代が多く、刺激になりましたね。その後、IVS社の人に声をかけてもらって入社しました。
ボランティアスタッフとして参加した「IVS」が、島川さんのキャリアチェンジのきっかけとなった
未経験だったので最初は「これどうなってんの?」「これってどういう意味?」の連続でした(笑)。 そのうえ、入社2カ月後には、台湾の当時の投資先「M17 Entertainment Limited177」の日本支社設立に携わることになって。当時の上司で、今のグローバルの「17LIVE」CEOを務める小野裕史さんと2人で立ち上げました。 会社登記や契約書の作成から、芸能事務所への営業まで、何でもやりましたね(笑)。約2年で従業員が100人規模になり、そのタイミングで経営企画室から退いたという感じです。
入社早々、すごいご活躍ですね。研究者時代とのギャップを感じることはありましたか?
研究者時代は1日中、寒くて薄暗い研究室に1人でこもっていましたから、コントラストは強かったですね(笑)。それに、「芸能人と仕事して、お金がもらえる世界があるんだ!」と衝撃を受けました。
研究者時代の島川さん。「暗くて寒い顕微鏡室で顕微鏡を1日中覗いてましたね」とのこと
島川さんは、2020年にIVS社のCEOに就任されますよね。その経緯も教えてください。
僕らが運営する「IVS」は2007年から開催し、歴史・規模ともに国内最大級のIT経営者対象のカンファレンスになりました。 50人くらいから始まり、経営者やVCの母数が増えるとともに、700人規模に成長して。 VC開催のカンファレンスが増えるなか、「IVS」の開催意義について改めて話し合い、「ステージ的に若いスタートアップを応援するために存在すべき」というビジョンに決定したんです。運営も若手に任せようとなり、任命していただきました。
CEO就任当時は27歳ですよね。プレッシャーはありませんでしたか?
めちゃくちゃ不安でしたよ(笑)。 人前で話すのは苦手でしたし、初めて登壇したときは冗談ではなく、頭の中が真っ白で足も震えていました。 ただ、「IVS」は人生が大きく変わるような機会を提供できる素敵な場だとも思っていて。僕も人生が変わった1人ですし。 だから、「IVSを絶やさず、よりおもしろいものにしていきたい」という思いから引き受けました。
現在の島川さんから想像かつかないが、IVS社のCEO就任当初は人前に出るのが苦手だったそう
そもそも経営者や投資家が集まるカンファレンスって、一体何をしているですか?
伝統的なカンファレンスはホテルのホールや会議室などに集まって、業界の展望や経営についてセッションし交流を深めるのが一般的です。 ただ、堅苦しい雰囲気なので、参加者によっては何を話していいかわからなくて、ストレスを感じることもありますね。そこでIVSでは参加者の負担を減らし、実利につながるカンファレンスにしようと、これまでの慣習を徐々に変えていっているところです。
昨年11月の「IVS2021 NASU」は、「那須高原TOWAピュアコテージ」を借り切って2泊3日で行われたそうですね。参加した方々のSNSなどを見ると、ウェルカムでアットホームな雰囲気ですよね。
そうなんです。IVSは起業家の先輩と交流できるだけでなく、同じ投資家やVCから出資を受けている経営者同士で集まれるなど、縦と横のつながりが生まれるような工夫をしています。
「IVS2021 NASU」は「経営者の別荘に遊びに行く感じ」をイメージし、コテージに宿泊した人が宅飲みを開催したり。あとは、DJブースを囲んでサウナに入ったりBBQしたり、ビジネスに留まらない交流ができる工夫を取り入れました。
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野外音楽フェスみたいですね。大掛かりなので、運営側にはすごく労力がかかりそうですが……!
前回、スタッフは総勢約80人で過去最大級だったので大変でしたね。イベント会社にも入ってもらいましたが、イレギュラーな内容にかなり戸惑っていました(笑)。
VCの子会社として、1つのイベントにそこまで力を注ぐのはなぜですか? 「投資活動に専念しなさい」などと、投資家から叱られたりはしないんですか?
おっしゃる通り、VC兼イベント運営をしている身としてジレンマもあります。 カンファレンスは、他社のようにミニマムでやるのが戦略としては正しいと思います。ただ、僕は事業をゼロから作った経験から、「IVS」に大きな可能性を感じるんです。
VCのブランディングや、投資先を探す際に、「IVS」を開催していることが強みになると?
そうですね。「IVS」を通して、多くの人と関われることが大きい です。投資先候補になるスタートアップとの出会いをはじめ、大企業の経営陣など投資家ともつながれる。一緒に投資先を応援するVC仲間との関係も築けるなど、VCとしてさまざまなメリットを感じますね。
スタートアップの登竜門「IVS LAUNCHPAD」で勝つ秘訣とは?
ズバリ、「IVS LAUNCHPAD」の必勝法を教えていただきます
「IVS」の目玉として、ピッチコンテスト※ の「IVS LAUNCHPAD(ローンチパッド)」がありますね。事前審査で選ばれた14社のスタートアップ経営者が登壇し、事業やサービスを6分という短い時間で発表するそうで。このIVS LAUNCHPADの開催意義は、どんなところですか?
※スタートアップなどの起業家が、投資家などの審査員に対して事業計画をプレゼンテーションするイベントのこと
海外のスタートアップ界隈では、「月を目指すような突拍子もないプロジェクト」を「ムーンショット」と言うことから、IVS LAUNCHPADには「ムーンショットの達成に向けた発射台」という意味を込めています。
スタートアップが上場や世界進出といったゴールに向かうために、IVS LAUNCHPADで華々しく発表を行い、僕らがそれをサポートするといったスタイルで行っています。 「IVS2021 LAUNCHPAD NASU」は、働く女性のためのキャリア支援サービスを運営する「
SHE 」が200社近い中から優勝しSNSでも話題になりました。
優勝するしないに関わらず、登壇したスタートアップは資金調達や業務提携が決まったり、採用がしやすくなったという報告をよく聞きますね。過去に登壇したスタートアップの15%がIPOやM&Aといったイグジットをしている んですよ。たとえば、資産運用の「WealthNavi」やクラウド会計ソフトの「freee」、スキルマーケットの「ココナラ」、ビジネスSNSの「Wantedly」が過去に登壇しています。
まさにスタートアップの登竜門ですね! 登壇者に選ばれるまでにどんな審査があるのでしょう?
審査は3ステップです。1次選考(書類選考)は、資料と1分間の動画やテキストを審査。2次選考は、6分間の本番同様のピッチを行ってもらい、その後、プロダクトやピッチに対して質問やアドバイスを行うメンタリングを実施。3次選考も同様に行い、前回の指摘が改善されているかなどをチェックします。
書類選考では国内外のトレンドをいち早く取り入れているかどうかを意識していますね。 今、注目の市場を攻めているサービスは選ばれやすいです。正直、プロダクトの成熟度は重要ではなく、最悪完成していないモックでもいい んです。コンセプトがあって、「〜を作ります!」というプランだけでもいい。いかに独創的かを重要視しています。
なるほど。では、2次と3次選考ではどんなところを見ているんですか?
経営者の魅力や人間性を見ますね。スタートアップの成長において、経営者の人間性がすごく大事 なんです。成功しているスタートアップの経営者は、やっぱり人を惹きつける魅力がありますから。 IVS LAUNCHPADの登壇者には「壮大なことができそう」「人を惹きつける話し方をする」と感じることが多いですね。人としての魅力が高いと投資家から支持され、人や情報が集まりやすく、会社のチーム力も高まるので成長の角度が高い と思います。
起業を目指している人やスタートアップの経営者にとって、貴重な情報ですね!
あと、テクニカルな点では、僕らのフィードバックがピッチに反映されているかをチェックします。 IVS LAUNCHPADは口頭ですべてをわかりやすく伝える必要があるため、ルールに沿って最適なピッチを仕上げた人は進みやすいと思います。
これまでのピッチで印象に残ったものってありますか?
「IVS2017 Fall LAUNCHPAD Kanazawa」に登壇した「OQTA(オクタ)」のピッチは会場で大ウケでした。専用のスマホアプリのスイッチを押すと、遠く離れた鳩時計が「ポッポー」と鳴くだけ(笑)。 でも、このプロダクトはスイッチを押す権利を実家の親や友人に付与して、彼らが鳩時計の所有者のことをちょっと思ったときに押すというのが肝。ピッチの際の「エモテックです!」というフレーズが心に刺さりました。
それは斬新ですね! ちなみに、前回の「IVS2021 LAUNCHPAD NASU」で感動的だったピッチはありますか?
「VALT JAPAN」の小野貴也さんのピッチは力強くて印象的でした。障がいや疾患、難病を抱えている方の雇用を最大化し、就労の仕組みを作るという社会的意義のある事業内容と相まって、政治家の演説のようで引き込まれました。 YouTubeで公開しているので、ぜひ見てみてください。
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スタートアップの未来は明るい!? 島川さんがズバリ予想!
「IVS2022 NAHA」は、2022年7月6日(水)〜8日(金)に開催予定
今年7月に開催される「IVS2022 NAHA」はどんな内容になりますか?
「IVS」と同時にWeb3.0(ウェブスリー)のイベントも開催し、メタバース(インターネット上の仮想空間)も1つの要素として盛り上げたい と思っています。 コロナの状況次第ですが、海外の起業家や投資家も300人くらい招きたいですね。日本に入ってくる情報は、海外の最新情報と比べると2.5周くらい遅いので、Web3.0の一次情報を持っている人たちを招待したいと思っています。
主に「ブロックチェーン」という情報を分散して管理するデータベース技術を使った、インターネットの概念です。普通、VCはお金で株を買いますが、株の代わりに経営者が発行するトークン(代用硬貨)を買う「クリプト(暗号資産)ファンド投資」が海外を中心に盛り上がっているんです。 投資先が暗号資産の取引所に上場するとトークンの取引ができ、売買によって利益を得られます。
現状、日本のVCでクリプトファンドの運用ができるのは、海外籍のHeadline Asiaと1社だけ です。 IVSの当日は、ゲームの構造を別分野に応用する「gamification(ゲーミフィケーション)」、分散型金融の「DeFi(ディファイ)」、株式会社に近い概念の「DAO(ダオ)」といったトレンドのキーワードについてセッションしたり、数カ月前から仕込んで、エンジニアなどのチームが新サービスを作って発表する「ハッカソン」※ も行う予定です。
※ ハックとマラソンを合わせた造語。 プログラマーや設計者などが、 短期間に集中的に開発作業を行うイベントのこと
めちゃくちゃおもしろそうですね。 そして気になるのが、今後の日本のスタートアップ市場です。ズバリ教えてください!
実は、投資額や投資件数はコロナ禍前まではずっと右肩上がりでした。コロナ禍で少し凹んでしまいましたが、その原因は、事業会社が業績不振になり投資を控えてしまったから。 投資にはシナジーを求める投資と、経済的なリターンを求めてする投資があって、事業会社がスタートアップに投資する「コーポレート・ベンチャー・キャピタル(以下、CVC)」の場合は前者です。 一方、VCの設立は増え、ファンドの規模感は大きく活発になっていますね。
コロナ禍で経済の先行きも不透明ですし、スタートアップ市場はこの先活性化しないんでしょうか?
今後は海外からお金が入ってきて、活性化する と思います。すでに、あと払いサービス「ペイディ」を提供するPaidy社をPayPalが3,000億円(約27億ドル)で買収したり、クラウド人事労務ソフトを手掛ける「SmartHR」が海外の投資家などから156億円の資金調達を達成したことが話題になっていますよね。
会社の評価額に対して投資をするものですが、同じ技術力でも、欧米に比べ日本の会社の評価額はすごく低い んです。
円安に加え、海外進出しないから会社の規模が小さいことが理由 です。 言語的な問題で海外に支社を作れないだけでなく、日本の国内総生産(GDP)は世界3位なので、日本国内でも成功すれば経営者は十二分に満足できる。上場してお金持ちになったら、リスクを背負ってまで海外進出するモチベーションを持ちにくい ですから。
たしかに、海外進出のハードルを超えるのは難しそうですね。
ただ、最近は変わってきて、海外に会社を売却するスタートアップも増えています。 上場前に海外の投資家から超大型の調達をして、会社の企業価値を上げてから上場すると高値がつきやすいんです。というのも、海外投資家の株の保有スタイルは日本と違い、長期保有する傾向があり株価が安定しやすい。すると人気が出て「買いだ!」と個人投資家が買い、価値が上がるんです。IPOはいろいろな企業サイズで実施ができるのですが、最近はなるべく大規模で良いIPOをしようという目標を持っているスタートアップが増えていると感じます。
海外の投資家が日本の企業に大規模な投資をしはじめると、日本のスタートアップがどんどん海外に乗っ取られるのでは?という危機感も……。日本のスタートアップ自らが海外に新規参入できるものなのでしょうか?
英語圏や中国語圏の新規参入は難しくても、東南アジアやインド、インドネシアなど、人口が多くて経済的な成長率が高いエリアに自ら働きかけるスタートアップも増えています。日本のVCもその辺りに支部を持ち始めていますしね。 また、近年、日本政府がスタートアップ支援に力を入れています。 昨年、経済産業省に「スタートアップ創出推進室」ができたり、大学発スタートアップに国家予算が何十億円と投入されたり。
海外投資家のお金が入ってきて日本政府からの支援もあるなら、これからスタートアップを創業する人はバラ色ですか?
今後、スタートアップに流入するお金が増えるのは不可逆 だと思います。VC含めたサポーターが増え、制度も整ってきていますので、5〜10年前より起業しやすい。また、上場に向けた後半戦を戦いやすい環境も整うはずです。
すばらしい!! ただし、最初に島川さんが仰った「悪魔の契約」も覚悟しておかないと……。
そうですね。期限内にイグジットを達成するためにVCからお尻を叩かれ続けるので、それでも頑張りたいというアツい経営者はVCとぜひ悪魔の契約を(笑)。 自分のペースで自由に経営したい人は、契約しないのがベスト。「みんながみんなVCから調達しなさい!」とは絶対に言いません(笑)。
VCさん自ら(笑)。では、最後にIVS社の今後の展望をお聞かせください!
コロナ禍の落ち着きが見られたら、海外の投資家を巻き込んだ取り組みを増やし、日本のスタートアップのグローバル化の一助となりたいです。 言葉の壁を越えるためにサポートするなど、スタートアップ界隈により良い環境を作れたらと思っています。
島川敏明(しまかわ としあき)
Headline Asiaプリンシパル。IVS株式会社 CEO。
大阪大学大学院生命機能研究科卒。理化学研究所で分子生物学/神経学の研究に従事。2017年インフィニティベンチャーズLLPに入社し、投資活動に加え、IT企業の経営者層が約700名参加する招待制カンファレンス「IVS」の運営や日本最大のライブ配信アプリを提供する株式会社17 Media Japan(現 17LIVE)の立ち上げを行う。17 Media Japanでは創業メンバーとして2年間で日本のライブ配信業界において売上1位を達成する。2020年、株式会社インフィニティベンチャーズサミットのCEOに就任。起業家のための新しいIVSを創るため奔走中。
IVS:
https://www.ivs.events/ 島川さんのTwitter:
@toshi_ivs Headline Asia Twitter:
@headline_asia
過去最大規模の「IVS2022 NAHA」が、7月6日(水)~8日(金)に開催!
今回は沖縄県那覇市にて、7月6日(水)~8日(金)に開催予定です。
現在、新規参加やボランティアスタッフの応募を受付中。
https://www.ivs.events/
撮影/武石早代 取材・文/川端美穂、おかねチップス編集部