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税理士・松崎怜が教えるフリーランス1年生が知っておくべき12のこと【1】「独立したら依存先を増やすべき」

税理士・松崎怜が教えるフリーランス1年生が知っておくべき12のこと【1】「独立したら依存先を増やすべき」

クリエイターやフリーランス、独立開業といった自身の経験から、小商いをする人に向けて経営のガイドを行う、税理士の松崎怜先生。フリーランスや個人事業主といった事業の特徴に合わせたアドバイスとメッセージは、ビジネスの持続化の手助けとなり、自分らしく働くヒントになるものばかり。そんな松崎先生の元を訪れたのは、今年1月に「Lilly Lee」というアパレルブランドを本格始動した鈴木香澄さん。初めての独立&開業でわからないことだらけだと話します。このコラムでは、フリーランス1年生の鈴木さんが松崎先生からお金や経営まわりのアドバイスを授かりながら、フリーランスとして立派に成長していき、サクサクと確定申告を行うまでの様子を1年間にわたってレポートします。

連載 第2回「フリーランスには退職金がない。法人や会社員との違いを理解しよう」

コロナ禍にアパレルブランドのオーナーとして独立

個人事業主とフリーランスの救世主・松崎先生の登場!
松崎
先生
鈴木さん、はじめまして。今日から12回にわたってフリーランスが知っておくべきことをお伝えしていきますね。早速ですが、どうして会社を辞めて独立しようと思ったんですか?
鈴木
さん
はじめまして、こちらこそよろしくお願いします! 実は会社を退社したのは、6年ぐらい前なんです。その後、紆余曲折あったんですが、コロナ禍に突入したいまこそ自分が心底やりたいと思えるアパレル業を始めてしまおうと。それで今年の1月から「Lilly Lee」というレディースカジュアルブランドを本格的にスタートし、いまはネットショップの運営ができる「BASE」を使って洋服を販売しています。
松崎
先生
もともとアパレル関係のお仕事をされていたんですか?
鈴木
さん
いいえ、全く(笑)。もともとは「GREAT WORKS(グレートワークス)」という、ストックホルム、コペンハーゲン、ニューヨーク、東京、上海を拠点とするクリエイティブエージェンシーで働いていました。私、上海のカルチャーや食文化がものすごく好きで。それで、めちゃくちゃアピールして上海に配属になったんですけど、そこで生地問屋さんに依頼して洋服を作ってもらったりしていたんです。そもそもファッションや洋服づくりが大好きだったというのもあって。
税務や経営にまつわる悩みが尽きないという鈴木さん
松崎
先生
では、アパレル業に関してはゼロからのスタートということ?
鈴木
さん
ええ。ただの消費者でした(笑)。それに独立なんてしたこともなかったので、フリーランスに関して右も左もわからない状態です。
松崎
先生
なるほど。それなら任せてください! ちなみに僕は「小商いと、社会を彫刻する」ことをミッションに、小商いがずっと続くように経営のガイドをしています。というのも、大学生のときに親族が経営する会社が倒産したり、自分でもデザイナーやフリーランスを経験した結果、小商いの持続可能性を自分ごと化で探求するようになりまして。税理士になったいま、小商いをする方を応援して、よりよい未来へ社会を変えたいという気持ちが強いんです。
鈴木
さん
小商い……、まさに私のことですね。それは大変心強いです!!! 実は先日、開業届を提出しに税務署に行ったんですけど、うっかり控えを提出しそうになっちゃって(笑)。もう、そのくらい初心者です。
松崎先生は穏やかな人柄ながら、小商いを救いたいという情熱は人一倍強い
松崎
先生
なんと(笑)。でもこれからは大丈夫です。全力で鈴木さんをサポートしていきますので!

本日のレジュメ
「独立に必要なフリーランスの心構え」

フリーランスになってお金を稼ぐこと自体はそれほど難しくない。

理解すべき本質は、やりたいこと、やり遂げたいことだけで必要十分なお金を稼ぎ、そしてそれを維持継続すること。

そのためには、ブレない自分の判断基準(ビジョンや目的)を持ち、仕事で相手を喜ばせ、誘惑や怠惰に流されず、さまざまなリスクに備えることが大事。

【CHECK 01】“独立することは、自立すること。すなわち依存先を増やすことである”

「依存先ってどういうことですか?」と、鈴木さんの頭の中にははてなマークがいっぱい
松崎
先生
まず独立するには、いろいろな方法があります。鈴木さんのようにフリーランスになってもいいし、あるいは友達と一緒に起業するのだっていい。いきなり会社を設立してもいいわけです。さまざまな手段がある中で僕は、「独立=自立」だと捉えています。ちなみに鈴木さんは“自立していない状態”というと、どんなイメージをお持ちですか?
鈴木
さん
言葉だけですと、何かにすがっている、自力で走っていない状態を想像します。
松崎
先生
おっしゃる通り。たとえば、親子関係でよく言われる「あの子、自立できていない」という状態を紐解いてみると、親に依存している様子が見えてきますよね。当人が自立できてないのは、1人の人間、あるいは1つの共同体に依存しているから。だけど、それを複数の社会やコミュニティに依存することに変えてみれば、いろんな人に支えられて自分が成り立っているという意味になります。こうして思考を転換してみると、もし依存先が1個なくなってもほかのところに依存できていれば、自分が倒れる心配がなくなるというわけです。
鈴木
さん
わ〜、なるほど。たった1つに頼るのではなく、複数箇所に依存することで、リスクを減らして自走できるようになる、と。
松崎先生の話を前のめりで聞く鈴木さん
松崎
先生
そうです。独立し、自立するなら、“何があっても大丈夫な状態”を自らつくり出さなければいけません。そのために顧客や仕事相手など依存先を増やし、リスクヘッジをすることが重要なんです。
鈴木
さん
それで言うと、10年後やもっと先の未来を思い浮かべたとき、会社員という立場や自分ではない他者に依存していたくなかった。だから独立して、自立して、そういう不安は取り除いて生きていこうと思ったんです。1つの場所に固執して依存することから離れようとは考えていたけど、先生がおっしゃるように仕事で依存先を増やすという考えは新鮮ですね。
松崎
先生
仲間を作る、自分の応援団を作る、というイメージに近いかもしれませんね。実はこの“依存先を増やす”という考えは、人や組織だけじゃく、商材や商品にも応用できるんですよ。たとえば、同じデザインのTシャツを1種類だけじゃなくて、違うラインのものを制作してみたり。1つのTシャツがいくら売れ筋だからといって、同じものばかりを売り続けるのは依存と一緒なんです。依存先の捉え方として、そういう考え方もありますよ。
鈴木
さん
あっ……。そういえば、6月に子供服ブランドを作ったんです。独立当初は作るつもりはなかったんですけど、ユーザーさんからの要望が多くて立ち上げることになって。結構反響も多くいただいています。
松崎
先生
ナチュラルに依存先を増やしていたんですね!
鈴木
さん
そうみたいです(笑)。だとしたら、その依存先を増やすという考え方は、私にも合っているのかもしれません……!
松崎
先生
フリーランスが独立して依存先を複数持つ最大のメリットは、収入源が分散されることで経営が安定すること。経営が安定することによる効果は大きく2つあって、1つは、対外的な信用度も高まる傾向にあります。たとえば、仮に事業で銀行からお金を借りようと思ったときに、銀行側の視点に立つと、「この人はリスクをうまく分散できていて毎月の利益の中から安定的に返済できそうだな」と判断してもらえるので、融資も通りやすくなるはずです。2つめの効果は、ご自身の精神面への影響です。収入源の件数が少ない状態だと、いつか収入が途絶えてしまうのではないかという不安を常に抱えている状態だと思います。心置きなくクリエイティビティを発揮し、創作活動に専念するために、フリーランス本人の精神状態はとても重要なファクターです
鈴木
さん
収入がないと不安になる気持ち、めちゃくちゃわかります。だから焦って変に自分を追い込んじゃったり……。
松崎
先生
そうなんですね。クリエイターの中には、追い込まれないとなかなか火が付かないタイプの方も少なくないんですよ。どちらにせよ、心の平穏と経営の安定性を欠くような追い込みはやめましょうね。

【CHECK 02】 “自由にはリスクがつきもの。リスク対策も自分でコミットせよ”

個人事業主やフリーランスは、自由そうに見えて実は大変…!?
松崎
先生
なんといっても個人事業主やフリーランスの魅力は、働く時間や仕事量などが自分で決められる、その裁量の自由さだと思います。ただ、それと同時にリスクもあるんですよ。
鈴木
さん
リ、リスクですか……。
松崎
先生
いわば自分自身が雇用主であり社長であるので、会社員のように誰かが仕事を代わってくれたり、ミスをカバーしてくれたりといったことは必然的に少なくなります。自由さと引き換えに、リスク対策も自ら行わなければならないんですよ。
鈴木
さん
えっ。フリーランスってものすごく大変なのでは……という気がしてきました。
松崎
先生
自分の事業のリスクをしっかりと理解していれば大丈夫です! さっき話したように依存先を複数個持っておくとリスク回避にもなりますしね。ちなみに鈴木さん、ご自身のお仕事の中で、リスクだと感じる部分はありますか?
鈴木
さん
アパレル業のみなさんそうだと思いますが、在庫を抱えることですね。どうしても商品を作らないことには仕事が始まらないんですよね。
松崎
先生
デザイナーさんやプログラマーさんだったら、発生した仕事、つまりお金が確実に手に入ることを前提に制作を行いますが、アパレル業の場合、売れるかどうかわからないけど、まずは商品を作らなければならないですもんね。
鈴木
さん
そう、先行投資の必要性があるんですよね。いまはその投資と在庫の板挟み状態で、「売りたい」「売れたい」って常々思っちゃっていて……。もう駆け出しの芸人さんのような気持ちです。でもそれくらい必死にやっていかないといけないなって。
松崎
先生
在庫は財産ではありますが、売れて相手の元へデリバリーしないことには収益にならないですからね。
鈴木
さん
はい。だから、在庫という“負の資産”は不要だなと思っています。
松崎
先生
そうしたリスクヘッジのために、ご自身でやられていることはありますか?
鈴木
さん
やっぱりマーケティングですかね。それを元にSNSで広告を打ったり。まだまだトライ&エラーですけど……。
松崎
先生
ご自身の事業のリスクを理解して、それに対するアプローチ方法まで考えられているのは素晴らしいです。鈴木さんの場合、製造から販売、マーケティングまで、すべて自分でやらなければなりませんね。事業をする上での変数が多いので、非常に大変だと思います。そこで大切にしていただきたいのが、ビジョンや目的を持つことなんですよ。そのため必要なのは、「なぜやるのか?」と何度も自分に問いかけること。「誰のために」「なんのために」「なぜ自分がそれをやるのか」と。また、これらを深く掘り下げるために自己分析したり、クライアントや市場・業界・社会の課題を書き出してみることも有用です。自分はどんな人間でなにを大事にしているのか、そして自分は相手のどんな課題を解決できるのか、あるいはどれを解決したいのか、繰り返し考えてみてください。

【CHECK 03】“事業のビジョンや目的を持ち、社会価値を提供することが大事“

「鈴木さんの事業のビジョンや目的はなんですか?」と、やさしく問いかける松崎先生
鈴木
さん
私のビジョンや目的……。いま洋服のブランドやメーカーって、無数にあるじゃないですか。その中で自分のブランドを選んでもらえるなんて、ものすごく奇跡なことだと思うんですよね。有名ブランドになりたいわけじゃないですけど、買ってくださる方が自分らしさを表現できるブランドでありたいと思っています。
松崎
先生
素敵なビジョンですね。ではご自身のブランドで、社会に向けてどんな価値を提供していきたいと考えていますか?
鈴木
さん
まずは自分の半径10m以内にいる人たちに還元していきたいです家族だったり、友人だったり。小さな社会かもしれませんが、自分の周りの人を巻き込みつつ、その人の人生が少しでも豊かになっていけたらいいなって。
松崎
先生
素晴らしいですね。こうした事業のビジョンや目的は、もし自分が迷ったり、立ち止まったりしたときに、いい方向に導いてくれる指標になります。独立してお金を稼ぐことって、実はそんなに難しくないんですよ。来た仕事を断らずに何でもかんでも請け負えばいいので。だけど、独立に至った自分だけの理由が必ずありますよね。本当にやりたいことだけをやって必要十分にお金を稼げるのであれば、自分が腹落ちしていない仕事にばかり取り組むようなことはなくなるはずです。
鈴木
さん
自分が向かうべき方向をしっかりと定めておくことが大事なんですね。
松崎
先生
その通りです。そもそもビジネスは相手がいて成り立つもの。その相手に対して価値や幸福を与えつつ、いかに自分の事業を継続できる状況を作り出すか。これが独立の本質だと思っています。
鈴木
さん
早速、子供服ブランドを立ち上げてしまった私って……(苦笑)。この先、メンズ服や生活雑貨も展開していきたいので後悔はないのですが、独立直後からこんなにブレブレで大丈夫でしょうか?
「とにかく前向きにやっていくつもりですが……」と言いつつ、心配そうな表情を浮かべる鈴木さん
松崎
先生
全く問題ありません! 鈴木さんはある程度自分が向かっていくべき方向を定められているので、ガチガチに計画を設定する必要はないと思います。ビジョンや目的通り進んでいける人なんてそうそういませんし、そもそも事業を続けるうちに変化して成長するものだと考えています。生きていればいいことも悪いことも、いろいろなことが起こるじゃないですか。そんな場面に直面したとき、自分の核となるビジョンや目的さえ持っていれば、どんなことにも流されることなく事業を展開していけるはずです。
鈴木
さん
たしかに原点に立ち返る場面が来たとき、足元を固めておかないと自分があるべき姿や場所を見失ってしまいますね。自分が事業を行う意味、自分だからできること。それをしっかり見極めていきたいと思いました。先生のお話、とても勉強になりました。今日はありがとうございました!
松崎
先生
こちらこそです。鈴木さんはフリーランス1年生にしては、とてもしっかりされていらっしゃるので、きっとこの先も大丈夫! 一緒にがんばっていきましょう。
小商いに強すぎる松崎先生がいれば、どんな困難もなんのその

自由そうに見えて、実はたくさんの困難が待ち受けるフリーランス街道。フリーランス1年生の鈴木さんは、松崎先生から教えを授かりながら、このいばらの道をどう乗り越えていくのでしょうか? 実体験を踏まえた2人の講義風景をこの先もお届けします!

松崎怜(まつざき りょう)

税理士、創業コンサルタント、財務コンサルタント。税理士事務所ASCOPE 代表、株式会社GO CFO、株式会社&FINANCE 代表、Doppio合同会社 共同代表。1983年、神奈川県生まれ。一児の父。「小商いと、社会を彫刻する」ことをミッションに、小商いがずっと続くように、経営のガイドを行っている。現在は、自身の「クリエイター」「フリーランス」「独立開業/ 創業」といった経験と実践をもとに、小商いの持続可能性を自分ごと化して探求している。
ASCOPE:https://www.ascope-tax.net

鈴木香澄(すずき かすみ)

1984年生まれ。大学卒業後、スウェーデン発のクリエイティブエージェンシー「GREAT WORKS(グレートワークス)」に入社し、ディレクターとして活躍。2019年に「ロンドンに住むLilly Lee(リリー リー)ちゃんが愛用している服」をコンセプトにしたカジュアルブランド「Lilly Lee(リリー リー)」を創設し、2020年1月より本格始動。
Lilly Lee:https://lillylee.theshop.jp

撮影/酒井恭伸
取材・文/おかねチップス編集部

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税理士・松崎怜が教えるフリーランス1年生が知っておくべき12のこと【1】「独立したら依存先を増やすべき」

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