動画の著作権と使用許諾|BGM・映像素材・出演者で揉めないための確認手順とチェックリスト

動画を公開した後に「そのBGM、使用許諾の範囲外です」「出演者から掲載を止めてほしいと連絡が来た」と言われる——動画制作でもっとも起きやすく、もっとも修正コストが高いのが権利まわりのトラブルです。差し替えには再編集と再書き出しが発生し、広告出稿中であれば配信停止の判断も必要になります。
やっかいなのは、権利の問題が「制作会社に任せていれば安全」とは限らない点です。素材を選ぶのは制作側でも、公開する主体は発注側であり、責任の所在は契約の書き方で変わります。この記事では、発注側・制作側のどちらの立場でも押さえておきたい基礎知識を、音楽・映像素材・出演者の3領域に分けて整理します。最後に公開前に使えるチェックリストと、権利確認の工程表を付けました。
※本記事は一般的な考え方を整理したものです。個別の案件でトラブルが発生している場合や、判断に迷う契約条項がある場合は、必ず弁護士など専門家にご相談ください。
動画の権利は「1本」ではなく複数の権利の束
まず前提として、1本の動画には複数の権利が同時に存在します。「動画の著作権は誰のものか」という質問に一言で答えられないのは、権利が層になっているからです。
典型的な企業PR動画には、少なくとも次の権利が含まれます。完成した映像全体の著作権、使用したBGMの著作権(作詞・作曲)、その音源を録音した原盤の権利、ストック映像や写真それぞれのライセンス、画面に映った出演者の肖像に関する権利、ナレーターの実演に関する権利、使用フォントのライセンス。このうちどれか1つでも許諾の範囲を外れると、動画全体が公開できなくなります。
また、日本の著作権法では著作権の保護期間は原則として著作者の死後70年です(2018年の法改正で50年から70年に延長されました)。「古い曲だから大丈夫」という判断は、思っているよりずっと危険です。

音楽・BGMの権利|楽曲と原盤は別物
音楽まわりで最も多い誤解が、「楽曲の使用許諾を取ったのだから、そのCD音源も使える」というものです。音楽には大きく2つの権利があり、それぞれ別に許諾が必要になります。
| 権利の種類 | 対象 | 権利者になりやすいのは | 動画で必要になる場面 |
|---|---|---|---|
| 著作権(楽曲) | メロディ・歌詞そのもの | 作詞家・作曲家、音楽出版社、著作権管理団体 | その曲を使う限り常に必要 |
| 著作隣接権(原盤権) | 録音された音源そのもの | レコード会社、原盤制作者 | 市販音源をそのまま使う場合に必要 |
| 実演家の権利 | 演奏・歌唱という実演 | アーティスト、演奏者 | 原盤の許諾に含まれることが多いが要確認 |
この構造があるため、既存のヒット曲を企業動画で使うのはハードルが高く、費用も期間もかかります。実務では次の3つのいずれかを選ぶのが一般的です。
- ロイヤリティフリーの音源サービスを使う——月額または買い切りで、規約の範囲内なら追加許諾なしで使える。企業動画で最も採用されやすい
- オリジナル楽曲を発注する——作曲家に依頼して制作する。権利の所在を契約で明確にできるため長期利用に向く。費用は数万円台〜数十万円台が目安で、尺・用途・買い取りの有無で変動する
- 既存曲の許諾を取る——楽曲と原盤それぞれに交渉が必要。交渉期間を数週間〜数か月見込む必要があり、スケジュールへの影響が大きい
なお、ロイヤリティフリー音源であっても「使い放題」ではありません。規約で広告利用(有料配信)の可否、テレビCMでの使用、再配布の禁止、クレジット表記の要否などが定められているのが通常です。特に「Web公開はOKだが広告出稿は別ライセンス」というパターンは非常に多いため、出稿予定がある場合は素材選定の段階で確認してください。
映像素材・写真のライセンス|「フリー」の4つの意味
ストック映像・写真・イラストで問題になるのは、「フリー」という言葉が指す内容がサイトごとに違うことです。少なくとも次の4つが「フリー素材」と呼ばれています。
| 呼ばれ方 | 実際の意味 | 商用利用 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ロイヤリティフリー | 使うたびの追加課金が不要。無料という意味ではない | 規約の範囲で可 | 購入は必要。用途制限がある場合が多い |
| 無料素材 | 金銭の支払いが不要 | サイトによる | 商用不可・加工不可の条件が付くことがある |
| クレジット表記条件付き | 出典表記を条件に利用可 | 可 | 動画内かつ概要欄など、表記場所の指定を確認 |
| パブリックドメイン | 保護期間が満了し著作権が消滅 | 原則自由 | 写り込んだ人物の肖像や商標は別問題として残る |
実務で見落とされやすいのが次の3点です。
- エディトリアル限定素材——報道・解説目的に限定され、広告や商品プロモーションには使えない素材。ストックサイトで明示されているが、サムネイルだけ見ていると気づきにくい
- フォントのライセンス——動画内のテロップやロゴに使うフォントにもライセンスがあります。「デスクトップ利用は可だが映像への埋め込みは別ライセンス」という規約は珍しくありません
- 生成AIで作った素材——学習データや利用規約の扱いがサービスごとに異なります。詳しくは生成AIの著作権と商用利用|発注側・制作側が確認すべきチェックリストで整理しています
出演者・スタッフの権利|肖像権と出演契約
人が映る動画では、著作権とは別に肖像権(みだりに姿を撮影・公表されない人格的な利益)が問題になります。著名人の場合は、その知名度が持つ顧客吸引力に関するパブリシティ権も関わります。これらは著作権法のような明文の規定ではなく、判例の積み重ねで認められてきた権利です。
ここで重要なのは、「撮影に応じてくれた=どんな使い方をしてもよい」ではないということです。社員インタビュー動画で「採用ページ用」と説明して撮影したものを、後日そのままテレビCMや駅広告に転用すれば、当初の同意の範囲を超える可能性があります。退職した社員から掲載停止を求められるケースも実際に起こります。
トラブルを防ぐ最も確実な方法は、撮影前に書面(出演承諾書・肖像権使用同意書)で範囲を決めておくことです。社内の従業員が出演する場合も、口頭ではなく書面にしておくことを強くおすすめします。
契約書・発注書で必ず決める5項目
権利のトラブルは、ほとんどが「決めていなかったこと」から起きます。素材の許諾も出演の同意も、確認すべき軸は共通しており、次の5項目に集約できます。
| 項目 | 決めること | あいまいにすると起きること |
|---|---|---|
| ①媒体(どこで) | 自社サイト/SNS/Web広告/テレビ/店頭サイネージ/展示会 | 広告出稿の直前に追加ライセンス費用が発生する |
| ②期間(いつまで) | 1年・3年・無期限のいずれか。更新の要否 | 期間満了に気づかず公開を続けてしまう |
| ③地域(どこの国で) | 日本国内限定か、全世界か | 海外展開・多言語版の展開時に使えない |
| ④改変(どこまで) | 尺の編集、字幕追加、SNS用の切り出し、翻訳版の可否 | ショート動画への転用ができない |
| ⑤権利の帰属 | 完成品の著作権を発注側へ譲渡するか、利用許諾にとどめるか | 次回以降の改修を他社に頼めなくなる |
特に⑤の権利の帰属は、見積金額そのものに影響します。著作権の譲渡まで含めると費用が上がるのが一般的で、「利用許諾のみ」であれば抑えられます。将来の改修や横展開の予定に応じて選んでください。見積書のどこを見ればこうした条件が読み取れるかは、映像制作の見積書チェックリスト|項目別の相場観と追加費用の落とし穴で項目ごとに解説しています。
また、著作権を譲渡する契約であっても、著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)は譲渡できないとされています。実務では「著作者人格権を行使しない」という条項を入れて対応するのが一般的です。契約書にこの一文があるかどうかは確認しておくとよいでしょう。
公開前チェックリストと権利確認の工程表
権利確認は最後にまとめてやると手戻りが大きくなります。素材を選ぶ前・編集中・公開前の3回に分けて確認するのが現実的です。
| タイミング | 確認すること | 担当になりやすい側 |
|---|---|---|
| 企画・見積時 | 公開媒体・期間・地域・改変範囲を決め、発注書に明記する | 発注側 |
| 素材選定前 | 広告出稿の予定を制作側へ共有。エディトリアル限定素材を除外する | 発注側・制作側 |
| 撮影前 | 出演承諾書を用意し、用途・期間を説明して署名を得る | 制作側 |
| 編集中 | 使用素材の一覧(素材名・提供元・ライセンス種別)を作成する | 制作側 |
| 納品・公開前 | 素材一覧と発注書の条件を突き合わせる。クレジット表記を反映 | 発注側 |
| 公開後 | ライセンス期限をカレンダーに登録。更新時期に棚卸し | 発注側 |
公開直前に使えるチェックリストは次のとおりです。1つでも「いいえ」があれば、公開を止めて確認してください。
- 使用したBGMのライセンス種別と、規約上の利用可能範囲を確認したか
- Web広告・SNS広告に出稿する予定を、素材のライセンスがカバーしているか
- ストック映像・写真にエディトリアル限定のものが混ざっていないか
- テロップ・ロゴに使ったフォントが映像利用を許諾しているか
- 出演者全員から、想定している媒体・期間での使用について書面で同意を得ているか
- 背景に第三者の商標・美術品・他社の広告が目立つ形で写り込んでいないか
- クレジット表記が必要な素材について、指定された場所に表記したか
- 使用素材の一覧(提供元・ライセンス種別・取得日)を納品物として受け取ったか
- ライセンスに期限がある素材について、期限をカレンダーに登録したか
- SNS用の切り出しや翻訳版を作る予定がある場合、改変が許諾範囲に入っているか
よくある質問(FAQ)
Q. 制作会社に任せた場合、権利の責任はどちらにありますか?
A. 契約の書き方によります。多くの制作委託契約には「第三者の権利を侵害しないことを制作者が保証する」旨の条項が入りますが、発注側が支給した素材については対象外とされるのが通常です。また、権利侵害を指摘されたときに公開を止める判断や、実際に生じた損害への対応は、公開主体である発注側にも及びます。契約書の保証条項と、素材の支給範囲がどう書かれているかを確認しておいてください。
Q. 短い引用ならBGMを自由に使えますか?
A. 「数秒なら自由」というルールはありません。著作権法上の引用が認められるには、主従関係が明確であること、引用部分が区別されていること、出所を明示することなど、複数の要件を満たす必要があります。企業のPR動画でBGMとして楽曲を流す使い方は、通常これらの要件を満たしません。適法なライセンスを取得するのが確実です。
Q. 街中で撮影したとき、通行人の許諾は必要ですか?
A. 遠景で特定の個人が識別できない程度であれば問題になりにくい一方、特定の人物が画面の中心に大きく映る場合はリスクが高まります。実務ではロケ地に撮影告知を掲示する、編集でぼかしを入れる、識別できるカットは使わない、といった対応を取ります。判断に迷うカットは差し替え候補を用意しておくと安全です。
Q. 過去に作った動画を、今のSNS用に切り出して使えますか?
A. 当時の契約で改変の可否と媒体がどう定められていたかによります。「自社サイト掲載のみ・改変不可」であれば、切り出してSNSに投稿することは許諾範囲外になる可能性があります。素材のライセンス期限が切れていることもあるため、旧作を再利用する際は必ず当時の発注書と素材一覧に戻って確認してください。
Q. 見積書に「権利処理費」と書かれていました。何の費用ですか?
A. 音源のライセンス購入費、ストック素材の購入費、出演者への二次使用料、フォントライセンス費などをまとめた項目であることが多いです。内訳が示されていない場合は、何が含まれ何が含まれないのかを必ず確認してください。広告出稿分が別途になっているケースが典型的です。制作費全体の項目の読み方は映像制作で使う用語集|発注側が知っておきたい50語もあわせてご覧ください。
まとめ|決めるのは「媒体・期間・地域・改変・帰属」の5つ
動画の権利は複雑に見えますが、確認すべき軸は媒体・期間・地域・改変・権利の帰属の5つに集約されます。この5つを企画段階で決めて発注書に書き、素材一覧を納品物として受け取っておけば、公開後に慌てる場面はほとんどなくなります。
そして最も効果的な予防策は、広告出稿の予定を素材選定の前に共有することです。後から「実は広告にも使いたい」となると、素材の差し替えか追加ライセンスの購入が必要になり、時間もコストもかかります。目的が決まれば必要な権利範囲も決まります。動画の目的そのものを整理したい場合は、目的別・動画の選び方ガイド|採用・ブランド・商品PR・イベントで変わる作り方から確認してみてください。
知識を皆に
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