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働き方が自由になると、私たちの金銭感覚は「狩猟民族化」する|りょかちのお金のハナシ#19

働き方が自由になると、私たちの金銭感覚は「狩猟民族化」する|りょかちのお金のハナシ#19

文筆家として活躍するりょかちさんが、“お金にまつわるエピソード”をお届けする本連載。今回は、働き方とお金の考え方に関するハナシ。

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最近よく考えるのだけど、お金の考え方や使い方をよくよく観察してみると、「農耕民族」的な人と「狩猟民族」的な人がいると思う。

見分け方は色々あるけれど、例えば「少し家賃の高い部屋に住みたいとき、どうする?」という質問に対して、自分の答えを考えてみてほしい。

日々の節約に勤しむ? それとも、新たに仕事を増やして働く?

この回答で言えば、節約しようとしている人を「農耕民族」だと私は考えている。「お金は日々決まった分だけ収穫できる。大金は日常の中で積み立てるもの」と思っているからだ。逆に、欲しいモノの値段の分だけ多く働こうと思うなら、その人を「狩猟民族」と呼びたい。「大金は捕まえるものだ」と思っているから。

この感覚について、個人の思考の癖もあるけれど、ほとんどの場合、「農耕民族」と「狩猟民族」を分かつ背景は、給与体系にあると私は思っている。

「農耕民族」の多くは収入が安定していて、月収を変動させるものは年に数回の昇給かボーナスくらいしかない会社員的な働き方をしている人じゃないだろうか。だから、一定の収入の中でやりくりしようとするし、欲しい物があれば節約するか、貯金するか、ボーナスなどの定期的にやってくる大きな収入に頼る。

一方、「狩猟民族」は、月収の変動幅が大きい人が多い。私みたいに単発仕事の多いフリーランスライターや、お客さんの入りや営業日数で売上が決まるお店のオーナーなど。あとはシフト制で働くアルバイトの人たちも含まれるかもしれない。自分の意思である程度収入を変動させることができるから、欲しい物があったら「その分働くか〜」と思うのだ。

私たちは“頑張って働いて稼いで、好きなものを買って暮らす”同士だけど、お金をどうやって得るか、やりくりするかについての考え方は、実は働き方によって微妙に違っている気がする。

お金の「狩猟民族化」する私たち

さて、なぜ突然こんなことを考えたかというと、私が極端に「狩猟民族」的な考え方しかできないことが理由だ(だから、欲しい物見つけるとすぐ買っちゃうんだ!と閃いた)。

ある時、「ちょっと高いモノが欲しくなったら、どうする?」と友人に聞かれたので、「でも、5万円くらいだったら数カ月頑張って働くかな」と答えたところ、「世の中には昇給して月5,000円収入を増やすのに1年かかる人もいるってこと知らないでしょ」と言われ、ハッとした。本当にそういう感覚で暮らしている人がいるって、そう言われるまで気づかなかった。

というのも、私は小さい頃から基本は定額のお小遣い制だったものの、その上でお手伝いすれば追加でもらえるお金があったし、以前連載でも話した通りせどりをして得た売上もあった。お小遣いとは別に、変動性の収入があったのだ。さらに成長してからも、社会人になって数カ月で副業もはじめたので、ほとんど “一定のお給料で暮らす” ことを経験してこなかった。親もそうで、父は自営業者で母はパート勤務だった。

だから、おそらく日本で大多数を占める ”毎月ほぼ同じ給料の中で暮らす” をほとんど身近に感じないままオトナになった。

そして、さらにはそのままフリーランスになってしまったので、今もあんまり「農耕民族」的な暮らしを本当には理解していないで過ごしている。結局友人からその話を聞いた後も、私が「農耕民族」的な思考を理解したとは思えないし、だから収入も支出もいつまでも不安定なままなのだろう。

ただし、その話は私に一時的な気づきを与えるだけではなく、世の中にはお金の「狩猟民族」と「農耕民族」がいるのだという、一種世の中を見るためのフィルターを与えてくれた。周りの友達をぐるりと思い出してみても、お金に対して「農耕民族」か「狩猟民族」かで、買い物の決断基準も、人生設計の考え方も随分違う気がする。

それに加えて最近感じるようになったのは、そのフィルターを通して見てみると、お金に関して日本人は最近「狩猟民族化」が進んでいるんじゃないか?ということだ。

普通に会社員をしている人でも、「メルカリ」を使って副収入を手に入れていることは珍しくないし、何より私が会社員になってすぐの頃よりもずっと副業が当たり前になっている。「タイミー」のように、単発でアルバイトができるようなサービスも少しずつ認知度を上げている。

つまり、「農耕民族」的な一定した収入がある人も、それにプラスオンで変動する副収入を持つケースが増えてきている。最近は、「農耕民族」が狩猟もし始めたのだ。

もしかしたら、さらに時間軸を拡張して考えることもできるかもしれない。

定年まで会社で給与を耕し続ける「農耕民族」的な働き方だけではなく、必要な分稼いで仕事を辞める「FIRE」や、お金を貯めて会社員生活の間に学生の期間をつくるような働き方をする人もじわじわと出てきている。これは長い時間軸で考えられた、一定期間働かずに暮らすためのお金を獲得する「狩猟民族」的な働き方ではなかろうか。

ハイブリッドを楽しみながら、時代とともに変化していたい

世の中はどんどん「狩猟民族化」している。というよりは、「農耕民族的」稼ぎ方に追加して、狩猟をする人が増えていると言ってもいいかもしれない。これからは両方を組み合わせた、いわゆるハイブリッドな働き方、お金の価値観が増えていくのだろう。

そう考えると、小さい子に接するときには、決められた額でお金をやりくりする「お小遣い」だけではなく、お手伝いの内容自体を考えさせたり、フリマアプリを活用するといった、自分で「お金を捕まえる」練習をさせてもいいかもしれない。

そして言わずもがな、現代を社会人として生きる私たちも、両方の価値観を理解するに越したことはないだろう。複数の価値観を理解した上で選択できることは、生活を豊かにする。

働き方が変われば、当然お金の考え方も変わる。お金の考え方が変われば、人生が変わる。食糧の調達手法が私たちの暮らしを大きく変えたように、日々のお金の調達方法が変われば私たちの暮らしも当然大きく変わるのだ。

はるか昔、狩猟中心の生活から農耕中心の生活に移り変わっていく様を眺めながら暮らしをトランスフォームしていった先人たちのように、現代で未来をつくりながら生きる私たちも、仕事とお金の関係が農耕中心から狩猟も交えたハイブリッドなものへと変わっていく時代を眺めながら、率先して自分も変わっていきたいものだ。

そして、私に関して言えば、願わくば農耕民族的な価値観を手に入れることで、思い立った分の支出を無理やり賄うような働き方だけをするのはやめて、安定かつ盤石な収入と支出をキープしていけるようになりたい。

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒業。学生時代より、ライターとして各種WEBメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題に。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、企業のコピーライティング制作なども行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで記事の連載も。

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