「出向起業」の提案者でVC代表の奥山恵太が、官僚を辞めてスタートアップに投資する理由|スタートアップって食べれるの?#3
スタートアップを⽀援する会社StartPassの代表で、経営加速クラウド「StartPass」の企画・開発も行っている小原聖誉(おばら・まさしげ)さんが、スタートアップ業界でチャレンジしている人たちにインタビューする本連載。
今回は、前回の記事でも登場した経済産業省の補助事業「出向起業」の提案者で、現在は出向起業スピンアウトキャピタルの代表として、「出向起業」から生まれたスタートアップを中心に投資活動を行う奥山恵太さんが登場。「出向起業」を企画した意図から、官僚を辞めてVC※を立ち上げた理由、VCとしてのこれからの展望まで、小原さんが直撃します。
※ベンチャー企業やスタートアップといった未上場企業に対して投資を行う投資会社のこと。
「出向起業」とは?
大企業などの社員が辞職せずに、外部のVCからの資金調達や個人資産の投下を経て起業し、起業したスタートアップに自ら出向などを通じて新規事業を開発すること。
経済産業省による補助事業の条件:当該大企業の子会社・関連会社ではないこと(起業するスタートアップの株式のうち、当該出向者の出向元大企業の保有率が20%未満であること)など
補助金額:最大500万円(ハードウェア開発を伴う事業の場合は1,000万円)
スタートアップ起業時のペインを知り、「出向起業」補助事業を創設
しかし、彼からしたら、「辞めて起業すると、元の会社の知財や開発設備が利用できない」「家計上、家族を説得しきれない」など、リスクが大きかった。「出向という形がベスト」という話になり、それで彼が所属する会社に相談に伺ったところ、前向きに検討いただいたんですが、結局は「事業の不確実性が高すぎるし、前例がないからできない」という回答になりました。
だけど、実力やアイデアがある優秀な会社員が、スタートアップのようなスピード感でものづくりができないのはもったいない。大企業に勤めていることが足枷になるのは、日本経済としてもマイナスなことだと感じたんです。
それで経済産業省に残って、企業に所属しながらも自ら起業して「出向」という形で、自社の新たな事業に挑戦できる仕組みを考えました。それが2020年にスタートした「出向起業」です。私が経済産業省を退職するまでの約2年間で28社のスタートアップが創出されましたが、現在は34社にまで増えています。
「出向起業」の条件
- 退職せずに新会社へ出向し、フルタイムで経営者として従事すること
- 所属企業以外の資本が80%以上(所属企業資本比率20%未満) など
起業家に必要なのは、新規事業を成し遂げたいという「執着心」
まず1つ目は、社員の成長につながること。「出向起業」で思考力やマネージメント力を培った社員が出向元の企業に戻れば、企業側としても享受できるメリットが大きいですからね。
そして2つ目は、新規事業創出の加速。成功した事業だけ追加出資して関連会社化できる可能性がある点も、企業としての魅力になり得るのだと思います。
最後の3つ目は、企業としての評判の向上です。「出向起業」を採用することで多様なキャリアパスをしている会社としてメディアなどで取り上げられ、結果的に会社の評判が上がるようです。
では、「出向起業」はどんな方に向いている制度なのでしょうか?
それに、社内外に味方が少なくなるので、そこに立ち向かう精神力も大切になってきます。というのも、「出向起業」を利用したいと言ったら、これまで味方だった社内の人も交渉相手になってくるので。そうした中でも、自分が創出する事業で世の中にインパクトをもたらしたいと思える人が、「出向起業」を実現させ、VCから資金調達できる傾向にあると感じています。
VCとして一生、起業家に寄り添っていく
補助事業の公表当初から「出向起業」は賛否両論ありました。「起業家は企業を辞める覚悟がないと大成しない」という声もあり、私自身もそれを理解していますが、事業に執着する起業家ならば、「出向起業」でもうまくいくはず。それを身を持って証明したいですし、自分の生き方を考えた時に「出向起業」を24時間応援し続ける人生を送りたかった。だから、「出向起業」から生まれたスタートアップを中心に投資活動を行うVC設立の道を選びました。
これまでに「出向起業」を利用したいと考える起業家約200人の相談に乗ってきたこともあり、あらゆるポイントを抑えたバックアップができます。
職務経験を通じて、特定の技術や産業構造の知見が深く、特殊な領域での世の中の変化やお金の流れに仮説を持っている方は、投資決定しやすい傾向があります。
他方で、仮説を持っていない方でも、一緒に投資できる事業案を議論して作り上げることも多いです。
私自身、投資経験がない状態でVCをやっているのでわからないことだらけですが、起業家の方々から勉強させていただく毎日です。VCを作ることで、今は起業する前の段階から起業家に寄り添うことができ、事業戦略を一緒に作ることができる。それが嬉しいですね。
それから「出向起業」の知名度はまだまだなので、一般的な退職や独立・起業とは違う、「第三の選択肢」として広めていきたいですね。日本の大企業の優秀な方々がどんどん「出向起業」で社外に飛び出し、他の投資家が次から次へと出向起業に投資を始めるサイクルが回り始め、日本からイノベーションが断続的に生まれるようになるといいなと考えています。
奥山恵太(おくやま・けいた)
1986年生まれ。東京大学工学部、東京大学大学院工学系研究科卒業。2010年経済産業省入省後、主に化学産業の規制緩和・国家衛星開発プロジェクトのマネジメント業務に従事。米国留学中に、米国投資ファンドでの投資銘柄財務モデリング・バリューアップ業務や、小型電池製造スタートアップでの経営支援業務を実行。2018年帰国の後、内閣府での宇宙スタートアップ支援業務を経て、経済産業省で「出向起業」補助制度を自ら企画し、大企業等社員による資本独立性のあるスタートアップの起業を後押し。大企業内での出向等の意思決定に係る調整も、幅広に支援。2022年7月に経済産業省退職。2022年9月、出向起業スピンアウトキャピタル設立・運用開始。
小原聖誉(おばら・まさしげ)
2013年にAppBroadCast社を創業し、400万⼈にサービスが利⽤されたのちKDDIグループmedibaへバイアウト。その後、エンジェル投資家として25社に投資・⽀援し6社がイグジット(うち1社東証マザーズ上場)。2019年の週刊東洋経済で、“若⼿起業家が選ぶすごい投資家”第1位選出される。現在はスタートアップを⽀援する会社StartPassを創業し、経営加速クラウド「StartPass」の企画開発を通じてスタートアップ480社のサポートを⾏う。ラジオNIKKEI『ソウミラ』スタートアップ情報コメンテーターとしても活躍中。
取材・文/おかねチップス編集部
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