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日本発のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」を創設!カリスマカンタローこと神田勘太朗が夢見るダンスの未来

日本発のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」を創設!カリスマカンタローこと神田勘太朗が夢見るダンスの未来

2005年から続く日本最大級のストリートダンスバトルイベント「マイナビDANCE ALIVE HERO’S」をプロデュースし、2021年1月に日本発のダンスのプロリーグ「D.LEAGUE」(以下「Dリーグ」)を立ち上げた、ダンス界きっての革命児・神田勘太朗さん。“カリスマカンタロー”の名でダンサーとして活躍し、現在は神田勘太朗名義でプロデューサーとして手腕を振るっています。「どんなことが起きても折れない」と語る神田さんの強さ、そして行動力の根源を探ります。

ダンサーがダンサーとして輝ける世界を作るため

――神田さんは「マイナビDANCE ALIVE HERO’S」を筆頭に、数々のダンスイベントをプロデュースされていますが、元々はご自身がダンサーですよね。運営を行うようになった経緯を教えていただけますか?

神田さん:簡単に言うと、ダンサーがダンサーのままでメインを張れる場所をつくりたかったんです。

――ダンサーのままといいますと?

神田さん:「ダンサーのまま」という言い方に解釈はいろいろあるかと思いますが、従来ですと一般の方の目に届くダンサーって、歌番組のバックダンサーだったり、アイドルの振付師であったりが多かったんです。ダンス業界は芸能業界や音楽業界と極めて近しいところにありますが、それでもダンサーがメジャーシーンで活躍するには歌を歌ってCDを出すといったことが必要でした。もしくは芸能界に入って、ダンサー出身のタレントとなるといったケース。でも、これらはダンスカルチャーの属性のまま、一般層に受け入れられているわけではないですよね。僕はダンスカルチャーの属性のまま、メジャーになる世界をつくりたいと思ったんです。

神田さんは、10年以上前から日本のダンスカルチャーを牽引してきた

――これまでダンサーの方々に、そういう道がなかったというのも驚きです。

神田さん:ダンサーって基本的にはみんな、自分がカッコよく踊りたい人ばかりなんです。自分のダンスが人気になることで、生徒やファンがついて生活できるようになるならそうしたいけど、そのための仕組みを作る時間があったら、その分多く練習したいものなんです。自分の追求するものを形にするために、命をかけて時間を使って練習を重ねている。誰が自分のダンスを評価しようと関係なく、自分のスタイルを突き進めていく人こそが達人の域に到達できるんです。その高みにまで行けば世間が評価してくれて、スポンサーやパトロンがついてくるかもしれないけど、そこに行くまでには相当な覚悟が必要だし、いろいろなものを捨てなければならない。ダンサーというのは、常にそこを揺れ動いているんです。

――ダンサーがダンサーのままで食べていくのは、いばらの道というわけですね。

神田さん:ダンサーが希望を抱くのは、一つにはヒップホップ業界が理想的な形で成り立っているのを知っているからなんです。とくにアメリカのヒップホップ業界は、音楽で夢を掴むこと=成功を掴むことという構造が成り立ってます。ヒットが出れば印税は入るし、メディアを通して人気も出て、さらに関連商品も売れるというコースが確立されていて。だからこそ、ダンス界の人々はヒップホップと同じような手法でメイクマネーをしたいと夢見るのですが、それを達成するためのビジネス的な仕組みを誰もつくっていなかったんです。

――そこで神田さんが動いた、と。

神田さん:とはいえ僕も以前はそうしたダンサーの一人で、自分が世界一になりたくてやっていただけなんです。だけど、自分より上手い人やカッコいい人はたくさんいますし、何より僕は達人の方々のようには毎日10時間も20時間も練習するのが性に合わなかったんです。そんな頃、テレビで格闘技のK-1を見ていて、「これって格闘家がタレント化することなく、格闘家として強ければ賞賛される世界だよな。だったらダンス業界だってダンサーのままで上手ければメジャーに出られるマーケットがあったっていい。自分がそれを作らなきゃ」と急激に興味が湧いてきたんです。

赤字と叱られ続けた10年

――そうして学生時代の2004年に最初の会社、株式会社アノマリーを立ち上げられます。やはりマーケットをつくるからには会社を創設する必要があったんですね。

神田さん:そうですね。ただ、当時は右も左もわかっていませんでした。その頃の仲間に一人だけいたビジネスマンが会社をつくるべきだと言ってくれて、「社長って響きはかっこいいからやるか」という軽めのテンションでした。

――でもそこから翌年2005年には今の「マイナビDANCE ALIVE HERO’S」の前身となる「DANCE@LIVE」をスタートされていますよね。きちんと計画して進めている印象です。

神田さん:いえ、当時は“カリスマカンタロー”って名前で好き勝手にやっていました(笑)。自らカリスマと名乗るのも気に入らない方はいたでしょうし、よそのダンスイベントに乗り込んで自分のイベントのフライヤーを撒いたことが筋違いだと叱られたりもしました。今考えればマナー違反を散々やっていたわけです。その度に先輩に怒られて、毎日のように菓子折りを持って謝罪に行って。でもお陰で何がダメなのかも教えてもらい、自分の中で筋道が見えてきたんです。きちんと謝罪したことで、より良い関係性を築けたこともありますしね。

「信じられないくらい怒られましたね」と、当時を振り返る神田さん

――ちゃんと理にかなった叱られ方だったんですね。

神田さん:理不尽な怒られ方も相当ありましたけどね。僕が怒られたエピソードを本にしたら相当面白いんじゃないかな。海か山かコンクリかを選べって言われたこともありますしね。どれを選んでも死ぬしかないみたいな(笑)。僕以外にもそうやって怒られた友人はいますし、結果としてダンス界から去っていく人も少なくありませんでした。寂しいですよね。そんな中でも僕は折れませんでしたね。

――そこまで詰められたら、さすがに心が折れそうです……。

神田さん:助けてくれる人たちも周りにたくさんいたお陰ですね。僕自身、絶対に世界をとれると思っていましたし、もしもここで折れてしまったら、また一からやり直さなきゃならないと思うと、それはしんどすぎると思って。とにかく折れない。それだけは常に僕の心の中にあるんです。

――「マイナビDANCE ALIVE HERO’S」も折れずに16年続けていらっしゃいますもんね。

神田さん:実はずっと赤字続きだったんです。本当はイベントを通してダンサー人口を増やすとともに、興味を持って観客になってくれるダンスファン人口を増やしたかったんですけど、出演ダンサーの家族や友人、身内、あとはコアなファンが中心で、なかなか一般層にまでは届きませんでした。関連のテレビ番組が放送されると一時的に観客は増えるけど、イベントが終わるとまた減るの繰り返し。それでもめげずに続けてようやく黒字に転じたのは、10年目の国技館イベントでしたね。それまでは参加者みんながダンスバトルを楽しんでくれている間、僕ら取締役がイベント中に受付に集まって、「残金これだけしかないけどどうする?」なんて緊急会議も普通にしていました。

ーーそんなにギリギリな状況だったんですね。どうやって乗り切っていたんですか?

神田さん:とりあえず、どこかにお金を借りに行っていました(笑)。イベントってチケットの売上や、協賛金の予算内でできることをやるのが当たり前なんでしょうけど、僕らの場合は予算以上の規模でやっていたのが赤字の原因です。でも、そうすることで新たにきてくれるお客さんや協賛企業も増えて、結果的にイベントを大きくできた。赤字が出たら翌年分の協賛金で埋めて、という自転車操業で協賛が決まらなければ終わっちゃう状況ではありましたが、必死に鬼営業を繰り返し、10年間やり続けられたからこそ黒字転換できたんです。

1on1形式の世界最大級ストリートダンスバトル「マイナビDANCE ALIVE HERO’S」では、神田さんがカリスマカンタローとしてダンスを披露する場面も/©ANOMALY INC.

日本人が知らないダンス超大国JAPAN

ーーダンスが一般層になかなか届かないのにはマーケット開拓をしてこなかったからというのもあるのだと思いますが、ほかにも考えられる理由はありますか?

神田さん:多くの一般層に届ける手法として一番大きなものがメディアだとしたら、その方々の中に、ダンスに興味があったり詳しかったりする人がいなかった、というのもあると思うんです。これまでにも物珍しさで取材してもらうことはありましたけど、それでもおそらくそこまで興味は持たれていませんでした。日本ではダンスはマイナーなジャンルというイメージだと思いますが、メディアであまり取り扱われないから日本のみなさんに伝わっていないだけで、実は日本ってダンス超大国なんですよ。韓国のアイドルのダンスがよく話題になりますけど、僕が思うに日本の技術は韓国よりずっと上。一般の方がダンスの技術をジャッジするのはすごく難しいですからね。なので、韓国アイドルのダンスのキレがすごいとメディアが言えば、みんなそうだと思って見てしまう。だけど世界的に見てトップレベルなのは、日本とフランスです。次いでアメリカですけど、アメリカはダンサーがショービズ界に移ることも多いので、やはり日本とフランスが二強じゃないかなと思います。

「まずは日本のダンスのレベルの高さを知ってもらわなければいけないんです」と真っ直ぐに語る

ーー恥ずかしながら、全然知らなかったです。

神田さん:メディアの認知という意味ではフランスが進んでいて、例えばフランスの大会で日本のキッズダンサーが優勝すると100ぐらいのメディアが集まるし、その情報はヨーロッパ中に拡散されるんです。優勝した子たちが自分のSNSに優勝したことを投稿しても、日本では知られていないからそれほど「いいね」はつきませんが、海外ではものすごく注目されているからSNSまで見られている。日本人ダンサーの活躍は海外でめちゃくちゃ拡散されているんです。

ーー日本のダンスのレベルが高いのって、何か理由があるんでしょうか?

神田さん:いろいろ考えられますが、日本の子どもたちが夜8時までダンス教室に通えるほど治安が良いということや、生まれながらに音楽に親しむ世代が増えてリズム感が鍛えられているとかじゃないですかね。あとは、日本のダンス界がなんだかんだで長い歴史があるのも理由として考えられます。学生時代にダンスサークルに入っていた人が10年15年経って企業で決済権を持つポジションになり、さまざまなところからダンス界を支えてくれるようになったというのもあります。2024年のパリオリンピックでは新競技としてブレイキン(ブレイクダンス)が採用されましたし、この前のスケボーで堀米悠斗選手たちがそうだったように、日本の選手の活躍で世間は日本ってダンスすごいじゃんと気付いてくれるはず。ファンの世界でもにわかやミーハーと呼ばれる人たちが増えるでしょうけど、その方がシーンは盛り上がるので歓迎です。

ーーそのダンサーとファンの受け皿となるのが、プロリーグの「Dリーグ」というわけですね。

神田さん:そうです。サッカーにおけるJリーグのような立ち位置で、ダンスのリーグがつくられるのはおそらく世界初のはずですけど、ちょっとそこはエビデンスがないので曖昧にしています(笑)。だけど、Dリーグ」が成長していけば、Jリーグと同じで競技の物差しとして機能してくれるようになります。ダンスは判断がファジーなものですけど、上手いダンスをたくさん見せることで観客の目も肥えさせていければと思っています。

Dリーグ」の実行と継続は熱量あるのみ

ーー「Dリーグ」がスタートして1年が経ちましたけど、手応えはいかがですか。

神田さん:コロナ禍で開幕できて、シーズンを無事に終えられたのは成功と言っていいでしょう。失敗や課題も山ほどありますけどね。ダンスのショーの届け方、ファンの獲得の仕方、何が正解なのかはまだまだ僕らみんなが模索しているところです。でも、かつてダンス番組を放送すればイベントに新たなファンが集まったように、素地は絶対にあるはずですから。

ダンスのプロリーグ「Dリーグ」は、2021年1月に開幕

ーー配信メディアも多いですよね。

神田さん:ネット配信を中心に、全部で11のプラットフォームで配信しています。収益源は企業のスポンサードが一番大きくて、次いで放映権料とチケット、グッズです。だけど初年度はほとんど無観客だったので、まだまだこれからですね。「DANCE@LIVE」を大きくしていったのと同じで、「Dリーグ」もずっと右肩上がりの成長を目論んでいます。

ーー最も参考にされたのは、やっぱりJリーグですか?

神田さん:その他にもバスケットのBリーグから、麻雀のMリーグまで全部参考にしています。日本のものだけでなく、FIFA、MBA、レアル・マドリードなどの仕組みや、代理店とリーグの関係性についても勉強しまくりました。といっても結局はゼロからの立ち上げなので、それなりに大変で。もう二度とプロリーグ立ち上げなんてやりたくないくらいです(笑)。一回立ち上げたからこのフォーマットを使うノウハウはありますし、うまく続けていきたいですね。

ーー今後の展望は?

神田さん:「Dリーグ」自体の人気はもちろんですが、出場チームそれぞれも人気となって各チームの収益も上がり、ダンサーの年俸もアップし、第一線での活躍がキープできる世界が望ましいと思っています。さらに日本だけでなく各国に「Dリーグ」に該当するものを準備していきたいと考えています。その上で、30年後には30カ国とか50カ国の代表がダンスバトルをするワールドカップやチャンピオンシップを開催できればと考えています。

神田さんが考える日本のダンス界の未来とは?

ーー会長に就任された一般社団法人日本国際ダンス連盟の「FIDA JAPAN」も、そのためのものですね。

神田さん:はい。学校でもダンス教育が始まったので、今後は全国大会からドラフト会議につながる仕組みも用意して。これは2024年までにやろうと考えていて、ほかにもとにかくやることだらけ。近々ダンスの著作権を管理する団体もつくらなきゃいけないだろうし、ダンス人口も高齢化していくので、そのうちダンサーのセカンドキャリアを前提とした仕組みづくりにも取り組まなくちゃならないなと。

ーーダンスの著作権???

神田さん:音楽やアート、小説などと同じように、ダンスは踊った瞬間にその人の著作物になるんです。ほかのジャンルは著作権があるのにダンスだけはなぜかない。それはダンスの著作権を管理する団体が存在しないからですし、そもそもその定義づけが難しいからだと思うんですけど。でも、これはダンサーや振付師にとっては大問題ですよね。ダンス業界がもっと成熟されたら整備されると思いますが、これも自分が先頭を切って取り組まなきゃとも思ってます。しかし、やることが多すぎて頭が痛いですね。

ーー神田さんに刺激を受けて、運営側をやりたいという方が出てくるといいですね。

神田さん:日本人はアイデアが浮かんでも、実行するとなると極端に少なくなるんです。実行しても継続するのはさらに少ない。サボるツールなんて、山のようにありますからね。結局は熱量が重要になってくる。神田は恵まれているとか、自分にはお金がないからといった言い訳をする方もいますけど、僕だってお金がないところからスタートしているんです。だから重要なのは、行動を起こすかどうか。動機はなんだっていいんですよ。僕だってダンスを始めたのは女の子にモテたかったからですし。不純な動機からのスタートかもしれませんが、その結果がいまに繋がっているんです。今後もダンス界の土壌を構築し続けていくので、30年後には宇宙空間でのダンスイベントをやっているかもしれませんね。

神田さんはこの先も何にも屈せず、怯まず、ダンスカルチャーをメジャーシーンに押し上げていく

神田勘太朗(かんだ かんたろう)

1979年、長崎県生まれ。明治大学法学部卒業後の2004年6月、有限会社アノマリー(現・株式会社アノマリー)を設立。ダンサーとして活動しつつ、ダンスバトルイベント「マイナビDANCE ALIVE HERO’S」を主催し、東京・両国国技館を埋め尽くす日本一のダンスイベントへ成長させた。2019年11月に一般社団法人日本国際ダンス連盟FIDA JAPANを創設し、会長に就任。今年1月にスタートした日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」のCOOを務める。著書に『誰も君のことなんて気にしていない。』(きずな出版)がある。
 
「D.LEAGUE」:https://home.dleague.co.jp
「マイナビDANCE ALIVE HERO’S」:https://dah.dancealive.tv
神田勘太朗さんのTwitter:https://twitter.com/charismakantaro

撮影/酒井恭伸 
取材・文/田中元

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